【完結】貴方達から離れたら思った以上に幸せです!

なか

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27話

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「え……え……」

 マリアは動揺して私へと視線を送るが……
 見ないでほしい。
 私だってリカルド様の告白にも近い言葉に……心臓が破裂しそうなのだから。

「ナターリアとずっと一緒にいるのは……俺だ」

「そ、それって……」

 私が聞けば、リカルド様は私の手を握り。
 ジッと見つめてくる。

「リカルド様……」

「結婚するなら俺がいい。他は嫌だ……」

 こんなに直球で言ってくれるなんて、思わなかった。
 彼の言葉へ込められた想いは、流石に分かる。

「駄目か?」

「リカルド様……私はもちろん嬉しいです。でも……本当にいいのですか?」

「あぁ。誰にも渡したくない」

「っ……」

「ナターリアとずっと一緒がいい」

「す、素直に言ってくれて……嬉しいです。よ……よろしくお願いします」

「良かった」

 驚くほどにあっさりと決まってしまう。
 きっとリカルド様は、結婚が私を守るために必要ならばと、自分が手を伸ばしてくれたのだ。

 まだ自分の想いを自覚し始めた状態のままなのに……私を手放さない選択をしてくれた。
 それが、たまらなく嬉しく感じて鼓動が鳴り止まない。

「ナターリア……貴方が辺境領に行って心配だったけれど、どうやら驚くほどに上手くいっているのね。羨ましいわ」

 マリアは今までのやり取りに、あっけにとられながらもふっと笑う。
 そして、私とリカルド様を見つめた。

「貴方は後ろ盾が居ないから、焦っていたけれど……どうやら私の杞憂だったようね。公爵家が二人の結婚の保証人となるわ。これで王家も文句は言えないでしょう」

「マリア、ありがとう。ローズベル公爵家の家名があれば心強いわ」

「よしてよ。貴方を救う事は公爵家の益にもなるの。デイトナ殿下の横暴が露見して失脚すれば、第二王子殿下に王位が継承される。公爵家にとって最高の案件よ」

 流石は公爵家令嬢で……しっかり家の損得勘定で動く事は、ある意味信用できる。
 考えの軸がハッキリしているのはいい事だ。

 そしてマリアが来てくれた事は、素直に嬉しい。
 向こうでは彼女だけが私の味方だったから。

「でも、結婚するにしてもヴィクターとの離婚はどうする気? 必要なら私が離婚届けを彼に届けるけど」

「いえ、その必要はないわ」

「え……」

「明日から、離婚するために王都へ向かう予定だったの」

「あぁ、明日ね……明日……って、えぇ!? そ、そんなに早く!?」

「奇しくも都合が良くなりました。直ぐに私とヴィクターと離婚して、リカルド様との結婚を宣言すれば……」

「殿下にはもう、偽証の信憑性を固める時間もないわね」

 その通り。
 リカルド様が私と一緒にいたいと言ってくれた事は……結果的に最善だ。

「そして、こちらから罪の証拠を要求するの」

 連行しようとしていた時、副団長でさえ不確かな証拠しか持っていなかった。
 第一王子殿下が私を捕えようとしている理由は分からないが……

 後ろ盾のないただの女性だと認識し、迂闊なやり方をしたのが墓穴だ。

「証拠もなく、私を罪人とした事について……第一王子殿下を糾弾します」

 このために迅速な対応が必要だった。
 向こうは王家……不法な証拠を作られる可能性がある。
 だからリカルド様が迅速な判断してくれた事が、なによりも私の助けになっている。

「リカルド様。ついてきてくれますか?」

「もちろん……俺がずっと傍にいる。手出しさせない」

 手を握ったまま、微笑んでくれるリカルド様。 
 そんな彼に心から感謝しつつ、手を握り返す。

「では明日。行きましょうか……予定通りに」

「あぁ」
 
 決断力は早く、行動は迅速に。
 暗躍する者に時間を与えぬため……動き出す事を止めなかった。



   ◇◇◇



 翌日。
 あれだけの騒ぎはあったが、辺境伯領はいつも通りだ。
 みんなが私へと、優しく接してくれる。

 きっと、ルウの一言があったおかげだ。
 そのルウと、馬車に乗り込む前に話し合う。

「ナーちゃん、しばらく会えないの?」

「うん。私は悪い事なんてしてないって、皆に教えてくるの」

 ルウを抱きしめると、小さな手が私の髪に触れて一束の髪を結い始める。
 「ルウがおめかし、してあげる~」と嬉しそうに笑い。
 見れば、三つ編みにしてくれていた。

「みつあみ! ナーちゃんおそとにいくから、かわいくしたの」

「ふふ、ありがとう。ルウ」

「おててもだして」

 言われた通りに手を出せば、ルウの小さな手が私の指を掴む。
 ギュッと握って、ルウが微笑んだ。

「ナーちゃん。帰ってきたら、ルウといっぱいあそんでね」

「もちろん! 鬼ごっこしようね」

「やた! だいすき!」

 ルウは嬉しそうに飛び跳ねた後。
 私を抱きしめるように、小さな腕を伸ばす。

「ナーちゃん……ルウ、まってるから。すぐにかえってきてね」

「うん。直ぐに戻るから。待っていて、ルウ」

「ぎゅー! ぶじにかえってくる、おまじない~」

 ぷにぷにの頬を当てて、明るく笑ったルウを見れば不安など消える。
 別れを済ませ、馬車に乗り込めば。
 ルウを抱っこしたモーセさんが頷いてくれた。

「お主達には救われた……王家がまさかこんな横暴をするとは。想像より大きな秘密があるのかもしれん」

「モーセ講師、それらも全て……第一王子殿下から聞いてきます」

「こちらでも調べておこう。ルウ坊、お利口にナターリア嬢を待てるな?」

「うん! いってらっしゃい。ナーちゃん!」
 
 別れを告げて……リカルド様が御者へと指示を出す。
 走り出す馬車の中、見送るルウはずっと手を振ってくれていた。

「いい子だな」

「はい。ルウは……本当にいい子で、何度助けられたか」

「不安を与えぬためにも、さっさと終わらせよう。ナターリア」

「はい!」

 マリアは昨日すでに辺境伯領を出ており、自らが主催する夜会に来てほしいと告げてくれた。
 そこにヴィクター達を呼び出せば、絶好の離婚の機会だ。

 さらには、公爵家主催ともなれば王子殿下も参加する。
 糾弾するにも……最適で、手っ取り早い。

「離婚、不安か?」

「……大丈夫です」

「心配するな、手出しはさせない」

「はい……でも、気になっている事もあります」

 首を傾げたリカルド様に、一つだけ心に引っかかる事を告げる。

 昨日、モーセさんの安全も確保され……一連の出来事を父へと告げた。
 第一王子殿下が私を狙う理由を聞ければと思ったのだが……

『……第一王子殿下が、動いただと?』

 父は牢の中から、憔悴した言葉を吐いた後。
 ため息と共に、私をうつろな瞳で見つめた。

『ならば、殿下は全てを知っている……のか』

『なにを知っているというのですか。お父様』

『殿下に会えばきっとお前は全て知る事になるさ。ティアという……現王政が隠したい事実をな』

 そんな意味深な言葉を残し、父はそれ以上は話してくれなかった……


「という事が、あったのです」

「全ては、殿下に会えば分かるか」

「分からない事ばかりだからこそ……傍に居てくださいね、リカルド様」

「当然だ。離れる気は無い」 

 揺れる馬車の中。
 
 全ての謎を知るため、自由になるためにもヴィクターや殿下の元へ向かう。
 その心に、不安がないのは……リカルド様が居てくれるからだろう。

 彼がいつもの無表情で私を見つめ、心配するなと瞳が語る。
 そして……


「ナターリア」

「どうしました?」

「…………手、繋ぎたい」

「ふふ、分かりました」

「傍にも寄りたい。近くにいたい」

「っ……ど、どうぞ」

「嬉しい」

 なにより、リカルド様の普段通以上の素直さに心が癒されて……
 王都へ向かう道中、一つも不安なんて無かった。

 そして私達は、ヴィクター達が参加する夜会へと参加する。
 彼との因縁を終わらせ、全ての真相を掴むために……足を踏み入れた。

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