【完結】貴方達から離れたら思った以上に幸せです!

なか

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21話

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「まず、貴方がここまで愚行を犯した理由を教えてください」

 尋ねた言葉に……父は暫し沈黙を貫いた後。
 絞まっていく鎖を感じたのか、答えだす。
 
「……お前について、知られる訳にはいかないからだ」

「知られる訳にはいかないとは?」

「お前は実験対象として扱っていた。その事実を知られた時、我が家は終わる」

 実験対象……?
 その言葉に不思議と悲壮感はない……元から、両親からまともな対応をされた覚えはないから。
 でも、実験とはなにかが気になった。

「実験だと?」

 しかし問いかけを投げたのは、意外にもリカルド様だ。
 鋭い瞳で……私でも感じ取れるほどに赫怒に染まった雰囲気が感じ取れる。
 こんな彼を見たのは、初めてかもしれない。

「ナターリア、お前の魔力は特殊だ」

「……ええ、分かってます」

「その魔力をシャイラに移す予定だった。あの子を我が家の才女として王家に差し出すため」

「魔力を移す? そんなことが……?」

「可能だ。それが……私の研究でもあったからだ」

 父の魔力を移す話は、とても長かった……うんざりするほど。

 だから、簡単にまとめよう。
 父は私達が住んでいた屋敷に魔法を施し、時間をかけて私の魔力をシャイラに移した。
 シャイラが幼少期に体調を崩しがちだったのも、魔力移動のせいだったようだ。

 この魔力移動が可能となったのは、私の魔力の性質が大きい。
 昔からシャイラの世話をしろと言い聞かせたのは、私の潜在意識内に『妹のため』という想いを植え付け、魔力移動魔法を実現させる補助としていたのだ。


 うん……長いけど、こんな話らしい。

 
「成功すれば……シャイラは才女として輝き。そして私の魔力に関する研究は飛躍的に進む。しかし、そのためにお前を使った事実を知られる訳にはいかない」

「……」

「だから……ナターリア。家族のためにも、この事実を他に知られる訳にはいかないんだ。分かってくれ。今まで育てた恩はあるはずだろう?」

「ふ……ふふ」

 思わず吹き出してしまう、
 抑えられぬ笑いに、父は激昂の声を上げた。

「なにを笑っている! 家族に迷惑がかかると……なぜ分からな––」

「笑ってしまいますよ。だって。噓をついてますよね、お父様」

 
 私の言葉に、父は目を大きく見開き……先程まで息まいていた口を閉じる。

「な……にを」

「魔力移動というのは本当かもしれません、過去の体調や言動とも一致する……でも、貴方の動機に疑問しか残らない」

「……」

「研究者なら、まず私の特異な魔力を研究するはず。なのに貴方はわざわざシャイラに移す手間をかけた。そんなリスクをとった理由が繋がらない」

 長い話だと感じたのは……この繋がらない疑問ばかりのせいだ。
 そもそもシャイラは確かに魔力は多く保有していたが、こんな特異な魔法を使えた事は無い。 
 特異性を失う時点で魔力を移す意味はないだろう。


 だから父がもっともらしい理由を明かしたが、その動機には整合性がないのだ。 
 なので推測するなら……

「貴方が隠したかったのは、私達を実験につかった事実ではなく。このそのものでは?」

「っ!!」

 開かれた瞳孔。
 急激に荒くなった呼吸……反応を見る限り、当たっていそうだ。
 鎖は首を絞めているのに、黙ったまま答えようとしない。

「つ……ぐっ……」

「長い嘘を吐かず。この魔力について、さっさと答えてください」

「……無理だ。これだけは……っ!!」

「答えて」

 絞まっていく鎖、だけど父は顔を青ざめさせながらも耐える。
 ギリギリと絞まる鎖が、首に喰い込んでいく……
 その時、私の手をリカルド様が握った。

「ナターリア。君が手を汚すな。もういい」

「リカルド様……」

 魔法を解けと合図され、言う通りに従う。
 ホッと安堵した表情を浮かべた父だが……

 刹那、リカルド様が目にも見えぬ速さで鞘を払った剣先が、父の首元をかすめた。

「領民に不安を与えておいて、黙秘は許可しない」

「ぐっ……や!! やめっ!!」

「彼女を虐げていた理由も明かせ。でないと……俺は止められそうにない」

「……い、いっ‼ やめ」

「……ナターリア、君は見なくていい」

「え?」
 
 父の口元に剣が当てられた瞬間、私の目元がリカルド様の手で覆われて見えなくなる。
 暗闇の中……父の絶叫が響いた。
 
「ッツ!! ぐっ……」

「言え」

「……っ!! や、やめ!」

 再び絶叫。
 床に流れていく血が、覆われた視界の端から見えた。

「答えろ」

「うっ……うぐ……」

「最後だ。言え」

「……これだけは、絶対に……言えない」

 命がけ……という言葉が似合うだろう。
 父は痛みで呻きながらも、黙秘を貫き通した。
 その中、おっとりした声が響く。
 
「フォンド……お前は、一体なにを隠している」

 先程から黙っていたモーセさんが、口を開いたのだ。 

「のう、フォンド。お前は……こんな愚かな行為を犯す男ではないだろう」

「っ……モーセ…………さん!?」

 父は驚いた表情を浮かべて、モーセさんを見つめた。
 焦ったように、大粒の汗を浮かべる……

「儂に教えてくれんか? かつて……学生だったお主に魔力研究を教えた恩を感じてくれるのなら」

「貴方には恩を感じてます…………でも、言えない。言えません!」

「ならこれは儂の推測だ。お前の動機には、行方不明になっているティアが関わっているのでは?」

 父の眉根がピクリと動くが、静かに首を横に振る。

「なぜ……そんな関係のない女性の名前を?」

「儂も昔の伝手をあたってな、お前の研究員時代の頃を聞いたぞ……」

「っ!!」

「かつてお前は、現在の妻との婚約関係がある中……それを伏せてティアへと婚約を申し込んでいたとな」

 父の目が大きく見開き、呆然とモーセさんを見つめる。
 その反応は、明らかに今の話が噓ではないと裏付けるものだ。

「知りません……そんなこと」

「まだ隠す気なら、それでもいい。だが……儂は気になった事は解明せねば済まない性分でな。分かっているだろう?」

「……貴方のそういった所だけは……昔から、嫌いだった」

「ほほ。褒め言葉じゃよ」 

 確かティアという女性は私と同じ魔力を持ち、現在は行方不明のはず。
 その人が、かつて父に婚約を迫られていた事実。

 それが、父の動機に繋がる?
 いまだ疑問だらけの私を、モーセさんは見つめた。

「どうやら、フォンドは口を割らぬ気じゃろう……例え死んでも」
 
「なら、口を割らせる……」

 リカルド様が呟き、血に塗れた剣先を揺らす。
 その行為に父が怯えたように後ずさる。 
 一連の行為に、モーセさんは首を横に振った。

「判断力を削ぐため、時間をかけよう。儂もこやつを揺さぶる情報を調べよう」

 呟いたモーセさんは、私の肩をトンっと叩いた。
 そして、ほがらかに笑う。

「顔、強張っとるぞ。慣れぬものを見せてすまんな。荒事は儂らに任せ……いつも通りルウと遊んでおれ」

「モーセ……講師」

「その方が……リカルド様も安心するはずじゃろ?」

「あぁ。すまない……こんなもの見せて……」

 人を脅すなんて慣れなくて、知らない内に顔が強張っていたのだろう。
 確かに、ルウに会った時に怖がられたくない。

「ナターリア。出よう……ここは君に合わない」

「……はい」

 リカルド様は私の手を繋ぎ、そのまま外に連れていってくれる。
 その手が暖かく、モーセさんの言葉もあって、ルウの待つ世界に引き戻される感覚だった。

「過去、辛かったか?」

「リカルド様……」

「もう、そんな扱いさせない。俺が、必ず」

 リカルド様は地下室から出ると、私の手を繋ぎながら優しい言葉をかけてくれる。
 でも、ここまでしてくれた彼らに……恩を感じているだけじゃだめだ。

「リカルド様。私についても、話をさせてください」

 ずっと事情を隠したまま、迷惑だけをかけ続ける訳にはいかない。
 だから……

「私は……現在、離婚するために出奔中なんです」

 全ての事情を明かす。
 私がここに来た理由、あちらでの扱い等を……全て。 
 その上で、協力を願うために。

 話を聞くリカルド様の表情が怒ってくれているのを……私は確かに感じた。
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