26 / 56
21話
しおりを挟む
「まず、貴方がここまで愚行を犯した理由を教えてください」
尋ねた言葉に……父は暫し沈黙を貫いた後。
絞まっていく鎖を感じたのか、答えだす。
「……お前について、知られる訳にはいかないからだ」
「知られる訳にはいかないとは?」
「お前は実験対象として扱っていた。その事実を知られた時、我が家は終わる」
実験対象……?
その言葉に不思議と悲壮感はない……元から、両親からまともな対応をされた覚えはないから。
でも、実験とはなにかが気になった。
「実験だと?」
しかし問いかけを投げたのは、意外にもリカルド様だ。
鋭い瞳で……私でも感じ取れるほどに赫怒に染まった雰囲気が感じ取れる。
こんな彼を見たのは、初めてかもしれない。
「ナターリア、お前の魔力は特殊だ」
「……ええ、分かってます」
「その魔力をシャイラに移す予定だった。あの子を我が家の才女として王家に差し出すため」
「魔力を移す? そんなことが……?」
「可能だ。それが……私の研究でもあったからだ」
父の魔力を移す話は、とても長かった……うんざりするほど。
だから、簡単にまとめよう。
父は私達が住んでいた屋敷に魔法を施し、時間をかけて私の魔力をシャイラに移した。
シャイラが幼少期に体調を崩しがちだったのも、魔力移動のせいだったようだ。
この魔力移動が可能となったのは、私の魔力の性質が大きい。
昔からシャイラの世話をしろと言い聞かせたのは、私の潜在意識内に『妹のため』という想いを植え付け、魔力移動魔法を実現させる補助としていたのだ。
うん……長いけど、こんな話らしい。
「成功すれば……シャイラは才女として輝き。そして私の魔力に関する研究は飛躍的に進む。しかし、そのためにお前を使った事実を知られる訳にはいかない」
「……」
「だから……ナターリア。家族のためにも、この事実を他に知られる訳にはいかないんだ。分かってくれ。今まで育てた恩はあるはずだろう?」
「ふ……ふふ」
思わず吹き出してしまう、
抑えられぬ笑いに、父は激昂の声を上げた。
「なにを笑っている! 家族に迷惑がかかると……なぜ分からな––」
「笑ってしまいますよ。だって。噓をついてますよね、お父様」
噓をついている。
私の言葉に、父は目を大きく見開き……先程まで息まいていた口を閉じる。
「な……にを」
「魔力移動というのは本当かもしれません、過去の体調や言動とも一致する……でも、貴方の動機に疑問しか残らない」
「……」
「研究者なら、まず私の特異な魔力を研究するはず。なのに貴方はわざわざシャイラに移す手間をかけた。そんなリスクをとった理由が繋がらない」
長い話だと感じたのは……この繋がらない疑問ばかりのせいだ。
そもそもシャイラは確かに魔力は多く保有していたが、こんな特異な魔法を使えた事は無い。
特異性を失う時点で魔力を移す意味はないだろう。
だから父がもっともらしい理由を明かしたが、その動機には整合性がないのだ。
なので推測するなら……
「貴方が隠したかったのは、私達を実験につかった事実ではなく。この魔力そのものでは?」
「っ!!」
開かれた瞳孔。
急激に荒くなった呼吸……反応を見る限り、当たっていそうだ。
鎖は首を絞めているのに、黙ったまま答えようとしない。
「つ……ぐっ……」
「長い嘘を吐かず。この魔力について、さっさと答えてください」
「……無理だ。これだけは……っ!!」
「答えて」
絞まっていく鎖、だけど父は顔を青ざめさせながらも耐える。
ギリギリと絞まる鎖が、首に喰い込んでいく……
その時、私の手をリカルド様が握った。
「ナターリア。君が手を汚すな。もういい」
「リカルド様……」
魔法を解けと合図され、言う通りに従う。
ホッと安堵した表情を浮かべた父だが……
刹那、リカルド様が目にも見えぬ速さで鞘を払った剣先が、父の首元をかすめた。
「領民に不安を与えておいて、黙秘は許可しない」
「ぐっ……や!! やめっ!!」
「彼女を虐げていた理由も明かせ。でないと……俺は止められそうにない」
「……い、いっ‼ やめ」
「……ナターリア、君は見なくていい」
「え?」
父の口元に剣が当てられた瞬間、私の目元がリカルド様の手で覆われて見えなくなる。
暗闇の中……父の絶叫が響いた。
「ッツ!! ぐっ……」
「言え」
「……っ!! や、やめ!」
再び絶叫。
床に流れていく血が、覆われた視界の端から見えた。
「答えろ」
「うっ……うぐ……」
「最後だ。言え」
「……これだけは、絶対に……言えない」
命がけ……という言葉が似合うだろう。
父は痛みで呻きながらも、黙秘を貫き通した。
その中、おっとりした声が響く。
「フォンド……お前は、一体なにを隠している」
先程から黙っていたモーセさんが、口を開いたのだ。
「のう、フォンド。お前は……こんな愚かな行為を犯す男ではないだろう」
「っ……モーセ…………さん!?」
父は驚いた表情を浮かべて、モーセさんを見つめた。
焦ったように、大粒の汗を浮かべる……
「儂に教えてくれんか? かつて……学生だったお主に魔力研究を教えた恩を感じてくれるのなら」
「貴方には恩を感じてます…………でも、言えない。言えません!」
「ならこれは儂の推測だ。お前の動機には、行方不明になっているティアが関わっているのでは?」
父の眉根がピクリと動くが、静かに首を横に振る。
「なぜ……そんな関係のない女性の名前を?」
「儂も昔の伝手をあたってな、お前の研究員時代の頃を聞いたぞ……」
「っ!!」
「かつてお前は、現在の妻との婚約関係がある中……それを伏せてティアへと婚約を申し込んでいたとな」
父の目が大きく見開き、呆然とモーセさんを見つめる。
その反応は、明らかに今の話が噓ではないと裏付けるものだ。
「知りません……そんなこと」
「まだ隠す気なら、それでもいい。だが……儂は気になった事は解明せねば済まない性分でな。分かっているだろう?」
「……貴方のそういった所だけは……昔から、嫌いだった」
「ほほ。褒め言葉じゃよ」
確かティアという女性は私と同じ魔力を持ち、現在は行方不明のはず。
その人が、かつて父に婚約を迫られていた事実。
それが、父の動機に繋がる?
いまだ疑問だらけの私を、モーセさんは見つめた。
「どうやら、フォンドは口を割らぬ気じゃろう……例え死んでも」
「なら、口を割らせる……」
リカルド様が呟き、血に塗れた剣先を揺らす。
その行為に父が怯えたように後ずさる。
一連の行為に、モーセさんは首を横に振った。
「判断力を削ぐため、時間をかけよう。儂もこやつを揺さぶる情報を調べよう」
呟いたモーセさんは、私の肩をトンっと叩いた。
そして、ほがらかに笑う。
「顔、強張っとるぞ。慣れぬものを見せてすまんな。荒事は儂らに任せ……いつも通りルウと遊んでおれ」
「モーセ……講師」
「その方が……リカルド様も安心するはずじゃろ?」
「あぁ。すまない……こんなもの見せて……」
人を脅すなんて慣れなくて、知らない内に顔が強張っていたのだろう。
確かに、ルウに会った時に怖がられたくない。
「ナターリア。出よう……ここは君に合わない」
「……はい」
リカルド様は私の手を繋ぎ、そのまま外に連れていってくれる。
その手が暖かく、モーセさんの言葉もあって、ルウの待つ世界に引き戻される感覚だった。
「過去、辛かったか?」
「リカルド様……」
「もう、そんな扱いさせない。俺が、必ず」
リカルド様は地下室から出ると、私の手を繋ぎながら優しい言葉をかけてくれる。
でも、ここまでしてくれた彼らに……恩を感じているだけじゃだめだ。
「リカルド様。私についても、話をさせてください」
ずっと事情を隠したまま、迷惑だけをかけ続ける訳にはいかない。
だから……
「私は……現在、離婚するために出奔中なんです」
全ての事情を明かす。
私がここに来た理由、あちらでの扱い等を……全て。
その上で、協力を願うために。
話を聞くリカルド様の表情が怒ってくれているのを……私は確かに感じた。
尋ねた言葉に……父は暫し沈黙を貫いた後。
絞まっていく鎖を感じたのか、答えだす。
「……お前について、知られる訳にはいかないからだ」
「知られる訳にはいかないとは?」
「お前は実験対象として扱っていた。その事実を知られた時、我が家は終わる」
実験対象……?
その言葉に不思議と悲壮感はない……元から、両親からまともな対応をされた覚えはないから。
でも、実験とはなにかが気になった。
「実験だと?」
しかし問いかけを投げたのは、意外にもリカルド様だ。
鋭い瞳で……私でも感じ取れるほどに赫怒に染まった雰囲気が感じ取れる。
こんな彼を見たのは、初めてかもしれない。
「ナターリア、お前の魔力は特殊だ」
「……ええ、分かってます」
「その魔力をシャイラに移す予定だった。あの子を我が家の才女として王家に差し出すため」
「魔力を移す? そんなことが……?」
「可能だ。それが……私の研究でもあったからだ」
父の魔力を移す話は、とても長かった……うんざりするほど。
だから、簡単にまとめよう。
父は私達が住んでいた屋敷に魔法を施し、時間をかけて私の魔力をシャイラに移した。
シャイラが幼少期に体調を崩しがちだったのも、魔力移動のせいだったようだ。
この魔力移動が可能となったのは、私の魔力の性質が大きい。
昔からシャイラの世話をしろと言い聞かせたのは、私の潜在意識内に『妹のため』という想いを植え付け、魔力移動魔法を実現させる補助としていたのだ。
うん……長いけど、こんな話らしい。
「成功すれば……シャイラは才女として輝き。そして私の魔力に関する研究は飛躍的に進む。しかし、そのためにお前を使った事実を知られる訳にはいかない」
「……」
「だから……ナターリア。家族のためにも、この事実を他に知られる訳にはいかないんだ。分かってくれ。今まで育てた恩はあるはずだろう?」
「ふ……ふふ」
思わず吹き出してしまう、
抑えられぬ笑いに、父は激昂の声を上げた。
「なにを笑っている! 家族に迷惑がかかると……なぜ分からな––」
「笑ってしまいますよ。だって。噓をついてますよね、お父様」
噓をついている。
私の言葉に、父は目を大きく見開き……先程まで息まいていた口を閉じる。
「な……にを」
「魔力移動というのは本当かもしれません、過去の体調や言動とも一致する……でも、貴方の動機に疑問しか残らない」
「……」
「研究者なら、まず私の特異な魔力を研究するはず。なのに貴方はわざわざシャイラに移す手間をかけた。そんなリスクをとった理由が繋がらない」
長い話だと感じたのは……この繋がらない疑問ばかりのせいだ。
そもそもシャイラは確かに魔力は多く保有していたが、こんな特異な魔法を使えた事は無い。
特異性を失う時点で魔力を移す意味はないだろう。
だから父がもっともらしい理由を明かしたが、その動機には整合性がないのだ。
なので推測するなら……
「貴方が隠したかったのは、私達を実験につかった事実ではなく。この魔力そのものでは?」
「っ!!」
開かれた瞳孔。
急激に荒くなった呼吸……反応を見る限り、当たっていそうだ。
鎖は首を絞めているのに、黙ったまま答えようとしない。
「つ……ぐっ……」
「長い嘘を吐かず。この魔力について、さっさと答えてください」
「……無理だ。これだけは……っ!!」
「答えて」
絞まっていく鎖、だけど父は顔を青ざめさせながらも耐える。
ギリギリと絞まる鎖が、首に喰い込んでいく……
その時、私の手をリカルド様が握った。
「ナターリア。君が手を汚すな。もういい」
「リカルド様……」
魔法を解けと合図され、言う通りに従う。
ホッと安堵した表情を浮かべた父だが……
刹那、リカルド様が目にも見えぬ速さで鞘を払った剣先が、父の首元をかすめた。
「領民に不安を与えておいて、黙秘は許可しない」
「ぐっ……や!! やめっ!!」
「彼女を虐げていた理由も明かせ。でないと……俺は止められそうにない」
「……い、いっ‼ やめ」
「……ナターリア、君は見なくていい」
「え?」
父の口元に剣が当てられた瞬間、私の目元がリカルド様の手で覆われて見えなくなる。
暗闇の中……父の絶叫が響いた。
「ッツ!! ぐっ……」
「言え」
「……っ!! や、やめ!」
再び絶叫。
床に流れていく血が、覆われた視界の端から見えた。
「答えろ」
「うっ……うぐ……」
「最後だ。言え」
「……これだけは、絶対に……言えない」
命がけ……という言葉が似合うだろう。
父は痛みで呻きながらも、黙秘を貫き通した。
その中、おっとりした声が響く。
「フォンド……お前は、一体なにを隠している」
先程から黙っていたモーセさんが、口を開いたのだ。
「のう、フォンド。お前は……こんな愚かな行為を犯す男ではないだろう」
「っ……モーセ…………さん!?」
父は驚いた表情を浮かべて、モーセさんを見つめた。
焦ったように、大粒の汗を浮かべる……
「儂に教えてくれんか? かつて……学生だったお主に魔力研究を教えた恩を感じてくれるのなら」
「貴方には恩を感じてます…………でも、言えない。言えません!」
「ならこれは儂の推測だ。お前の動機には、行方不明になっているティアが関わっているのでは?」
父の眉根がピクリと動くが、静かに首を横に振る。
「なぜ……そんな関係のない女性の名前を?」
「儂も昔の伝手をあたってな、お前の研究員時代の頃を聞いたぞ……」
「っ!!」
「かつてお前は、現在の妻との婚約関係がある中……それを伏せてティアへと婚約を申し込んでいたとな」
父の目が大きく見開き、呆然とモーセさんを見つめる。
その反応は、明らかに今の話が噓ではないと裏付けるものだ。
「知りません……そんなこと」
「まだ隠す気なら、それでもいい。だが……儂は気になった事は解明せねば済まない性分でな。分かっているだろう?」
「……貴方のそういった所だけは……昔から、嫌いだった」
「ほほ。褒め言葉じゃよ」
確かティアという女性は私と同じ魔力を持ち、現在は行方不明のはず。
その人が、かつて父に婚約を迫られていた事実。
それが、父の動機に繋がる?
いまだ疑問だらけの私を、モーセさんは見つめた。
「どうやら、フォンドは口を割らぬ気じゃろう……例え死んでも」
「なら、口を割らせる……」
リカルド様が呟き、血に塗れた剣先を揺らす。
その行為に父が怯えたように後ずさる。
一連の行為に、モーセさんは首を横に振った。
「判断力を削ぐため、時間をかけよう。儂もこやつを揺さぶる情報を調べよう」
呟いたモーセさんは、私の肩をトンっと叩いた。
そして、ほがらかに笑う。
「顔、強張っとるぞ。慣れぬものを見せてすまんな。荒事は儂らに任せ……いつも通りルウと遊んでおれ」
「モーセ……講師」
「その方が……リカルド様も安心するはずじゃろ?」
「あぁ。すまない……こんなもの見せて……」
人を脅すなんて慣れなくて、知らない内に顔が強張っていたのだろう。
確かに、ルウに会った時に怖がられたくない。
「ナターリア。出よう……ここは君に合わない」
「……はい」
リカルド様は私の手を繋ぎ、そのまま外に連れていってくれる。
その手が暖かく、モーセさんの言葉もあって、ルウの待つ世界に引き戻される感覚だった。
「過去、辛かったか?」
「リカルド様……」
「もう、そんな扱いさせない。俺が、必ず」
リカルド様は地下室から出ると、私の手を繋ぎながら優しい言葉をかけてくれる。
でも、ここまでしてくれた彼らに……恩を感じているだけじゃだめだ。
「リカルド様。私についても、話をさせてください」
ずっと事情を隠したまま、迷惑だけをかけ続ける訳にはいかない。
だから……
「私は……現在、離婚するために出奔中なんです」
全ての事情を明かす。
私がここに来た理由、あちらでの扱い等を……全て。
その上で、協力を願うために。
話を聞くリカルド様の表情が怒ってくれているのを……私は確かに感じた。
8,611
お気に入りに追加
9,646
あなたにおすすめの小説

完結 「愛が重い」と言われたので尽くすのを全部止めたところ
音爽(ネソウ)
恋愛
アルミロ・ルファーノ伯爵令息は身体が弱くいつも臥せっていた。財があっても自由がないと嘆く。
だが、そんな彼を幼少期から知る婚約者ニーナ・ガーナインは献身的につくした。
相思相愛で結ばれたはずが健気に尽くす彼女を疎ましく感じる相手。
どんな無茶な要望にも応えていたはずが裏切られることになる。

その眼差しは凍てつく刃*冷たい婚約者にウンザリしてます*
音爽(ネソウ)
恋愛
義妹に優しく、婚約者の令嬢には極寒対応。
塩対応より下があるなんて……。
この婚約は間違っている?
*2021年7月完結

〖完結〗幼馴染みの王女様の方が大切な婚約者は要らない。愛してる? もう興味ありません。
藍川みいな
恋愛
婚約者のカイン様は、婚約者の私よりも幼馴染みのクリスティ王女殿下ばかりを優先する。
何度も約束を破られ、彼と過ごせる時間は全くなかった。約束を破る理由はいつだって、「クリスティが……」だ。
同じ学園に通っているのに、私はまるで他人のよう。毎日毎日、二人の仲のいい姿を見せられ、苦しんでいることさえ彼は気付かない。
もうやめる。
カイン様との婚約は解消する。
でもなぜか、別れを告げたのに彼が付きまとってくる。
愛してる? 私はもう、あなたに興味はありません!
設定ゆるゆるの、架空の世界のお話です。
沢山の感想ありがとうございます。返信出来ず、申し訳ありません。

王子妃教育に疲れたので幼馴染の王子との婚約解消をしました
さこの
恋愛
新年のパーティーで婚約破棄?の話が出る。
王子妃教育にも疲れてきていたので、婚約の解消を望むミレイユ
頑張っていても落第令嬢と呼ばれるのにも疲れた。
ゆるい設定です

冷遇する婚約者に、冷たさをそのままお返しします。
ねむたん
恋愛
貴族の娘、ミーシャは婚約者ヴィクターの冷酷な仕打ちによって自信と感情を失い、無感情な仮面を被ることで自分を守るようになった。エステラ家の屋敷と庭園の中で静かに過ごす彼女の心には、怒りも悲しみも埋もれたまま、何も感じない日々が続いていた。
事なかれ主義の両親の影響で、エステラ家の警備はガバガバですw

わたしにはもうこの子がいるので、いまさら愛してもらわなくても結構です。
ふまさ
恋愛
伯爵令嬢のリネットは、婚約者のハワードを、盲目的に愛していた。友人に、他の令嬢と親しげに歩いていたと言われても信じず、暴言を吐かれても、彼は子どものように純粋無垢だから仕方ないと自分を納得させていた。
けれど。
「──なんか、こうして改めて見ると猿みたいだし、不細工だなあ。本当に、ぼくときみの子?」
他でもない。二人の子ども──ルシアンへの暴言をきっかけに、ハワードへの絶対的な愛が、リネットの中で確かに崩れていく音がした。

見捨てられたのは私
梅雨の人
恋愛
急に振り出した雨の中、目の前のお二人は急ぎ足でこちらを振り返ることもなくどんどん私から離れていきます。
ただ三人で、いいえ、二人と一人で歩いていただけでございました。
ぽつぽつと振り出した雨は勢いを増してきましたのに、あなたの妻である私は一人取り残されてもそこからしばらく動くことができないのはどうしてなのでしょうか。いつものこと、いつものことなのに、いつまでたっても惨めで悲しくなるのです。
何度悲しい思いをしても、それでもあなたをお慕いしてまいりましたが、さすがにもうあきらめようかと思っております。

完結 冗談で済ますつもりでしょうが、そうはいきません。
音爽(ネソウ)
恋愛
王子の幼馴染はいつもわがまま放題。それを放置する。
結婚式でもやらかして私の挙式はメチャクチャに
「ほんの冗談さ」と王子は軽くあしらうが、そこに一人の男性が現れて……
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる