【完結】貴方達から離れたら思った以上に幸せです!

なか

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19話

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「ここまで……お前は魔力を使えるのか」

 父は苦悶の表情を浮かべながらも、私を睨む。
 防御魔法を使ったのだろうか……先程の衝撃でも、傷が浅い。

 だが、そんなのどうだっていい。
 私の怒りは収まらず、魔力が溢れてくる。
 
「確かにシャイラに移したはずだ。なぜ取り戻して……いや、今はもういい」

 意味不明な言葉を呟く父が、私へと手を向けた。
 途端に、その手元に魔力が集まっていく。
 私でも感じ取れる程、大きな魔力が……

「ナターリア……私はもう手段を選べないんだ。例えここでお前に怪我をさせても……連れ帰るしかない。聞き分けの無い自分を恥じろ」

 このままじゃ、ルウまで……

 傍に居るルウを守るには、どうすれば。
 戦いの経験がない私に、咄嗟の判断なんて出来ない……

 かもしれないが、実際に私が迷う必要なんてない!

「冷静に、確実にこの場を切り抜ける方法を考えろ……」

 固定概念を覆す力が……この魔力にはある。
 やり方は無限だ。

 怒りに任せて集めた魔力に……たった一つの願いを込め、集中しろ。
 今、もっとも来て欲しい人を……この場に呼ぶんだ。


「っ!!」


 魔力を解放して、大きな光が瞬く……
 再び瞳を開くと。

「ナ、ナーちゃん……ナーちゃん」

「ルウ……?」

「血、血が……鼻血。ナーちゃん……だいじょぶ?」

「っ……だい、じょうぶだよ」

 鼻に手を当てると、ジトリと暖かい感覚に、真っ赤な血が付着する。
 以前モーセさんに聞いた、魔力を使い過ぎた際の副作用だ。


 でも、こうなったという事は……
 確信を感じた瞬間、肩を叩かれた。 
 

「ナターリア。もういい……魔力を鎮めろ」
 
「……っ!! リカルド様」


 私達の前に立ったのは、リカルド様だ。
 これが私が実行した魔法……戦いの経験がない私が、父という脅威から確実に身を守るための手段。

 リカルド様をこの場に呼び出した……つまり転移させたのだ。


「心配ない。任せて欲しい」


 と言われると、心から安心してしまう。

 リカルド様は聞かずとも、私達に魔力を向ける父を睨みつけた。
 瞳が鋭利な刃物のように鋭くなり、その威圧感はいつもと違って怒気を増す。

 領民が彼を頼る理由が、今は心からよく分かった。
 こんなに頼れる言葉と背中、他にはない……

「なぜ急に辺境伯が……まさか、ナターリア……お前が!?」

「領民への危害……許容できないな」

 本当に一瞬だった。
 リカルド様の周りに魔法による雷光が瞬いたと同時に、もう姿は消えて。
 その固い拳が父の頭を抑えつけ、地面に叩きつける。

「あぐぅっ!!」

「防御魔法か……無い方が、楽に気絶できたな」

「や、やめっ!!?!」
 
 再び姿が消えて、同じ衝撃が走って豪音が鳴り響く。
 手足がおかしな方向に曲がった父は、もう言葉を発する意識はない。
 リカルド様はたった一秒の間に……魔法の扱いに長ける父を昏倒させたのだ。
 
 やっぱり、彼の力に頼って良かった……

「ナーちゃん……! こわい、もう……怖い人いない?」

「ルウ。大丈夫だよ。もう……安全だから」

 状況は改善したが、ルウは怖がっていて……心臓が心配になる程に鼓動している。
 すぐにルウを安心させるために……なにか方法を。
 そう、迷った時。
 
「ルウ坊、これを見てみい」

 優しい声がして、顔を上げる。
 すると、私とルウの周りに……土人形で出来た犬や猫が沢山作られていた。

「わんわんと……にゃんこ……だ」

「そうじゃ、ルウ坊を守ってくれるわんわんとにゃんこ達じゃよ」

 私達の傍に来たのは、なんとモーセさんであった。
 こんな状況でも変わらず温和な笑みを浮かべ、魔法で生み出した土人形を巧みに操っている。

「わんわんとにゃんこが、今日はルウ坊を家まで送ってくれるそうじゃよ?」

「わんわん達が?」

「そう。ほら、大きいわんわんじゃ。のってみい」

 ルウの怯えが少し和らいで、大きな土犬に手を伸ばす。
 それをモーセさんが抱っこして、乗せて上げていた。

「ナターリア嬢も無事か? 大きな魔力を感じて、年甲斐もなく走って正解じゃったよ」

「モーセ講師……」

「あれはお前の父……フォンドか? こんな愚かな行為をする者では無かったはずだが……いや、今は事情はいいか」

 モーセさんは首を傾げた後、泣いているルウの頭を撫で。
 私へと微笑む。

「とりあえず一旦、ルウ坊は儂に任せて……嬢は心を落ち着かせるといい」

「でも……ルウは泣いていて……」

「儂は子供に囲まれて長いんじゃぞ。お主が落ち着くまでぐらいは、年寄りに任せてみい」

 その優しい言葉に……安心感が心に広まって、何故か涙が流れてしまう。

「さて、ルウ坊。一旦帰ろうか」

「ナーちゃんは、いっしょ?」

「落ち着いたら、後で来てくれるぞ」

「うん……ナーちゃん、あとでね。ルウ、ずっとまってる」

「ルウ、私も直ぐに行くから。待っててね」

 モーセさんは土犬や土猫たちを操り、ルウを家まで送るため歩き出した。

「無事か?」

「は、はい。リカルド様」

 一人残った私へと、リカルド様が近づく。
 どうやら父は気絶……いや、それ以上の重傷だ。
 拘束され、動けぬよう制圧されていた。

「事情を聞きたいが、まずは……あの子の元へ向かってやれ」
 
「リカルド様……ありがとござ––」

 彼の手が、私の涙を拭ってくれる。
 そしてハンカチまで渡してくれて、鼻血を拭った。

「すみません。安心したら……急に涙が……」

「大丈夫だ」

 情けなく、先程の出来事でバクバクと高鳴る心臓。
 驚きと安心が一気に訪れた事で、ぐすぐすと泣いてしまう私に……リカルド様が私の頬を優しくつまんだ。

「子に不安は伝授する。だから……いつものように笑えばいい」

「っ……はい。もう涙は収まりました」

「本当か?」

「はい」

「なら、いい」

 心配してくれていたのだろう。
 無表情のままだけど、その瞳は私を気遣ってくれて……優しかった。
 
「あの男は拘束し、後ほど君にも事情を聞く」

「分かりました。急に転移魔法なんて使って、申し訳ありません」

「いい。ちょうど……渡せる」

 そう言って、リカルド様が取り出したのは……菓子の入った袋だ。
 私の手に乗せてくれる。

「あの子と食べろ。君の好みと聞いてる」

 イチゴ味で……私が好きなお菓子だ。
 ルウにしか、話した事がないのに。

「ルウに聞いたのですか? 私のため……?」

「……」

 こういった時は答えてくれないのだから、ずるい。
 だけどその気持ちは、本当にありがたかった。
 お菓子袋を胸に抱いて頭を下げる。

「後で必ず事情を話します……なので、今はルウの元に大丈夫だと伝えにいきますね」

「あぁ、待ってる」

 私の過去の因縁のせいで、色んな人に迷惑がかけてしまった。
 でも、それを優しく受け止めてくれる辺境伯領や……リカルド様にはどれだけ感謝しても足りない。

「ナターリア」

「え?」

「頼ってくれて……嬉しい。いつでも……呼べ」

「リカルド様……」


 なのに、貴方は……
 私に感謝してくれる。
 本当に優しい人だ。

「ありがとうございます。リカルド様」

「ん」

 父がここまで強行手段に出た理由も、話していた事も気にはなる。
 けど今は、きっとまだ不安が残っているルウを安心させたい。

 私が不安な顔を見せず、リカルド様のように……
『心配ない』『大丈夫』と言って安心させよう。
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