【完結】貴方達から離れたら思った以上に幸せです!

なか

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18話

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 今日はジェイクさんから報告があるらしいので、辺境伯邸に訪れる。

「ジェイクさん、お話の前に……今回の納品分を渡しておきますね!」

「ま、また五十組も……!?」

 まずは再び作った手袋を渡す。
 魔法も慣れて、生産速度も上がって沢山作れたからね。

「本当に感謝します。ナターリア様!」

「大丈夫です。私も対価を貰ってますから。それで、報告とは?」

 私の問いに、ジェイクさんは幾つかの書類を机の上に置き始める。

「まず一つ、モーセさんに頼まれてティアという女性の調査を始めました」

 ティアという女性は、私と同じ魔力を持つ女性だ。
 確か行方不明になっていたはず。

「どうして、モーセさんが辺境伯家に依頼を?」

「辺境伯家には王都には無い事故や、行方不明者の記録が残ってますから。こちらで調べれば足取りが掴めるかもと」

 なるほど、辺境伯家の記録を当たっているのか。
 モーセさんの探求心は、ティアという女性を調べる所まできているようだ。

「そしてもう一つ……こっちの方が重大です。この手袋にさらに能力がありました」

「さ、さらに?」

「ええ! 驚いた事に、この手袋は使用期間によって能力が成長したんですよ!」

 熱の荒い呼吸で、ジェイクさんは嬉しそうに説明してくれる。
 どうやら、この手袋は使い続けた場合。
 その効果が使用期間に応じて増幅すると…… 

 だから最初に渡していた手袋などは、他の手袋よりも増幅した力を持っているらしい。

「これは素晴らしい事ですよ……もはや想像を超えて、僕の理解が追いつきません。混乱してます」

「そんな能力まで……」

「モーセさんの見解では、手袋に宿った魔力そのものが成長していると」

「私から、離れていてもですか?」

「どうも付与された魔力は貴方から離れている訳ではなく、繋がっているようです」

 それなら、私が望めば手袋に宿った魔力を全回収等もできるのだろうか。
 皆に成長させてもらって、全て回収。

 やらないけど……私の魔力は万能過ぎないか?
 恐ろしい。

「魔物への対応策にも活路が見えてきたのも、ナターリア様のおかげです。このままなら……リカルド様だけに頼らずとも、この地の平和を維持できます」

「ふふ、良かったです。ようやくリカルド様も戦い以外に……興味を持ってくれたようですから」

「……え? それは本当ですか?」

「はい。先日はウサギ柄の絆創膏を欲しがったり、ルウに肩車までしてたんですよ?」

 世間話のように、リカルド様の近況報告をしたが。
 ジェイクさんは驚愕して、目を見開いた。
 
「な、なな……リカルド様が? 本当に? ウソでしょう!?」

「え……本当ですよ」

「そんな……あり得な……いや、最近珍しく外出していましたが……ずっとナターリア様の元に?」

 今にも驚倒しそうな反応だ。
 リカルド様って、本当に今まで戦い以外に興味すら示さなかったのだろうな……
 
 とりあえず、ジェイクさんの驚きは落ち着くまで時間がかかりそうなので。
 報告は受けたから、もう帰るため挨拶して部屋を出る。


 すると。
 
「ナターリア」

「っ……?」

 屋敷の玄関で、私の袖を誰かが引く。
 振り返れば……リカルド様だ。

「リカルド様、どうしました?」

「……また、頼みたい」

「ふふ、分かりました」

 彼の頼みとは、新しい傷に絆創膏を貼って欲しいのだ。
 いっつもウサギ柄を所望するから、可愛らしい。
 こんなに無表情だけど、気に入ってるんだ。

「はい、今日もウサギ柄にしておきました」

「感謝する」

 やっぱり……治療した後は、いつもよりホワホワとした雰囲気。
 無表情なのに、笑っているようだ。
 
「では、私はおいとまいたしますね」

「…………後で」

「ん?」

「後で、君の……家に向かう」

「え、ど……どうして?」

「礼をしたい……駄目か?」

 駄目かと聞かれれば……別に断る理由はない。
 お礼というなら、受け取っておこう。

「ここでは駄目なのですか?」

「うん」

「分かりました。それでは……私の家で待ってますね」

「ナターリア……ありがとう」

 最近分かった、リカルド様は王都で畏怖されているが。
 実際は無口気味の大人しいクマというか……怖いけど親しみやすい部分が多い。

 この前も私を待つ間、ルウと遊んでくれていたけど。
 無表情でルウを肩車してあげていただけでなく、髪に花を載せられてもぼうっとしていて。

 うん、やっぱり私は怖いと思えなかった。


「じゃあ、家で待ってますからね」

「……すぐ、行く」


 リカルド様に別れを告げて、用意してもらった馬車に乗り込む。
 この後は……ルウとも遊ぶ予定がある。

 三人そろうのか、楽しみだ。




   ◇◇◇




 馬車から下り、家へと足早に歩く。
 ルウはもう来ているだろうか?
 あの子の事だから、待ち合わせ時間よりも早くきて遊んでいるかもね……


 あと少しで到着という所で……足が止まってしまう。

「……ル……ウ?」

「あ、ナーちゃん!! きたー! あそぼ!」

 可愛らしい声に答えられない、足が動かない。
 だって、ルウの傍にいる人物は……

「ルウ、その人から離れて、こっちに来て!」

「え? おじちゃんのこと? 遊んでくれてたんだよ!」

 家の前で、ルウは待ってくれていた。
 でもその傍に……会いたくもない人物が居たのだ。





「ナターリア……久しぶりだな」




 フォンド子爵。
 私の父が。





「どうして、ここに」

「お前の魔力を辿ってきた。要件は分かっているだろう」

「ルウ、こっちに来て……」

「え? ナーちゃん? どうしたの……」

 お願い。
 お願いだから……やめて。
 

 ルウを巻き込まないで。


「お前の事は調べたよ。馬鹿な事をしているようだな」

「お父様……帰ってください」

「そうはいかない。その魔力だけは……絶対知られる訳にはいかん。私はお前を連れ戻す。言う事を聞かないなら……」


 やめて……お願いだから、ルウには手を出さないで。


 心で神に懇願しようとも、父は懐から短剣を取り出す。
 それを無邪気で無垢な……今、最も人質にしやすい子供の首筋へと、向けてしまった。

「この子に傷をつけたくないはずだ。父にこんな事をさせるな。いいか? 言う事を聞け、ナターリア」


「え? ナ、ナーちゃ––」
 

 ルウが……怯えている。

 いつだって笑顔で、不安な表情なんて見せた事がなくて。
 こんな事に巻き込まれるべきじゃない、優しくて無垢な子が……

「ナターリア! これはお前のために言っている。大人しく戻ってこい」

「黙って……」

「っ!!」

「その子を、離してっ!!!!」

 もう、冷静な判断など出来なかった。

 生じた怒りがそのまま……一つの願いとなって魔法となる。
 ルウから離れろと……

「っ!! ま! やめろっ!!」

 その願いが実現していく。
 ルウを巻き込まぬまま、地面が大きく盛り上がって突き出し父を吹き飛ばして。
 そのまま遠くの大地へと叩きつけた。

「ナ、ナーちゃん。ナーちゃん!」

「ごめんね、ルウ。……怖かったよね。ごめんね」

 涙をにじませて駆け寄るルウを抱きしめる。
 こんなに震えて、怯えている。

 小さな子が刃を向けられるなんて、どれだけ怖かっただろう。
 どれだけ、心に傷をつけられただろうか。


「絶対……許さない」

 まだ怒りは消えず、遠くで呻く父へ呟く。
 渦巻く魔力が地面を操り、私の怒りは止まらなかった。

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