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プロローグ

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 どうして、こんな事になったの。

「ナターリア、受け入れなさい。お前は姉としてシャイラの将来を大切にしてあげなさい」

 お父様の言葉が、無慈悲に響く。
 続くお母様が私の肩を叩いた。

「妹と一緒に幸せになればいいのよ。同じ人を愛せるなんて幸せよ?」

「お母様……私は」

「あまり困らせないで、シャイラのためよ」

 いつだって、私の家族はそうだ。
 妹であるシャイラのため……といって、私の人生などお構いなし。
 ようやく解放されたと思っていたのに、また妹と関われというの?

「お姉様、お願いします」
「ナターリア、受け入れてくれ」

 視線を上げれば、妹のシャイラと、夫であるヴィクターが見つめてくる。
 私が間違っているように諌めているが……こうなった原因は二人のせいだ。

「ヴィクター……私が嫌だと言っても、貴方は聞いてくれないの?」

「シャイラは、僕の子供を身ごもっている。だから……妻の座を、彼女に渡してあげてほしいんだ」

「それで私が側室となり、これまで通りに貴方を支えろと?」

 こんな事が許されていいはずない。
 なのに周囲は私が流す涙を意にも介さず、意見を曲げない。

「僕は君もシャイラも愛したい。これからは妹と一緒に幸せになればいいだけだろ?」

「お願いお姉様。私だってヴィクター様を愛したいの!」

 私が生きてきた二十三年。
 何度も、何百も、何千と聞いた妹からの『お願い』という言葉。

 ヴィクターと結婚してから家族と距離を置き、解放されていたはずなのに。
 今になって妹が彼と不倫して、正妻の座を代われという『お願い』をしてくる。


「姉なのだから、妹を大切にしなさい」


 続く両親の言葉で、心が絶望に染まる。
 私はまた……以前のように妹に人生を捧げないといけないの?


 そんなの……
 そんなの、絶対に嫌に決まってる。


「それなら、私がここを出ていきます」

「「「…………え?」」」


 本音を告げれば、彼らは驚いた。
 だがもう撤回しない、決意は固まっているのだから。


 私の意見も聞かず、人生を捧げろというのなら。
 ここから逃げ出して、私は自身の自由を勝ち取ってみせよう。
 
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