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二人の約束

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 エレツィアが洋服の製作にいそしむ中。

 
 天気の良い外で、もう三歳となったロイが、アウルムの膝の上に座り。絵を描く。
 それがロイの最近の楽しみだった。

「これがね、あうるうで、これがおかさん」

「うまいな、俺にくれるか? ロイ」

「うん、でも……ちょっとまって、ろいもかくから」

「あぁ、いくらでも待つ」

 膝の上に座り、画用紙にクレヨンを動かすロイを、アウルムはじっと見つめていた。
 そして、時折ロイの頭を撫でては……頬を緩ませる。

「ね、あうるう、これあげるから。ろいのおねがい、きいてほしい」

「なんだ?」

「あのね、おかさんにひどいことするひとがいてね。ろいじゃ……おかさんまもれないかもしれないの」

「ロイ……」

 クレヨンを持つロイは、にじんだ瞳を拭いながら。
 画用紙をアウルムへと手渡した。

「だからね、あうるうにね。おかさんまもってほしい……おねがい」

「……」

「ろい、つよくないから。おかさんまもれない」

 気付けば、アウルムはロイを抱きしめていた。
 その小さな手を握りしめ、頭を優しく撫でて、安心させるように呟く。

「ロイ、お前は強いぞ……俺が出会ってきた誰よりも、強くて優しい子だ」

「あうるう……?」

「約束だ、絶対にお前のお母さんは俺が守る」

「ありがとう、あうるう」

「でも、俺とも一つだけ約束してくれるか?」

「う?」

 抱きしめられながら、見上げたロイをアウルムは慈しみの視線を向けながら。
 呟いた。


「覚えていたらでいい。……俺が––––––––」




   ◇◇◇◇

 エレツィアside

 ロイ七歳。

 玄関扉が開き、帰ってきたアウルムの元へとロイは勢いよく駆け出していった。

「おとうさん!」

「おっと、ロイ。ただいま……エレツィアも」

「おかえりなさい、アウルム」

 彼はロイを抱きしめながら、私の手を引いて。優しい口付けをしてくれた。
 そして、ロイの頬にも。

「おとうさん、今日ね! おとうさんの好きなハンバーグだよ!」

「本当か!? 早めに帰ってきて……良かった……」

「大袈裟ですよ、さぁ手を洗ってきてください」

「分かった!」

 いつもの光景、家族となった私達はこうして毎日の食卓を共にする。
 私自身も憧れていた、幸せを手にしている事が胸を満たしてくれた。

「おとうさん、今日ね、ロイね……かけ算できるようになったよ!」

「なっ……ロイは天才だな。俺の事業を任せたいな」

「ふふ、おとうさん褒めてくれるから好き」

 そんな、微笑ましい会話の中。
 私はふと、気になった事を問いかけた。

「そう言えば、ロイ……私はアウルムと呼んでいるけど。ロイはいつからアウルムをお父さんって呼ぼうと思ったの?」

「んーとね。約束したから」

「ろ、ロイ。ちょっとあっちの部屋にいくぞ」

 何故かアウルムが慌ててロイを連れて行こうとしたけど、遅かった。

「ロイが小さい頃にね。アウルムが言ったの、お母さんと必ず一緒になるから。その時はロイのお父さんになりたいって! だからね、ロイのお父さんだよ」

「……アウルム」

 ロイの言葉を聞いて、彼を見つめると……真っ赤にした頬で視線を逸らしていた。
 まさか、ロイが小さなころから私を想って……一緒になる事を考えてくれていたなんて。

 嬉しいと、やっぱり彼が大好きだという想いが胸を満たしていく。 

「ふふ、私、やっぱりアウルムが大好きだよ」

「……なっ……」

「ロイも大好き!」

 照れたように慌てるアウルムにロイが抱きつき、
 和やかな雰囲気の中で私は厨房へと戻る。
 


 今日のハンバーグは一際大きくしておこう。
 こんなに嬉しくて、喜ばしくて……幸せをくれた二人には、とびきりのお礼をしたいから。

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