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最終話
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一年の月日が流れただろうか。
あれからの日々は、今までの五年の月日を取り返すように幸せで満ちていた。
事業である『ディア・チャイルド』は多くの貴族達に愛されて、今も尚売れている商品となっている。
それは支えてくれるアウルムのおかげだろう。
事業を共にする彼と交わした気持ち。会う機会を重ねる内に……私達は。
「そのマフラー……今も使ってくれているんだな」
雪の降るある日、アウルムと商談を終えて帰る途中。そう呟かれる。
寒い日は必ず付けている、彼からの贈り物。手放せるはずがない。
「だって、アウルムがくれた。贈り物だから」
「そうか……もっと上手く作ればよかったな」
「ううん、これでいいの。これがいい」
マフラーを抱きしめて呟くと、アウルムは私の手を取って引き寄せた。
そのまま、重なった唇。お互いに白い吐息を吐きながら、そっと見つめ合う。
「エレツィア、もう一つ。君に贈りたい物があるんだ」
「え?」
呟きつつ、彼が懐から取り出した物は………
「君は、ロイの立派な母で。俺は君から教えられた事がいっぱいある」
「ア………ウルム」
「でも、俺も……君を支える男になりたい」
そっと薬指にはめられるリング。見つめ合う中で彼はまっすぐに私を見つめた。
「俺も……君を幸せにしたい。ロイも……だから………家族に、なってほしい」
頬を赤く染めながら、そう言ってくれるアウルム。
私の答えなんて。決まってる。
「アウルム––––––––」
◇◇◇
「おかあさん! 準備できた?」
「えぇ、ロイ……開けていいわよ」
扉が開かれて、ロイが私を見つめて抱きつく。
私の着ていた純白のドレスが、ふわりと揺れた。
六歳になったロイは、少し大きくなっていて、可愛らしさの中にも男の子らしさがある。
簡単に言えば、世界で一番可愛い私の子だ。
「今日は、アウルムとけっこんするんだよね?」
「そうね、ロイはアウルムと一緒に暮らすの不安?」
「ううん、ロイもおかあさんといっしょ。アウルム大好き」
ロイの言葉に安心を感じる。
アウルム求婚を受けた日。彼は結婚するにあたり、私にとある希望を出してきた。
アウルムはなんと、ウィンソン家の当主の座を捨て。私の実家のカルヴァート家に婿入りにしたのだ。
金を無心してくる両親や親戚達から距離を置くためらしく、父は諸手を挙げてその提案を受け入れた。
何せ、没落しかけたウィンソン家を立て直したのはアウルムなのだ。その手腕を無下にする父ではない。
そんな経緯で……私とアウルムの結婚が決まった。
「ね、ね! おかあさんに会うまえに、さっきアウルムに会ってきたよ!」
「そうなの? 彼、何か言っていた?」
「しきおわったらね、はやくおかあさんの作ったハンバーグがたべたいって、大好きだって言ってたよ」
ロイからの報告に、緩んでしまいそうな頬を抑える。
可愛らしい彼と、それを隠さずに言ってしまう純粋なロイの二人に心はキュンとする。
「じゃあ、帰ったらおっきいハンバーグ作ろうか」
「やった! ろいね。おかあさんの大好き!」
「ありがとう、じゃあ……行こうかロイ。アウルムの所まで、エスコートしてくれる?」
「うん! ロイがおかあさんをエスコートするね」
私の手をとって前を歩くロイを微笑ましく見つめる。
抱っこして、ハイハイして……歩いた時には感激したあの子が。
今は私の手を引いてくれている。それが嬉しくて……幸せだ。
式場の扉が開けば、拍手が溢れていた。
お姉様とマルクが笑みと共に祝福の声を送ってくれて、父が私を見つめて静かに頷く。
カレン達も参加してくれていて、共に苦労した彼らは私を見つめながら涙ぐんで拍手を送ってくれていた。
ロイと共に進む先には、彼がいた。
二度目の結婚……初めての経験を考えれば、不安が無いわけではない。
だけど、あの時とは違う。
私は彼を愛していて、信じている。
なによりも、隣には手を握って微笑むロイがいるのだ。何も怖い事はない。
私の一番の幸せは、もうすぐそこにあるから。
「お待たせしました。アウルム」
私の新たな門出………家族としての一歩は、始まったばかりだ。
【旦那様の愛人の子供は、私の愛し子です。】
ーfinー
◇◇◇
あとがき。
最近は、作品のあとがきを書くことはないのですが、今回だけは作品について語る事をお許しください。
今作は私が今まで書いてきた作品の中でも、
一二を争う程。主人公エレツィアやロイを苦しめてしまった作品でした。
書いている時は、どうしてこんな酷い展開を思いついてしまったのだと後悔して。
何度も筆を折りそうになりながら、ストレスで一か月も口内炎が消えない状況で書き上げておりました(A;´・ω・)アセアセ
そんな、書いた私でさえも苦しんだ作品でしたが、
読者様がエレツィアやロイの幸せを信じて、応援してくれたからこそ。今作は完結を迎える事が出来ました。
苦しい中でも、決して諦めず、母として強くあろうともがくエレツィア。
読者の皆様のおかげで彼女の姿を最後まで書けた事は、私の誇りでもあります。
毎日ご感想をくれたり、欠かさずエールをくれた読者様。
なによりも、今作を見つけて最後まで読んでくださった皆様へ。
ありがとうございました!
PS,本日30日は、後一話だけ投稿予定です。そちらも読んでくださると嬉しいです。
◇◇後日談について◇◇
後日談は幾つかのエピソードを投降予定です。
・ほどけぬ糸_最終話
・ロイとエレツィア。そしてアウルムのその後。
・ロイとエレツィア父が仲良くなるお話。
以上となります。
本編は完結しましたが、
上記のエピソードは五、六月中までに投稿できればと思っております。
読んでくださる方がいれば、嬉しいです。
あれからの日々は、今までの五年の月日を取り返すように幸せで満ちていた。
事業である『ディア・チャイルド』は多くの貴族達に愛されて、今も尚売れている商品となっている。
それは支えてくれるアウルムのおかげだろう。
事業を共にする彼と交わした気持ち。会う機会を重ねる内に……私達は。
「そのマフラー……今も使ってくれているんだな」
雪の降るある日、アウルムと商談を終えて帰る途中。そう呟かれる。
寒い日は必ず付けている、彼からの贈り物。手放せるはずがない。
「だって、アウルムがくれた。贈り物だから」
「そうか……もっと上手く作ればよかったな」
「ううん、これでいいの。これがいい」
マフラーを抱きしめて呟くと、アウルムは私の手を取って引き寄せた。
そのまま、重なった唇。お互いに白い吐息を吐きながら、そっと見つめ合う。
「エレツィア、もう一つ。君に贈りたい物があるんだ」
「え?」
呟きつつ、彼が懐から取り出した物は………
「君は、ロイの立派な母で。俺は君から教えられた事がいっぱいある」
「ア………ウルム」
「でも、俺も……君を支える男になりたい」
そっと薬指にはめられるリング。見つめ合う中で彼はまっすぐに私を見つめた。
「俺も……君を幸せにしたい。ロイも……だから………家族に、なってほしい」
頬を赤く染めながら、そう言ってくれるアウルム。
私の答えなんて。決まってる。
「アウルム––––––––」
◇◇◇
「おかあさん! 準備できた?」
「えぇ、ロイ……開けていいわよ」
扉が開かれて、ロイが私を見つめて抱きつく。
私の着ていた純白のドレスが、ふわりと揺れた。
六歳になったロイは、少し大きくなっていて、可愛らしさの中にも男の子らしさがある。
簡単に言えば、世界で一番可愛い私の子だ。
「今日は、アウルムとけっこんするんだよね?」
「そうね、ロイはアウルムと一緒に暮らすの不安?」
「ううん、ロイもおかあさんといっしょ。アウルム大好き」
ロイの言葉に安心を感じる。
アウルム求婚を受けた日。彼は結婚するにあたり、私にとある希望を出してきた。
アウルムはなんと、ウィンソン家の当主の座を捨て。私の実家のカルヴァート家に婿入りにしたのだ。
金を無心してくる両親や親戚達から距離を置くためらしく、父は諸手を挙げてその提案を受け入れた。
何せ、没落しかけたウィンソン家を立て直したのはアウルムなのだ。その手腕を無下にする父ではない。
そんな経緯で……私とアウルムの結婚が決まった。
「ね、ね! おかあさんに会うまえに、さっきアウルムに会ってきたよ!」
「そうなの? 彼、何か言っていた?」
「しきおわったらね、はやくおかあさんの作ったハンバーグがたべたいって、大好きだって言ってたよ」
ロイからの報告に、緩んでしまいそうな頬を抑える。
可愛らしい彼と、それを隠さずに言ってしまう純粋なロイの二人に心はキュンとする。
「じゃあ、帰ったらおっきいハンバーグ作ろうか」
「やった! ろいね。おかあさんの大好き!」
「ありがとう、じゃあ……行こうかロイ。アウルムの所まで、エスコートしてくれる?」
「うん! ロイがおかあさんをエスコートするね」
私の手をとって前を歩くロイを微笑ましく見つめる。
抱っこして、ハイハイして……歩いた時には感激したあの子が。
今は私の手を引いてくれている。それが嬉しくて……幸せだ。
式場の扉が開けば、拍手が溢れていた。
お姉様とマルクが笑みと共に祝福の声を送ってくれて、父が私を見つめて静かに頷く。
カレン達も参加してくれていて、共に苦労した彼らは私を見つめながら涙ぐんで拍手を送ってくれていた。
ロイと共に進む先には、彼がいた。
二度目の結婚……初めての経験を考えれば、不安が無いわけではない。
だけど、あの時とは違う。
私は彼を愛していて、信じている。
なによりも、隣には手を握って微笑むロイがいるのだ。何も怖い事はない。
私の一番の幸せは、もうすぐそこにあるから。
「お待たせしました。アウルム」
私の新たな門出………家族としての一歩は、始まったばかりだ。
【旦那様の愛人の子供は、私の愛し子です。】
ーfinー
◇◇◇
あとがき。
最近は、作品のあとがきを書くことはないのですが、今回だけは作品について語る事をお許しください。
今作は私が今まで書いてきた作品の中でも、
一二を争う程。主人公エレツィアやロイを苦しめてしまった作品でした。
書いている時は、どうしてこんな酷い展開を思いついてしまったのだと後悔して。
何度も筆を折りそうになりながら、ストレスで一か月も口内炎が消えない状況で書き上げておりました(A;´・ω・)アセアセ
そんな、書いた私でさえも苦しんだ作品でしたが、
読者様がエレツィアやロイの幸せを信じて、応援してくれたからこそ。今作は完結を迎える事が出来ました。
苦しい中でも、決して諦めず、母として強くあろうともがくエレツィア。
読者の皆様のおかげで彼女の姿を最後まで書けた事は、私の誇りでもあります。
毎日ご感想をくれたり、欠かさずエールをくれた読者様。
なによりも、今作を見つけて最後まで読んでくださった皆様へ。
ありがとうございました!
PS,本日30日は、後一話だけ投稿予定です。そちらも読んでくださると嬉しいです。
◇◇後日談について◇◇
後日談は幾つかのエピソードを投降予定です。
・ほどけぬ糸_最終話
・ロイとエレツィア。そしてアウルムのその後。
・ロイとエレツィア父が仲良くなるお話。
以上となります。
本編は完結しましたが、
上記のエピソードは五、六月中までに投稿できればと思っております。
読んでくださる方がいれば、嬉しいです。
応援ありがとうございます!
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