【完結】旦那様の愛人の子供は、私の愛し子です

なか

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39話

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 ロイには言えぬ考えを抱きつつも、私達は準備を進めていった。
 お姉様と父は社交会に知り合いも多く、その顔の広さを利用して過去を。つまりジェレドが犯した真実を広めてもらう。瞬く間にその醜聞は広まるはずだ。

 マルクは仮に法廷で争う事となっても問題がないよう準備を進めてくれており、彼曰く「勝てる算段はついています」との事だ。法学を学び、ここ数年で実績を積んでいる彼が言ってくれるなら安心だろう。
 
「用意周到だな。エレツィア」

「えぇ……このための数年と言っても過言ではなかったから」

 呟くアウルムはと言えば、今日も屋敷に来てくれてロイの相手をしてくれている。
 と言っても、今回は私から呼び出したのだ。とある人物をカルヴァート本邸に招いており、その人物と相手をしている間。ロイと遊んでいてもらうために。

「あうるむ。きょーもきてくれた~」

「今日はエレツィアに呼ばれたからな。ロイ、今日は何がしたい?」

 すっかりデレデレという言葉が似合うアウルムに、くすりと笑いがこぼれる。
 初めて会った時とは別人だ。彼はもう損益に関係なく……ロイを愛してくれる人物の一人になっている。

 そして……私が彼に抱くこの感情も、日に日に大きくなっていた。

「エレツィア様。御来客です。応接間にお越しください」

 アウルムとロイの微笑ましい光景にニマニマとしていると、カレンが私を呼び出しに来てくれた。
 その言葉に頷き、アウルムと目線を合わせる。彼はロイと遊びつつ、口は「いってこい」と言ってくれた。
 感謝しつつ、応接間へと向かう。
 
 扉を開き、中で待つ女性へと声をかける。

「お待たせして申し訳ありません。リエス」

「……」

 応接間で待っていたのは、かつて私を間接的に苦しめていたリエスだ。
 そんな彼女をわざわざ呼び出したのは、追加で制裁を与えようなどという意地悪い目的ではない。
 彼女が仕入れる事ができる情報が欲しかったためだ。

「それで、送った手紙の内容は調べていただけましたか?」

「え、えぇ……でもこの情報を教える前に約束してください。エレツィアさん……手紙に書かれていた内容を守ると」
 
「貴方が正直に調べた内容を言ってくれたら、もちろん守りますよ。請求する慰謝料を半額にいたします」

「分かったわ……じゃあ、私が調べて来た情報を貴方に教えます。私の実家でもあるマカドニア家の領地に住んでいた。ミアナという女性についてで間違いないですよね?」

 その言葉に、私は頷きを返す。
 ロイを残して去っていたミアナはこの五年をマカドニア領にて過ごしていたらしく。彼女が過ごしていた五年を調べるには、マカドニア家の人物に尋ねるのが一番手っ取り早い方法であった。
 そして、リエスに手紙を出したのだけど。彼女は望み通りに従者を使ってミアナについて調べ上げたようだ。

「その……ミアナという女性だけど。一年前までは酒場のウェイトレスとして働いていたらしいの」

「他に、何か分かった事はありますか?」

「これは……彼女が常連にだけ話していた内容らしいのだけど。ジェレドの結婚を破棄させようとしていたのに、今も続いている事を愚痴っていたようね」

 ロイを残して去ったミアナの心境が、少しだけ分かった。
 彼女はジェレドと別れるためにロイを残して去ったのだろう。
 ジェレドがロイを連れて帰れば、不貞は公になり夫婦関係は終わる。その後、ミアナは再びジェレドの元へと戻る事が出来る算段だ。
 彼女にとっての誤算は、ジェレドがロイを子育てする気もなく。ロイのために私と彼の夫婦関係が続いた事だろう。

「それで、ミアナという女性は一年前に酒場を辞めて。その後は社交会の給仕として働いていた……それ以上は分からないわ」

 リエスの言葉に、私は頷きを返す。
 ミアナの真意は掴めぬが、私とジェレドが離縁する可能性を探っていたのかもしれない。

 何か同情できる可能性を模索してみたが、やはりそれらしき事はない。
 彼女がジェレドと関係を続けるためにロイを置いて去った事実は消えず。彼女も……ロイを恋仲を続けるための道具としか見ていないようで、ため息が溢れる。

「分かった。情報に感謝するわ。リエス」

「や、約束は守ってよね。あ……あとロイ君を一目でいいから会わせて」

「約束は守りますが、会わせる事はできません。お帰りください」

 いまだにロイに対して執着を残す彼女の背を押して、退室させる。
 約束は守ると言ったが、彼女の新たな婚約者はすでにリエスとの婚約破棄の手筈を整えている。
 純潔を偽った罪は、私が減らした慰謝料を超えるだろう。

「終わったか?」

 リエスが帰ったのを見計らってか、アウルムがロイを連れてやって来てくれた。
 ロイは私の元へ走ってくると、隣に座ってニコリと笑う。

「おかあさん、ロイね。今日はシチューがいいな」

「ふふ、分かったよ。ロイ」

「やった!」

 喜ぶロイをジッと見つめるアウルムが気になって、視線を向ける。

「アウルムも、夕食を共にしますか?」

「っ! あぁ。感謝する」

 喜ぶように笑ったアウルムに微笑みを返しつつ。私は彼にそっと耳打ちをした。

「数日後、ジェレドの元へと向かいます」

「っ! 本気か?」

「はい、あの人にも……ミアナという女性。二人にロイを諦めてもらいます」

「なら。俺も共に行こう」

 彼の提案に目を見開くと、そのまま彼は私を急に抱きしめた。
 突然の事で、声が出ず。鼓動が心臓を激しく揺さぶってくる。

「ア、ウルム?」

「俺は。もう君を一人で行かせたくない……」

 その言葉の真意を尋ねる前に、私達を真似たようにロイが私へと抱きついてきた。
 アウルムはその腕で私とロイを包み込むと、そっと笑みを見せる。

「前に君は言ったな。ロイの平穏なら金など惜しくはないと……あの時は理解できなかったが、今なら分かる。君とロイは……もう俺にとって金では変えられない大切な存在だ。だからもう一人で抱えずに協力させろ」

 彼の言葉が嬉しくて、はにかみながら頷きを返す。

「アウルム……ありがとう。では、同行をお願いいたします」

「もちろん」

 肯定を返してくれる彼に感謝を抱きながら、私はジェレドへと会いに行く準備を進めた。 
 もう二度と、会う事がないと思った彼と……最後の話し合いをするために。
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