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求めて、こぼれた愛
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『私も、貴方を幸せにすると誓います』
純白のドレスに着飾り、頬に柔らかな笑みを添えた君を見て、俺は心を奪われた。同時に、他に愛していた女性がいた事に、深い罪悪感と、後悔の波が胸の中でさざめきとなって襲う。
(俺は、結婚する君のために……彼女との関係を終わらせるべきだ)
誓った心、結婚式が終わったと同時に文を綴り遣いの者に送らせた。かつて愛して止まなかった愛人の元へ向かうための文を。
『前に言った通り、明日に君へ別れを告げに行く。子の養育費は、滞りなく払う』その一文を送り届けた。
懺悔する心と共に、彼女が住んでいる宅へと足を運ぶ。
しかし、そこに居たはずの彼女は霞のように消えており、残されているのは赤子だけだった。
(ミアナ、何処に……)
ミアナ。
我が家の使用人であり、叶わぬ恋と知りながら愛した君。居なくなった君が残した赤子を、放置する事は良心が許してはくれなかった。
抱えて屋敷に戻れば、絶望という言葉がよく似合う表情をエレツィアが浮かべた。
俺の犯した過ちは、結果としてミアナを失っただけでなく、愛すると決めたエレツィアさえも遠く離れてしまう結果を招いた。胸が苦しくどれだけ嘆いても、自業自得で招いた苦境を乗り越える事が出来はしない。
(俺の……せいだ)
この先の人生、多くの人を不幸に招いた事を悔み続けていかねばならない。そう思っていた時に、エレツィア……君は言ってくれたんだ。
『ジェレド、貴方の不貞を隠して結婚生活を送らせて頂きます』
手からこぼれ落ちたと思ったと思っていたのに、君は俺のために偽装の結婚生活を送る事を受け入れてくれる。
救いの手、差した光明。与えられた五年を再び君に愛されるために捧ぐと誓った。
そう……誓ったはずだったのに。
エレツィア、君は俺が思うよりも気高く。一人で生きていく強さを持っていた。
俺が居なくとも、立ち上がり前を向いている君を見て。過ちを犯して尚、再び愛されようなどと思い上がった自分に罪悪感を抱いてしまった。
その後ろめたさが、君と話す時間と分かり合う機会を奪ったと気付いた時にはすでに遅かった。
◇◇◇
「すまない……エレツィア」
ロイを連れて部屋を出たエレツィア。ただ一人残った俺は、聞こえぬ謝罪を漏らす。
エレツィアは気高く、強い。俺など居なくても一人で生きていく力と知恵を持っているだろう。
だけど、俺はまた別の女性を愛してしまった。名をリエス。
その子は俺が居なくては、生きていけない程に脆く、弱い。
庇護してやらねば、容易く崩れてしまうリエスを守りたいと思うのが……身勝手な俺の望みだった。
リエスは俺の事情を全て聞いて尚、受け入れてくれた。子を産めぬ身体だったリエスは、ロイを引き取って母となる事を心の底から望んでくれている。
ロイの母親となる事が、リエスから提示された再婚の条件でもあった。
(これでいいんだ。エレツィアは独りでも生きていく強さがある。だけど、俺とリエスは……互いに支え合い、身を寄せ合って生きていくしか出来ない。だから、俺とリエスを繋ぐロイだけは譲る事は出来ない)
俺は、望む愛を手に入れた。
だからエレツィア、君もロイと俺の事なんて忘れて……君が望む幸せを見つけてくれ。
本当の意味で、君を自由にしてみせる。
それが、かつて愛すると誓ったエレツィアへの罪滅ぼしとなるはずだ。
この選択は、最善だと信じている。
純白のドレスに着飾り、頬に柔らかな笑みを添えた君を見て、俺は心を奪われた。同時に、他に愛していた女性がいた事に、深い罪悪感と、後悔の波が胸の中でさざめきとなって襲う。
(俺は、結婚する君のために……彼女との関係を終わらせるべきだ)
誓った心、結婚式が終わったと同時に文を綴り遣いの者に送らせた。かつて愛して止まなかった愛人の元へ向かうための文を。
『前に言った通り、明日に君へ別れを告げに行く。子の養育費は、滞りなく払う』その一文を送り届けた。
懺悔する心と共に、彼女が住んでいる宅へと足を運ぶ。
しかし、そこに居たはずの彼女は霞のように消えており、残されているのは赤子だけだった。
(ミアナ、何処に……)
ミアナ。
我が家の使用人であり、叶わぬ恋と知りながら愛した君。居なくなった君が残した赤子を、放置する事は良心が許してはくれなかった。
抱えて屋敷に戻れば、絶望という言葉がよく似合う表情をエレツィアが浮かべた。
俺の犯した過ちは、結果としてミアナを失っただけでなく、愛すると決めたエレツィアさえも遠く離れてしまう結果を招いた。胸が苦しくどれだけ嘆いても、自業自得で招いた苦境を乗り越える事が出来はしない。
(俺の……せいだ)
この先の人生、多くの人を不幸に招いた事を悔み続けていかねばならない。そう思っていた時に、エレツィア……君は言ってくれたんだ。
『ジェレド、貴方の不貞を隠して結婚生活を送らせて頂きます』
手からこぼれ落ちたと思ったと思っていたのに、君は俺のために偽装の結婚生活を送る事を受け入れてくれる。
救いの手、差した光明。与えられた五年を再び君に愛されるために捧ぐと誓った。
そう……誓ったはずだったのに。
エレツィア、君は俺が思うよりも気高く。一人で生きていく強さを持っていた。
俺が居なくとも、立ち上がり前を向いている君を見て。過ちを犯して尚、再び愛されようなどと思い上がった自分に罪悪感を抱いてしまった。
その後ろめたさが、君と話す時間と分かり合う機会を奪ったと気付いた時にはすでに遅かった。
◇◇◇
「すまない……エレツィア」
ロイを連れて部屋を出たエレツィア。ただ一人残った俺は、聞こえぬ謝罪を漏らす。
エレツィアは気高く、強い。俺など居なくても一人で生きていく力と知恵を持っているだろう。
だけど、俺はまた別の女性を愛してしまった。名をリエス。
その子は俺が居なくては、生きていけない程に脆く、弱い。
庇護してやらねば、容易く崩れてしまうリエスを守りたいと思うのが……身勝手な俺の望みだった。
リエスは俺の事情を全て聞いて尚、受け入れてくれた。子を産めぬ身体だったリエスは、ロイを引き取って母となる事を心の底から望んでくれている。
ロイの母親となる事が、リエスから提示された再婚の条件でもあった。
(これでいいんだ。エレツィアは独りでも生きていく強さがある。だけど、俺とリエスは……互いに支え合い、身を寄せ合って生きていくしか出来ない。だから、俺とリエスを繋ぐロイだけは譲る事は出来ない)
俺は、望む愛を手に入れた。
だからエレツィア、君もロイと俺の事なんて忘れて……君が望む幸せを見つけてくれ。
本当の意味で、君を自由にしてみせる。
それが、かつて愛すると誓ったエレツィアへの罪滅ぼしとなるはずだ。
この選択は、最善だと信じている。
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