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ほどけぬ糸①
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愛しき君の赤髪を撫でると、振り返る美麗な顔立ち。
彼女は恍惚とした表情を浮かべて、見つめ合って口付けを交わす。その行為で愛してくれている事が伝わってきて、心が暖かくなっていく。
「リエス。愛している」
「私もよ。ジェレド」
リエス・マカドニア。
マカドニア子爵家令嬢で、俺が再婚を約束した女性だ。彼女は子を産めぬ身体と医者に診断されており、両親からは半ば捨てられた形で別邸で一人過ごしている。
妻のエレツィアからは呆れられ、愛想を尽かされた俺と、温もりを求めて社交会にやって来ていたリエス。
互いが求めていた愛。
心だけでなく、身体まで結びついたのは……必然だったのかもしれない。
「ジェレド、暫くここに居てくれるの?」
「あぁ、屋敷を空ける理由はしっかりと伝えてきた。十日はここにいる予定だ」
「いやだ。今月はずっと一緒がいいな」
「リエス……しょうがないな。分かったよ」
彼女のワガママに、答えてしまう。受け入れればパッと華やぐ笑顔が見れるから。
それに……リエスには俺が居ないと駄目だ。少しでも離れれば、彼女は寂しさに気を病んでしまうから。
「大好き、ジェレド」
愛を伝えてくれる彼女を支える事が出来ている。その事実が俺の自尊心を満たしていた。
暫く、二人で愛を伝え合っていると……リエスは不安げに呟き出した。
「ねぇジェレド。貴方の奥様は本当に離縁を許してくださっているの?」
「あぁ、元から仮初の結婚だったから。向こうも承諾してくれたよ」
リエスには、俺の全てを知ってほしくて打ち明けている。
婚約者が居ながら、愛人がいた事。その間に産まれた子が居る事を全て伝えてもなお、彼女はそれを許してくれて、俺を愛してくれている。それが彼女を愛する一番の理由かもしれない。
「それで、再婚の時には……本当にロイ君? を連れて来てくれるのよね?」
「あぁ、その頃には五歳だろうけど。きっと君によく懐くよ」
「嬉しいな。私……ずっと子共が欲しかったの。それが望めぬ身体で、諦めていたから」
お腹をさすって、呟くリエス。その行為に、子を望んでいる事がヒシヒシと伝わってくる。
彼女の手を掴み、安心させたくて微笑みを見せる。
「大丈夫。ロイはきっと君を母と思ってくれるさ」
「ふふ、嬉しい。どんな子なの? その子」
「それは……」
ロイの事を聞かれれば、言葉に詰まる自分がいた。その理由は至極簡単で、俺はあの子と一切の関わりを持たずに生きてきたからだ。自分と同じ深紅の瞳と、銀に輝く毛髪。
俺にそっくりなのに……その顔立ちは、かつて愛して止まなかった愛人の顔によく似ていた。
あの子を見ていると、別れを告げて悲しみに打ちひしがれる愛人の顔が脳裏にちらついて、心が荒れてしまう。
「ジェレド?」
「ごめん、リエス。俺……ずっと後悔ばっかりで、色んな人に迷惑かけて」
気付けば漏らしてしまう、謝罪と懺悔。心の底にある後悔が甦り、俺を責めてくるのだ。
自身の選択、甘い考え。それら全てが変えられぬ後悔となって襲い掛かる。
「大丈夫よ。大丈夫。ジェレドは悪くない、仕方なかったのよ」
頭を撫でられ、かけられる優しい言葉。
リエスは俺の後悔、罪さえも受け入れてくれて……悪くないと言ってくれる。そんな人はリエスしかいなくて、俺はその言葉に甘えてしまうのだ。
「リエス、暫く……このままで」
「うん、落ち着くまでゆっくりしよ」
彼女に寄り添い、自身の後悔が再び息を潜めるまでを耐える。限界だった心が落ち着く頃には、俺の頭を撫でてくれるリエスの笑顔が、美しい女神にさえ見えた。
「これからずっと、俺と一緒に居てくれるか? リエス」
「もちろん、ジェレドの妻として……そして、貴方の子供であるロイ君の母親に私はなってみせるよ」
「ありがとう……リエス」
彼女の優しさに俺はもう離れる選択肢など選べない。リエスと離れれば、一生を後悔に苛まれる。
だからこそ、彼女が望む事は叶えたい。
ロイを、リエスの子供にする。そうすれば、彼女はずっと俺と一緒に居てくれるから。
「なぁ、リエス。また時間と機会があれば……ロイと会ってみるか?」
「いいの!? 凄く嬉しい。ジェレド!」
こんなに喜んでくれるなら、早く会わせたい。ロイもきっと、リエスの優しさの虜になるはずだ。
彼女は俺が居なくては駄目だ、同時に俺も彼女の愛を享受し続けたい。
そのためにも、絶対に……ロイをエレツィアに譲る気はない。
どれだけ頼まれようと、あの子はリエスが母親になるために必要なのだから。
彼女は恍惚とした表情を浮かべて、見つめ合って口付けを交わす。その行為で愛してくれている事が伝わってきて、心が暖かくなっていく。
「リエス。愛している」
「私もよ。ジェレド」
リエス・マカドニア。
マカドニア子爵家令嬢で、俺が再婚を約束した女性だ。彼女は子を産めぬ身体と医者に診断されており、両親からは半ば捨てられた形で別邸で一人過ごしている。
妻のエレツィアからは呆れられ、愛想を尽かされた俺と、温もりを求めて社交会にやって来ていたリエス。
互いが求めていた愛。
心だけでなく、身体まで結びついたのは……必然だったのかもしれない。
「ジェレド、暫くここに居てくれるの?」
「あぁ、屋敷を空ける理由はしっかりと伝えてきた。十日はここにいる予定だ」
「いやだ。今月はずっと一緒がいいな」
「リエス……しょうがないな。分かったよ」
彼女のワガママに、答えてしまう。受け入れればパッと華やぐ笑顔が見れるから。
それに……リエスには俺が居ないと駄目だ。少しでも離れれば、彼女は寂しさに気を病んでしまうから。
「大好き、ジェレド」
愛を伝えてくれる彼女を支える事が出来ている。その事実が俺の自尊心を満たしていた。
暫く、二人で愛を伝え合っていると……リエスは不安げに呟き出した。
「ねぇジェレド。貴方の奥様は本当に離縁を許してくださっているの?」
「あぁ、元から仮初の結婚だったから。向こうも承諾してくれたよ」
リエスには、俺の全てを知ってほしくて打ち明けている。
婚約者が居ながら、愛人がいた事。その間に産まれた子が居る事を全て伝えてもなお、彼女はそれを許してくれて、俺を愛してくれている。それが彼女を愛する一番の理由かもしれない。
「それで、再婚の時には……本当にロイ君? を連れて来てくれるのよね?」
「あぁ、その頃には五歳だろうけど。きっと君によく懐くよ」
「嬉しいな。私……ずっと子共が欲しかったの。それが望めぬ身体で、諦めていたから」
お腹をさすって、呟くリエス。その行為に、子を望んでいる事がヒシヒシと伝わってくる。
彼女の手を掴み、安心させたくて微笑みを見せる。
「大丈夫。ロイはきっと君を母と思ってくれるさ」
「ふふ、嬉しい。どんな子なの? その子」
「それは……」
ロイの事を聞かれれば、言葉に詰まる自分がいた。その理由は至極簡単で、俺はあの子と一切の関わりを持たずに生きてきたからだ。自分と同じ深紅の瞳と、銀に輝く毛髪。
俺にそっくりなのに……その顔立ちは、かつて愛して止まなかった愛人の顔によく似ていた。
あの子を見ていると、別れを告げて悲しみに打ちひしがれる愛人の顔が脳裏にちらついて、心が荒れてしまう。
「ジェレド?」
「ごめん、リエス。俺……ずっと後悔ばっかりで、色んな人に迷惑かけて」
気付けば漏らしてしまう、謝罪と懺悔。心の底にある後悔が甦り、俺を責めてくるのだ。
自身の選択、甘い考え。それら全てが変えられぬ後悔となって襲い掛かる。
「大丈夫よ。大丈夫。ジェレドは悪くない、仕方なかったのよ」
頭を撫でられ、かけられる優しい言葉。
リエスは俺の後悔、罪さえも受け入れてくれて……悪くないと言ってくれる。そんな人はリエスしかいなくて、俺はその言葉に甘えてしまうのだ。
「リエス、暫く……このままで」
「うん、落ち着くまでゆっくりしよ」
彼女に寄り添い、自身の後悔が再び息を潜めるまでを耐える。限界だった心が落ち着く頃には、俺の頭を撫でてくれるリエスの笑顔が、美しい女神にさえ見えた。
「これからずっと、俺と一緒に居てくれるか? リエス」
「もちろん、ジェレドの妻として……そして、貴方の子供であるロイ君の母親に私はなってみせるよ」
「ありがとう……リエス」
彼女の優しさに俺はもう離れる選択肢など選べない。リエスと離れれば、一生を後悔に苛まれる。
だからこそ、彼女が望む事は叶えたい。
ロイを、リエスの子供にする。そうすれば、彼女はずっと俺と一緒に居てくれるから。
「なぁ、リエス。また時間と機会があれば……ロイと会ってみるか?」
「いいの!? 凄く嬉しい。ジェレド!」
こんなに喜んでくれるなら、早く会わせたい。ロイもきっと、リエスの優しさの虜になるはずだ。
彼女は俺が居なくては駄目だ、同時に俺も彼女の愛を享受し続けたい。
そのためにも、絶対に……ロイをエレツィアに譲る気はない。
どれだけ頼まれようと、あの子はリエスが母親になるために必要なのだから。
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