【完結】旦那様の愛人の子供は、私の愛し子です

なか

文字の大きさ
上 下
6 / 60

第6話

しおりを挟む
「ふざけないで!!」

 夜中である事への配慮を忘れ、私は感情を吐き出す。
 ジェレドへ抱く、義憤、赫怒……言葉に出来ない激情が思考に熱を与えて収まらない。

「今までロイに接してこなかった貴方が、引き取るなどと軽はずみに言わないで!」

「再婚する相手は事情を知っていて、ロイの面倒を見ると約束してくれている。君への謝罪金も倍、それ以上を払ってもいい」

「お金の問題ではありません! 謝罪金なんていらない。ロイを引き取るのは私です!」

「もう決めたんだ。再婚する相手も早くロイに会いたいと言ってくれた」

「……私に相談もなく、勝手に決めているのですか? ロイの気持ちは考えているのですか? あの子を貴方の都合のいい道具にしないで!」

「そんなつもりはない、聞いてくれエレツィア」

 私は絶対に間違ってなどいない、確固たる自信がある。
 ロイの気持ちも、意見も聞かずに親権を求めるジェレドとその再婚相手には嫌気と不快感を抱く。
 絶対にロイを手放しはしない。何に代えてでも。

「二年前、誓約書を交わしたはずです。そこではロイの親権は私にあると確かに記載して、貴方もサインをしたはずです!」

「親権について、書面に効力などないさ。実際に血が繋がっているのは俺だ。君がどれだけロイを大切にしていようと、世間はロイの親を俺だと認めるだろう」

「っ……」

 実際、書面にはロイの親権を確定させる効力はない。なぜならロイ自身の意見を交えていない書面であるからだ。
 血の繋がりも持っていない私には、ロイの親権を得るに足る材料は乏しい。
 だけど、そんな言い訳や弱音など吐く気はない。

! 抱っこ!』

 あの子が私を「ママ」や「母」と呼ばないのは、私が周囲に頼んでそう呼ぶ事を禁じていたからだ。血の繋がりはなく、成り行きで引き取った私が軽はずみに母親になってはいけないと思っていたから。
 でも、それは間違っていた。成り行きだろうと、血が繋がっていなくとも……私は母親として生きていきたい。ロイを守って、育てていきたいんだ。

「分かってくれ、エレツィア。ロイは俺が引き取る」

「誓約書に書いた内容は覚えていますよね? ジェレド」

 話しながら、目まぐるしく思考を重ねていく。この場で選択を間違えればロイを奪われてしまう。一言一句、一挙手一投足……間違える訳にはいかない。

「だから、ロイの親権を強制する効力はないと…」

「そうではありません」

「は?」

「誓約書には確かに書いておりました。五年間の結婚生活を続けると、そちらには確かに効力があります」

 私の言いたい事が伝わったのだろう、ジェレドは苦々しい表情を浮かべた。
 五年、彼と離縁するために設けた期間が……今は離縁を出来ない効力へと変わる。

「あの誓約書がある限り、残り三年は離縁いたしません。これを破った際、貴方は交わした誓約を反故にする者として、代を継ぐローレシア家の信頼を地に落とす事になりますよ」

「エレツィア、時間を引き延ばした所で……ロイを引き取るのはこちらだ」

「……この三年は、離縁しても困らぬように身辺整理するためのものです」

 ロイについて言及せず、はぐらかした返答。ジェレドはこれをうけ、私が諦めたと勘違いしたのか大きな息を吐いて頷いた。

「分かった。残り三年は自由にするといい……ロイとは離れる準備をしておいてくれ」

「ありがとう、色々と気持ちを整理させてもらうわ」

 激情を抑えて取り繕った笑み、上手く笑えている自信はなかったがジェレドが温和な笑みを返してきた所を見るに上手くいったようだ。
 死守した三年の期間、この間に私はロイの親権を得るためになんだってしてみせる。この想いを悟られぬように乾いた笑みを貼り付けながら。

「では、話は終わりだ。出てくれ––––」

 ジェレドが私を私室から出ていくように促す言葉を吐いた刹那、扉が少しだけ開かれて小さな頭がひょこりと中を覗き込む。

「エレ? いた!」

「ロイ!?  どうしてここに」

「おっき、こえ」

 私が激情に駆られて叫んだ声を心配してくれて来てくれたのだろうか、その優しさに胸が熱くなる。
 
「ちょうどいい、こっちに来いロイ」

 ジェレドはロイを見て、手を招いた。今まで興味も抱いていなかったのに、親権を得るためにロイと仲を作りたいのだろう。

 だけど……

「エレ、一緒、ねんね」

 ロイはジェレドの招きに反応は見せず、トコトコと部屋の中に入ると、私のスカートをチョンと引く。
 もちろん私はロイの誘いを断らずに、そっと抱き上げた。

「そうねロイ、二人で寝ましょう」

 苦虫を嚙み潰したような表情を浮かべるジェレドには視線も向けず、ロイを連れて部屋を出る。

「エレツィア、三年後には……分かっているな」

「……」

 答えはせず、ウトウトと眠りの舟を漕ぎだしたロイの頭を撫でる。


 覚悟は決めた、私が……ロイの母になれるかどうかなんて、うじうじと考えるのは止めだ。
 ちゃんと、母になる。これから先もずっと、この子を愛していきたいから。

 手放しはしないよ、ロイ。
 
 眠り出すロイを見つめながら、私は一人の母となる事を心に誓った。
しおりを挟む
感想 219

あなたにおすすめの小説

あなたが選んだのは私ではありませんでした 裏切られた私、ひっそり姿を消します

矢野りと
恋愛
旧題:贖罪〜あなたが選んだのは私ではありませんでした〜 言葉にして結婚を約束していたわけではないけれど、そうなると思っていた。 お互いに気持ちは同じだと信じていたから。 それなのに恋人は別れの言葉を私に告げてくる。 『すまない、別れて欲しい。これからは俺がサーシャを守っていこうと思っているんだ…』 サーシャとは、彼の亡くなった同僚騎士の婚約者だった人。 愛している人から捨てられる形となった私は、誰にも告げずに彼らの前から姿を消すことを選んだ。

大好きなあなたを忘れる方法

山田ランチ
恋愛
あらすじ  王子と婚約関係にある侯爵令嬢のメリベルは、訳あってずっと秘密の婚約者のままにされていた。学園へ入学してすぐ、メリベルの魔廻が(魔術を使う為の魔素を貯めておく器官)が限界を向かえようとしている事に気が付いた大魔術師は、魔廻を小さくする事を提案する。その方法は、魔素が好むという悲しい記憶を失くしていくものだった。悲しい記憶を引っ張り出しては消していくという日々を過ごすうち、徐々に王子との記憶を失くしていくメリベル。そんな中、魔廻を奪う謎の者達に大魔術師とメリベルが襲われてしまう。  魔廻を奪おうとする者達は何者なのか。王子との婚約が隠されている訳と、重大な秘密を抱える大魔術師の正体が、メリベルの記憶に導かれ、やがて世界の始まりへと繋がっていく。 登場人物 ・メリベル・アークトュラス 17歳、アークトゥラス侯爵の一人娘。ジャスパーの婚約者。 ・ジャスパー・オリオン 17歳、第一王子。メリベルの婚約者。 ・イーライ 学園の園芸員。 クレイシー・クレリック 17歳、クレリック侯爵の一人娘。 ・リーヴァイ・ブルーマー 18歳、ブルーマー子爵家の嫡男でジャスパーの側近。 ・アイザック・スチュアート 17歳、スチュアート侯爵の嫡男でジャスパーの側近。 ・ノア・ワード 18歳、ワード騎士団長の息子でジャスパーの従騎士。 ・シア・ガイザー 17歳、ガイザー男爵の娘でメリベルの友人。 ・マイロ 17歳、メリベルの友人。 魔素→世界に漂っている物質。触れれば精神を侵され、生き物は主に凶暴化し魔獣となる。 魔廻→体内にある魔廻(まかい)と呼ばれる器官、魔素を取り込み貯める事が出来る。魔術師はこの器官がある事が必須。 ソル神とルナ神→太陽と月の男女神が魔素で満ちた混沌の大地に現れ、世界を二つに分けて浄化した。ソル神は昼間を、ルナ神は夜を受け持った。

忙しい男

菅井群青
恋愛
付き合っていた彼氏に別れを告げた。忙しいという彼を信じていたけれど、私から別れを告げる前に……きっと私は半分捨てられていたんだ。 「私のことなんてもうなんとも思ってないくせに」 「お前は一体俺の何を見て言ってる──お前は、俺を知らな過ぎる」 すれ違う想いはどうしてこうも上手くいかないのか。いつだって思うことはただ一つ、愛おしいという気持ちだ。 ※ハッピーエンドです かなりやきもきさせてしまうと思います。 どうか温かい目でみてやってくださいね。 ※本編完結しました(2019/07/15) スピンオフ &番外編 【泣く背中】 菊田夫妻のストーリーを追加しました(2019/08/19) 改稿 (2020/01/01) 本編のみカクヨムさんでも公開しました。

出世のために結婚した夫から「好きな人ができたから別れてほしい」と言われたのですが~その好きな人って変装したわたしでは?

澤谷弥(さわたに わたる)
恋愛
古代魔法を専門とする魔法研究者のアンヌッカは、家族と研究所を守るために軍人のライオネルと結婚をする。 ライオネルもまた昇進のために結婚をしなければならず、国王からの命令ということもあり結婚を渋々と引き受ける。 しかし、愛のない結婚をした二人は結婚式当日すら顔を合わせることなく、そのまま離れて暮らすこととなった。 ある日、アンヌッカの父が所長を務める魔法研究所に軍から古代文字で書かれた魔導書の解読依頼が届く。 それは禁帯本で持ち出し不可のため、軍施設に研究者を派遣してほしいという依頼だ。 この依頼に対応できるのは研究所のなかでもアンヌッカしかいない。 しかし軍人の妻が軍に派遣されて働くというのは体裁が悪いし何よりも会ったことのない夫が反対するかもしれない。 そう思ったアンヌッカたちは、アンヌッカを親戚の娘のカタリーナとして軍に送り込んだ――。 素性を隠したまま働く妻に、知らぬ間に惹かれていく(恋愛にはぽんこつ)夫とのラブコメディ。

アルバートの屈辱

プラネットプラント
恋愛
妻の姉に恋をして妻を蔑ろにするアルバートとそんな夫を愛するのを諦めてしまった妻の話。 『詰んでる不憫系悪役令嬢はチャラ男騎士として生活しています』の10年ほど前の話ですが、ほぼ無関係なので単体で読めます。

寵愛のいる旦那様との結婚生活が終わる。もし、次があるのなら緩やかに、優しい人と恋がしたい。

にのまえ
恋愛
リルガルド国。公爵令嬢リイーヤ・ロイアルは令嬢ながら、剣に明け暮れていた。 父に頼まれて参加をした王女のデビュタントの舞踏会で、伯爵家コール・デトロイトと知り合い恋に落ちる。 恋に浮かれて、剣を捨た。 コールと結婚をして初夜を迎えた。 リイーヤはナイトドレスを身に付け、鼓動を高鳴らせて旦那様を待っていた。しかし寝室に訪れた旦那から出た言葉は「私は君を抱くことはない」「私には心から愛する人がいる」だった。 ショックを受けて、旦那には愛してもられないと知る。しかし離縁したくてもリルガルド国では離縁は許されない。しかしリイーヤは二年待ち子供がいなければ離縁できると知る。 結婚二周年の食事の席で、旦那は義理両親にリイーヤに子供ができたと言い出した。それに反論して自分は生娘だと医師の診断書を見せる。 混乱した食堂を後にして、リイーヤは馬に乗り伯爵家から出て行き国境を越え違う国へと向かう。 もし、次があるのなら優しい人と恋がしたいと…… お読みいただき、ありがとうございます。 エブリスタで四月に『完結』した話に差し替えいたいと思っております。内容はさほど、変わっておりません。 それにあたり、栞を挟んでいただいている方、すみません。

断罪される一年前に時間を戻せたので、もう愛しません

天宮有
恋愛
侯爵令嬢の私ルリサは、元婚約者のゼノラス王子に断罪されて処刑が決まる。 私はゼノラスの命令を聞いていただけなのに、捨てられてしまったようだ。 処刑される前日、私は今まで試せなかった時間を戻す魔法を使う。 魔法は成功して一年前に戻ったから、私はゼノラスを許しません。

夫は平然と、不倫を公言致しました。

松茸
恋愛
最愛の人はもういない。 厳しい父の命令で、公爵令嬢の私に次の夫があてがわれた。 しかし彼は不倫を公言して……

処理中です...