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白きガーベラ・終

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デイジーside

 今日もローザの屋敷にお邪魔させてもらっている、もう前のように面談の必要はないが友人として来ているのだ、学園に通い出したローザと会える日はそれ程に多くはないために休みが合えば会うようにしている。
 ローザ自身も学園で講師として働いているモネと仲良くしているようだ、流石はモネだ。

 いつかはエリザやアイザック、マキナ達と全員揃って会いたいものだけど今日は少しだけ違う話をしに来た。

 私達についてだ。


「白いガーベラ」

「え?」

 私の言葉にローザは動揺していたが気にせず話を続ける。

「白いガーベラ……貴方は気付いていますか?」

「な、なにを言ってるの?デイジー」

「少し前に貴方の前世について詳しく聞いた時に私と貴方の共通点が気になっていたのです」

「共通点……?私と貴方の?」

 時代もおそらく世界も違う私達の前世であったが唯一といってもいい共通点があり、それが気になっていたのだ。

「それが先程の白いガーベラです、話に聞けば貴方が死ぬ前に見たのがその花だと……私も同じです」

 それがなんだというの?というように首を再度傾げたローザに話す、私の考えを告げる。

「私はこの花がこの前世の記憶を引き継いだ要因となっていると思っています」

「へ!?な、なにを言ってるの…そんな事があるわけ…」

「私達自身が有り得ない現象の当事者ですよ?有り得ないとは断言できないかもしれません…私はこの白いガーベラが前世の記憶を引き継いでいる要因と考えています……といっても仮説で確証もなにもありませんが…」

「デイジーそれがなんだっていうの?話が見えないわ」

 私は微笑み、ローザの当然の疑問に答える。

「私はずっと気がかりがありました……私自身の人生は幸福になったと思います、友達もいて愛する人もいる…ローザ、貴方もそうでしょう?」

「へ……ま、まぁね………優しい人達に囲まれていると気づけたし…友達もできた…それに」

 ローザは誰かを思い出しながら頬を赤らめて言葉を続けた。

「す、好きな人もようやく見つけたから…」

「マキナですか?」

「んな!?お、教えないわ!」

 分かりやすい……とは私も言えないか、アイザックと接している時の私も今のローザと同じように見えていたのだろう、初々しさと過去の恥ずかしさを同時に感じたために話を慌てて戻す事にした。

「やり残した事はたった一つです……唯一ですが悲しんだままの人がいて、私はその子を救いたい、そのためにこの仮説を信じてみたいと思っています」

「救ういたい?…一体誰の…事を?」

「それは……………」


 私の続く言葉、それを聞いたローザの瞳からは自然と涙が溢れ出し、彼女は私を抱きしめて感謝の言葉を告げた。


 確証なんてない、ただの仮説であり都合が良すぎる事は理解している。
 それでも、私とローザ自身がそもそもこの世界では都合が良すぎる存在なのだ…ならこの人生や物語は果てしなく、とびきり幸せなハッピーエンドに繋がる都合のいい展開を…。



 私は望む。








   ◇◇◇

 ◇モネ◇
 ファルムンド公国・ラインベル学園の講師として生涯を務める。
 多くの生徒達を導き、指導した彼女の優しさに尊敬を抱いた者は数知れず公国と生まれ変わって不安定な情勢を支える人材を生み出した指導者と後に伝えられる。
 自身の教え子である生徒に求婚を申し込まれ、一度は断ったものの卒業と同時に想いを告げられて承諾…子供にも恵まれ幸せな日々を過ごした。


 ◇エリザ・フィンブル◇
 東の国へ外交官として赴いていた彼女は26歳となった年にファルムンド公国へと帰ってくる、その隣には周辺国家が一目おく程の研究者と共に胸を張って帰還する。
 ファルムンド公国へと帰還したと同時に正式にフィンブル伯爵家の女性当主としての地位に就く、強気で剛腕な外交にトラブルはあったものの彼女自身の力で解決し周辺国家と強固な関係を築く程の功績を成し遂げる。
 後にとある国の王子に一目惚れされて求婚されるがこれを断り、身分など関係がなく自分自身が愛する者と結婚を果たした。

 
 ◇アメリア・ラインズ◇
 ラインズ公爵家として不安定であったファルムンド公国を支えながらも最後までラインベル学園の創始者として学園長の責を果たし続けようとしたがデイジーを始めとする周囲の人達の説得により、残りの余生を穏やかでゆとりのある時間を過ごした。
 彼女が亡くなった葬儀の日には多くの人々が悲しみに暮れながらも感謝の言葉を告げた。


 ◇マキナ◇
 一度は退学となったラインベル学園に再度入学して無事に卒業、類いまれなる乗馬の名手として周辺国家に名を残す、馬との絆は強く…また馬と接していた彼は誰よりも生き生きとしていたと言われている。
 平民階級であったが周囲も驚く者より求婚を申し込まれ、それを承諾。
 子宝に恵まれ、彼は家族に対しても至上の愛情を持って接していた…彼の生きる意味は生涯に渡って尽きる事はなかった。


 ◇ローザ・オルレアン◇
 かつて引き起こした彼女自身の事件を知る者は多く、再度学園に通った際は心無い言葉で傷つく事もあったが周囲の人々の支えもあり無事に卒業。
 そしてかつての贖罪をするようにオルレアン公爵家として民の声に耳を傾ける当主となった、王家が無くなり公国として姿を変えて不安定であったファルムンド公国を支える当主なる。
 平民階級である青年に求婚、周囲から驚きはあったが彼女が選んだ選択に異を唱える者はいなかった。
 その生涯は笑顔で…心の底から幸せそうであったと彼女の近くにいた者は口を揃えて伝える。



 ◇アイザック・マグノリア◇
 マグノリア公爵家の当主なり、父に変わって公国を代表する者となる。
 公国となった直後は不安定な情勢を見た周辺国家が侵攻を目論んだ事もあったが彼の強気な姿勢と強固な意志によってこれを回避、さらに彼自身が侵攻を目論んだ国に赴き強固な友好を結んだ。
 生涯に渡って忙しく過密な日々を過ごしたと言われているが家族との時間を何よりも大切にしていたと言われる、周囲にはあまり笑顔を見せなかったが屋敷に帰ると満面の笑みを浮かべていると言われている。

 その笑顔は子供達と……愛する妻に向けられていた。



 ◇デイジー・マグノリア◇
 彼女は学園を卒業後にアメリア学園長に講師を推薦されたがこれを断る、そして後に自身の実家であるルドウィン伯爵家の当主となって公国を支える。
 後にアイザック・マグノリアより求婚を受けてこれを承諾、しかしルドウィン家の当主としては引き続き執務を続け多くの民の意見を参考に国の安寧となる政策を執っていく。
 彼女の友人が集まってパーティーを開いた日には公国を支える者達が集まっていると少しの騒ぎにはなったが当の本人達はお構いなしに楽しそうに過ごしていく。

 子宝にも恵まれ、多くの人々と共に過ごした彼女は最後に貴族中心の社会から民が代表を選ぶ民主的な国家を目指す事を提案する、これはアメリア・ラインズの意思を引き継いだとも言われており。
 彼女の周囲もその提案を承諾、民主国家に向けて進みだす…彼女が生きている間に成し遂げる事はなかったが意志を引き継いだ者が後に多くの人々が望んだ国家を作る。


 死の間際……動けなくなり寝たきりになった彼女であったがアイザックに頼んだ最後の場所は一面に咲き誇る白いガーベラの花畑であった。
 アイザック、そして集まった友人達と思い出話や笑い話を交わしながら……最後の時間を過ごした。

 夫であり長い時を過ごしていたアイザックは亡くなる前にデイジーと口付けを交わして抱きしめた。

「君の隣に立つために生きてきて…一緒にいれて…幸せだった」

 薄れていく意識の中でデイジーは笑顔でアイザックの頬に手を当てて呟いた。

「私もよ、アイザック…貴方が皆がいてくれたから……私は幸せで充実していた…充分よ、充分……」



 その言葉がデイジー・マグノリアの最後の言葉。
 齢73であった。






 悲しみに包まれながらも周囲の人々に彼女が目指した意志は引き継がれていく。
 白いガーベラは涙に濡れ、寂しそうに揺れながらもその綺麗な花弁を太陽に向けた。























 彼女の意識は……長い時間、世界を超えて…最後の願いを叶えるため。
 再び、動き出す。









   ◇◇◇

【希望を…貴方へ】

「か、返して!!」

 必死に叫んで手を伸ばして私は自分の本を取り戻そうとするがその手は空を掴むだけで本はクラスの人気者である女子に取られたままであった。
 新しくいじめる対象を見つけたかのように面白そうに笑みを浮かべる彼女を見て冷や汗が止まらない。

「王子様とかさ、夢見過ぎだよ~こんな無駄な夢を抱いていても意味ないし、叶わないんだからさ…こんなの要らないよね?」

「っ!!やめ!!」

 制止の声は間に合わず、醜悪な笑みを浮かべて笑う彼女に私の大事な本がビリビリと破られていき、バラバラになった紙が教室にまき散らされた。




 かに思えた。




「なにしてんの?」

 呟かれた言葉、顔を上げると人気者の女性の手を強く掴んで睨む女生徒がいた、まるで鷹のように鋭い視線を送って問いかける彼女に周囲は明らかに動揺した。
 手を掴んでいる女生徒の事は私も含めて誰も知らなかったからだ。

「なにしてんのって聞いてんだけど?答えらんないの?」

「誰よ!!貴方!」

「転校生、てか質問に答えてくれない?」

 ギリギリと彼女は掴む手を強め、人気者の女生徒は痛そうに顔を歪めて本を離してしまう。

「痛いわね!!何するのよ!?」

 叫ぶようにまくし立てた人気者の女生徒を転校生はギロリと睨み付けた。

「何してるか聞いてるのは私なんだけど、つまんない事してないで学業に励みなよ、くそ野郎」

「んな!?」

 乱暴で強気な言葉に圧倒されたのか人気者の彼女は捨て台詞を吐きながら仲間の元へと帰っていくブツブツと悪口を言っていたが転校生は気にせずに私に落ちていた本を手渡してくれた。

「はい、あなたのでしょう?」

「あ…ありがとうございます…」

「よいしょっと」

 転校生は私の前に座り、私に視線を向けながら握手するかのように手を伸ばしてきたので私も動揺しつつ握手を返す。

「私は雛菊っていうの……よろしく」

「よ、よろしく………受、受験も近いのに転校なんて…珍しいね」

「あ~~私が親に言って転校させてもらったんだ」

「ど、どうして………?」
 







 どんよりと黒い雲から差し込んだ太陽の光が教室の窓から差し込み、私と雛菊さんを照らす。
 私の質問に対して雛菊さんは快活な笑みを浮かべて迷いもなく答えた。




「くそったれな人生を変えにきたの、それが私の望んだ夢だから」


 


 
 学校の庭に咲いていた白いガーベラは嬉しそうに小さく揺れた。









––fin––
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