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白きガーベラ③
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「それで、エリザは今も東の国でガーランドさんのお尻を叩くように通っているみたいです」
友の話を楽しそうに話すデイジーの冗談に私も微笑みで返す。
時刻は夕刻に近づいており、話す時間も残り少なくなっていることに寂しさを感じてしまうが時間の流れは残酷にも淡々と進んでいく。
「ところで、マキナはどうしていますか?」
デイジーが尋ねた質問に私は喜々として答える、彼女はまだ話を続けたいと思ってくれていることに素直に嬉しいと思ったからだ。
「マキナは…実は私が学園に戻るために色々と動いてくれているようで…」
◇◇◇
【変わった…貴方達】
「––––以上がローザ様の近況についての報告です、前のように思いつめた様子もなく笑顔も多くなりました…学園に戻っても大丈夫かと思われます」
僕は目の前に座っているアメリア学園長に対してそう告げながらもゴクリと喉を鳴らす、ドクドクと鼓動が早く高鳴っているのはこの先のアメリア学園長の言葉次第でローザ様が学園に復帰できるかどうかが決まるからである。
僕が用意していた報告書を注意深く読みながらアメリア学園長は顔を上げた。
「確かに…ローザ嬢はこの二年間で年相応の女性に戻っているのね……」
「はい、これも面会に来てくれているデイジーさんのおかげです………それで、ローザ様の学園復帰の件ですが…」
「却下よ、受け入れられません」
アメリア学園長の言葉に僕は思わず前に出て言葉を返した。
「そんな!ローザ様の精神状態は安定しています!どうか再考を!」
「話は最後まで聞きなさい、復帰は認められませんが学園で再度高等部一年生からやり直す事は許可します、条件としてマキナ、貴方も一緒に同じ学年を過ごしなさい」
アメリア学園長はニコリと微笑みながら僕に言葉を告げる、もとよりこの言葉を用意していたのだろう…僕は何も言わずに頭を下げて感謝を伝える。
「マキナ、貴方にはもう一つだけ言っておかないといけないといけない事があるわ」
「………なんでしょうか、アメリア学園長」
「ローザ嬢はデイジーのおかげで変わったと言いましたがそれだけじゃない、彼女には隣にいてくれる貴方に何よりも救われているわ……お世辞抜きに本当よ、自分が与える影響を過少評価しないでおきなさい」
「アメリア学園長…はい、ありがとうございます」
「これも愛の力ってやつね、若いっていいわね……私も久々に旦那に会いたくなってきたわ」
「か、からかわないでください!……それでは失礼します、今度はローザ様と一緒に来ます」
僕は慌てて学園長室を出ていく、アメリア学園長の言葉が何度も頭の中を反復して身体が火照る、ローザ様に対して抱いている感情は僕が思う以上に分かりやすいのだろうか…気を付けないといけない。
せめてこの想いを告げるのは一緒に学園を卒業してからだと決めている。
「それにしても……本当に僕らは彼女達に救われました…」
誰に聞かせる訳でもない独り言、校舎の窓から見える爽快な青空を見ながら僕は呟いた。
全てを変える事ができたのは全てデイジー達のお陰、最初の出会いの目的は決して良いものではなかったけれど…あの出会いが無ければきっと今も後悔して幸せとは言えない日々を過ごしていただろう。
僕もローザ様も笑えている、全てはデイジー達のお陰で…僕は新たに生きる目的を手に入れた、ローザ様の人生を支えるという目的を。
「さぁ、帰ってローザ様に報告しよう…今日はいい報告ができる」
鬱々とした日々はもう来ない、僕もローザ様も…人生を歩みだしている、それが一番の幸せだと気付いているから。
◇◇◇
「ところで、ランドルフ様については…」
「…なにも聞いていませんよ」
私の質問にデイジーは間髪入れずに答えた、本当に知らないのだろう、彼女は意図してランドルフについての情報を受け取らないようにしているだろうから。
馬鹿だと思っていたけど…ランドルフに関して私はただ一つだけ確信して言える事があった。
「きっと…何処かでしっかりと前を向いていますよ」
「……そうだと………いいわね」
少しだけ、ほんの少しだけ寂し気に答えたデイジーはきっとランドルフを許せている訳ではない、それでもかつての婚約者に対して少しだけの情はあるのかもしれない。
◇◇◇
【どうしようもなかった貴方は】
––––二年前。
じりじりとのぼせるような暑さの中、俺は学園の庭で大きく叫んだ。
「ふ……ふざけるな!俺は王子だというのに学園の庭師をやれだと!このランドルフ・ファルムンドが!?」
出来る限りの悪態を吐く、無駄な事だとは分かっている…王家の信頼は完全に消失してしまい俺は一気に自身の身分を失った、そんな俺はアメリア学園長に拾われたのだが結果として学園の庭師なれと言われたのだ。
これに怒らずにはいられない、もっと高貴な仕事があるはず、俺が土いじりなどしてられるか。
「もういい!帰らせてもらう!!」
庭師としての道具を蹴り飛ばそうと思った瞬間、この学園の正式な庭師であるベンジャミンと呼ばれている爺が俺に言葉をかけた。
「まぁ落ち着きなさい、怒っても良いことなんてないよ」
「これが怒らずにいられるか!王子であった俺が土いじりと水やりが仕事だと!?無礼にも程がある!」
「それじゃあ、職のあてもなく無職になるかね?言っちゃ悪いが街に出ても君の事を知る者ばかりで仕事につけるとは思えないが…」
「ぐっ……」
痛い所を突く爺だ、俺は渋々と道具を蹴り上げようとしていた足を戻すと爺は言葉を続けた。
「土いじりも悪い事ばかりじゃないさ」
「そんな事に意味があるか……俺はもう終わりなんだよ!立場も名誉も信頼も無くした!!何も残ってない………こんな事なら死んだ方がましだ」
「本当にそうかい?ランドルフさんよ」
爺はにこやかに笑いながら土にスコップを入れて手入れを始めていき、俺に視線を向けずに言葉を続けた。
「やってしまった事、後悔や取り返しのつかない失敗もまた人生の一つ……死んだ方がマシだと言ったがお前さんは死んでない……それはきっと生きて何かを償いたい気持ちが残っているからじゃないか?」
「………あんたに………あんたに何が分かる!!ベンジャミンさん!!!」
「分かるさ……ワシも後悔や失敗の人生だった、償いなんて出来ないし誰かを傷つけた事実は消える事なんてない…それでも立ち止まれば終わりじゃよ………」
「…………」
「ほれ、騙されたと思って儂と一緒に花を育てみんか……立ち止まるんじゃないランドルフ、少しでも前に進みなさい、それがお前を愛していた者へのせめてもの礼じゃろう」
––––どうか私が愛した事を後悔しないように…生きてください。
思えば……君のワガママはあれが初めてだったのかもしれない、俺はどうしようもない失敗をしてしまった…分かっている、取り返しのつかない事であることも理解している。
大勢に迷惑をかけて、嫌われて、見放された………それでも最後に声をかけてくれた君のためにも俺は……。
そうだな、君の最初で最後のワガママぐらいは聞ける男でいるさ……ごめんな、デイジー。
俺は手にスコップを持ちベンジャミンさんの隣に立った。
彼はあれだけ失礼な事を言った俺に対して笑顔を向けてくれた、それがたまらなく嬉しいく感じた、アメリア学園長がこの仕事を任せた理由が分かった気がした。
「お、教えてください…ベンジャミンさん」
「いくらでも教えるさランドルフ……その前に涙を拭いてからだな」
「っ!!?………う、うるさい」
どうしようもなくて、馬鹿な俺だ…それでも生きていくさ…恥ばかりの人生だけど君の最後のワガママだから。
陽の光に照らされる花々を見つめながら、俺は彼女の事を思い出して流れ出ていく涙を拭いた。
––––二年後
ラインベル学園には綺麗な花畑が咲き誇り、生徒達の憩いの場となっていた……その庭園を管理するのは顔を隠した男性であり、素性を知る者は誰もいない。
しかし、花を育てて愛でる男性の口元は充実したかのように笑顔であった。
そして…そんな男性を遠目で見ていたデイジーという女性は小さく嬉しそうに笑っていたという。
友の話を楽しそうに話すデイジーの冗談に私も微笑みで返す。
時刻は夕刻に近づいており、話す時間も残り少なくなっていることに寂しさを感じてしまうが時間の流れは残酷にも淡々と進んでいく。
「ところで、マキナはどうしていますか?」
デイジーが尋ねた質問に私は喜々として答える、彼女はまだ話を続けたいと思ってくれていることに素直に嬉しいと思ったからだ。
「マキナは…実は私が学園に戻るために色々と動いてくれているようで…」
◇◇◇
【変わった…貴方達】
「––––以上がローザ様の近況についての報告です、前のように思いつめた様子もなく笑顔も多くなりました…学園に戻っても大丈夫かと思われます」
僕は目の前に座っているアメリア学園長に対してそう告げながらもゴクリと喉を鳴らす、ドクドクと鼓動が早く高鳴っているのはこの先のアメリア学園長の言葉次第でローザ様が学園に復帰できるかどうかが決まるからである。
僕が用意していた報告書を注意深く読みながらアメリア学園長は顔を上げた。
「確かに…ローザ嬢はこの二年間で年相応の女性に戻っているのね……」
「はい、これも面会に来てくれているデイジーさんのおかげです………それで、ローザ様の学園復帰の件ですが…」
「却下よ、受け入れられません」
アメリア学園長の言葉に僕は思わず前に出て言葉を返した。
「そんな!ローザ様の精神状態は安定しています!どうか再考を!」
「話は最後まで聞きなさい、復帰は認められませんが学園で再度高等部一年生からやり直す事は許可します、条件としてマキナ、貴方も一緒に同じ学年を過ごしなさい」
アメリア学園長はニコリと微笑みながら僕に言葉を告げる、もとよりこの言葉を用意していたのだろう…僕は何も言わずに頭を下げて感謝を伝える。
「マキナ、貴方にはもう一つだけ言っておかないといけないといけない事があるわ」
「………なんでしょうか、アメリア学園長」
「ローザ嬢はデイジーのおかげで変わったと言いましたがそれだけじゃない、彼女には隣にいてくれる貴方に何よりも救われているわ……お世辞抜きに本当よ、自分が与える影響を過少評価しないでおきなさい」
「アメリア学園長…はい、ありがとうございます」
「これも愛の力ってやつね、若いっていいわね……私も久々に旦那に会いたくなってきたわ」
「か、からかわないでください!……それでは失礼します、今度はローザ様と一緒に来ます」
僕は慌てて学園長室を出ていく、アメリア学園長の言葉が何度も頭の中を反復して身体が火照る、ローザ様に対して抱いている感情は僕が思う以上に分かりやすいのだろうか…気を付けないといけない。
せめてこの想いを告げるのは一緒に学園を卒業してからだと決めている。
「それにしても……本当に僕らは彼女達に救われました…」
誰に聞かせる訳でもない独り言、校舎の窓から見える爽快な青空を見ながら僕は呟いた。
全てを変える事ができたのは全てデイジー達のお陰、最初の出会いの目的は決して良いものではなかったけれど…あの出会いが無ければきっと今も後悔して幸せとは言えない日々を過ごしていただろう。
僕もローザ様も笑えている、全てはデイジー達のお陰で…僕は新たに生きる目的を手に入れた、ローザ様の人生を支えるという目的を。
「さぁ、帰ってローザ様に報告しよう…今日はいい報告ができる」
鬱々とした日々はもう来ない、僕もローザ様も…人生を歩みだしている、それが一番の幸せだと気付いているから。
◇◇◇
「ところで、ランドルフ様については…」
「…なにも聞いていませんよ」
私の質問にデイジーは間髪入れずに答えた、本当に知らないのだろう、彼女は意図してランドルフについての情報を受け取らないようにしているだろうから。
馬鹿だと思っていたけど…ランドルフに関して私はただ一つだけ確信して言える事があった。
「きっと…何処かでしっかりと前を向いていますよ」
「……そうだと………いいわね」
少しだけ、ほんの少しだけ寂し気に答えたデイジーはきっとランドルフを許せている訳ではない、それでもかつての婚約者に対して少しだけの情はあるのかもしれない。
◇◇◇
【どうしようもなかった貴方は】
––––二年前。
じりじりとのぼせるような暑さの中、俺は学園の庭で大きく叫んだ。
「ふ……ふざけるな!俺は王子だというのに学園の庭師をやれだと!このランドルフ・ファルムンドが!?」
出来る限りの悪態を吐く、無駄な事だとは分かっている…王家の信頼は完全に消失してしまい俺は一気に自身の身分を失った、そんな俺はアメリア学園長に拾われたのだが結果として学園の庭師なれと言われたのだ。
これに怒らずにはいられない、もっと高貴な仕事があるはず、俺が土いじりなどしてられるか。
「もういい!帰らせてもらう!!」
庭師としての道具を蹴り飛ばそうと思った瞬間、この学園の正式な庭師であるベンジャミンと呼ばれている爺が俺に言葉をかけた。
「まぁ落ち着きなさい、怒っても良いことなんてないよ」
「これが怒らずにいられるか!王子であった俺が土いじりと水やりが仕事だと!?無礼にも程がある!」
「それじゃあ、職のあてもなく無職になるかね?言っちゃ悪いが街に出ても君の事を知る者ばかりで仕事につけるとは思えないが…」
「ぐっ……」
痛い所を突く爺だ、俺は渋々と道具を蹴り上げようとしていた足を戻すと爺は言葉を続けた。
「土いじりも悪い事ばかりじゃないさ」
「そんな事に意味があるか……俺はもう終わりなんだよ!立場も名誉も信頼も無くした!!何も残ってない………こんな事なら死んだ方がましだ」
「本当にそうかい?ランドルフさんよ」
爺はにこやかに笑いながら土にスコップを入れて手入れを始めていき、俺に視線を向けずに言葉を続けた。
「やってしまった事、後悔や取り返しのつかない失敗もまた人生の一つ……死んだ方がマシだと言ったがお前さんは死んでない……それはきっと生きて何かを償いたい気持ちが残っているからじゃないか?」
「………あんたに………あんたに何が分かる!!ベンジャミンさん!!!」
「分かるさ……ワシも後悔や失敗の人生だった、償いなんて出来ないし誰かを傷つけた事実は消える事なんてない…それでも立ち止まれば終わりじゃよ………」
「…………」
「ほれ、騙されたと思って儂と一緒に花を育てみんか……立ち止まるんじゃないランドルフ、少しでも前に進みなさい、それがお前を愛していた者へのせめてもの礼じゃろう」
––––どうか私が愛した事を後悔しないように…生きてください。
思えば……君のワガママはあれが初めてだったのかもしれない、俺はどうしようもない失敗をしてしまった…分かっている、取り返しのつかない事であることも理解している。
大勢に迷惑をかけて、嫌われて、見放された………それでも最後に声をかけてくれた君のためにも俺は……。
そうだな、君の最初で最後のワガママぐらいは聞ける男でいるさ……ごめんな、デイジー。
俺は手にスコップを持ちベンジャミンさんの隣に立った。
彼はあれだけ失礼な事を言った俺に対して笑顔を向けてくれた、それがたまらなく嬉しいく感じた、アメリア学園長がこの仕事を任せた理由が分かった気がした。
「お、教えてください…ベンジャミンさん」
「いくらでも教えるさランドルフ……その前に涙を拭いてからだな」
「っ!!?………う、うるさい」
どうしようもなくて、馬鹿な俺だ…それでも生きていくさ…恥ばかりの人生だけど君の最後のワガママだから。
陽の光に照らされる花々を見つめながら、俺は彼女の事を思い出して流れ出ていく涙を拭いた。
––––二年後
ラインベル学園には綺麗な花畑が咲き誇り、生徒達の憩いの場となっていた……その庭園を管理するのは顔を隠した男性であり、素性を知る者は誰もいない。
しかし、花を育てて愛でる男性の口元は充実したかのように笑顔であった。
そして…そんな男性を遠目で見ていたデイジーという女性は小さく嬉しそうに笑っていたという。
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