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「いい加減にしてくださいランドルフ、私が再び貴方に気持ちを向ける事はあり得ません、さっさと諦めてください」

「何を……俺は王子で次期王としてこの国を統べるのだぞ!?何が不満なのだ?俺と一緒にいれば安泰だ!」

「そんな事が人生の幸せの全てではありません、友との何気ない会話や愛している人の隣にいれるだけで私は充分です、幸せなのです」

「な!?違う、そんなものは幸せでは…ない!」

「違いません、私は充分に幸せですよ、一緒にいてくれる友達がいるから………これ以上、私の幸せの邪魔をしないで!」

 ランドルフはそれでも必死に叫んで私の言葉に必死に言い返す、無駄な事であると自分でも分かっていながら、私に縋る事しか選択肢にないのだろう。

「違うんだデイジー、よく聞いてくれ誤解なんだよ、俺は確かにローザに目を奪われて一度はお前を突き放してしまったが本心じゃなかった、本当は心が痛んでいたんだよ本当だ、お前の事をずっと心配していたし気に留めていたんだ……俺がお前を愛していると証明したい、これからの人生で見せるから…俺は変わってみせる、もう一度お前に愛されるように頑張るから一緒にいてくれ、王となった際には国を上げて結婚式を行おう、国民が祝ってくれる中でお前と2人で歩いていきたいんだ、俺を支えてくれデイジー……俺、俺は」

 長く、薄っぺらい言葉の羅列は止める者はいない、誰もが彼が本心でその言葉を吐いていないと知っている、目が泳いで口だけは達者、まるで自分が悲劇の主人公のように言い訳と懺悔の言葉を未練がましく垂れ流す彼の言葉に返す者はいない。

「………ランドルフ、貴方の言葉は聞き飽きました、だから貴方には言っておきましょう」

「は!?」

「きっと…もう貴方は王子でいられないから」

 バンっと卒業式会場の扉が開かれる、焦った様子の男性が慌ててランドルフの元へと駆けつけてくる、彼の従者なのだろう、そっと耳打ちされたランドルフは驚愕の声を上げた。

「な!!それは真実か!?…馬鹿な!!そんなはずがない!!」



 思ったよりも早かったようだ、これはアメリア学園長が仕組んだ事なのだろう…卒業式に間に合わせたのは私がローザを説得すると信じての行動。
 ランドルフ、もう貴方は王子ではいられない。







   ◇◇◇

 王座の間に続々と入ってくる騎士達に現王であるドーマス・ファルムンドは大きなため息を吐きながら自身の立場が崩れ落ちていくのを実感していた。
 こうなりそうな事は予感していた、民達からは反感が高まっており、諸侯貴族王家一派からの離脱者は日に日に増えていき、アメリア学園長及びデイジーの実家であるルドウィン家が動いている事は分かっていた。
 分かっていながらも何もできないでいたのは単に自分の力量が不足していたからだ。
 
「ワシも…ここらが潮時か」

 正直に言って限界は感じていたのだ、賢王と呼ばれていた父に比べて自分は王の器ではない事は分かっていた、しかし現状の裕福な生活を捨てて王を退くなんて考えられない、だから自分の保身のために悪事に手を染めた、殺しを生業にする者を雇ってまで口封じを行った、その者も最近になって騎士団に自分から罪を自白したと聞いて覚悟をしていたのだ。

「ドーマス王……何が言いたいか、分かっておりますか?」

 目の前にやって来たのはマグノリア公爵家の当主だ、膝をついて喋っているのは最後だからこそ最低限に敬いの姿勢を保っているのだろう。
 ならば、ワシも王として最後ぐらいは……どうしようもない人生だと思っていた、ランドルフにも迷惑をかけるだろうが今更になって慌てて取り繕う事はない、覚悟は決まっており、こうして王座の間に騎士を従えてマグノリア公爵家の当主がやって来たという事は確固たる自信があってやって来たのだろう。
 ワシを王座から降ろす証拠が。

「準備はできている…今更逃げはしない」

「助かります、貴方には沢山の罪の疑いがあります……よって私のマグノリア公爵家、及びアメリア・ラインズ公爵家が賢人会議を開く事を表明します、議題は王家の存在意義についての協議です」

「……………分かった、従おう」


 騎士達がワシの身柄を拘束する、王家はもう終わりである事は理解できている…だからこそ最後に父としてマグノリア公爵家当主に一言だけ告げる。

「ランドルフは確かに民を人として見ておらず、ワシに似た愚か者だ…だがどうか良きように計らって欲しい……これは父としての願いだ」

「ドーマス王……ランドルフについては全てはアメリア・ラインズに一任しております、彼女は未来ある若人を無下にはしないでしょう」

「そうか…それなら良い」


 ランドルフよ、情けない父で済まなかった…自己保身のためにお前には酷い事をさせてしまったかもしれない、だがどうか父の願いとしてこの知らせを受けても王子として立ち振る舞ってくれ。
 この国の王子でなくなってしまうが、それでも悠然として平然と有終の美を…ランドルフよ頼んだ。











    




















   ◇◇◇

「嫌だぁぁ!!!父上!!何をしてくれたんだ!!嫌だ!!嫌だぁ!!」


 突然、叫んで喚いたランドルフは子供のように床に転がってジタバタと行き場のない怒りを表現していた、ここまでどうしようもない人だとは思っていなかった。
 しかし、この状況で彼の唯一の心の支えであった王子であるという存在意義が失われてしまうかもしれないのだ、この取り乱し方も若干ではあるが納得はできる……しかし最早王子とは呼べない立ち振る舞いに周囲も言葉を失っていた。

「あぁ……どうすれば、どうすれば……」

 頭を抱えて嘆いているランドルフは何を思いついたのか、突然に頭を上げて私の方へと這いずるように近寄って来た。


「デイジー!お前の気持ちは分かった…認めよう、俺はもう愛されなくていい!だが俺が愛しているのは本当だ!だからお前の実家であるルドウィン家に迎えてくれないか!?俺は王子の立場を失って平民ごときに収まるなんて納得できない!お前も落ちぶれた俺を見たくはないだろう!?まだ俺に情はあるはずだ!」

 今にして思えば私は彼の何処に惹かれていたのだろうか、最初はこうではなかった……幼き彼は王となる責務を感じて生きていた、だがいつしか裕福な生活が当たり前になり、自分の足りない部分を他者を卑下して取り繕うように生きるようになってしまった。
 私は彼の胸元を掴み、ただただ平然と言葉を告げる……あの時に言った言葉を思い出させるように彼にもう一度、あの言葉を…。


 こんな時のために言ったのだから。

 
「懇親会で言ったはずです、もう愛していない貴方…どうか二度と私に関わらないで」

「あ…………あぁぁあぁ」

 思い出したのだろう、崩れ落ちて泣いてしまったランドルフを講師達が腕を掴んで引き上げて連れて行く、彼もまた騎乗競技会での一件の罪を償わないといけない。





 項垂れ、言葉もなく去っていく彼を見て………私は思ってしまった。


 あぁ、やはり人は変われない…私もまた非情にはなれないのだ。



「ランドルフ!」

 叫んだ言葉、彼は振り向きはしないが制止した。


「私は確かに過去に貴方を愛していました……それは紛れもない事実であり私の気持ちは本当です、だから………どうか私が愛した事を後悔しないように…生きてください」

 かつては愛し、楽しい時間を過ごしていた事は忘れられない事実だ……だからこそ私も貴方もその記憶を大切に。
 ランドルフは振り返りはしなかった、何を考えているのか分からない、彼は沈黙のまま項垂れたままだった。

 連れられ、去っていくランドルフを見送りながら……ようやく長く続いた彼との軋轢が終わったのだと実感をした。

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