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デイジーside

「は、話?私は何も話す事なんてないわ!」

 月夜が差し込む窓の近く、机に座っている彼女は相変わらず綺麗で桃色の髪の毛が月明かりに反射してキラキラと輝いている、誰かが見れば美しいと思うのだろうが…今の私には彼女が救いを求めているように見えた。
 現に、私がここに来た事で少しだけ嬉しそうな声色になったからだ。

「私は貴方とはもう一度お話をしたいと思っていたのですよ……お隣、失礼しますね」

「な!?ちょっと……もう…」

 言葉とは裏腹に彼女は抵抗を見せずに大人しく私が隣に座る事を許容し、窓の外の月に目を逸らしていた。

「話は全部…マキナから聞いているのでしょう?」

「ええ、と言っても私もおおよその予想はできていましたので彼を責めないでください、好きで裏切った訳ではありませんよ」

「……………それで、何を話すというの!?マキナの件で責めるつもり?言っておくけど私が命令したという証拠なんてないわよ!」

 私は彼女の言葉に首を横に振って否定する、そんな事を言うつもりも彼女を責める気は毛頭ない、私がここに来た理由は最初に言った通りだ。

「言ったはずです、お話をしに来たのですよ…私は貴方を知りたいと思っているのです」

「っ!?私はそんなつもりはない!」

「では、なぜ出ていかずに話をしてくれるのですか?」

「そ……それは……」

 ローザの手を握る、この夜に待ち続けていたせいか冷たくて震えていた…。

「ローザ、話してみませんか?貴方が抱えている事を教えてください…吐き出せば楽になれる事もきっとあるはずです」

「あ、あんたに何が分かるのよ!」

「言ってくれないと分かりませんよ、貴方の夢も…なぜランドルフとそれ程までに結婚をしたいのかも…」

 パンッと私が握っていたローザの手が振り払われる、彼女は冷たい表情でいつもの貼り付けたような笑顔とは真逆の一切の感情のない表情を見せる。
 これこそが彼女の本当の顔だ、貼り付けた笑顔も、振り撒いていた愛想も全て彼女が人生をかけて演技をしていた姿、私は今目の前にいる彼女と話をしたかった。

「いいわ、教えてあげるわ…全てを持っているあんたには一切理解できないだろうけどね」

 ローザは無表情を崩さずに私を睨みつけながら言葉を続けた。

「私は前世の記憶を持ってる、それもこの世界とは時間も場所も全く違う世界のね」

 前世、別の世界……突然の告白に理解が追いつかないがローザは私に配慮はなく話を続けていく、抱え込み、ためこんでいた想いを吐き出すようにとめどなく言葉を続ける。

「こことは違う、ニホンと呼ばれている場所で私は産まれた……そこでは私は今みたいに綺麗でも公爵令嬢なんて立場もないただの女子高生だったのよ」

 ニホン…聞いたことがない国だ、それにローザの姿も違って立場もないという事?それは平民出身だったということなのだろうか。

「私から見れば貴方達は物語の登場人物、知らない国の美男美女の貴族達の物語……ありふれていているけど、私はそんな世界が大好きで、似たような物語を読み漁って夢見ていた…私もいつか物語の王子様と結婚して幸せになると、きっと私を王子様が迎えに来てくれるって!!」

 物語の登場人物、突拍子もない話で噓だと思ってしまえば楽なのだろうが話をしている彼女はとても噓を言っているように見えない、想いを吐き出したながらその表情は苦しそうに歪んでいた。

「周りはそんな私を馬鹿にして、いじめてきた…酷い言葉と、酷い暴力……それでも私は耐えられた、夢ぐらいいくらでも願ってもいいじゃない、物語の世界のように生きてみたいと思って何が悪いの!?」

「…ローザ、貴方は悪くないわ」

「うるさいわよ!あんただってあいつらと同じよ!私のこの夢を…願い焦がれた夢を叶わないと心で馬鹿にしているんでしょう!?………私だって分かってる!!だって前世では私を救ってくれる王子様なんていなかった!!男達は一緒になって馬鹿にして、それで、それで……思い出したくもない想いをして、私は自分自身で死を選んだ」

 悲痛な叫びに心が痛む、彼女の一言一言の全てに噓はない…耐えきれない生活を過ごして耐えてきたのだろう、たった一つの夢を信じて…裏切られて自分自身の人生を自ら終えたのだ。

「この世界で産まれた瞬間に私には記憶があった、それで確信したのよ!この人生なら夢を叶えられる、そのためなら私は一切の迷いもなく目的のために生きようと決めたの!!」

 彼女は涙を流し、タガが外れたように子供のように泣きながら必死に自分の中で淀んでいた本心を叫ぶ、私は何も言わず、声を抑えるようにとも伝えずに黙って聞いていた…これは彼女に必要な事だから。

「順調だった!王子に好かれて結婚を望まれて……なのに私が読んでいた物語のようにはいかなかった!ランドルフは平民を人とは思わぬクズで!それに貴方を追い込むためにヘマして勝手に自滅するような大馬鹿野郎よ!!それでもやっと掴んだ夢なの……諦められない!だって、だって諦めたら…」

 彼女はすすり泣き、絞り出すように言葉を吐き出す。

 彼女にはランドルフに対しての愛なんてなかった、彼女が見ていたのは…私でもマキナでもランドルフでも他の誰でもなくて…。

「諦めたら…あいつらの言う通りじゃない、前世で私が死にたくなる程に追い込んできたあいつらの言う通りに……馬鹿げた夢、叶うはずのない夢になってしまう……私は死んでもあいつらが言った事を否定しないといけないの!!私の夢は叶う事を証明しないといけないの!!!!例え、この手を汚しても!!」

「っ!!?」

 突然、ローザは叫んだ勢いのまま私の首元に手を押し当てながら窓際へと押してゆく、窓枠に掴まって耐えるが彼女の力は少しずつ強くなっていく。
 これは、本気で私を…。

「ねぇ死んでよデイジー!!貴方がいなければ全てが上手くいったの!!なんで邪魔するのよ、貴方は全部持ってるじゃない!仲が良くて気が許せる友人も!貴方を好いてくれる人もいるじゃない!!なんで私の夢を邪魔するの?全部持っている貴方がなんで!?もう私を自由にしてよ、大嫌いなあいつらの言葉に囚われて苦しむ日々を覆すような幸せな日々を………」


 あぁ、そうか…ローザ、なんで貴方と私が友達になれると思ったのか分かった。



 私と…貴方は…。

「ローザ、私達は…似た者同士だね」

「え……………っ!?」


 彼女の頬に手を当てて呟いた言葉、それと同時に私は窓枠を掴んでいた手を離し、彼女の力に流されるように窓の外へ、月明かりの照らす外へと身を投げ出した。


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