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ローザside
明日はいよいよ高等部三年生の卒業の日となる、休学で離れていた生徒達が学園に帰ってくる日だ。
月夜の晩、私は人気のない校舎の中に忍び込んで鼻歌を歌いながら飼い犬を待ち続けている、機嫌が良いのは今日で全てを変える事ができるからだ。
今日の夜に全てを変える、デイジーが療養のために学園に残っていたのは知っている、金で人を雇って見張らせていたから……何やら時折出かけているとは報告を受けてははいたが大半の日々を寮で過ごしていた。
馬鹿なデイジーは今日、何が起こるのかも理解できずに悠々と過ごしていたのだ、私が思う以上に間抜けなのかもしれない…だが覚悟を決めた事だ。
今夜、デイジー・ルドウィンを殺害して全てを変える。
あの女を中心に物事が良くない状況になっている、それを覆すのだ。
「お待たせしました」
飼い犬の声を聞きながら私は振り返る事もなく、淡々とやり遂げる事を告げる。
「今日です、全てを変えましょうマキナ……貴方がやり遂げたのなら、今夜は私を好きにしなさい」
「…全てはローザ様のために」
「ええ、では行ってきなさい……良い報告を待っていますよ、マキナ」
音もなく私の飼い犬は立ち去っていく、私は空き教室の机に座ってぼんやりと月夜を眺める。
これで…良かったの?
嫌な考えが思い浮かぶ、首を横に振って自分自身の考えを否定する。
決めた事だ、私が夢を叶えるこの最後の機会を逃すなんて考えられない。
何も持っていない私が夢を叶えてなにが悪いの?デイジーは全てを持っている、私が持っていない物を全て…不公平じゃない、不平等よ……。
––––馬鹿な夢を見てないで現実を見たら?
––––いい加減にしなよ、友達もいない貴方が物語のようになれる訳ないじゃん、幸せになれないのよ…あんたは…。
うるさい、うるさい!!……私は夢を叶えて幸せになってみせる…前世では馬鹿げた夢でも今世では確実に掴んでいるのだ、馬鹿にしてきたあいつらの言葉通りになるはずない…。
月を見つめる私の気持ちは…何故か虚しくて、悲しかった。
◇◇◇
マキナside
ゆっくりと女性寮の中を進んでいく、夜中で生徒達は皆が寝静まっている…競技会の当日にデイジーの寮室は聞いていたお陰で足取りはスムーズだ、間違えることはないだろう。
目指していた寮室の前に立ち、息を殺してゆっくりと扉を開いていく、この先に彼女がいる。
僕がすべき事は決まっている、全てはローザ様のために生きてきた…ローザ様のために僕はすべき事をしなければならない、だからこの部屋にやって来たのだ。
「な!?」
部屋に入った僕は目を見開いた、予想もしていない光景が広がっていたからだ。
目の前の部屋には何もなかった、寮室に備えられている寝台や鏡台、タンスや机まで何もなく……これではまるで。
「空き……室?」
「ええ、そうですよマキナ」
「っ!?」
後ろから聞こえた声、振り返ろうとした瞬間には僕の背中は押されて空き室の中に入っていく。
慌てて態勢を整えようとしたが突然の事で驚きと困惑で上手く身体が動かせずにそのまま倒れてしまう、身体を起こして振り返る、寝ていると思っていた彼女は腕を組んで薄い笑いを浮かべて僕を見ていた。
その瞳に相変わらず吸い込まれてしまいそうな魅力を感じる、だがそんな考えを振り払って僕は思った事を尋ねた。
「な、なぜ…デイジー…」
「なぜ?私もずっとこの日を待っていたのですよマキナ……貴方の事も、貴方が従っている人間も全て知っていました……それではマキナ」
彼女は今まで友達として過ごしてきた、だが目の前にいる彼女は全てを見透かしたように笑っており、まるで手のひらで踊っていたかのように思ってしまう……そうか…分かってしまった。
「話をしましょうか?」
僕が思う以上にデイジーは上手だったのだ。
明日はいよいよ高等部三年生の卒業の日となる、休学で離れていた生徒達が学園に帰ってくる日だ。
月夜の晩、私は人気のない校舎の中に忍び込んで鼻歌を歌いながら飼い犬を待ち続けている、機嫌が良いのは今日で全てを変える事ができるからだ。
今日の夜に全てを変える、デイジーが療養のために学園に残っていたのは知っている、金で人を雇って見張らせていたから……何やら時折出かけているとは報告を受けてははいたが大半の日々を寮で過ごしていた。
馬鹿なデイジーは今日、何が起こるのかも理解できずに悠々と過ごしていたのだ、私が思う以上に間抜けなのかもしれない…だが覚悟を決めた事だ。
今夜、デイジー・ルドウィンを殺害して全てを変える。
あの女を中心に物事が良くない状況になっている、それを覆すのだ。
「お待たせしました」
飼い犬の声を聞きながら私は振り返る事もなく、淡々とやり遂げる事を告げる。
「今日です、全てを変えましょうマキナ……貴方がやり遂げたのなら、今夜は私を好きにしなさい」
「…全てはローザ様のために」
「ええ、では行ってきなさい……良い報告を待っていますよ、マキナ」
音もなく私の飼い犬は立ち去っていく、私は空き教室の机に座ってぼんやりと月夜を眺める。
これで…良かったの?
嫌な考えが思い浮かぶ、首を横に振って自分自身の考えを否定する。
決めた事だ、私が夢を叶えるこの最後の機会を逃すなんて考えられない。
何も持っていない私が夢を叶えてなにが悪いの?デイジーは全てを持っている、私が持っていない物を全て…不公平じゃない、不平等よ……。
––––馬鹿な夢を見てないで現実を見たら?
––––いい加減にしなよ、友達もいない貴方が物語のようになれる訳ないじゃん、幸せになれないのよ…あんたは…。
うるさい、うるさい!!……私は夢を叶えて幸せになってみせる…前世では馬鹿げた夢でも今世では確実に掴んでいるのだ、馬鹿にしてきたあいつらの言葉通りになるはずない…。
月を見つめる私の気持ちは…何故か虚しくて、悲しかった。
◇◇◇
マキナside
ゆっくりと女性寮の中を進んでいく、夜中で生徒達は皆が寝静まっている…競技会の当日にデイジーの寮室は聞いていたお陰で足取りはスムーズだ、間違えることはないだろう。
目指していた寮室の前に立ち、息を殺してゆっくりと扉を開いていく、この先に彼女がいる。
僕がすべき事は決まっている、全てはローザ様のために生きてきた…ローザ様のために僕はすべき事をしなければならない、だからこの部屋にやって来たのだ。
「な!?」
部屋に入った僕は目を見開いた、予想もしていない光景が広がっていたからだ。
目の前の部屋には何もなかった、寮室に備えられている寝台や鏡台、タンスや机まで何もなく……これではまるで。
「空き……室?」
「ええ、そうですよマキナ」
「っ!?」
後ろから聞こえた声、振り返ろうとした瞬間には僕の背中は押されて空き室の中に入っていく。
慌てて態勢を整えようとしたが突然の事で驚きと困惑で上手く身体が動かせずにそのまま倒れてしまう、身体を起こして振り返る、寝ていると思っていた彼女は腕を組んで薄い笑いを浮かべて僕を見ていた。
その瞳に相変わらず吸い込まれてしまいそうな魅力を感じる、だがそんな考えを振り払って僕は思った事を尋ねた。
「な、なぜ…デイジー…」
「なぜ?私もずっとこの日を待っていたのですよマキナ……貴方の事も、貴方が従っている人間も全て知っていました……それではマキナ」
彼女は今まで友達として過ごしてきた、だが目の前にいる彼女は全てを見透かしたように笑っており、まるで手のひらで踊っていたかのように思ってしまう……そうか…分かってしまった。
「話をしましょうか?」
僕が思う以上にデイジーは上手だったのだ。
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