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「本当に学園に残っているのですか?貴方のルドウィン家に寄る予定ですので一緒に馬車に乗っても構わないのよ」

 晴れ晴れとした晴天の中、馬車の窓から心配そうにこちらを見て尋ねていたアメリア学園長に頭を下げて答える。

「はい、頭の怪我も完全に完治していないので安静にしておきます…幸い学園の寮に残っても良いと言ってもらえたので」

「貴方のお母様が悲しむわよ?」

「だと、思います……ですが、ここでやらねばならない事もあるのですアメリア学園長」

「それは、私にも言えない事かしら?」

「はい、申し訳ありません…ですが本当に私は大丈夫ですから、お手数ですが母にはお渡ししていた手紙を渡してください」

「分かったわ、貴方から良い知らせを受け取れる事を祈ってる」

「安心してください、私が今からすべき事は残していた手段でもあるので」

「期待しているわ……それでは」

 アメリア学園長が御者に指示を出す、馬は走り出していく、地面を蹴って揺らして砂塵が巻き起こっていくと馬車はあっという間に遠くに行ってしまう。
 本音を言えば私もお母様に久しぶりに会いたいと思っていた、だがこの学園でやり残した事があるのだ、いや…この誰もいない学園だからこそ出来る事、それはローザに対しての切り札になり得る。

「みんなと次に会う時は卒業式ですね……それまでに全てを終わらせて、笑って卒業しないと」

 昨日のうちにみんなとの別れも済ませた、寂しくて一日だけ離れただけで心細いと思ってしまう…それだけ深い関係の友達が大勢できた事に感謝をし、彼らのためにも私はやるべき事をしよう。



「みんなも…頑張ってね」








 誰が聞くわけでもない声は風に乗っていき、この国へと広がっていく…デイジーが作り出した小さなヒビは確実にこの国へと広がっていった。

















   ◇◇◇

カミラside


「急におしかけて悪かったわね、カミラ」

「いえ、アメリアさん…お世話になっています」

 ルドウィン家にやって来たアメリアさんを客室に迎え入れながら、私はデイジーが帰って来ないと知って落ち込んでいる気持ちを鎮めるために紅茶を一口含んだ。
 執事であるウィリアムが入れてくれた紅茶はやはり美味しい、でも欲を言えばデイジーと一緒に飲みたかった…あの子が子供の頃から好きだったこの紅茶を…そのために取り寄せていたのに…お母様は寂しいな。

「……………聞いていますか?カミラ」

「へ!?す、すいません…聞いておりませんでした」

「寂しいのは分かりますが、今日は少し込み入った話をする予定なのですからしっかりと聞いてください」

「は、はい…すいません…」

 アメリアさんには夫が亡くなって女性当主なった最初の頃によくお世話になっていた、女性当主なんて他の貴族からしてみれば嘲笑の的、家督を男性に譲るべきだと言われたが私には夫が築き上げてきたこの家を任せられる者なんていなかった。
 そんな中でよく世話をしてくれたアメリアさんには感謝してもしきれない、今日はお願いがあって来たと言っていたがどのような用事だろう。

「要件とは、王家についてです」

「王家…ですか?」

「ええ、貴方も今でこそ王家一派から外れていますが元はその中にいたのです、だから貴方にしか頼めない」

「私に何をして欲しいのですか?」

「王家一派で不満を持っている者や一派から抜けた者達がいるはずです、貴方の人脈で彼らと私が話をする機会をください…人材や金が必要であれば言ってください…私のラインズ家は助力を惜しみませんので」

「なぜ、そのような事を?私が言えた事ではありませんが王家に目をつけられてしまいますよ」

「貴方の娘が私を引っ張ってくれたのよ、カミラ……貴方が当主となった際に協力して本当に良かったわ、逸材ねあの子は」

 何故かアメリアさんから溢れてくる娘への称賛に驚いていると詳しい事を説明してくれた。
 どうやら私の娘はアメリアさんの学園長という立場を理解して協力関係を築いているようだ、それも目標は王家を崩壊させ公国を作ろうというもの。
 ゆくゆくは貴族制度の廃止だと言う、あまりにも突然の話に言葉が出なかった。

「それで貴方には王家へ不満を持っている王家一派と私を繋いで欲しいのよ、貴方なら出来るはずよ?そうでしょ?」

「出来ます、ですが難しいですよ…幾ら王家の不正を見つけても賢人会議ではオルレアン公爵家とマグノリア公爵家の協力があって初めて王位の剝奪が可能かと……特にオルレアン公爵家は娘であるローザ嬢がランドルフ王子と懇意にしていると聞いています、少しの不正など目を瞑るかもしれません……申し訳ありませんがルドウィン家は危ない橋は渡れません」

「マグノリア公爵家は心配いらない、あの家の長男であるアイザックはデイジーのおかげで大きく変わった、当主である父親の説得も上手くいきます」

「では、オルレアン公爵家は?彼らも大きな一派ですよ…」

 私の言葉にアメリアさんは大きく息を吐き、客室のソファに体重を預けながら首を横に振った。

「オルレアン公爵家はお手上げね、私にはどうする事もできないわ」

「では……」

「私にはね、でも貴方の娘のデイジーは何か切り札があると言っていた…状況を覆すナニカをね、教えてくれなかったけど私は信じて見ようと思うの」

 アメリアさんはそう言って私に視線を向け、試すように尋ねた。

「私は貴方の娘を信じる事に賭けた、そのために外堀を埋めにいっているのよ……貴方はどうする?」

 その質問に私は直ぐに答えられないでいた、夫が残してくれたルドウィン家を大切にしてきた…アメリアさんに協力して踏み外した時は王家からの制裁を喰らう事になる。
 危ない橋を渡る勇気、その一歩を踏み出せない私にアメリアさんは隠していたように一枚の手紙を手渡した。

「そういえば、貴方の娘から手紙を受け取っていたわ」

 手渡された手紙の封を開け、二つ折りになっていた紙を開くと…愛する娘の彼女らしい可愛いらしい文字でメッセージが書かれていた。
 その内容を読み終わる、私の答えは決まっていた。

「やります、アメリアさん…貴方達に協力する…私の娘のためにも」

「ふふ、やっぱり私の賭けは正解かもしれないわね」

「人脈を使って不満を持っている、又は王家と近しいけど裏切りそうな者を見つけてみせます……近日には報告できるかと」

「期待しているわ……カミラ・ルドウィン、貴方達ルドウィン家をね」



 アメリアさんは紅茶を飲み終わるとルドウィン家の屋敷から出ていった、まだまだやる事があるのだろう、私はアメリアさんのカードの一枚に過ぎない、それでも娘のために果たさねばならない。
 幸い、王家への不満を持つ者は多い、それは王家一派の中心に近い人物であってもだ、現王の求心力は財力だけしかない…不正を手伝って恩恵を充分に受けていないと不満を持つ者が多くいるだろう。


 改めて、私の愛する娘が私だけに書いてくれた手紙を読み返す。



   ––––––––


 お母様、帰れずに申し訳ありません…
 私にはすべき事があり、今は帰れませんがお母様に会いたいのは私も同じです。

 負けたままでなく、次に会う時はお母様の娘として胸を張って帰って参ります。
 全てが終われば、2人でゆっくりと旅行に行きましょう。


 愛しています…早く会いたい、お母様


   ––––––––







「私も貴方に早く会いたいのよデイジー」

 手紙を胸に抱きながら、私は娘を想って流した涙を拭う。

 
 全てを終わらせるために、私も娘を信じて協力しよう。
 愛する娘と旅行に行くために、惜しみない協力を……。


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