【完結】捨てられ正妃は思い出す。

なか

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 全てを話した、私の一回目の人生で起こった事を、アイザックに関しては分からないように濁して伝えた、今の彼をわざわざ追い詰めるような事は言う必要はないためだ。
 二回目の人生で決めた復讐もそのための計画も全てを話し終えて一息つく。
 周囲は突然の告白に言葉を失っており、動揺をしているのが目に見えてわかる、いきなり様々な情報を打ち明けたのだから仕方がない、私も逆の立場であれば同様の反応を見せるのは必然だ。


「これが、私の全てです……目指しているのは王家の崩壊で…そのために仮面のようにこの性格になりました…本心で向き合っていないと言われれば否定できません」

 私は言葉を続ける。

「それに、今まで起きた問題は全てランドルフが私に対して行った事です…これからも何が起きるか分かりません、徐々にエスカレートしているのは事実です……だから私といれば危険な事が…」

「ふざけないでよ!デイジー!!」

「モネ……」

 話を遮って叫んだのは、いつも大人しくて声を荒げないモネだった。


「なんで、言ってくれなかったの?」

「ごめんなさい…モネ」

「違う!謝ってほしいわけじゃない………デイジー…」

 モネは呟きながら私を抱きしめ、ぐすぐすと泣きながら…私の頭を撫でた。

「言ってよ、頼ってよ……友達なんだから……………辛かったよね、苦しかったはずだよ…言ってくれれば、私がもっと協力できたはずなのに、デイジーの優しさに甘えてばかりだった」

––––彼らが本当に傷付くとすれば、貴方に頼ってもらえない事じゃないかしら?

 アメリア学園長の言う通りだった、モネの涙と共に自然と私も瞳から溢れてきた涙を流しながら…私は本当の想いで言葉を発す。

「ずっと、ずっと助けてもらってたよモネ……貴方がいてくれていたから、友達でいてくれたから…私はずっと立っていられたの…」

 溢れて止まらない涙、ようやく本音を告げて、耐えていた気持ちが溢れ出し、零れ落ちていく、タガが外れたように止まらない。

「もう、貴方が一番本心で話しないじゃないの…デイジー」

「エリザ………」

 泣いている私とモネの頬に手を当てて、エリザは満面の笑みを浮かべた。

「これからは隠し事はなし、貴方が私に言ってくれた事よ……モネだけじゃない、貴方も私の友達なんだから頼ってくれたらいくらでも協力してあげるわよ!」

「ありがとう…エリザ、貴方には助けられてばかりね」

「お互い様、そうでしょ?」


 快活に笑うエリザに1人ではないと改めて教えて貰ったように感じた、彼女の明るさや強気な性格に背中を押されて手を引かれていたのは私だった。



「デイジーさん、僕も出来る事はいくらでも協力しますよ」

「マキナ、貴方まで巻き込んでしまったわね」

 マキナは自身の黒髪を引き上げ、その赤い瞳でしっかりと私を見つめて首を横に振った。

「巻き込まれたなんて思ってません、僕は貴方の助言で立ち上がれたから恩返しさせてください、それに貴方が言ってくれた事です…どんな結果であろうと味方をしてくれると、僕も想いは同じですから」

「ありがとう…マキナ」

 マキナの言葉に頭を下げる、彼は私のおかげと言っていたが…それは違う、立ち上がれたのは全てマキナ自身の力である、彼はもう弱くない…味方をしてくれると言ってくれた事に心から感謝した。





「デイジー…」

「アイザック、ごめんなさい…貴方にはもっと早くに言うべきだった、まるでマグノリア公爵家に取り入るために関係を持ったように見られますが、私は本心で……っ!!」

 言葉の途中、彼は指先を私の唇に当てて声を抑えた、伸ばされた腕はゆっくりと私の頬を包んで優しく触れる。

「言わないていい、分かっている…」

「アイザック……私が目指しているのは王家の崩壊です、この国の最有力家の一つ、マグノリア公爵家である貴方には大きな被害があるかもしれません」
 
 私の言葉をアイザックは笑い飛ばし、自分の胸に手を当てて私の寝台の傍で膝をついた。
 それは、まるで騎士が忠誠を誓う時に行う儀礼のようで、姿勢を正して私を見つめる彼は一点の曇りなき眼で淡々と言い放った。

「元より、ランドルフの考えは読めていた……俺は君のためなら国と争う覚悟を決めている、例え1人になってもだ」

 彼はそっと私に向かって手を差し伸べた、それは正に忠誠心を示す儀礼……私もその儀礼に習って彼の差し伸ばした手に手を重ねる。

 私の手の甲に彼はそっと口付けを行う、優しくて暖かくて胸がドキドキとしながらも儀礼に習って言葉を続けた。

「私の剣となってくれますか?」

「この命は君のために…」

 この国に伝わる儀礼、忠誠を誓った者に対して行う儀礼であり命を捧げる事を誓う証明でもある。
 つまり、彼は命を捧げてでも私の味方でいてくれると伝えてくれたのだろう、言葉ではなく行動で示してくれたのだ。

「ありがとう…アイザック」

「あぁ、今日はもう遅い…君の傷も治ってはいないのだから、ゆっくりと寝るといい」

 彼の言葉に頷いて寝台の横たわる、彼らが手を振って治療室を出ていくとシンっと静まり返った部屋に1人になってしまう、いつもはこんな時にどうしようもなく不安や孤独を感じてしまう。

 だが、今日は違った。
 こんなに安心して寝れるのはいつ振りだろうか、私の全てを知っても受け入れてくれた彼らに改めて心の底から感謝をし、充実した気持ちに孤独感や不安は一切感じなかった。

 本当の意味で私はもう、1人ではないのだから






















   ◇◇◇


「皆、俺から話があるのだが少しだけいいか?」

 デイジーと話をしていた治療室から離れ、アイザックは周囲に声をかける。
 モネやエリザ、そしてマキナも顔を向けながらも内心はアイザックが何を言いたいのか理解していた。

「これから長い休みが始まる、しばらく学園から離れる事になるが……俺達は彼女のためにすべき事を見つけるべきだ」

 アイザックの言葉にエリザは自身の真っ赤な髪を後ろにまとめ、いつもの勝気な表情で返事をする。

「言われなくても分かってるわよ、こう見えてもかなり頭にきてるのよ…ランドルフはお兄様を巻き込んでデイジーにも酷い事をしてる…ただ休んでる気はない、あの頭にくる顔を殴ってやらないと気が済まないわよ」

「エリザ、言い過ぎ……でもないね、私も同じ気持ちです、皆と比べて出来る事は少ないけど私に出来る事をするつもり、デイジーにもそうやって助けてもらったから」


 話を聞いていたマキナも笑い、頷いた。

「休みの期間は一か月程ですかね、僕も………出来る事をさせてもらうつもりです」


 皆の声を聞いてアイザックは頷き、そして自分も決意した。

「あの勝気なデイジーが頼ってくれた、それならば俺達は応えよう、友として」


  

 デイジーは二回目の人生で記憶を取り戻した事は言わば、この世界にとって小さな波紋に過ぎなかった、些事でありいずれ消えゆく波。
 だが、彼女が過ごす時間で作り上げた友もまた波紋を作っていく、それは小さな波紋だったが共鳴し、混ざり合っていく、そうして小さくか弱い波がこの国に広がっていくことになった。



 小さな波紋、その影響は確実に時代を変える出来事に変わっていく。

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