【完結】捨てられ正妃は思い出す。

なか

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ランドルフside

 馬を走らせながら、俺は競技会に出場する前にローザと交わした話し合いを思い出す。

   ◇◇◇

「デイジーを…追い込む方法がある?」

「はい、ランドルフ様」
 
 突然の言葉に動揺しながらも、今の俺にとっては甘美な誘いの言葉に急ぐように尋ねる。

「なぜ、君がデイジーを?」

「私はこの前の舞踏会の件からランドルフ様を馬鹿にしているようなデイジーさんを許せなかったのです、だからランドルフ様を馬鹿にしたデイジー様を追い詰めるために色々と考えてきました」

 そんな事しなくていい、なんて言葉を吐こうと思っていたが…舞踏会の一件から打つ手が無くなっていた俺にとっては嬉しい言葉であった………何よりもローザが俺を愛し、俺を想って行動してくれた事に素直に嬉しいと思っている。

「それは…どんな計画だ?」

「……ランドルフ様、私の実家であるオルレアン公爵家は製薬、調剤を生業にしていることはご存知ですよね?」

「あ、あぁもちろんだ!それがどうしたのだ?」

 彼女はドレスの懐から2つの物を取り出した、小瓶と小袋?

「これは?」

「興奮剤……分かりやすく言えば強力な媚薬です、小袋に入った粉末は男性の性的な興奮を強く刺激します、そしてこれは馬にも効きます、馬が嗅げば暴走して制御が困難となるでしょう…何を考えているか分かってくれますか?」

「俺に、これを撒けと?」

「はい、出来ればレース中にです、デイジーのいる近くで使えれば尚良いでしょう…参加者として会場に入るときに声援に答える振りをして列から外れて探せば容易でしょう?」

「そ、それはそうだが…他に大勢の生徒達もいる、貴族の令息、令嬢がいるのだから暴れて怪我人が出てしまうぞ」

「そこで、この小瓶です」

 彼女が揺らした小瓶には液体が入っており、揺れた波紋によって水音が鳴った。

「こちらは誘惑剤です、先程の興奮剤を浴びた者がこの匂いを嗅げばその欲求はこの興奮剤の匂いをまとった者へ向かいます…鼻の良い馬であれば遠くからでも向かうでしょうね」

「デイジーにそれをかけるとでも?いくらなんでも怪しまれるだろう?」

「ええ、ですが興奮剤は封を開けているだけで発散し空気中に舞って衣服に付着します、それだけの少量であればデイジーが気付くような匂いもしません…私がデイジーを話があると呼び出して封を開けておくだけで目印は完了です」

「……………」

 魅力的な提案であったが、俺はどこか…自分でも分からない迷いが頭の中を埋め尽くす。
 この方法はデイジーを退学させるだけではない、死ぬかもしれない…そんな危険もある。
 ふと思い出すのはデイジーと過ごした幼き日々だ、一緒に花畑を散歩したり、王城を抜け出して一緒に王都に出かけたり、そんな何気なくて忘れていた思い出が俺を踏みとどまらせていた。
 俺は……今になって怖気づいているのか?覚悟を決めたというのに…。

 しかし、ローザは俺の両頬を抑えて笑いながら問いかける。

「もう、悩む必要はないのですランドルフ様…デイジーが大怪我を負えば自然と退学せざるを得ません…周囲の人間も彼女を失っては貴方に歯向かう者もいなくなりましょう」

「しかし…アイザックがいる、俺たちは奴に目をつけられるだけだ」

 俺の言葉にローザを首を横に振り、その必要はないと呟いた。

「興奮剤は人間の男性にも効くのです…ランドルフ様、貴方が上手く馬とアイザックに粉をかける事が出来れば…例え馬から逃れたとしてもアイザックに襲われて…デイジーは心の傷を負いましょう、アイザック自身も自身の行いによって学園にも戻れないでしょう」 

「いくらなんでも……やりすぎだ、俺はそんな事できない」

「ランドルフ様……」

 ローザは俯いて答えた俺の手を取り、自身の頬に触れさせる。
 柔らかい彼女の肌、きめ細かな肌触りを心地よく感じているとゆっくりと彼女が支える俺の手は胸へと下りていき、彼女の恥部である胸に押し込まれるように手を抑えられる。

「ロ……ローザ…」


 動揺し、思わず手を引こうとしても彼女がそれを許してくれない、頭が落ち着いていくにつれて胸の柔らかさを感じ、その心地よさに赤面してしまう。
 そんな俺の顔を彼女は上目遣いで見上げながら、耳元で囁くように懇願した。

「私を選んでくださった時から…この身体と心は貴方の物です、しかしこのままでは私達の幸せはあの女に乱されてしまう」

 クラクラと俺の頭が考える事を止めてしまう事を感じる、彼女と一緒になれる…その欲望が残っていた理性を貪り消していってしまう。

「覚悟を決めてください……私達の幸せのため、貴方の王政を確固たるものとするために…」

 胸に当てられた手が離れ、渡された小袋を握らされる。





 俺はデイジーが好き、それは本心だ。
 幼き頃に彼女と過ごした日々は色褪せずに今でも思い出す、彼女はいつも笑顔で俺に弱気な所を見せなかった、そんな気丈な所に惹かれていたのだと思う。
 手を繋いで共に歩いている時の赤面していた彼女、誕生日にあげたプレゼントに微笑んだ彼女、辛い時に見せた一粒だけの涙も美しかった。


 正妃として迎えるまでに過ごした日々は、俺にとって甘く幸せな日々であったことは間違いない。



 俺は…俺の選択は。

 決まっている。


























   ◇◇◇


「すまないな、デイジー…今の君は俺にとって邪魔なだけだ…君を愛していたのは本心だ、だが今の俺が愛しているのは紛れもなくローザだけだ、だから俺達の幸せのために……」 






 俺は競技の最中、疲れて今にも倒れそうになる程に足がふらついた馬に強く強く、何度もムチを打って走らせて一気に前に進んでいく。

 後ろにいるのは…数人、その中にはアイザックがいるのも確認している。


 ゴールまであと少し、先程デイジーはゴール付近で応援をしていたのは確認をしていた…この役立たずな馬では負ける事は確実である。
 おもむろに懐から取り出した小袋の紐を引き、後ろに撒いていく。

 馬の蹄によって巻き上げらていく砂塵の中に粉末の媚薬が混ざって後ろの者達に向かっていく。



「じゃあな、デイジー…もう俺の心の中にお前は……………いない」




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