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「ねぇ…なんでここなの?」

「少しだけ事情がありまして…まぁこの部屋については2人とも内緒でお願いします、私に話を合わせてください」

「デイジー…本当に心配ないの?」

 モネの心配する言葉に頷いて、心配させないように微笑んで答える。
 
「心配ありません、全て終わったら説明しますから、今は私の言葉を信じてください」

「…わかった、でも何かあったら頼ってね」

「はい」

 朝日が差し込む部屋の中、モネとエリザと言葉を交わしつつ時間を過ごす。
 普段であれば学園へと向かわなければならない時間であり、私達3人は揃って登校するため、いつも一緒の時間に寮から出ていくのだけど、今日は少しだけ違う日でもある…私達が支度を整えてゆっくりとしていると寮の外から声が聞こえてくる。


「皆さん、お迎えに来ました!」

 元気な声で言ったのはマキナであった、手綱を握って馬を数頭連れてきて寮の外まで向かえに来てくれたのだ。

 今日は騎乗競技会の本番でもある…会場までをマキナが連れて行ってくれると言ってくれていたので私達はゆっくりと過ごしていた。
 マキナの声に気付いて私は部屋の窓を開いてから身を乗り出し手を振り、モネ達と外に出ていく。

 眩しい朝日に少し目を細め、馬を引いて来てくれたマキナに感謝の言葉と共に頭を下げる。

「ありがとうマキナ、わざわざ迎えに来てくれて」

 私の言葉にマキナは首を横に振りながら答えた。

「いえ、僕も皆さんと一緒の方が気持ちも楽ですから…しかし女性の寮は豪華ですね…デイジーさんの部屋は先ほど窓から見ていた部屋ですか?」

「…ええ、そうです」

「そうだったんですね、角部屋は羨ましいです」

 他愛のない会話を交わし、私達は馬に乗せてもらい騎乗競技会への会場へと向かっていく、アイザックの練習の日々に付き合ったおかげで私達もそれなりに乗馬の技術が身についた、お尻は痛いし速く走らせたりは怖くて出来ないけど、やはり馬にまたがって進むのは気分がいい。



 久々にスッキリする気分だ、悩んでいる事も今は忘れてモネ達と談笑しながら会場へ向かっていくが、私の悩みの種は常に向こうからやって来るものだ。

 後方より土煙を上げ、蹄の音を鳴り響かせて馬を走らせてきた者が前方にいる私達に構いもせずに突っ切ってきたのだ。

「っ!!危ない!」

 咄嗟にマキナが馬達の手綱を引いて私達を道から逸らしてくれたので難は逃れたが、下手をすれば激突して大怪我をしていた所であり危険な行為だ、怒りの声をすぐさま上げたのは血気盛んなエリザであった。

「ちょっと!!危ないじゃない!!」

 声を聞いて馬を止めた者は振り返り、こちらを睨みつけた。

「ランドルフ……貴方は本当に…」

 私は呆れた声を出しながらため息を吐いた、またか…という思いが溢れてくる、毛並みの良い血統馬に乗ったランドルフは後ろにローザを乗せ、私達を見ながら鼻で笑った。

「お前たちか………貧馬に乗って恥ずかしくないのか?俺がそんな馬に乗れば恥ずかしくて自殺を選んでしまうぞ」

「な!あんたね…」

 言い返そうと口を開いたエリザを手で制止しながら私はニコリと微笑み、拍手をして彼を褒め称えた。

「素晴らしいです、ランドルフ…優秀な血統馬に乗ってくるのはまさに王族の証明です!」

 予想外の私の言葉に彼は分かりやすく気分を良くしたのか、大きな高笑いをして私達の馬を指差した。

「騎乗競技会になぜ貴族の参加者が多いか教えてやろうか?この大会は自家の馬も参加させることは可能なのだ、知らぬ馬に乗って怪我もしては大ごとだからな、皆が勝てる血統馬を連れてくる…この学園の貧しい厩舎で育っている貧馬如きを連れてくるなど噴飯ものだぞ!」

「本当に素晴らしい馬ですね!!」

「ふはは!!そうだろう、デイジーよお前には呆れていたが見る目はあるようだな」

 私は笑顔を絶やさずにランドルフに言葉を返した。

「それに比べて、貴方はとても情けないですねランドルフ」

「は?」

「そうやって目立つ白馬に乗って、血統馬を自慢しているのは自信の無さが露呈していますよ?…今回の騎乗競技会で優勝でもして舞踏会での恥を払拭したい事が透けて見えますね、貴方の情けない姿と裏の顔がばれて学園での王子としての立場が危ういですものね?ランドルフ」

「な!!き、貴様…言わせておけば…」

「あら?当たっておりましたか?」

「不敬な!この国の王子であるこの俺に対して許されぬ発言だぞデイジー!」

「王子という自覚があるのなら、それらしい振る舞いをしてください…先程の暴走行為も無駄に馬を興奮させ疲れさせるだけです、それにマキナが咄嗟に手綱を引いてくれなければ私達も怪我をしていたかもしれませんよ?女性達を怪我させて無責任で済むとでも?よく考えて行動されては?」

「ぐ…こ…この!」

 返す言葉も無く、怒りだけが先行して理性を無くした彼は拳を握り、馬に乗った私に近づいてそのまま拳を振り上げた。

 拳がそのまま下ろされ、私に理性を失った獣のような暴力を行おうとしたランドルフであったが私を含めてモネやエリザ、マキナの反応は冷静であり、叫ぶ者や焦った者は誰もいなかった…なぜか?ランドルフの後方より近づいていた彼の姿が見えていたからだ。


「何をしている貴様」

 ランドルフの拳が下ろされる前に止めたのは、同じくマキナが世話をしていた厩舎の馬に乗ったアイザックであった、彼の瞳は怒りを宿しながらランドルフを睨みつけながら、その怒りはランドルフを王子として見ていなかった。


「ランドルフ…貴様は何をしようとしていた?…答えろ!」



 威圧し、叫んだアイザックは私でさえ恐怖を感じるほどであった、それを真に受けたランドルフは少し瞳に涙が浮かんでいるほどに怯えていた。

 私も少しだけ怖いと思ってしまったが、それ以上にアイザックが私のために怒ってくれている事に嬉しいと感じていた。





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