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マキナside

 強い意志を持ちたい…あの時デイジーに相談したのは本当に気まぐれであった、僕はローザ様に対して意見したり、否定出来るような強さはない、嫌われてしまう恐怖や自分の人生が否定してしまうようで怖いのだ。
 ローザ様のために生きてきたのに、彼女に逆らえば僕の人生は何だったのか…そんな虚無感に襲われる事が怖くて何も言えない。


 なのに…デイジー、君は。

「どのような答えを持って来てくれたのですか?デイジーさん、教えてください」

 僕はデイジーの言葉を切望するように尋ねた、彼女と僕は似た境遇だったと思う。
 ランドルフの正妃として教育を受けて人生を捧げていた、しかし結果は情け容赦もなく捨てられてしまったのだ、僕が同じ仕打ちを受ければ…きっと耐えられないだろう。

 なのに、彼女はまるで気にせずに毅然としている…だからこそ彼女の真意を求めた。

「答えを言いましょう、強い意志を持つ方法………それは」

 彼女の答えを静かに待つ、期待のせいか時間が流れるのが遅く感じて彼女の次の言葉を待っている間の沈黙の時間がまるで無限に感じるように長く、長く感じてしまった。

 それだけの期待をしていた彼女の答えは予想すらできなかった。

















「そんなもの、ありませんよマキナ」




「………は?」


 何を言っているのですか?と思わず怒気を込めて言い出しそうになった僕の言葉よりも先に彼女は喋りを続けた。


「誰も、強い意志なんて持っていませんよ……悪口を言われば傷つきます、恐怖を感じれば震えます…それは誰もが共通してもっている当たり前の感情です、平然と何かに立ち向かえる人なんていません」

「ふ、ふざけないでください!」

 思わず平静を失って、荒げた言葉で返してしまったがもう止められない、怒気を交えた言葉が次々と彼女へと向かっていく。

「からかいに来たんですか?僕は本当に貴方の考えが聞きたいのです!貴方自身が言っている事に矛盾した行動をしているじゃないですか」

「………いえ、矛盾していませんよ…私はいつでも怖いと思っています、ランドルフと話す時は手が震えて動悸だって酷く荒くて苦しいのです、きっと貴方と同じです」
 
「な…何を言ってるんですか……なら、それなら何故貴方は彼に立ち向かるのですか!」


 僕は貴方の事を知るために影でずっと見てきていた、この学園で過ごす貴方はいつだって強くて、誰にも物怖じさえしない人だった、そんな貴方が怖くて震えていたというのなら…なぜ今もこうして自信満々に立っていられる? 
 尋ねた疑問、彼女は朗らかに笑いつつ答えを聞かせてくれた。

「怒りです、私にはそれだけが背中を押してくれる原動力でした」

「い…怒り?」

「私はランドルフに人生を捧げて生きていました、彼のために血反吐を吐く思いの日々さえ過ごしてきていたの…でも結果は彼に裏切られて、捨てられました…その結果、私はどんな選択をしたと思いますか?」
 
「………」

「自死です、首を切り裂いて白き花畑を血みどろの地獄に変えながら死に絶えました……悲惨で最悪の選択」

「な…何を言っているのですかデイジーさん」

「…冗談です、それ程の悲しみを受けたという訳です」

 冗談だと言ったはずなのに、僕には彼女は噓を言っているようにはとても見えなかった、本当にそれ程の経験をしたかのような確かな説得力があったのだ。

「悲しみを受けたからこそ、私は怒りも感じた…身を焦がすような、滾るような怒りが恐怖を払拭して私を奮い立たせてくれる」

「僕も…何かに怒りを感じれば良いと?」

 僕の言葉に彼女は首を横に振って否定した。

「違います、私が言いたいのは誰にでも恐怖は存在しているという事、怖いという感情は恥ずべき事ではないのです…きっかけさえあれば人は奮い立つ事が出来る、意志の弱さや身体の弱さなど関係ありません」

「きっかけ…そんなの…来るはずが」
 
 彼女は僕の胸元に人差し指を当て、クスリと笑う、その微笑みに思わず目を惹かれた僕に彼女の言葉が続いた。

「私は怒りを感じて身を守るために立ち上がりました、貴方にもそんなキッカケがいつか来るはずです」

「そんな奇跡みたいな事、ありませんよ……今だって僕は騎乗競技会に参加しても目立ってしまう事を恐れて馬を全力で走らせてあげられないかもしれない」

 思わず吐き出した悩み、言わないでおこうと思っていたのに彼女の答えが聞きたくて思わず言ってしまった。

「…マキナ、貴方が厩舎で彼らと接している時は本当に家族のように大切にしてると感じる事ができました、騎乗競技会に参加するのは貴方だけではありません、大切にしていた家族と一緒なのです…彼らが望むのであれば貴方がすべきことは一つです」

「一つ…」

「彼らが望むように走らせてあげればいい、目立っていいではないですか…マキナだけじゃない、家族の晴れ舞台でもあるのですから」

 僕は隣にいた馬を見つめる、そうか…僕だけの舞台ではない…競技会では一緒だ。

「とは言っても、決断は貴方がすべき事であり、私が無理強いする事ではありませんね、貴方が怖いというのなら…目立つことは避ければいい、でも…貴方が奮い立って馬と共に全力を尽くすのなら」



 デイジーは言葉を続けた。 
 僕を真っ直ぐに見つめながら。




「私と、私の友達は絶対に貴方を応援します、どんな結果であろうとマキナの味方です…それだけは約束しますよ」


 笑ってそう言った彼女に僕は心の中で包まれるような安心感を感じた、今この場で僕の事や真実を告げても受け入れてくれるかのような心地良さを彼女はくれる。
 周りに素直な人達が集まる訳も分かる気がする、僕も…彼女と共に過ごしたいと思ってしまうからだ。







「マキナ、ゆっくりと考えて決めて下さい…キッカケは案外と直ぐに見つかるものですから」





 言い終えた彼女は僕の返事も聞かずに厩舎を去っていった、僕はローザ様に逆らう事はできない…ローザ様のために生きてきたんだ、受けた恩を返すためにデイジーを殺す覚悟をしないといけない。



 それでも、この揺らぐ気持ちはきっと…僕にとってのキッカケが………デイジーでもあるのかもしれない。



 1人ではないと言ってくれる彼女を思いながら、揺れる覚悟の中で僕は見つからない答えを頭の中で探し続けた。



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