上 下
36 / 75

32

しおりを挟む
 授業が終わり、いつものように次の授業の準備を手早く済ませると私はモネ達にお手洗いに行くと告げて教室を後にして、男子生徒達の校舎と繋がっている渡り廊下に向かった。
 そこに立っていたアイザックに、私は周囲に人がいない事を確認して声をかける。

「アイザック、頼んでいた事…分かりましたか?」

「あぁ、しかしおかしな頼み事だな…学園で君に敵意を向けているような人物を探して欲しいなんて」

 私は彼の騎士としての直感に頼ってとあるお願いをした、学園で過ごす私を隠れて監視し、私に敵意を向けた人物を教えて欲しいといった内容だ。
 そのために今日はわざわざ必要もない場所をウロウロと歩き回った。

「結果はどうでしたか?」

「結論から言えば、少ないが敵意を向ける者はいた……しかしこれは君の目立つ行為や服装に対する評価のようなものだ、友好的な者は敵意を向けるはずがない」

「そうでしたか………では、貴方の直感で私の身近で大きな敵意を向けている人物を教えてください」

「無論、ランドルフだな…それは君もよく分かっているだろう」

「ええ、嫌というほどに…他には?」

「和解する前のエリザや舞踏会ではガーランド講師だな…後は気になる程度なのだが…」

 言いよどんだ彼に私は促すように声を掛ける。

「些細な事でも構いません、教えてくれませんか?」

「ローザも、君に対して僅かにだが敵意を向けているように感じた…だが、これもランドルフ関連だろう、奴なら出鱈目な話もするだろうからな」

 なるほど…アイザックの敵意を感じた相手を見れば、私の覚えにも当てはまる…それにしてもローザが既に私に敵意を抱いているのであれば下手な接触はむしろ逆効果だ、なんとか説得してあのランドルフと距離を置いてもらいたいのだけど…。
 今は向こうからの反応を待つしかないだろう。





「ところでだ、デイジー…」

「っ!?顔が近いですよ…アイザック」

 急に近寄った彼に思わず目を逸らす、舞踏会以降…彼との距離間が上手く取れないでいる、何故か恥ずかしいと思ってしまうのだ、しかしこれは一時の事だろう、時間が経てば前のように戻るはずだ。
 思考している間にアイザックは言葉を投げかける。


「なぜ急にこんな頼みをしたのだ?教えてくれないだろうか?」

 当然の質問だろう、彼にしてみればいきなり敵意を向けられていないか確かめて欲しいなど気になるに決まっている、しかし話して良いものだろうかとも思う。

「気になっただけです、私がどれだけ多くの人に嫌われているかを…」

「噓が下手だなデイジー、俺は君がその程度を気にする柔な性格ではない事は知っているぞ」

「わ、私の何を知って…」

 言いかけた私の口元にアイザックの指先が当たり、間近に迫った顔に私の頬は朱に染まってしまう、いきなり過ぎるのだ、彼の距離の取り方に文句でも言ってやろうかと思ったが、続く彼の言葉でそんな事は忘れてしまった。

「言ったはずだ、俺が君に抱いている恋心はいかなる逆境、困難でさえも立ち向かう勇気であり、君に振り向いてもらうためであれば、王家にだって逆らって見せる…そんな俺を信頼してくれないだろうか?君の信頼に足りないだろうか?俺は君を本気で想って守りたいと思っている…」

「っ!い…いきなりなんですよ…貴方は…」

「これが俺だ、君のためなら積極的になれる」

「……わ、分かりました!言いますから…とりあえず離れてください!」

 いつしか目と鼻の先になっていた顔の距離に私は跳ねる鼓動を抑えるので必死であった、彼の積極的な行動は舞踏会の頃からエスカレートしている、気を付けなければならない。
 少なくとも今の私はそういった事に現を抜かしている暇は………ないから。


「貴方を信用します…ですが今から話す事はモネとエリザには内緒でお願いします…下手に不安を煽るだけですので」

「無論だ、俺も彼女達に余計な不安を与えたくない」

 アイザックと意見が同意し、一安心しながら私はとある考えを告げた。

「昨日の一件、私はアイザック、モネとエリザを襲った人物がいると考えています」

「………な、なんだと?」


 彼の驚く声と共に私はそう思った理由の説明を始めた。

 彼らの記憶と今朝の会話の中に襲ったと思われる疑いが存在していたからだ。



しおりを挟む
感想 118

あなたにおすすめの小説

元侯爵令嬢は冷遇を満喫する

cyaru
恋愛
第三王子の不貞による婚約解消で王様に拝み倒され、渋々嫁いだ侯爵令嬢のエレイン。 しかし教会で結婚式を挙げた後、夫の口から開口一番に出た言葉は 「王命だから君を娶っただけだ。愛してもらえるとは思わないでくれ」 夫となったパトリックの側には長年の恋人であるリリシア。 自分もだけど、向こうだってわたくしの事は見たくも無いはず!っと早々の別居宣言。 お互いで交わす契約書にほっとするパトリックとエレイン。ほくそ笑む愛人リリシア。 本宅からは屋根すら見えない別邸に引きこもりお1人様生活を満喫する予定が・・。 ※専門用語は出来るだけ注釈をつけますが、作者が専門用語だと思ってない専門用語がある場合があります ※作者都合のご都合主義です。 ※リアルで似たようなものが出てくると思いますが気のせいです。 ※架空のお話です。現実世界の話ではありません。 ※爵位や言葉使いなど現実世界、他の作者さんの作品とは異なります(似てるモノ、同じものもあります) ※誤字脱字結構多い作者です(ごめんなさい)コメント欄より教えて頂けると非常に助かります。

役立たずの私はいなくなります。どうぞお幸せに

Na20
恋愛
夫にも息子にも義母にも役立たずと言われる私。 それなら私はいなくなってもいいですよね? どうぞみなさんお幸せに。

不遇な王妃は国王の愛を望まない

ゆきむらさり
恋愛
稚拙ながらも投稿初日(11/21)から📝HOTランキングに入れて頂き、本当にありがとうございます🤗 今回初めてHOTランキングの5位(11/23)を頂き感無量です🥲 そうは言いつつも間違ってランキング入りしてしまった感が否めないのも確かです💦 それでも目に留めてくれた読者様には感謝致します✨ 〔あらすじ〕📝ある時、クラウン王国の国王カルロスの元に、自ら命を絶った王妃アリーヤの訃報が届く。王妃アリーヤを冷遇しておきながら嘆く国王カルロスに皆は不思議がる。なにせ国王カルロスは幼馴染の側妃ベリンダを寵愛し、政略結婚の為に他国アメジスト王国から輿入れした不遇の王女アリーヤには見向きもしない。はたから見れば哀れな王妃アリーヤだが、実は他に愛する人がいる王妃アリーヤにもその方が都合が良いとも。彼女が真に望むのは愛する人と共に居られる些細な幸せ。ある時、自国に囚われの身である愛する人の訃報を受け取る王妃アリーヤは絶望に駆られるも……。主人公の舞台は途中から変わります。 ※設定などは独自の世界観で、あくまでもご都合主義。断罪あり。ハピエン🩷

〈完結〉八年間、音沙汰のなかった貴方はどちら様ですか?

詩海猫
恋愛
私の家は子爵家だった。 高位貴族ではなかったけれど、ちゃんと裕福な貴族としての暮らしは約束されていた。 泣き虫だった私に「リーアを守りたいんだ」と婚約してくれた侯爵家の彼は、私に黙って戦争に言ってしまい、いなくなった。 私も泣き虫の子爵令嬢をやめた。 八年後帰国した彼は、もういない私を探してるらしい。 *文字数的に「短編か?」という量になりましたが10万文字以下なので短編です。この後各自のアフターストーリーとか書けたら書きます。そしたら10万文字超えちゃうかもしれないけど短編です。こんなにかかると思わず、「転生王子〜」が大幅に滞ってしまいましたが、次はあちらに集中予定(あくまで予定)です、あちらもよろしくお願いします*

初恋の兄嫁を優先する私の旦那様へ。惨めな思いをあとどのくらい我慢したらいいですか。

梅雨の人
恋愛
ハーゲンシュタイン公爵の娘ローズは王命で第二王子サミュエルの婚約者となった。 王命でなければ誰もサミュエルの婚約者になろうとする高位貴族の令嬢が現れなかったからだ。 第一王子ウィリアムの婚約者となったブリアナに一目ぼれしてしまったサミュエルは、駄目だと分かっていても次第に互いの距離を近くしていったためだった。 常識のある周囲の冷ややかな視線にも気が付かない愚鈍なサミュエルと義姉ブリアナ。 ローズへの必要最低限の役目はかろうじて行っていたサミュエルだったが、常にその視線の先にはブリアナがいた。 みじめな婚約者時代を経てサミュエルと結婚し、さらに思いがけず王妃になってしまったローズはただひたすらその不遇の境遇を耐えた。 そんな中でもサミュエルが時折見せる優しさに、ローズは胸を高鳴らせてしまうのだった。 しかし、サミュエルとブリアナの愚かな言動がローズを深く傷つけ続け、遂にサミュエルは己の行動を深く後悔することになる―――。

人生の全てを捨てた王太子妃

八つ刻
恋愛
突然王太子妃になれと告げられてから三年あまりが過ぎた。 傍目からは“幸せな王太子妃”に見える私。 だけど本当は・・・ 受け入れているけど、受け入れられない王太子妃と彼女を取り巻く人々の話。 ※※※幸せな話とは言い難いです※※※ タグをよく見て読んでください。ハッピーエンドが好みの方(一方通行の愛が駄目な方も)はブラウザバックをお勧めします。 ※本編六話+番外編六話の全十二話。 ※番外編の王太子視点はヤンデレ注意報が発令されています。

立派な王太子妃~妃の幸せは誰が考えるのか~

矢野りと
恋愛
ある日王太子妃は夫である王太子の不貞の現場を目撃してしまう。愛している夫の裏切りに傷つきながらも、やり直したいと周りに助言を求めるが‥‥。 隠れて不貞を続ける夫を見続けていくうちに壊れていく妻。 周りが気づいた時は何もかも手遅れだった…。 ※設定はゆるいです。

王子妃教育に疲れたので幼馴染の王子との婚約解消をしました

さこの
恋愛
新年のパーティーで婚約破棄?の話が出る。 王子妃教育にも疲れてきていたので、婚約の解消を望むミレイユ 頑張っていても落第令嬢と呼ばれるのにも疲れた。 ゆるい設定です

処理中です...