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「えらく物騒な言葉を使うのね、デイジー」

 アメリア学園長は私の言葉を聞きながら呟いた。

「ええ、あえて強く言っております……冗談ではないと理解してくれましたか?」

「嫌というほどにね、まさか一国の転覆が計画だったなんて……予想外ね、内容によっては貴方を騎士団に連行しないといけない、聞かせてくれる?ただの国家の崩壊を目指しているの?その先に貴方は何を見ている?」

 アメリア学園長の当然の問いに、私は考えていた構想を全て明かす。
 ここで隠し事をしても損しかない、強力な味方を手に入れるために私の全てを晒す気でいかねばならない。

「もちろん、王家の崩壊が完全な目標ではありません…その先、今後もふざけた権力者の横暴を許さない為に、私はこの国を大きく変えます、その足がけとして…この国は王国から、公国へと姿を変えて頂きます」

 王家が主軸とした国家から公家…つまり貴族を主軸とした国家へと姿を変える、貴族同士で国のために動く公国へと変えていく…これが私の目指すべき目的で、ランドルフに対しての復讐でもあった。
 私の答えにアメリア学園長の瞳は輝き、待っていた言葉だったかのように身を乗り出す、その期待に満ちた瞳には確かに私に希望を抱いていた。

「流石ね、完璧よデイジー、やはり貴方はこの学園を……いえ、この国を変える可能性に満ちているわ、今の王家は不正に満ちている、先代の王は賢王と呼ばれていたけど、その息子も賢王とは限らない、今の王は自身の権力の維持のために民へ重税を強いて苦しめている、このままでは向かう先は国の崩壊だった、それを貴方なら変えてくれるかもしれない」

 意外な称賛の言葉に私自身も驚いてしまう、まさかアメリア学園長もそうした考えを持っていたとは…。

「意外でした…否定されると思って此度の脅しを考えたのですが………」

「やり方には驚いたわ………でも今まで王家に対して歯向かうなんて人は私も含めて誰もいなかった、私を含めて皆が保身のために王家の不正を見て見ぬふりをしていた……それを貴方は1人で立ち向かい、現に私を手籠めている……長く続いた腐敗政治に終止符を打てると期待しているのよ」

「買い被り過ぎです、私の計画は穴だらけですから…それにアメリア学園長の協力が必要不可欠です」

「それで、私に一体なにをさせようというの?」

 喜々としているアメリア学園長にして頂きたい事はたった一つだった。

「ランドルフ王子、そして王家へ退位を求めて賢人会議を開いて頂きます…アメリア学園長なら、それが出来ますよね」

「デイジー…貴方はどこまで考えているの…」

 賢人会議とは王国の有力貴族達が王家への不満や不信を感じた際に責任を追及する会議だ、王妃教育の際に一般教養として少しだけ教えて頂いた、先代の王が優秀だったため、今となっては風化して忘れられたような制度であるが今回に限ってはこれを使う以外に道はない。
 この制度であれば、王家へ退位を迫る事が出来る……しかし重要な問題もあった。

「賢人会議…それなら確かに王家へ一手打てるわ、でも重要な二点の問題がある…まずは賢人会議で退位を求める事が出来るだけの王家の失態とその証拠が必要よ」

 アメリア学園長の当然の答えに私は頷いて答えた。

「王家の失態について、ランドルフ王子は現在追い詰められています…この状況であれば必ず大きな失態を犯すはずです」

「王子の動き頼りね……心もとないけど、それしか方法がないのが歯がゆいわね………私からも現王の不正の証拠を集められないか探ってみるわ」

「ありがとうございます、アメリア学園長」

 心強い言葉に私は安堵する、ここで拒否されてもおかしくなかった…アメリア学園長の言う通り、この計画はランドルフの失態を待っている状態だ、彼がアクションを犯さなければ動かないし動けない…そのために私はランドルフと必要以上の接触を避けて、彼が自由に悪行が尽くせる時間を作っている。

 そして、それ以上の問題が一つあった。

「最後の問題よ、退位を求めるには諸侯貴族達の過半数の賛成が必要、そしてそれには賢人会議の出席者の影響が大きいの…現王の支持は諸侯貴族達の約7割を占めている、失態を犯したとしても4割は残る事は確実だわ…そこにローザさんの実家であるオルレアン公爵家が支持を表明すれば、いくら大きな失態でも退位は不可能ね…過半数も賛成は集められない」

「分かっています、私の学友であるアイザックの実家、マグノリア公爵家とアメリア学園長のラインズ公爵家が王家の退位を求めても集められる支持層は良くて4割だと…」

 足りないのだ。
 ローザのオルレアン公爵家は薬学にて薬を作り出し、他国へ輸出する事で莫大な利益を生み出している、その恩恵にあやかっている貴族達も多く、ランドルフとローザの結婚が決まってしまえばオルレアン公爵家が王家へ味方をしないはずがない。

「つまり、デイジー…貴方も分かっていると思うけれど…この計画の重要な人物は…」

「はい、ローザが計画の要となっています…しかし、彼女の考えは私にもよく分かっていません…手をこまねいているのが現状です」

 ローザ、彼女は不思議な人物だった。
 こちらを意識しているのは分かるが、実際に手を出して何かを行ってくることはない、そして人前でランドルフと話す姿さえあまり見せないためにその本心を掴みにくかった、舞踏会のあの騒ぎでさえ静観を貫いていたのだから驚きだ。

「ローザさんね…私への報告には特に異常もない…むしろ完璧な程に成績優秀で非の打ち所がないわね」

「そう聞いています、それに私は何処か避けられているようで…」

 実は何度かローザとは話そうと接触を試みた事があったが、普段はランドルフと過ごしており、たまに1人で過ごしている所に近づいても足早に去ってしまうのだ、なにか嫌われる事をした自覚はない。
 だが、私は彼女と話さないといけない…そんな直感が働いているのだ。

「ローザさんとは、いつか話してみます…味方になってくれる確証などありませんが話をしてみたい気持ちはあるのです」

 アメリア学園長は頷きながら、言葉をかける。

「分かりました私も今は吉報を待つことにします、もう時間は遅くなってしまったわね…デイジー、私は貴方に期待しています…でも、1人で抱え込んではいけませんよ?困った時は頼りなさい…大人と学友を、分かりましたか?」

「はい…うまくできるか…分かりませんが」

 頼ることは難しい、それはきっと誰かを利用するよりも難しい事だと思う…アメリア学園長は笑いながら、かつての自分を私に重ね合わせたかのように、懐かしんで言葉を続けた。

「大人になる最初の一歩は、誰かを頼る事よ…1人では出来ない事が仲間となら果たせる…これからの貴方の成長に期待しているわ」

 私は頷き、学園長室を出ながら返事をした。

「善処いたします、誰かに頼れるように」

「貴方の活躍を見守っているわ…デイジー」


 閉じられた学園長室を後に、私は帰路につく。
 外はすっかり暗く、寮まで戻る道のりに誰か付き添いの方をアメリア学園長が呼んでくれるようだ。
 私は中庭へと赴いて待つことにした、暗い中でぼんやりと佇みながら前に進んだ計画に浮足立つ気分でいると、ふと…道に落ちているソレに気付いて思考が止まる。

「なにが……あったの…」


 手に持ったソレを見つめながら…私は呟いた。

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