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 張り詰めた緊張感の中でアメリア学園長は私達の前までやって来る、何も言わずに私達を見回し、その鋭い視線をまずはランドルフへと向けた。

「貴方の、その振り上げた拳はなんですか?」

「は…こ、これは」

 ただの質問でさえ何処か気迫を感じさせ、思わずたじろいだランドルフにアメリア学園長は逃がす事なく言葉を投げかける。

「この学園で不当な暴行は許しません、すぐに拳を下ろしなさい…対話さえ出来ぬ者は学園に必要ありませんよ」

「………………す、すみま…せん」  

「気をつけなさい、そして今一度考え直しなさい…貴方は何を背負っているのかを」


 まるで獲物を逃さぬ鷹のように、その気迫は獅子を思わせ…一切の言い訳を許さぬ雰囲気を感じさせるアメリア学園長、今度はガーランド講師へと視線を向けた。

「…ガーランド講師…、先程の貴方の言葉は聞こえてきました、全て真実なのですね?」

「はい…噓偽りありません…アメリア学園長、貴方の期待を裏切ってしまい……申し訳ありません」

「謝罪の言葉は必要ありません、真実を確かめるだけです………他の講師の方々!!いるのでしょう!?」

 会場に響く声量の声に思わず肩を竦める人が何人がいた…この騒ぎを見ていながらも責任を取りたくないと思って見守っていた講師の数人だ、ガーランド講師が意図的に仕組んだのだろうか、若く新人の講師達であった。

「貴方達の責務を思い出しなさい、これだけの生徒の方々を預かっている責任感を持ちなさい!こうした騒ぎを大人である貴方達が何もせずに見ているだけの情けない姿を生徒達に見せずに行動しなさい!!」


 𠮟咤に押されて、講師達は慌てたように私達の元へとやって来る、そんな彼らにアメリア学園長は指示を出す。

「ランドルフとガーランド講師から事情を聞くために別室へ連れて行きなさい」

「な!?お、俺は!」

「言い訳は後で聞きます!連れて行きなさい」

 講師達に連れられてランドルフとガーランド講師は舞踏会の会場から連れ出されていく、残った講師に再度アメリア学園長は指示する。

「他の生徒達は講師の皆様で寮へと送り届けてください、舞踏会は中止とします。」


 アメリア学園長は周囲の生徒達を見渡して頭を下げた、その所作には美しさを感じさせて。

「此度の責任は学園長である私の責任でもあります、生徒の皆様には大変なご迷惑をお掛けしました……後日、改めて説明します、今夜の舞踏会は中止とさせてください」

 自分が悪い訳でもないのに、謝罪した学園長に誰も文句を言えるはずもない…講師の指示に従って皆が会場を後にしていく。


「お兄様が…ごめん、デイジー」

 会場から出ていく生徒達の波の中でエリザは私達の元へとやってきて頭を下げる。

「いえ、私は大丈夫です…しかし貴方が怒ってくださったのは意外でした……私は嫌われていそうでしたので」

「確かに、最初は嫌いだったけど、貴方の言ってる事に間違いはなかった…モネと本当の意味で友達になれたのは貴方のおかげだから…ありがとう」

「こちらこそ、貴方のおかげで冤罪が晴れました…しかしお兄様は…」

「仕方ない…うん…仕方ないのよ、お兄様は取り返しのつかない事をした………フィンブル伯爵家には冷たい風が吹きそうね」

「エリザ、もし貴方が嫌でなければ…学園では私達と一緒に過ごしませんか?助けてくれた貴方が責められるのは忍びない、それに貴方のような強気な女性とは仲良くできそうです

「………いいの?これから私といれば後ろ指を刺される事になるかもしれないのよ?」

「もちろん、そんなの気にすると思いますか?2人も問題ありませんよね」

「私はエリザとデイジーとも仲良くしたいから、もし一緒にいれたら嬉しいな……それに周りの視線なんて関係ないよ」

「ふははは!!そうである!気にする必要はあるまい!学友は多い方がいいだろう!」

 エリザは少しだけ呆れたように笑い、そして憑き物が取れたような爽快に笑った。

「なんだか、貴方達が楽しそうだった理由がよく分かったわ」

「それは、良い意味と捉えておきますね」



 こうして、舞踏会は騒ぎの中で各生徒達はそれぞれ帰っていき…私も同様に寮へと帰っていく…予定だった。

「デイジー、貴方は後で学園長室まで来なさい…事情を聞かせてもらうわ」

 まぁそんなはずもない、私も騒ぎの原因の1人なのだからアメリア学園長に呼ばれて当然だろう。

「アメリア学園長、デイジーは巻き込まれただけだ!」

 アイザックは抵抗するように間に入ったがアメリア学園長は首を横に振る。

「例え被害者だとしても、両者の意見を聞いておかなければなりません………それに」

 アメリア学園長はそっと、私の耳元で囁いた。

「個人的に聞きたい事もありますので、よろしいですね?」


 

 私には元より拒否する理由はない、頷き答えた。


「分かりました」と





























   ◇◇◇



ローザside


「ふざけないでよ、なんてヘマしてるのよ………」

 舞踏会が終わって、帰っていく生徒達の波から見つからないように抜け出し、私は思わず爪を嚙みながら呟いた。

「賢くはないと思っていたけど、ここまでなんて…」

 ランドルフの策は失策もいい所、自分自身で自らの権威を落としてしまうような行動に思わず腹が立つ、だが私にはどうしても叶えたい前世からの夢がある。
 そのためには王子の失策を取り戻す必要があるのだ。


「––」

 突然、陰から声がかけられる……私が生徒の集団から抜け出したのを見ていたのだろう、いつものように姿を見せずに声をかける彼は言った、「大丈夫ですか?」…と、私は首を横に振る。

「大丈夫なはずがない、このままじゃ私の夢は潰れて消えてしまう」

 いっそデイジーを殺すように、命令をするか?………いや、まだ早い…状況を戻すのが今は必要な事だ。
 頭を悩ませていると、集団に遅れるようにデイジーと一緒にいた取り巻き達が歩いているのを見つけた。

「そうか、まずは………」

 デイジーはいない、これはまたとない好機…彼女を再び孤独にすればこちらも動きやすい、彼らを懐柔してしまおう……男性には私の女性としての美しさを、他2人には揺るぎない公爵家の権威をちらつかせれば、いとも簡単にいくはず。


「結局、美しく権威を持った女性が勝つのよ………そうよ、やっと手に入れたこの立場を使わなくてどうするの…」


 彼女の学友をそっくりそのまま、私の手元に引き寄せよう……もう前世の私とは違う、それができる程の魅力を持っているのだから。

 デイジーなんかよりも魅力的な私であれば、できない事はない。


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