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「いきなり何を言っている!!………見たことがない顔だな、平民は黙っておけ!」
ランドルフはモネを馬鹿にし、ドンっと肩を押してどけようとする、その行為に私は思わず頭に血が上り、手を上げようとしたが、モネは一切怯む事なくランドルフへ食って掛かる。
「今この話に、貴族や平民などの身分は関係ありますか?…平民は抗議の声さえ上げるなと言論弾圧…民意は聞かぬと一国の王子が発言したと捉えてもよろしいのですね?」
「な……貴様…」
「私はデイジーと共に学園で過ごしていました、だからこそ……ハッキリと言えます、デイジーはそんな姑息な手を使うような女性ではないと…………これ以上、私の友達への侮辱は許しません!」
かつてオドオドと、自分の気持ちを吐露する事をためらっていたモネはもう既にそこにはいない、権威に一切怯む事なく立ち向かう彼女に…確かに私は勇気を貰った、一回目の人生の私自身に似ているなんて思っていたけど…大きな間違いだ、彼女の精神は強く気高い、姑息な王子や貴族なんかより。
私のために立ち上がってくれたモネに心から感謝しながら顔を上げ、彼女の手を握ると震えていた…人がいきなり強くはずがない、恐怖しながらも…モネは。
「ありがとう、モネ」
「デイジー…」
「ここからは大丈夫です、無理させましたね」
「わ、私は悔しくて…デイジーはそんな事しないって知っていたから」
「その通りだ!俺たちは断固として抗議するぞ!」
呼応するようにアイザックも私の隣に立ち、ランドルフとガーランド講師を睨み付ける、周囲の生徒達は固唾をのんで様子を見守っている。
好き勝手ランドルフに言われるのも気に食わない…私は口を開きランドルフとガーランド講師へと言葉を投げかける。
「ガーランド講師、私は貴方に演奏曲を変えて欲しいと頼んだ事は一切ありませんよ?私を貶めるための虚偽の報告は我がルドウィン伯爵家からも正式に抗議させていただきます」
「無論、マグノリア公爵家からもだ…くだらない戯言に付き合っている暇はない、これ以上の虚偽の答えは許さん」
周囲の生徒達は突然の出来事の連続でうろたえている者がほとんどだ、そんな人々を掌握するようにランドルフは声高らかに私を指差して叫ぶ。
「何を言っても!いくら取り巻きが擁護しようと、張本人であるガーランド講師が証言したのだ!!言い訳もあるまい!…皆ももう一度聞いてくれ!ガーランド講師よ、もう一度正直に言ってくれ…貴方はデイジーに頼まれて最後の演奏曲を意図的に変えたのであろう?」
「……」
再度、問いかけられた言葉にもう後戻りなど出来ないガーランド講師は先程よりも大きな声でランドルフの意見に賛同しようと口を開いた。
「俺は、確かにデイジーに…」
言いかけた瞬間、周囲の生徒達を押し退けるようにツカツカと進む女性が1人、真っ直ぐにガーランド講師の前に立ち、一切のためらいもなく平手打ちを喰らわせる。
乾いた破裂音が鳴り響いて、周囲の空気を張り詰め、平手打ちをした張本人へ視線が注がれる。
「ふざけないでお兄様…私もデイジーの事はよく知っています、こんな低俗な事をするとは思えません、フィンブル伯爵家の家督を捨てて、貴方がやりたい事は1人の女性を貶める事なの!?」
鋭い睨みと共に言い放ったのは、ガーランド講師と同じルドウィン伯爵家であり、実の妹であるエリザであった。
「エリザ、お前には関係ない…」
「いえ、関係あります!これ以上…フィンブル伯爵家の地位を貶めるような行いは私が許しません!!」
「お、お前も…デイジーの事は嫌っていたではないか?俺は兄として少しでも救いになればと…」
周囲に聞こえないようにガーランド講師はエリザに囁いた、残念ながら私達には聞こえてはいたが………なるほど、自分の自己保身のためでなく妹の憎き相手を貶めようという親愛もあったのだろう、だがエリザの怒りを見れば分かる…それは彼女にとって許し難い屈辱だ。
「私を馬鹿にしているの?こんな事で感謝するはずない、恥ずかしくて…最低で、情けないよお兄様…」
「エリザ…しかし、俺は…」
「私はお兄様を尊敬していたんだよ、お父様やお母様の反対を押し切って自分の理念を信じ学園の講師を選んだお兄様を…こんな情けない姿、見たくない…」
「………………」
「な、何をしているガーランド講師……早く皆に言ってくれ!真実を!」
焦ったように迫ったランドルフに、エリザは冷たい視線を送り、叫ぶ。
「貴方は黙っていて!」
「は!?」
「お兄様、今一度……ご自分の胸に問いかけてください…こんな事をして心は痛まないのですか?」
「お、俺は…エリザ…」
ガーランド講師は迷っているのだろう、もう後戻りはできない…一度証言してしまったのだから、ここで嘘だと言えば自身の進退は最悪なものとなるだろう。
一時の迷いで済まされない、生徒を貶めようとした事実を認めれば講師として生きていく事などできるはずがない…だがそれ以上に、実の妹であるエリザの言葉は重く心に響き、迷う彼の背中を押している。
私もその背中を押すように言葉をかける。
「ガーランド講師、貴方の気持ちに従って真実をお話ください…このまま誰かに抑圧されて後悔して生きていく事が貴方の目指した夢なのですか?それで…本当に良いのですか?」
言葉を続けた。
「一生の後悔を背負って生きるのは…死ぬよりも辛い事ですよ」
しばしの沈黙、周囲が固唾をのんで見守る中でガーランド講師は重々しく口を開き…ゆっくりと言葉を吐き出す。
「………全て虚偽であった…俺は学園に講師として残るためにランドルフの王子としての権力に頼り、言う通りに従った、この舞踏会も演奏曲を変えたも彼の指示だ…すまなかった。」
「が、ガーランド講師!!貴様……!!」
激昂し、拳を振り上げたランドルフを諌めたのは…突然の怒鳴り声であった。
「何をしているのですか!」
会場に響き渡る声、よく通ると、威圧に押されるように、周囲の生徒達が別れてその方がゆっくりと歩いてくる。
「なんの騒ぎですか?これは」
白髪に染まり、しわが顔に刻まれながらも…その凛とした姿勢と気高い姿はまるで老齢を感じさせない。
青い瞳は私達を睨み付けながらも、その思考は酷く落ち着いて様子を見ているのだろう。
周囲の緊張感は先程とは比べ物にならない程に張り詰め、見守っていた生徒達も思わず姿勢を正してしまう程の威圧感を見せる、それもそのはずだ。
この人はラインベル学園の創始者の1人であり、学園長でもあるアメリア・ラインズ…その人なのだから
ランドルフはモネを馬鹿にし、ドンっと肩を押してどけようとする、その行為に私は思わず頭に血が上り、手を上げようとしたが、モネは一切怯む事なくランドルフへ食って掛かる。
「今この話に、貴族や平民などの身分は関係ありますか?…平民は抗議の声さえ上げるなと言論弾圧…民意は聞かぬと一国の王子が発言したと捉えてもよろしいのですね?」
「な……貴様…」
「私はデイジーと共に学園で過ごしていました、だからこそ……ハッキリと言えます、デイジーはそんな姑息な手を使うような女性ではないと…………これ以上、私の友達への侮辱は許しません!」
かつてオドオドと、自分の気持ちを吐露する事をためらっていたモネはもう既にそこにはいない、権威に一切怯む事なく立ち向かう彼女に…確かに私は勇気を貰った、一回目の人生の私自身に似ているなんて思っていたけど…大きな間違いだ、彼女の精神は強く気高い、姑息な王子や貴族なんかより。
私のために立ち上がってくれたモネに心から感謝しながら顔を上げ、彼女の手を握ると震えていた…人がいきなり強くはずがない、恐怖しながらも…モネは。
「ありがとう、モネ」
「デイジー…」
「ここからは大丈夫です、無理させましたね」
「わ、私は悔しくて…デイジーはそんな事しないって知っていたから」
「その通りだ!俺たちは断固として抗議するぞ!」
呼応するようにアイザックも私の隣に立ち、ランドルフとガーランド講師を睨み付ける、周囲の生徒達は固唾をのんで様子を見守っている。
好き勝手ランドルフに言われるのも気に食わない…私は口を開きランドルフとガーランド講師へと言葉を投げかける。
「ガーランド講師、私は貴方に演奏曲を変えて欲しいと頼んだ事は一切ありませんよ?私を貶めるための虚偽の報告は我がルドウィン伯爵家からも正式に抗議させていただきます」
「無論、マグノリア公爵家からもだ…くだらない戯言に付き合っている暇はない、これ以上の虚偽の答えは許さん」
周囲の生徒達は突然の出来事の連続でうろたえている者がほとんどだ、そんな人々を掌握するようにランドルフは声高らかに私を指差して叫ぶ。
「何を言っても!いくら取り巻きが擁護しようと、張本人であるガーランド講師が証言したのだ!!言い訳もあるまい!…皆ももう一度聞いてくれ!ガーランド講師よ、もう一度正直に言ってくれ…貴方はデイジーに頼まれて最後の演奏曲を意図的に変えたのであろう?」
「……」
再度、問いかけられた言葉にもう後戻りなど出来ないガーランド講師は先程よりも大きな声でランドルフの意見に賛同しようと口を開いた。
「俺は、確かにデイジーに…」
言いかけた瞬間、周囲の生徒達を押し退けるようにツカツカと進む女性が1人、真っ直ぐにガーランド講師の前に立ち、一切のためらいもなく平手打ちを喰らわせる。
乾いた破裂音が鳴り響いて、周囲の空気を張り詰め、平手打ちをした張本人へ視線が注がれる。
「ふざけないでお兄様…私もデイジーの事はよく知っています、こんな低俗な事をするとは思えません、フィンブル伯爵家の家督を捨てて、貴方がやりたい事は1人の女性を貶める事なの!?」
鋭い睨みと共に言い放ったのは、ガーランド講師と同じルドウィン伯爵家であり、実の妹であるエリザであった。
「エリザ、お前には関係ない…」
「いえ、関係あります!これ以上…フィンブル伯爵家の地位を貶めるような行いは私が許しません!!」
「お、お前も…デイジーの事は嫌っていたではないか?俺は兄として少しでも救いになればと…」
周囲に聞こえないようにガーランド講師はエリザに囁いた、残念ながら私達には聞こえてはいたが………なるほど、自分の自己保身のためでなく妹の憎き相手を貶めようという親愛もあったのだろう、だがエリザの怒りを見れば分かる…それは彼女にとって許し難い屈辱だ。
「私を馬鹿にしているの?こんな事で感謝するはずない、恥ずかしくて…最低で、情けないよお兄様…」
「エリザ…しかし、俺は…」
「私はお兄様を尊敬していたんだよ、お父様やお母様の反対を押し切って自分の理念を信じ学園の講師を選んだお兄様を…こんな情けない姿、見たくない…」
「………………」
「な、何をしているガーランド講師……早く皆に言ってくれ!真実を!」
焦ったように迫ったランドルフに、エリザは冷たい視線を送り、叫ぶ。
「貴方は黙っていて!」
「は!?」
「お兄様、今一度……ご自分の胸に問いかけてください…こんな事をして心は痛まないのですか?」
「お、俺は…エリザ…」
ガーランド講師は迷っているのだろう、もう後戻りはできない…一度証言してしまったのだから、ここで嘘だと言えば自身の進退は最悪なものとなるだろう。
一時の迷いで済まされない、生徒を貶めようとした事実を認めれば講師として生きていく事などできるはずがない…だがそれ以上に、実の妹であるエリザの言葉は重く心に響き、迷う彼の背中を押している。
私もその背中を押すように言葉をかける。
「ガーランド講師、貴方の気持ちに従って真実をお話ください…このまま誰かに抑圧されて後悔して生きていく事が貴方の目指した夢なのですか?それで…本当に良いのですか?」
言葉を続けた。
「一生の後悔を背負って生きるのは…死ぬよりも辛い事ですよ」
しばしの沈黙、周囲が固唾をのんで見守る中でガーランド講師は重々しく口を開き…ゆっくりと言葉を吐き出す。
「………全て虚偽であった…俺は学園に講師として残るためにランドルフの王子としての権力に頼り、言う通りに従った、この舞踏会も演奏曲を変えたも彼の指示だ…すまなかった。」
「が、ガーランド講師!!貴様……!!」
激昂し、拳を振り上げたランドルフを諌めたのは…突然の怒鳴り声であった。
「何をしているのですか!」
会場に響き渡る声、よく通ると、威圧に押されるように、周囲の生徒達が別れてその方がゆっくりと歩いてくる。
「なんの騒ぎですか?これは」
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青い瞳は私達を睨み付けながらも、その思考は酷く落ち着いて様子を見ているのだろう。
周囲の緊張感は先程とは比べ物にならない程に張り詰め、見守っていた生徒達も思わず姿勢を正してしまう程の威圧感を見せる、それもそのはずだ。
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