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ガーランドside

 エリザと学友が踊っている姿を見て、俺は思わず感激してしまう………妹のエリザは気難しくワガママであり兄として心配はしていた、特に最近は学園で1人でいる所をよく目にしていたためだ。

 だが学園では、俺は兄ではなく講師のため不用意な接触は避けていた、それも杞憂で済んだ、なんせモネという学友と踊っているエリザは心の底から嬉しそうに笑っているのだから、兄として安心できる。

 見入っていると、俺のすぐ近くで囁く声が聞こえた。

「ガーランド講師、段取りは進んでるな?」

「……ランドルフさん」

 音楽が鳴り響く中、ダンスしている者に魅入る者が多いためにその小声を聞く者は他にはいない、俺も小さく呟く。

「本当に、話の通りに進めればいいのですね?」

「ええ、ガーランド講師…計画通りに進めて俺の言う通りに進める、言う通りにすれば、父上に頼みフィンブル伯爵家に学園への推薦状を書いてやろう……そうすれば貴方はずっと学園の講師でいられる」

「…わかり…ました」

「頼んだぞ」

 雑多の中に紛れていくランドルフ王子の背中を見ながら、本当にこれで良いのかと自問自答する。
 学園の教育理念に感銘を受けて、俺も学生に知識を教育する者になりたいと思い、親の反対を押し切って講師となったが……目立った功績を残せずに燻り、フィンブル伯爵家に戻されそうになった焦りから、彼の提案を受け入れてしまった。


 皮肉なものだ、学園の教育理念である【貴族や平民…平衡した線のように上下のない社会を作る事】……その理念に感銘を受けた俺が、結局は保身のために権力に尻尾を振っているのだから。
 理想の遠さに落胆すると共に、これでいいのかと自問自答を繰り返す、もう引き返せないというのに…。



 俺の悩みなど気にする事なく、時間は進んでいく……舞踏会は終盤となり最後のグループの番となった。




 もう、後戻りはできない………意を決して俺は口を開く、ランドルフ王子に言われた計画通りに傀儡のように権力に従って。












   ◇◇◇

デイジーside


「最後のグループとなったが、演奏曲を変更する事とする!」

 やはり……予想通りだ

 周囲の生徒達はざわざわと騒いでいたが、きっかけの言葉を発したガーランド講師はいつもの平穏な態度を急転させ、萎縮させるように叫ぶ。

「静かに!!!これはどんな時でも対応できる対応力を鍛えるためである、文句を言う暇があれば僅かな時間で練習すればいい」

 身勝手な言い分だったが、生徒達からは大きな声は上がらない……それもそのはずだ、この最後のグループは演奏曲が変わっても対応が可能である舞踏会を高等部一年生から趣味として嗜んでいる者達ばかりだ。
 そんな中に意図的に私は含まれている…答えは簡単、先程からニヤニヤと笑っているランドルフが仕込んだのだろう、ダンスを嗜む者達ばかりなので文句を言う者はいない、損をするとすれば日頃からダンスを嗜んでいる訳ではない私とアイザックだけだ。

「良かったなローザ、もしものために演奏曲が変わっても対応できるように練習をしていて」

「そうですね、ランドルフ様……さすがです。」

 わざとらしく、聞こえるようにランドルフは噓を吐く…演奏曲が変わる事を知っていてその曲を練習していたのは分かっている、こうなれば踊りに長けた者、予定通りに演奏曲で練習を重ねたランドルフペアに囲まれた私とアイザックペアは良い晒し者だ。

 だが、不思議と焦りはない……なぜか?こんな時にこそ、彼の明るい心意気に励まされるのだ。

「ふははは!!面白い、ちょうどいいハンデだなデイジー!俺と君がペアになれば優秀賞は確実だったのだ、これぐらいのハンデは必要だろう!」

「全く……貴方の自信は一体どこから出てくるのですか?」

 苦笑しながら問いかけた私に、彼は恥ずかしげもなく微笑み呟いた。

「恋心からさ、君にいい所を見せたい……その一心が俺に自身と行動力をくれる」

「皆の前ですから、あまり大きな声で言わないでください……」

「俺の本心だ、隠す必要もあるまい!」

 アイザックは高らかにそう言うと、私に手を差し出す。
 まもなくダンスが始まる、ピアノの旋律が会場に響き始めて私達のグループが手を取り合う。

「嗜んでいるのですか?アイザック」

「あぁ、俺の家は文化を重んじる…不安ならリードしよう」

「では、お願いいたします……」

 差し伸べられた手に、私の手を乗せて……微笑みながら呟くと、彼はまるで忠犬のように嬉しそうに笑いながら手を握った。







   ◇◇◇


アイザックside


 デイジーの手を握ると感じる、少しでも力を入れれば折れてしまいそうな華奢な腕、だが……そんな彼女の強さに俺は逆立ちしても勝てない、腕っぷしではない……絶望の底、死の淵から蘇ったように達観した心を持つデイジーに勝てるとは思えないのだ。


 そんな彼女だからこそ…1人で生きていく事が出来る彼女だからこそ守り、支えたい…俺はそう誓ったのだ。


「君に似合うのは優秀賞のみだ、それを俺が手にできるように支えてみせよう」

 俺は彼女の手を引いて、背中に手を回して抱き寄せながら呟く…彼女は笑って答えた。


「頼りにしております」


 俺は、心の強い彼女に頼られている…それが堪らなく嬉しく、より一層…この恋心を白熱させた。

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