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 パチパチパチパチ
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 ピアノの音色が鳴り終わり、最初のグループのダンスが終わった、拍手と喝采に溢れた会場は踊った人々を称えるように拍手が鳴り止まない、正直全員のレベルが高く、魅入られて時間さえ忘れてしまうほどだった、だが1番目のグループの中で最も目を引いたのは間違いなく、モネとエリザの組だろう。
 頭が一つ飛びぬけて息が合っており常に楽しそうに笑顔で、ステップや息の合わせ方はプロに引けを取らずに、一朝一夕で身につく業ではない事が伺える、歪ながらも長く過ごした2人だからこそ息を合わせて踊れるのだろう。
 正直……嫉妬してしまう程の美しいダンスだった。

「完敗、私と2人じゃ……まだあのレベルは難しいわね」

 ダンスが終わって、礼をするグループの面々に再度拍手を送りながら、誰にも聞こえないように呟く。
 モネの背中を押してよかった、そう思うと同時にあの2人の仲に少しだけ嫉妬をしてしまう、過ごした年月には敵わない事もある。

「デイジー!ありがとう!」

 最初のグループが終わって、それぞれ終了者の指定場所へと移っていく際にモネは私を見つけて嬉しそうに手を振って声をかける、私は微笑みながら手を振り返した。
 エリザは少しだけ俯いて気まずそうにしていたが、ペコリと小さく頭を下げてモネと共に指定場所へと向かっていく、流石に私と言い合った手前、すぐに懇意にという訳にはいかないのだろう。


「さて………どうしようかしら……」

 一転して私は1人になってしまった、王妃教育を受けていたために舞踏は多少は嗜んでいたけど、舞踏会に女性1人というのはやはり目立ち、侮蔑の対象となってしまうだろう。
 覚悟はしてモネの背中を押したのだけど、時間が経って自分の番が近づくにつれて緊張と心配がこみ上げてくる。

「………………」

 考えが思い浮かばない、このまま1人で踊りいくら完璧に踊ろうと周囲の視線は冷ややかだろう、モネは称賛してくれるだろうが、ランドルフの思惑に嵌ったようで気に食わない。
 途方に暮れている間に次のグループも終わってしまった、一際目立つ黒髪の男子生徒が1人で踊り、注目を集めていたようだ、髪をかき上げて深紅の瞳で微笑む姿に周囲の女性達は、垂涎しているかのように恍惚としていた。
 その男性はマキナであった、彼は1人で参加して他を圧倒するほどの踊りを見せた、それはまるで演武のようであり綺麗だった。

 周囲の女性達の反応は熱狂的だ、確かに、マキナの端正な顔立ちからにこりと微笑む姿には魔性の魅力を感じる…。


「なかなか、手強い相手ばかりだな!」

 ぼうっとして途方に暮れていた私の隣で、いつもと変わらない明るい声が聞こえる、いつの間にか私の隣で腕を組んで立っていたアイザックは周囲の女性達の視線を浴びながらも、気にもせず私に話しかける。

「負けてられない、参加するなら目指すは優秀賞だ」

「私は1人ですので、アイザック……もうあなたの好敵手としては相応しくないかもしれませんね」

 私は自嘲気味に言葉を返すと、アイザックは周囲の視線を気にせずに豪快に笑った。

「あはははは!!らしくないな、しおらしい君も珍しいが……やはり毅然とした君の方がいいな」

「からかっているのですか?」

「いや違う、安心しろ、デイジー」

 彼は微笑みながら、私の手を取って引き寄せた……周囲の女性達が感嘆の声をあげる、学友としてではなく………恋仲のような距離で微笑む彼は呟いた。

「君が1人になるはずがない、俺がいるのだから……」

「アイザック……」

「周囲の耳もある、言い逃れができないように…俺の本心を聞いてほしい」

「なにを………」

 彼は、何かを証明するように周囲に聞こえるように隠さず、堂々と私の目を見て話す。

「正直に言おう、俺は君に恋焦がれている…拒否されたあの日から、君に魅入られている」

「な!?」

 突然過ぎる言葉、さらに周囲の生徒達が大勢見ている前で言われてしまい、言葉に詰まってしまう。
 そんな私を置いて彼は言葉を続けた。

「答えは必要ない、君の答えは前に聞いているからな!」

「な、なら…突然どうしてこんな事を…」

 私の言葉にアイザックは笑いながら答える。

「俺はあの時のような軽い男ではないと証明するためだ、これだけの生徒達に聞いてもらった…言い逃れもできまい、虚偽で君を誘ったあの時のつまらない俺ではなく、恋を知った事を証明したかった」

「証明して、どうする気ですか?」

 私は彼が言いたい事を察して、思わず微笑みながら言葉を待つ。

「君に俺を愛してもらう!、一度振られたからと言って諦める気はない!俺の初恋は執念深いぞデイジー…覚悟する事だな」

 痛快に人目もはばからずに言い放つ彼に、私は思わず噴き出すように笑ってしまう、気落ちしていた気分を吹き飛ばすためにここで言ってくれたのだろう、先程の曇天のような気分から一転して晴れやかにしてくれた彼に、私は微笑みながら言葉を返す。

「ふふ、道は遠いかもしれませんよ?アイザック」

「今日で一歩は進んだだろう?」

「ええ…………それに訂正をさせてください」

 私は彼の耳元に近寄り、囁くように過去に言った言葉を取り消す。

「恋を知らぬ、つまらぬ男だと言ってしまいましたが、今の貴方は素敵です」

「っ!?………あぁ君を知ったからな」

 まるで犬のように嬉しそうに笑う彼に、私は自分が甘いのかもしれないと思った……だけど、モネがエリザを許したように私も過去に縛られずに前に進むべきなのかもしれない、一回目の人生で私はアイザックに捨てられたが、それは私の記憶の中のアイザックであり、今の彼ではない………判断をするなら、目の前にいる彼を見るべきだろう。


「私と踊ってくれますか?アイザック」

「もちろん、君となら………」


 今の彼に好きだとか、そんな感情を抱いてはいないが……素直に好意を抱いてくれている事には嬉しく思う。
 そして、恋を知って成長したアイザックだからこそ、私は今世の彼を許す事が出来るのかもしれない。
 
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