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「本当にすいません!!僕がしっかりと手綱を握っていれば!」
「い、いえ…こうして無事に怪我人も出なかったので良かったです。」
頭を地面にこすりつけるように謝罪の言葉を並べる彼は、つい先ほど私達に迫っていた黒馬の手綱をすんでの所で引き留めてくれたのだ、馬に乗っていた様子と言動から彼が厩舎の世話をしていたのだろう。
必死に謝って、ガンガンと地面に頭を打ち付けて謝罪する彼に非難する事などできなかった、それに私の横で吞気に気絶しているアイザックも少しだけではあるが心配だ。
「も、もう謝罪は結構ですよ……顔を上げてください」
「本当に申し訳ありません」
顔を上げた彼はぼさぼさの黒髪が目元まで隠れており、目は見えるのかと不思議に思ってしまう……服装を見るに私と同じ学園の制服なので学生なのではあるのだと分かるが見た事はない、少なくとも同じ学年ではないだろう。
「アイザック、アイザック……大丈夫ですか?」
気絶してしまったアイザックの頬を抑えめに叩くと彼は頬を緩めて「父上、おれはやり遂げたぞ」と寝ぼけた事を言っていたので、とりあえずは大丈夫かと安心する。
「モネ、モネは大丈夫だった?」
「うん、デイジーが押してくれたおかげで大丈夫だよ怪我もない」
「良かった…」
一安心だ、とりあえず誰も怪我無く済んでよかった…アイザックのおかげで私にも怪我はないため未だに謝っている彼に声をかける。
「幸い、誰も怪我無く済んだのでもう大丈夫です…今後を気を付けてくれれば…所でなぜ学生で馬の世話を?」
「すいませんでした、僕は高等部二年のマキナです…平民出身で両親への仕送りのために学園の厩舎で働かせて頂いています、もし貴族の皆様にお怪我があれば家族皆が路頭に迷う所でした」
「そうでしたか、何事もなくて良かったわ」
「はい、僕にできる事はありませんが…お詫びになるか分かりませんが何時でも厩舎に寄ってください乗馬など色々と出来るように計らいますので」
乗馬……そういえば経験した事はない、少しだけ興味があったので悪い事ばかりではなさそうだ。
「では、またそちらの厩舎で乗馬を体験させてください…モネもそれでいい?」
「うん!楽しそうだし賛成だよ!」
私達の言葉にマキナは嬉しそうに口元を緩ませる。
「許してくださってありがとうございます、と、ところでそこで気絶している方にはなんと謝罪すれば」
マキナは気絶しているアイザックへと顔を向ける、私とモネは許すといったが公爵家の令息であるアイザックへの対応を思慮しているのだろう、その点については、彼には安心して欲しい。
「大丈夫です、彼には私達から言っておきますから」
「で、ですが」
「ご安心を、大丈夫です。」
私の言葉に彼も頷き、馬達の手綱を引いて学園の厩舎へと戻っていった。
「さて、モネ………少しだけ手伝ってくれますか?」
「デイジーの考えてること、分かるよ…ふふ…もちろん手伝うね」
さて、授業には間に合わせないといけない……それは私達もアイザックも同じ、そして助けられた恩義を無視など私のルドウィン家の誇りが許さない。
この人に対して愛情を抱く事なんてない、私はそれ程に傷つけられた…しかし今世では命を救われたのだ、相応の礼はしないといけない。
「では、やりますね」
「うん、頑張らないと」
それに…元々は弱みを握って利用しようとしていたのだ…向こうから来てくれたのなら……好都合?なのかもしれない。
◇◇◇
アイザックside
––アイザックよ、我らが騎士家に生まれたからには1人でも多くの人々を助けねばならない……それがお前の使命だ。
––はい、父上!
あぁ…父上……俺はやれましたよ、人を救えたはずだ…俺が盾になればデイジーは怪我はするだろうが助かっただろう、俺はきっともう死んでいるはずだ。
その理由はこの浮遊感だ、脚を動かしていないのに前に進んでいる…そして香る心地よい匂い、きっと天国の花畑の中ではないだろうか?
ん?香り…何処かで嗅いだ事があるような…それにこの浮遊感、俺は誰かに肩を借りて引きずられているように感じ、瞳を開くとデイジーとモネが俺の腕を肩に乗せて学園まで歩いてくれているではないか…。
「これは、夢か………」
「起きましたか、じゃあモネ…離しましょう」
「ふふ、分かった!」
「え!?」
どさりと突然、地面に下ろされるがもうすでに意識は覚醒し動揺しながらも身体を起こすとデイジーとモネは俺を見ながら立っている。
「な、運んでくれていたのか?」
「遅れますからね……あと少しで予鈴が鳴ってしまいます、行きましょうか」
「うん、デイジー」
デイジーとモネは再び歩き出し、呆然としていた俺であったがデイジーが振り返り頬を緩めて俺に話しかける、その笑顔は俺が始めて見る彼女の笑顔でとても魅力的に見えた、そして彼女が俺にかけた言葉は忘れられない言葉となる。
「何をボーっとしているのアイザック、行きましょう……学友として遅刻は見過ごせませんよ?」
俺を……呼ぶその名称を聞いて嬉しいはずがなかった…彼女達の隣にいてもいいと言ってくれたのと同義であったのだから。
「そうだな、行こうか2人とも!」
歩き出した俺と2人は未だにぎこちないながらも会話を交わしながらも学友として距離を縮めるこの時間を楽しいと思った。
こんな嬉しい事は久々だ、デイジー…やはり君はとても魅力的だ。
だからこそ、俺に芽生えたこの想いを君に伝えるために…まずは学友から始めよう。
◇◇◇
ランドルフside
一足早くに校舎へと入り、頭を抱えながら今後について考える。
どうすればいい、結局なんの考えもの浮かばないまま毎日を過ごしてしまっている……焦る気持ちだけが肥大化して落ち着いて眠れる日も少ない…アイザックがいるのではデイジーに迂闊に手出しができん。
退学に追い込まねば、デイジーが真実を公表すれば…俺の王子としての信用が落ちてしまう。
「ランドルフ様」
考えている俺の元へ、甘美な響きにも思える声が聞こえて顔を上げる。
「ローザ、どうしてここに……」
「最近、元気がないようでしたので……心配で」
彼女は桃色の髪の毛をかきあげて俺の顔を心配そうに覗き込む、その大きく綺麗な瞳に吸い込まれそうできめ細かな肌に早く触れたいとさえ思った。
「心配させて済まない……少し考え事をな」
情けない……愛しいローザを置いて、デイジーの事ばかり考えてしまっている……心配もさせてしまった。
「いえ、ですが落ち込んでいらっしゃるようでしたので…私からとある提案があるのです」
「提案?」
「ええ、私と––––」
「い、いえ…こうして無事に怪我人も出なかったので良かったです。」
頭を地面にこすりつけるように謝罪の言葉を並べる彼は、つい先ほど私達に迫っていた黒馬の手綱をすんでの所で引き留めてくれたのだ、馬に乗っていた様子と言動から彼が厩舎の世話をしていたのだろう。
必死に謝って、ガンガンと地面に頭を打ち付けて謝罪する彼に非難する事などできなかった、それに私の横で吞気に気絶しているアイザックも少しだけではあるが心配だ。
「も、もう謝罪は結構ですよ……顔を上げてください」
「本当に申し訳ありません」
顔を上げた彼はぼさぼさの黒髪が目元まで隠れており、目は見えるのかと不思議に思ってしまう……服装を見るに私と同じ学園の制服なので学生なのではあるのだと分かるが見た事はない、少なくとも同じ学年ではないだろう。
「アイザック、アイザック……大丈夫ですか?」
気絶してしまったアイザックの頬を抑えめに叩くと彼は頬を緩めて「父上、おれはやり遂げたぞ」と寝ぼけた事を言っていたので、とりあえずは大丈夫かと安心する。
「モネ、モネは大丈夫だった?」
「うん、デイジーが押してくれたおかげで大丈夫だよ怪我もない」
「良かった…」
一安心だ、とりあえず誰も怪我無く済んでよかった…アイザックのおかげで私にも怪我はないため未だに謝っている彼に声をかける。
「幸い、誰も怪我無く済んだのでもう大丈夫です…今後を気を付けてくれれば…所でなぜ学生で馬の世話を?」
「すいませんでした、僕は高等部二年のマキナです…平民出身で両親への仕送りのために学園の厩舎で働かせて頂いています、もし貴族の皆様にお怪我があれば家族皆が路頭に迷う所でした」
「そうでしたか、何事もなくて良かったわ」
「はい、僕にできる事はありませんが…お詫びになるか分かりませんが何時でも厩舎に寄ってください乗馬など色々と出来るように計らいますので」
乗馬……そういえば経験した事はない、少しだけ興味があったので悪い事ばかりではなさそうだ。
「では、またそちらの厩舎で乗馬を体験させてください…モネもそれでいい?」
「うん!楽しそうだし賛成だよ!」
私達の言葉にマキナは嬉しそうに口元を緩ませる。
「許してくださってありがとうございます、と、ところでそこで気絶している方にはなんと謝罪すれば」
マキナは気絶しているアイザックへと顔を向ける、私とモネは許すといったが公爵家の令息であるアイザックへの対応を思慮しているのだろう、その点については、彼には安心して欲しい。
「大丈夫です、彼には私達から言っておきますから」
「で、ですが」
「ご安心を、大丈夫です。」
私の言葉に彼も頷き、馬達の手綱を引いて学園の厩舎へと戻っていった。
「さて、モネ………少しだけ手伝ってくれますか?」
「デイジーの考えてること、分かるよ…ふふ…もちろん手伝うね」
さて、授業には間に合わせないといけない……それは私達もアイザックも同じ、そして助けられた恩義を無視など私のルドウィン家の誇りが許さない。
この人に対して愛情を抱く事なんてない、私はそれ程に傷つけられた…しかし今世では命を救われたのだ、相応の礼はしないといけない。
「では、やりますね」
「うん、頑張らないと」
それに…元々は弱みを握って利用しようとしていたのだ…向こうから来てくれたのなら……好都合?なのかもしれない。
◇◇◇
アイザックside
––アイザックよ、我らが騎士家に生まれたからには1人でも多くの人々を助けねばならない……それがお前の使命だ。
––はい、父上!
あぁ…父上……俺はやれましたよ、人を救えたはずだ…俺が盾になればデイジーは怪我はするだろうが助かっただろう、俺はきっともう死んでいるはずだ。
その理由はこの浮遊感だ、脚を動かしていないのに前に進んでいる…そして香る心地よい匂い、きっと天国の花畑の中ではないだろうか?
ん?香り…何処かで嗅いだ事があるような…それにこの浮遊感、俺は誰かに肩を借りて引きずられているように感じ、瞳を開くとデイジーとモネが俺の腕を肩に乗せて学園まで歩いてくれているではないか…。
「これは、夢か………」
「起きましたか、じゃあモネ…離しましょう」
「ふふ、分かった!」
「え!?」
どさりと突然、地面に下ろされるがもうすでに意識は覚醒し動揺しながらも身体を起こすとデイジーとモネは俺を見ながら立っている。
「な、運んでくれていたのか?」
「遅れますからね……あと少しで予鈴が鳴ってしまいます、行きましょうか」
「うん、デイジー」
デイジーとモネは再び歩き出し、呆然としていた俺であったがデイジーが振り返り頬を緩めて俺に話しかける、その笑顔は俺が始めて見る彼女の笑顔でとても魅力的に見えた、そして彼女が俺にかけた言葉は忘れられない言葉となる。
「何をボーっとしているのアイザック、行きましょう……学友として遅刻は見過ごせませんよ?」
俺を……呼ぶその名称を聞いて嬉しいはずがなかった…彼女達の隣にいてもいいと言ってくれたのと同義であったのだから。
「そうだな、行こうか2人とも!」
歩き出した俺と2人は未だにぎこちないながらも会話を交わしながらも学友として距離を縮めるこの時間を楽しいと思った。
こんな嬉しい事は久々だ、デイジー…やはり君はとても魅力的だ。
だからこそ、俺に芽生えたこの想いを君に伝えるために…まずは学友から始めよう。
◇◇◇
ランドルフside
一足早くに校舎へと入り、頭を抱えながら今後について考える。
どうすればいい、結局なんの考えもの浮かばないまま毎日を過ごしてしまっている……焦る気持ちだけが肥大化して落ち着いて眠れる日も少ない…アイザックがいるのではデイジーに迂闊に手出しができん。
退学に追い込まねば、デイジーが真実を公表すれば…俺の王子としての信用が落ちてしまう。
「ランドルフ様」
考えている俺の元へ、甘美な響きにも思える声が聞こえて顔を上げる。
「ローザ、どうしてここに……」
「最近、元気がないようでしたので……心配で」
彼女は桃色の髪の毛をかきあげて俺の顔を心配そうに覗き込む、その大きく綺麗な瞳に吸い込まれそうできめ細かな肌に早く触れたいとさえ思った。
「心配させて済まない……少し考え事をな」
情けない……愛しいローザを置いて、デイジーの事ばかり考えてしまっている……心配もさせてしまった。
「いえ、ですが落ち込んでいらっしゃるようでしたので…私からとある提案があるのです」
「提案?」
「ええ、私と––––」
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