8 / 75
6
しおりを挟む
ファルムンド王国に建立されたラインベル学園、建立されたのはおよそ30年前と年数は浅いが貴族、平民と分け隔てなく迎える姿勢から、今ではファルムンド王国を代表する学園となっている。
学園の理念はただ一つ、「貴族、平民を平衡した線のように上下のない社会を作ること」…学園長であるアメリア・ラインズによって掲げられた理念と共に多くの民衆、一部の貴族達の協力の元に学園が設立されたが…その理念の実現は難しく、学園にはびこるのは逃れる事ができない貴族と平民の格差であった。
◇◇◇
??side
学園の周囲には様々な花が綺麗に咲いており、風と共に心安らぐ匂いが鼻を通る、その匂いと共に私は先日起こった懇親会での出来事、そして言われた言葉を思い出す。
––ここから先の言葉は我がルドウィン家への侮辱として受け止めますが?
––私も貴方を責めたい訳じゃないのだから。
黒い髪をかき上げ、綺麗な茶色の瞳で私達を睨みながら、悪意のこもった陰口に真っ向から立ち向かい、毅然とした態度を貫いて説き伏せてみせたデイジーを思い出す。
(かっこ良かった)
私は、彼女に説き伏せられて何も言い返せなかった1人、私はきっと彼女のように悪口に対して言い返す事や、立ち向かう事なんてできないだろう、むしろ徒党を組んで人を罵る一員だ…彼女のようにかっこ良い女性になんてなれっこない…。
「……でさ、ねぇモネ?聞いてるの?」
「え!?あ!うん聞いてるよ!」
「ぼぉーっとして私の話を聞いてないなんて駄目ね、罰よ、荷物を持ってくれるよね?」
「え!………えっと…うん分かった……」
私は友達であるエリザに言われるがまま、話をよく聞いていないといった理由で荷物を持たされる。
高等部三年生としての新学期、久々に学園に通い学友達と共に勉学に励む日々が始まるのに私の気分は落ち込んでいた、高等部三年生とは学園では最年長であり、あと一年の修学で卒業となる。
私と共に歩くエリザは高等部一年の頃からの友達なのだが……いや、友達と言えるか分からないが故に私の気持ちは落ち込んでいるのだろう。
「モネ、新学期が始まるけど…また課題は貴方がやってよね?友達なんだから」
「あ…あはは、うん課題は任せてよ」
「任せてよじゃないでしょ?やらせて欲しいと言ってほしいわ……貴方は肌の綺麗な私と違ってそばかすが目立っていて、しかも平民…本来なら隣にも立ってほしくないのよ?」
「そ、そうだよね…私もエリザみたいに可愛くなりたいな……あはは」
これが友達なのだろうか?でも言い返す事なんてできない、彼女は伯爵家の令嬢であり、平民である私にとって雲の上のような立場の方、隣に歩けるだけでも光栄な事、懇親会にも特別にエリザのお付きとして連れて行ってもらっていた。
私達の通っているラインベル学園の理念は「貴族と平民の上下のない社会」と立派ではあるけど私には到底無理な事に思える、平民の私からすれば荒唐無稽だ。
学園の門をくぐり校舎への道を歩いていてもよく分かる、中央を歩くのは貴族で、端を歩いているのは平民だ。
いくら学園で立派な理念を掲げようが大衆に染み付いた格差が覆えるはずがない……服装でさえ暗黙に決められた雁字搦めのルールが存在する。
学園では制服を着ることが規則だが、もちろんオシャレも多少は許されている、女生徒で代表的な物はリボンと髪留めだ。
でも私も含め平民は地味な色で統一されている、対して私の前を歩く伯爵令嬢のエリザは綺麗な明るいリボンを身につけて、色鮮やかな髪留めをして笑って歩いている。
そんな自由奔放に見える彼女でさえ気を遣っている人達がいるのだ……公爵家の方や王子も学園に通っているが故に伯爵家の令嬢のエリザでも三原色の明るい色を避けて、そして宝石類の装飾品を身につけるのは控えている。
この学園にはそんな、生徒達で作られた暗黙のルールでガチガチに固められており、はみ出し者はいない、私は平穏な学園生活のためにエリザに取り入って仮初の友達を演じている。
「…………ってこと!!モネ?聞いてる?」
「え!!?あ…」
「また聞いてな~~い、友達の話を聞かないなんて最低~」
「ち、違うの……考え事を…」
「言い訳はなしね、次の罰は…」
私を責めようとしていた彼女が言葉を止めて校門を見て固まる、私もつられて振り返るとそこには信じられない人物がいた…それも信じられない格好で…
「デイジー?」
「デイジーよね、あれ」
「でも、あの格好」
周囲の声をのせながら風が吹き、花びらの舞う中でデイジーが歩いている…その格好は以前の彼女であれば考えられない姿であった。
リボンは真っ赤で派手な装い、腰まで伸びた絹のような黒髪を留めるバレッタは銀で出来ており、碧の宝石が蝶の形に装飾されていた、胸元には彼女を思わせる花の装飾のブローチが綺麗に太陽に照らされて輝いていた、それを見て私達は声も出ずに、動くことさえ出来ぬ程に圧倒される。
「おはようございます、皆さん」
私達の作った暗黙のルールを、「くだらない」と吐き捨てるように気にもせずに悠々と挨拶をしながら歩く彼女を見て私は再び思ってしまったのだ。
(かっこいい…)と。
学園の理念はただ一つ、「貴族、平民を平衡した線のように上下のない社会を作ること」…学園長であるアメリア・ラインズによって掲げられた理念と共に多くの民衆、一部の貴族達の協力の元に学園が設立されたが…その理念の実現は難しく、学園にはびこるのは逃れる事ができない貴族と平民の格差であった。
◇◇◇
??side
学園の周囲には様々な花が綺麗に咲いており、風と共に心安らぐ匂いが鼻を通る、その匂いと共に私は先日起こった懇親会での出来事、そして言われた言葉を思い出す。
––ここから先の言葉は我がルドウィン家への侮辱として受け止めますが?
––私も貴方を責めたい訳じゃないのだから。
黒い髪をかき上げ、綺麗な茶色の瞳で私達を睨みながら、悪意のこもった陰口に真っ向から立ち向かい、毅然とした態度を貫いて説き伏せてみせたデイジーを思い出す。
(かっこ良かった)
私は、彼女に説き伏せられて何も言い返せなかった1人、私はきっと彼女のように悪口に対して言い返す事や、立ち向かう事なんてできないだろう、むしろ徒党を組んで人を罵る一員だ…彼女のようにかっこ良い女性になんてなれっこない…。
「……でさ、ねぇモネ?聞いてるの?」
「え!?あ!うん聞いてるよ!」
「ぼぉーっとして私の話を聞いてないなんて駄目ね、罰よ、荷物を持ってくれるよね?」
「え!………えっと…うん分かった……」
私は友達であるエリザに言われるがまま、話をよく聞いていないといった理由で荷物を持たされる。
高等部三年生としての新学期、久々に学園に通い学友達と共に勉学に励む日々が始まるのに私の気分は落ち込んでいた、高等部三年生とは学園では最年長であり、あと一年の修学で卒業となる。
私と共に歩くエリザは高等部一年の頃からの友達なのだが……いや、友達と言えるか分からないが故に私の気持ちは落ち込んでいるのだろう。
「モネ、新学期が始まるけど…また課題は貴方がやってよね?友達なんだから」
「あ…あはは、うん課題は任せてよ」
「任せてよじゃないでしょ?やらせて欲しいと言ってほしいわ……貴方は肌の綺麗な私と違ってそばかすが目立っていて、しかも平民…本来なら隣にも立ってほしくないのよ?」
「そ、そうだよね…私もエリザみたいに可愛くなりたいな……あはは」
これが友達なのだろうか?でも言い返す事なんてできない、彼女は伯爵家の令嬢であり、平民である私にとって雲の上のような立場の方、隣に歩けるだけでも光栄な事、懇親会にも特別にエリザのお付きとして連れて行ってもらっていた。
私達の通っているラインベル学園の理念は「貴族と平民の上下のない社会」と立派ではあるけど私には到底無理な事に思える、平民の私からすれば荒唐無稽だ。
学園の門をくぐり校舎への道を歩いていてもよく分かる、中央を歩くのは貴族で、端を歩いているのは平民だ。
いくら学園で立派な理念を掲げようが大衆に染み付いた格差が覆えるはずがない……服装でさえ暗黙に決められた雁字搦めのルールが存在する。
学園では制服を着ることが規則だが、もちろんオシャレも多少は許されている、女生徒で代表的な物はリボンと髪留めだ。
でも私も含め平民は地味な色で統一されている、対して私の前を歩く伯爵令嬢のエリザは綺麗な明るいリボンを身につけて、色鮮やかな髪留めをして笑って歩いている。
そんな自由奔放に見える彼女でさえ気を遣っている人達がいるのだ……公爵家の方や王子も学園に通っているが故に伯爵家の令嬢のエリザでも三原色の明るい色を避けて、そして宝石類の装飾品を身につけるのは控えている。
この学園にはそんな、生徒達で作られた暗黙のルールでガチガチに固められており、はみ出し者はいない、私は平穏な学園生活のためにエリザに取り入って仮初の友達を演じている。
「…………ってこと!!モネ?聞いてる?」
「え!!?あ…」
「また聞いてな~~い、友達の話を聞かないなんて最低~」
「ち、違うの……考え事を…」
「言い訳はなしね、次の罰は…」
私を責めようとしていた彼女が言葉を止めて校門を見て固まる、私もつられて振り返るとそこには信じられない人物がいた…それも信じられない格好で…
「デイジー?」
「デイジーよね、あれ」
「でも、あの格好」
周囲の声をのせながら風が吹き、花びらの舞う中でデイジーが歩いている…その格好は以前の彼女であれば考えられない姿であった。
リボンは真っ赤で派手な装い、腰まで伸びた絹のような黒髪を留めるバレッタは銀で出来ており、碧の宝石が蝶の形に装飾されていた、胸元には彼女を思わせる花の装飾のブローチが綺麗に太陽に照らされて輝いていた、それを見て私達は声も出ずに、動くことさえ出来ぬ程に圧倒される。
「おはようございます、皆さん」
私達の作った暗黙のルールを、「くだらない」と吐き捨てるように気にもせずに悠々と挨拶をしながら歩く彼女を見て私は再び思ってしまったのだ。
(かっこいい…)と。
324
お気に入りに追加
5,813
あなたにおすすめの小説

元侯爵令嬢は冷遇を満喫する
cyaru
恋愛
第三王子の不貞による婚約解消で王様に拝み倒され、渋々嫁いだ侯爵令嬢のエレイン。
しかし教会で結婚式を挙げた後、夫の口から開口一番に出た言葉は
「王命だから君を娶っただけだ。愛してもらえるとは思わないでくれ」
夫となったパトリックの側には長年の恋人であるリリシア。
自分もだけど、向こうだってわたくしの事は見たくも無いはず!っと早々の別居宣言。
お互いで交わす契約書にほっとするパトリックとエレイン。ほくそ笑む愛人リリシア。
本宅からは屋根すら見えない別邸に引きこもりお1人様生活を満喫する予定が・・。
※専門用語は出来るだけ注釈をつけますが、作者が専門用語だと思ってない専門用語がある場合があります
※作者都合のご都合主義です。
※リアルで似たようなものが出てくると思いますが気のせいです。
※架空のお話です。現実世界の話ではありません。
※爵位や言葉使いなど現実世界、他の作者さんの作品とは異なります(似てるモノ、同じものもあります)
※誤字脱字結構多い作者です(ごめんなさい)コメント欄より教えて頂けると非常に助かります。
どうやら夫に疎まれているようなので、私はいなくなることにします
文野多咲
恋愛
秘めやかな空気が、寝台を囲う帳の内側に立ち込めていた。
夫であるゲルハルトがエレーヌを見下ろしている。
エレーヌの髪は乱れ、目はうるみ、体の奥は甘い熱で満ちている。エレーヌもまた、想いを込めて夫を見つめた。
「ゲルハルトさま、愛しています」
ゲルハルトはエレーヌをさも大切そうに撫でる。その手つきとは裏腹に、ぞっとするようなことを囁いてきた。
「エレーヌ、俺はあなたが憎い」
エレーヌは凍り付いた。

愛せないですか。それなら別れましょう
黒木 楓
恋愛
「俺はお前を愛せないが、王妃にはしてやろう」
婚約者バラド王子の発言に、 侯爵令嬢フロンは唖然としてしまう。
バラド王子は、フロンよりも平民のラミカを愛している。
そしてフロンはこれから王妃となり、側妃となるラミカに従わなければならない。
王子の命令を聞き、フロンは我慢の限界がきた。
「愛せないですか。それなら別れましょう」
この時バラド王子は、ラミカの本性を知らなかった。

何もできない王妃と言うのなら、出て行くことにします
天宮有
恋愛
国王ドスラは、王妃の私エルノアの魔法により国が守られていると信じていなかった。
側妃の発言を聞き「何もできない王妃」と言い出すようになり、私は城の人達から蔑まれてしまう。
それなら国から出て行くことにして――その後ドスラは、後悔するようになっていた。

断罪される一年前に時間を戻せたので、もう愛しません
天宮有
恋愛
侯爵令嬢の私ルリサは、元婚約者のゼノラス王子に断罪されて処刑が決まる。
私はゼノラスの命令を聞いていただけなのに、捨てられてしまったようだ。
処刑される前日、私は今まで試せなかった時間を戻す魔法を使う。
魔法は成功して一年前に戻ったから、私はゼノラスを許しません。
あなたが選んだのは私ではありませんでした 裏切られた私、ひっそり姿を消します
矢野りと
恋愛
旧題:贖罪〜あなたが選んだのは私ではありませんでした〜
言葉にして結婚を約束していたわけではないけれど、そうなると思っていた。
お互いに気持ちは同じだと信じていたから。
それなのに恋人は別れの言葉を私に告げてくる。
『すまない、別れて欲しい。これからは俺がサーシャを守っていこうと思っているんだ…』
サーシャとは、彼の亡くなった同僚騎士の婚約者だった人。
愛している人から捨てられる形となった私は、誰にも告げずに彼らの前から姿を消すことを選んだ。

もう、愛はいりませんから
さくたろう
恋愛
ローザリア王国公爵令嬢ルクレティア・フォルセティに、ある日突然、未来の記憶が蘇った。
王子リーヴァイの愛する人を殺害しようとした罪により投獄され、兄に差し出された毒を煽り死んだ記憶だ。それが未来の出来事だと確信したルクレティアは、そんな未来に怯えるが、その記憶のおかしさに気がつき、謎を探ることにする。そうしてやがて、ある人のひたむきな愛を知ることになる。
公爵令嬢は逃げ出すことにした【完結済】
佐原香奈
恋愛
公爵家の跡取りとして厳しい教育を受けるエリー。
異母妹のアリーはエリーとは逆に甘やかされて育てられていた。
幼い頃からの婚約者であるヘンリーはアリーに惚れている。
その事実を1番隣でいつも見ていた。
一度目の人生と同じ光景をまた繰り返す。
25歳の冬、たった1人で終わらせた人生の繰り返しに嫌気がさし、エリーは逃げ出すことにした。
これからもずっと続く苦痛を知っているのに、耐えることはできなかった。
何も持たず公爵家の門をくぐるエリーが向かった先にいたのは…
完結済ですが、気が向いた時に話を追加しています。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる