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戸惑いつつ、身体を起こす…一変に情報を頭に入れられた気分で酷く気分が悪い…何よりもこの滾る怒りを抑える方法は一つしかない事も分かっている。
「どんくさい……地味なくせしてランドルフ様の後ろに正妃気取って立っていた罰よね」
「あたしだったら恥ずかしくて死んじゃうかも……もうこの会場から飛び出しちゃう」
「そうよね………三日後に始まる学園の新学期に行けないよね、みじめで」
聞こえる声に私は不快感を覚える事はない、変わりに思考を更に冷静にさせてくれる、なぜなら先程の彼女達の台詞を私は知っているから…この人生が同じ事を繰り返しているのだと確信を持てた。
遠くに行ってしまったランドルフを見るとオルレアン家の令嬢、ローザを口説こうと話しかけていた、その瞳には劣情の混じった恋情があり、もはや私の存在なんて忘れたように彼女を口説く事に熱を上げている。
かつて、私に愛を囁いていた声で彼女に迫り、私の手を握ってくれていたその腕は彼女を逃すまいと背中に手を回している。
これも…私は知ってる。
「はぁ…」と深く、重たいため息を吐き出す。
彼が今まで私にくれていた「愛している」の言葉の軽さに呆れる心、そして彼を好きだった想いは私の中にある前世の記憶によって綺麗に遠い彼方へ消えてしまう。
ドレスに付いてしまった汚れを払い、シワを伸ばして平然に振る舞うが…周囲の反応はそれを許してくれる程、容易くない。
「惨めね…早く帰ってくれないかしら」
「本当に…正妃でもないくせに」
「さっきの顔見た?婚約者気取りだったよね?あの地味令嬢が」
一際、大きな声で話す数人の令嬢達……わざと聞こえるように言っているのだろう、談笑する振りをして聞こえるように対象の悪口を喋る…よくある手段で前世で嫌という程に経験した。
これに私がすべき反応、泣き寝入りか?我慢して泣いてこの場を去る?違う、違う……私がすべき行動は決まっている。
「私に言っているの?」
鋭い視線をひそひそと喋っていた令嬢達に向けると彼女達は意外そうな表情を見せ、一瞬の間だけ動きを止めてその饒舌な口を閉じてしまう。
意外、当たり前だろう…以前の私であれば涙を見せてこの場を後にしていただろう、聞こえる笑い声や嘲笑に心を傷つけられながら、我慢が美徳だと信じていた。
けど、記憶を思いだしたからこそ、私にはよく分かる………我慢が美徳?そんな訳がない、耐え忍ぶ意味なんてない、そんな事をすればこの貴族社会ではただの食い物にされるだけ。
食い物にされる気はない、この社会を生き抜くには私は食う側に回る覚悟を決めねばならない。
「先程、聞こえてきた貴方達のお話は私に言っていたのかしら?」
「………………」
問い詰めながら、視線を向けて詰め寄る私に嘲笑していた令嬢達は黙って俯いてしまう。
「言っていた言葉をもう一度言ってくださいませんか?私はデイジー・ルドウィン………ここから先の言葉は我がルドウィン伯爵家への侮辱として受け止めますが?」
彼女達相手にわざわざ家名を使う必要はないが、この場を手っ取り早く納めるのにはこの手が一番だろう。
「…ごめんなさい…そんなつもりじゃ」
謝罪の言葉と共に頭を下げる令嬢達に私は、どのようなつもりだったのか、理由を問いただす事も出来たが今は彼女達に八つ当たりをすべきではない、早急にすべき事が私には残されている。
「次からは直接、堂々と言ってくださいね?………私も貴方達を責めたい訳じゃないのだから」
流し目でそう言った私の言葉を聞いて、頷いた彼女達の1人の頬が何故か朱に染まっていたのは気のせいだろう。
「さて………」
私の行動は決まっていた、遠慮もせずに周囲の貴族の人だかりの中を進んでいき、オルレアン家の令嬢を口説こうと熱を上げているランドルフの元へと迫った。
「ランドルフ」
私が名前を呼ぶと、彼は面倒くさそうに振り返り、わざとらしいため息を吐いたと同時に私の手を握る。
「デイジー、ここで話すべきじゃない……向こうで…」
口説こうとしている相手の目の前で痴話げんかを見せる事を避けたいのだろうけど、私は貴方とそんな事を言い合う気はない、会場の外へと私を引こうとした手を振り払う。
「ランドルフ、私はただ一言だけ貴方に言いに来たのです。」
「なんだ?ここで話す事か!?」
「ええ、たった一言だけですから」
私は彼の胸倉を掴み、引き寄せ、囁くようにただ一言だけを呟く。
「さよなら、もう愛していない貴方…二度と私に関わらないで」
「デイジー………………?」
私は彼から離れると、そのまま会場の外へと歩んでいく…今はこれでいい、きっぱりと別れを告げる事が大事だ……この言葉をこれから彼を苦しめる呪言としよう。
私はもう食い物にされる気はない、今世では食う側に回ってみせる。
それはかつて愛したランドルフも同様だ、いずれ王になる貴方さえも私は食い物にする、もう好き勝手に蹂躙される人生も、媚態を呈する女性のままなのもごめんだ。
ランドルフにも然るべき報いを受けさせる、そのための計画も考えねばならない。
もう失う側に回る気はない、自分の命は自分で守らねばならない。
この二回目の人生を無駄に終わらせる気はない。
「どんくさい……地味なくせしてランドルフ様の後ろに正妃気取って立っていた罰よね」
「あたしだったら恥ずかしくて死んじゃうかも……もうこの会場から飛び出しちゃう」
「そうよね………三日後に始まる学園の新学期に行けないよね、みじめで」
聞こえる声に私は不快感を覚える事はない、変わりに思考を更に冷静にさせてくれる、なぜなら先程の彼女達の台詞を私は知っているから…この人生が同じ事を繰り返しているのだと確信を持てた。
遠くに行ってしまったランドルフを見るとオルレアン家の令嬢、ローザを口説こうと話しかけていた、その瞳には劣情の混じった恋情があり、もはや私の存在なんて忘れたように彼女を口説く事に熱を上げている。
かつて、私に愛を囁いていた声で彼女に迫り、私の手を握ってくれていたその腕は彼女を逃すまいと背中に手を回している。
これも…私は知ってる。
「はぁ…」と深く、重たいため息を吐き出す。
彼が今まで私にくれていた「愛している」の言葉の軽さに呆れる心、そして彼を好きだった想いは私の中にある前世の記憶によって綺麗に遠い彼方へ消えてしまう。
ドレスに付いてしまった汚れを払い、シワを伸ばして平然に振る舞うが…周囲の反応はそれを許してくれる程、容易くない。
「惨めね…早く帰ってくれないかしら」
「本当に…正妃でもないくせに」
「さっきの顔見た?婚約者気取りだったよね?あの地味令嬢が」
一際、大きな声で話す数人の令嬢達……わざと聞こえるように言っているのだろう、談笑する振りをして聞こえるように対象の悪口を喋る…よくある手段で前世で嫌という程に経験した。
これに私がすべき反応、泣き寝入りか?我慢して泣いてこの場を去る?違う、違う……私がすべき行動は決まっている。
「私に言っているの?」
鋭い視線をひそひそと喋っていた令嬢達に向けると彼女達は意外そうな表情を見せ、一瞬の間だけ動きを止めてその饒舌な口を閉じてしまう。
意外、当たり前だろう…以前の私であれば涙を見せてこの場を後にしていただろう、聞こえる笑い声や嘲笑に心を傷つけられながら、我慢が美徳だと信じていた。
けど、記憶を思いだしたからこそ、私にはよく分かる………我慢が美徳?そんな訳がない、耐え忍ぶ意味なんてない、そんな事をすればこの貴族社会ではただの食い物にされるだけ。
食い物にされる気はない、この社会を生き抜くには私は食う側に回る覚悟を決めねばならない。
「先程、聞こえてきた貴方達のお話は私に言っていたのかしら?」
「………………」
問い詰めながら、視線を向けて詰め寄る私に嘲笑していた令嬢達は黙って俯いてしまう。
「言っていた言葉をもう一度言ってくださいませんか?私はデイジー・ルドウィン………ここから先の言葉は我がルドウィン伯爵家への侮辱として受け止めますが?」
彼女達相手にわざわざ家名を使う必要はないが、この場を手っ取り早く納めるのにはこの手が一番だろう。
「…ごめんなさい…そんなつもりじゃ」
謝罪の言葉と共に頭を下げる令嬢達に私は、どのようなつもりだったのか、理由を問いただす事も出来たが今は彼女達に八つ当たりをすべきではない、早急にすべき事が私には残されている。
「次からは直接、堂々と言ってくださいね?………私も貴方達を責めたい訳じゃないのだから」
流し目でそう言った私の言葉を聞いて、頷いた彼女達の1人の頬が何故か朱に染まっていたのは気のせいだろう。
「さて………」
私の行動は決まっていた、遠慮もせずに周囲の貴族の人だかりの中を進んでいき、オルレアン家の令嬢を口説こうと熱を上げているランドルフの元へと迫った。
「ランドルフ」
私が名前を呼ぶと、彼は面倒くさそうに振り返り、わざとらしいため息を吐いたと同時に私の手を握る。
「デイジー、ここで話すべきじゃない……向こうで…」
口説こうとしている相手の目の前で痴話げんかを見せる事を避けたいのだろうけど、私は貴方とそんな事を言い合う気はない、会場の外へと私を引こうとした手を振り払う。
「ランドルフ、私はただ一言だけ貴方に言いに来たのです。」
「なんだ?ここで話す事か!?」
「ええ、たった一言だけですから」
私は彼の胸倉を掴み、引き寄せ、囁くようにただ一言だけを呟く。
「さよなら、もう愛していない貴方…二度と私に関わらないで」
「デイジー………………?」
私は彼から離れると、そのまま会場の外へと歩んでいく…今はこれでいい、きっぱりと別れを告げる事が大事だ……この言葉をこれから彼を苦しめる呪言としよう。
私はもう食い物にされる気はない、今世では食う側に回ってみせる。
それはかつて愛したランドルフも同様だ、いずれ王になる貴方さえも私は食い物にする、もう好き勝手に蹂躙される人生も、媚態を呈する女性のままなのもごめんだ。
ランドルフにも然るべき報いを受けさせる、そのための計画も考えねばならない。
もう失う側に回る気はない、自分の命は自分で守らねばならない。
この二回目の人生を無駄に終わらせる気はない。
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