【完結】この運命を受け入れましょうか

なか

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11話

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「無実を証明するとは、一体どうする気だね」

「方法を明かすはずありません。でも……ゆったりしていては貴方達は元父と同じ道を歩むだけです」

 貴族達の額に冷や汗が浮かび、怯えたように目線を泳がせる者達が増える。
 彼ら皆がカトレア元公爵のような、悲惨な姿などなりたくもなかった。

「頑張って、抵抗してくださいね」

「ぐっ……我ら貴族家にこんな事をすれば、この国を敵に回す事と同じだ。その意味が分かっているのだろうな」

「もう、そうなっているように思えますけど」

 貴族家は充分に焚きつけた……物語通りに動いてくれるだろう。
 もうここに用はない。
 ヴィオラはゼインへと視線を戻して、呟いた。

「お伝えしたい事は以上です。失礼しました」

 父は再び公爵家私兵に連行されていき、ヴィオラと叔父のゼインは立ち上がって議場を後にする。
 貴族達は、自分達が椅子に縛られている状況に困惑する。

「ま、まて! これはどうする気だ!」

「自力でどうにかしてください。さぁ帰りましょうか、ゼイン叔父様」

「あぁ、帰ろうか。ヴィオラ」

「まっ! 待ってくれ!」

 叫ぶ貴族達を置いて、ヴィオラ達はその場を出て行く。
 残された貴族達は必死にもがきながら、一人がある事に気付いた。

「な、なぁ……確かにこの木製の椅子を成長させて変形させたんだぞ。ヴィオラ嬢は」

「あぁ、それがなんだ」

「これは……聖女と同じではないのか? ひょっとするとリア様以上の……」

「は……は? なにを……言って」

 貴族達は気付いた途端に、最悪の考えが脳裏によぎる。
 もし、もしも本当にヴィオラがリア以上の聖女の力を持っていたすれば、一大事だ。

 無実を証明されて、挙句に彼女が聖女としての素質も持っていると民衆が知れば……
 罪を仕立て上げた貴族達の責は、どこまで重くなるのか想像もできないのだから。


   ◇◇◇


 公爵家に戻ったヴィオラは、自室にて落ち着いて紅茶を飲む。
 久しぶりの安息に息を吐き、今後について思いを馳せた。

「ヴィオラ様、今後はどうなさるおつもりですか?」
 
 そんな中、対面に座っているハースも紅茶のカップを持ちながら問いかける。
 熱いのかフーフーと息を吐いて冷ます彼に、ヴィオラは目線を向けた。

「貴族達も焚きつけたので、まだ物語通りの運命に従います。まだ……悲惨な運命は残っておりますから」

「物語通りの展開ですか……詳細をお聞きしても?」

「私は父から勘当されて……老貴族家の元へ身売りされる予定でした」

「え……なら、この後は運命通りに老貴族に身売りをする気ですか? 駄目です! 僕は絶対に反対です」

 当然の心配に、ヴィオラは首を横に振る。
 
「いえ、大丈夫よ。私は一度目でも、身売りされる前にゼイン叔父様が保護してくださったから」

「そうなんですね。な、なら良かった」

 ホッと安堵の息を吐くハースに感謝しつつ、ヴィオラは話を続ける。

「でもその際、匿ってくださったゼイン叔父様の身内に……不幸を招いてしまったの」

「不幸……? それは一体?」

 一度目の記憶を思い出し、ヴィオラは唇を噛む。
 ゼイン叔父様の元へ保護してもらい、身分を隠して生きていた時に起こった不幸を……

「それは……」

「ヴィオラ、ハース君。少しいいだろうか」

 続きを答えようとした時、部屋の外からゼインの声が聞こえる。
 室内の二人は立ち上がって彼を迎えた。

「ゼイン叔父様、どうなさいましたか」

「屋敷を移して荷造りも終えてな、改めて挨拶をと思って……私の家族とも会ってもらいたいんだ」

「っ……はい。こちらからもお願いいたします」

 ハースはふと、答えたヴィオラの瞳が揺れ動いたのに気付く。
 普段表情の変化をあまり見せぬ彼女なのに、どうしたのかと疑問を抱いた時。
 ゼインがある人物を室内に連れてきた……
 
「亡くなった私の妻との子でね。ルカというんだ」

「ルカ……」

「……」

 紹介されたゼインの一人息子であるルカは、まだ四歳の子供だった。
 ヴィオラと似た銀色の髪に、ゼインと同じ琥珀色の瞳が輝いて揺れる。
 二人を少し潤んだ瞳で見つめていた。

「ほら、ルカ。挨拶なさい……お姉様になるのだから」

「おねさま……」

「そうだよ、さぁ、挨拶をして」

「……」

「あ……こら」

 ルカは無言のまま、逃げるように部屋を出て行ってしまう。
 その様子にゼインは苦笑交じりに呟いた。

「すまないね。私に似て、少し奥手な気質があって」

「いえ、いきなり家族として受け入れられないルカの気持ちも分かります」

「そう言ってもらえると嬉しいよ。良ければ時間がある時にでも遊んでやってくれ」

「……はい。もちろんです」

 ヴィオラは答えながら、ようやく会えたルカに唇を噛み締めて喜んでいた。
 そしてゼインが部屋を出た後、ハースは尋ねた。

「物語では、ゼイン様の身内があったと言っておりましたが……まさか」

 ハースの問いかけに、ヴィオラは頷いた。

「ええ、ルカが貴族達に狙われたの。保護された私が……再び毒殺したと追い込むため」

 ハースは流石に擁護できぬ貴族の腐敗ぶりに、吐き気を催す。
 女性を追い詰めるため、幼子さえ利用するなんて……信じられなかった。

 ヴィオラは説明する。
 物語の運命では、勘当された彼女は叔父のゼインに保護を受けた。
 だがそれを知った貴族は、彼女の居場所を失うため……幼いルカに毒を盛った。
 実行した貴族はヴィオラに警告したのだ……この国に居れば身内は皆が死ぬと。

「と……いうのが私にとって最も最悪な運命よ」

 安い悲劇に、今も反吐が出る気持ちだとヴィオラは呟く。

「では、ヴィオラ様。運命を受け入れるならば……あの子は」

「ええ、ルカが死ぬ事が時間を進める運命になってます」

「……どうする気ですか」

 ハースの心配も当然だ。
 ルカの死こそが、時間を進める一つのピースであるのだ。
 止める事はできない、また振り出しに戻ってしまうから。

「これは……あまりに不幸で……どうすれば」

 俯いたハースだが、その心配そうな瞳にヴィオラは笑いかける。 
 
「そうね。でもそれをどうにかする事に苦労して……千回も回数を重ねていたのよ」

「っ!! まさか……」

「えぇ、わざわざ聖女の力を身に付けたのは……全てはこのため」

 ヴィオラの言葉に、ハースは驚愕と共に彼女の胆力に息を吐く。
 人体の蘇生など……おとぎ話に出てくる聖女と同じ力だ。
 いくら聖女でも、現実にはあり得ぬと思っていたのに。

「生き返らせることが、出来るのですか?」

「ええ……必ず成功できる」

 ヴィオラがこれだけの回数を重ねて準備をしてきたのは、大きくはルカのためだ。
 もう二度と自分のせいで幼子が死ぬ運命など来ないよう、万全の準備をしてきた。

「絶対に死ぬなんて事はさせない。回避してみせる」

 改めて覚悟していた時、ふと部屋の扉が小さく開いた。

「誰? っ!!」

 振り向いて、ヴィオラは目を見開く。
 そこには、さきほど走っていったルカがいて……手には一輪の花を持っていたからだ。

「ルカ、どうしたの」

「おててだして」

「え? 手?」

 手を差し出せば、ルカはヴィオラの手に花を乗せる。
 小さな手が、ヴィオラの指を掴んだ。

「るかにね。おねさまできた、えへへ」
 
 嬉しそうに笑うルカの表情を見て、ヴィオラは一度目の記憶を思い出す。
 悲惨な境遇、味方も居なかった頃に優しくしてくれた叔父のゼインと、ルカの存在にどれだけ救われたか。
 そして、自らのせいで悪事に巻き込まれたルカを見て……どれだけ心痛めたか。

 花を渡し終えて満足げに去っていくルカの背に、ヴィオラは改めて言葉を告げる。 

「ルカ……貴方が死ぬ運命なんて、絶対に私が回避してみせる」

 こんなくそったれな悲劇。
 全部……潰すために、千回も繰り返したんだ。
 やり遂げてみせよう、完璧に、完全に。
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