【完結】反逆令嬢

なか

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陰鬱だわ

降りしきる雨の中、私は歩を進めていた
考えるだけで陰鬱になる…嫌な方に呼び出され、向かっている最中なのだがきっとろくでもないことだろう


城内から見える景色は灰色の曇から降る雨一色だ
ふと中庭に目を向けると…とある人物がいた
傘も持たずに、何か作業している

(あの方は…)

私は中庭へと向かう事にした
呼び出した者と会うのは嫌だし、遅れても別にいいだろう


雨の中、一人で祈る青年
私もよく知っている、このストレングス王国の第三王子であるルーク・ストレングス様だ
病弱で部屋にこもっている事が多い彼がこの雨の中、傘もささずにいるなどお体に何かあれば大変だ


ばさりと傘を広げ、私はルーク様の後ろに立った
彼のくせっ毛から水滴が滴り落ちている、私の傘に気づいて彼は振り向いた

中性的な顔立ちで女性のようだ、他の令嬢が色めきたって噂していたのも納得できた

「君は…」

「こんにちは、ルーク様、私はアビゲイル・レブル、レブル子爵家の娘です」

「そうか、傘…ありがとう」

「いえ、ここで一体なにを?」

「埋めていたんだ」

埋めていた?
ルーク様の前に穴があり、彼の手に土もついていた

「なにを埋めるのですか?」

「猫さ、僕の生まれた時から共にいてくれた…昨日亡くなってしまってね」

そう言ってルーク様は指差すと雨をしのげる箇所に亡くなった猫が暖かな布でくるまれていた

「ですが、この雨の中ではお体に障ります」

「いいんだ、あの子はここでよく寝ていてね…ここに埋めてあげたいんだ」

そう言って彼は再び土を掘り始めた
黙々と、時々涙を流し、鼻をすすりながら

「よいしょっと」

私は傘をさしながら空いた手で、土を一緒に掘り出した

「そんな、君は付き合わなくてもいいよ、手やドレスが汚れてしまう」

「いいんですよ、ルーク様…生物は必ず死にます、だからこそ悲しでもいられません…私達は常に死を乗り越えねばなりませんから」

「君は…強いんだね、僕はまだ悲しみに勝てないでいるよ」

「無理して勝つ必要なんてありません、時間が必ず癒してくれます」

少し時間をかけ、猫を埋めた頃には雨は止んでおり
暖かな日差しが降り注いでいた

「晴れ…きっとこの子も感謝しているのですね」

私の呟きにルーク様も頷いた

「あぁ、そうだといいな…」

「それでは、私はここで」

「あ、あぁ…ありがとう…えっと、アビゲイル」

「ええ、どういたしましてです」

気分転換もできた
行くのは嫌だが、そうも言ってられないし

私は重い足取りで進んでいった







ーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーー


「遅い!貴様は俺の呼び出しにすぐに来ないか!!」

「いきなり呼び出したのは貴方ですから」

イライラした様子でこちらを睨む青年
ストレングス王国の第一王子である、ライアン・ストレングス様
私の婚約相手である、いや、正確には彼の十人目の婚約相手が私なのだ

彼は婚約を次々と結んでおり、王になれば一夫多妻制にすると言っている
その中の一人なのが私で、呼ばれたのだって久々である
私は子爵といった立場上、断ると厄介だと思って婚約を受けはしたが後悔している…

「それで、何か用でしょうか」

「あぁ、しかし汚い身なりだな」

そういえば土を付けていたままだった
綺麗にすることもできたが面倒なのでしなかった、別に好きでもないので

「ええ、少し事情がありまして」

「まぁ、ちょうどいい…そこで脱げ、お前が俺の婚約者にふさわしいか、身体を確かめてやる」

「は?」

思わず声を出してしまった…
なにを言っているのだ、この方は…

「だから速く脱げ、ベッドも既に用意している、身体の相性で俺様の婚約者にふさわしいか確かめてやると言っているのだ」

「えっと…嫌です…婚約した時に言いましたが婚前の行為はお断りしておりますので」

「おい、あまり逆らうとお前のレブル家を潰すのも可能なのだぞ?」

「……………」

言っても仕方がない、私はドレスに手をかける
白い肌が、露出していきそれに伴ってライアン様の期待も大きくなっていく


途中まで脱ぎ終わった時に私はわざとらしくつまずく、そして転ぶ振りをしながら脚を蹴り上げる

「うぐっ!!」

クリーンヒット
見事に彼の大事な箇所に蹴りが当たり、彼はうずくまった

「あらーすいませんー」

棒読みになってしまったが笑いをこらえられない
彼は震えながらこう言った

「き、貴様!!なにをしたか分かっているのか!?貴様との婚約は破棄してやる!レブル家も無事で済むとおもうなよ!!」


その言葉に思わずニヤリと口角が上がりそうになる

耐えろ、私…まだ笑ったらダメだ…

「わ、分かりました…本当によろしいのですね?ライアン王子」

「当たり前だ!!貴様など!破滅させてやる!!止めて欲しければ今すぐ脱いで奉仕しろ!!」

「それでは、私は失礼いたしますね」

「な!?」

バタンと扉を閉めて部屋を出る
もう我慢できない



やったーーーーー!!!!!

私は溢れる笑みを抑えられずに駆け出した
やっと自由だ、もう我慢しなくてもいいんだ!!


やっと
私は彼を、心おきなく



殺せる!!!




この日
ライアン・ストレングスは大きな間違いを起こした
自身が解き放ったのはただの令嬢ではない、レブル家はただの貴族ではない

彼は獣を解き放ってしまったのだと後に後悔する事になる



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