【完結】キズモノになった私と婚約破棄ですか?別に構いませんがあなたが大丈夫ですか?

なか

文字の大きさ
上 下
13 / 16

E1-気持ちの正体-

しおりを挟む
「なにを言ってる、ルーカス…貴様…からかっているのか?」

騎士団の訓練場で言われた一言に
私は指導者として答えた、だがルーカスはそれでも食い下がる

「僕は本気です!!本当で好きなんです!」

「………走り込みだ、50周してこい」

「へ?」

「速く!!」

「は、はい!」

ルーカスは訓練場を走りだした

「………………」

私は走るルーカスに背を向けて顔を抑えた
なぜ、こんなに顔が熱いんだ…胸の鼓動も速い…

なんだ、この気持ちは


「またルーカスからのアプローチですか?マリアンヌさん」

訓練場で同じく走り込みしていた騎士の1人が息を吐きながら言った

「あいつ、マリアンヌさんに憧れて、結婚したくて騎士団に入ったみたいですよ…体力もないのに…その前は…何だったかな、せい?せいなんとかって職業だったらしいですけど」

「おい貴様、私はそんなこと聞いていないぞ…サボっていないで走り込みを続けろ」

「は、はい!」

まったく、聞いてもいないのにベラベラと
ルーカスは騎士団に入団した時から私に対して婚約を願ってきた

正直、騎士として奴の剣の腕や体力は中の下がいいところだ

だが、時折…本当に時々だが、鳥や自然を見つめる優しい瞳がルナ様に似ていて
その姿が何故か気になってしまうのだ



「マ、マリアンヌさん!!話を!」

「……」

話しかけるルーカスを無視しつつ、私は日課であるルナ様の護衛へと向かった
それに奴と話すと胸が苦しくなる…熱くなってしまう







ルナ様と会う場所に向かう道中で私は最も会いたくない人物と出会ってしまった

(めんどくさい…)

心の中の声が出ないように冷静に挨拶する

「こんにちは、モハマド様」

「これは、マリアンヌ殿…今日も大変美しいですな」

ニヤリと笑う、脂汗が浮かぶ小太りの貴族
モハマド・サミュエル公爵だ、彼にはいい思い出はない


「それでは失礼しますね」

「おっと、それより私との婚約の件…速く返事をもらわないとな」

モハマド公爵は道を塞ぐように立ちはだかり、ニヤニヤと笑いながら私の髪を触ってくる
正直、背筋が凍ってしまいそうで…拳が出てしまいそうな所を耐える

こんな方だが民衆からの支持は高い、彼は私兵を治安維持のために動かす事をためらわない
盗賊、野盗が現れれば彼は騎士団よりも速く私兵を投入して鎮圧する
その功績によって公爵の爵位に上り詰めたのだ





「ですから、お断りしたはずです…私はそういった事は今は考えておりません」

「ほぉ…君は忘れたのかな?断れば、あの施設を…なくすことも可能なのだがな…」

「………………っ!…」

「まぁ、よく考えたまえよ…あの時のように…一人で盗賊団の相手をしたくなければな、今度は助からんかもな」


モハマド公爵はいやらしく私の首をなでると笑いながら去っていく

私は急いで水場に行き、首筋を洗った…嫌な物を落とすように
彼は私が王宮直属近衛騎士だった時も婚姻を申し込んできた、口調の荒い私は罵るように断った

「豚と結婚なんて死んでもごめんだ」と

その腹いせに、彼は私が抵抗できないように孤児院を開いた
表向きは孤児の救援、慈善活動…けど実際はその施設を使い私の行動を制限するためだ

私が何かを断れば孤児院を潰し、孤児たちは再び路頭に迷ってしまう
私も孤児だった、希望が絶望に変わるなど味わって欲しくはない


あの時もこの手段で死地に送られた、私が独断で動いたと言いながら…


「クズが………………」




水面を見ながら思わず吐き捨てるように呟く

「どうしたの?マリアンヌ…」

振り向くと、心配そうに見つめるルナ様がいた

「!?……ルナ様…少しめまいがして顔を洗っていただけです」

「うそ、何かあったでしょうマリアンヌ、凄く怖い顔してたもん…何があったの?言ってみて」

「いえ…本当に大丈夫、ですから」


上手く、上手く笑えているだろうか…
きっとぎこちないだろう、けど私はルナ様に迷惑をかけたくない
この問題は…私が解決する

「ルナ様、オスカー様は今日はおられないのですか?」

無理やり話をそらした、ルナ様は少し不満そうに答える

「オスカー様は最近調べ物があるみたいで国中を調べて回っているみたい…なんでもこの国の重大事項らしいわ」

「そうですか、では今日の護衛は夜まで付きますのでご安心ください」

「ありがとう、マリアンヌ…でも私の事はいいのよ?あなたも自由にしていいの」

「いえ、私が好きでやっていることですので」

「もう、マリアンヌ、好きな人とかはいないの?」

「す…好き………いませんよ、私には」


頭の中に一瞬ルーカスが浮かぶ
いやいや、なにを考えているんだ私は……私にはそんなもの必要ない

ルナ様の護衛のために一日付きっきりで過ごし、ルナ様とウィリアム様がオスカー様と寝床につき
安全を確認した後にようやく自身の部屋へと戻る


いつも城内の中庭を通って帰っており、暗い夜に人なんていない
だが、今日は一人だけ明かりをもってそこに人がいた

「……ルーカス、ここでなにをしている…」

「あ、マリアンヌさん!夜道は危ないのでせめて付き添いだけでもと」

なぜ、こいつに会うと鼓動が早くなるんだ
気持ちを抑えつつ、私は平然とした態度で答える

「いらん、それに女性の帰り道に待ち伏せなど…」

「す、すいません!夜中だと心配で」

「心配?貴様が数十人で襲い掛かっても私は負ける気はしないぞ」

「そ、そうですけど!!心配なんです、これは僕の好きでやっていることですから!」

「………………分かった、好きにしろ」

「はい!帰り道はお任せください!」

明かりを持つルーカスと共に歩を進める
夜道に恐怖や不安など、抱いた事はない…だが二人で歩く道は何故か安心できた



マリアンヌの自室の前まで来るとルーカスはもじもじと何か言いたげにしている

「……おい、流石に部屋には入れんぞ」

「!?わ、分かってます!勘違いです、僕はこれを渡したくて!」

ルーカスは小さな宝石に紐を付けたネックレスを手渡す


「なんだ、これは」

「これは、その…とにかく!それをつけていてくれませんか!?きっとマリアンヌさんの役に立つので」

「これが一体なんの役に…」

言いかけた所で、ルーカスの真っ直ぐな瞳に気付く
優しい、何かを心配している瞳


「わかった…付けてくれるか?」

「え…は、はい!!」

私は彼に背を向けてネックレスを付けてもらう
手が髪にふれ、優しく、怪我をさせないように慎重に首筋に紐を通していく
昼の嫌な記憶を消してくれるように


「で、できました!!その、何か困ったことがあれば僕を呼んでください!」

「ありがとう、ないと思うがな……じゃあ…」

彼に顔を向けずに背を向けたまま部屋へと入り、扉を閉める
バタリと扉が閉まったのを確認してうずくまる

顔が熱い…胸が熱く鼓動が早い
この気持ちは…この想いは


私は鏡を見る
ほほが赤く染まり、息も荒い

知っている、この顔は…オスカー様を見つめるルナ様と同じ

あぁ…分かった
気づいた

きっと私は…初めて




恋をしているのかもしれないな




ネックレスに付いている宝石を見ながら、少しだけ私は微笑んだ













ーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーー



「…………………こうなったら無理やりにでも……」

ルーカスがマリアンヌの部屋の前から立ち去るのを茂みから見つめるモハマド公爵は
小さくそう呟いた




しおりを挟む
感想 39

あなたにおすすめの小説

離縁をさせて頂きます、なぜなら私は選ばれたので。

kanon
恋愛
「アリシア、お前はもうこの家に必要ない。ブライト家から追放する」 父からの予想外の言葉に、私は目を瞬かせる。 我が国でも名高いブライト伯爵家のだたっぴろい応接間。 用があると言われて足を踏み入れた途端に、父は私にそう言ったのだ。 困惑する私を楽しむように、姉のモンタナが薄ら笑いを浮かべる。 「あら、聞こえなかったのかしら? お父様は追放と言ったのよ。まさか追放の意味も知らないわけじゃないわよねぇ?」

なにをおっしゃいますやら

基本二度寝
恋愛
本日、五年通った学び舎を卒業する。 エリクシア侯爵令嬢は、己をエスコートする男を見上げた。 微笑んで見せれば、男は目線を逸らす。 エブリシアは苦笑した。 今日までなのだから。 今日、エブリシアは婚約解消する事が決まっているのだから。

結婚しましたが、愛されていません

うみか
恋愛
愛する人との結婚は最悪な結末を迎えた。 彼は私を毎日のように侮辱し、挙句の果てには不倫をして離婚を叫ぶ。 為す術なく離婚に応じた私だが、その後国王に呼び出され……

婚約破棄された令嬢のささやかな幸福

香木陽灯(旧:香木あかり)
恋愛
 田舎の伯爵令嬢アリシア・ローデンには婚約者がいた。  しかし婚約者とアリシアの妹が不貞を働き、子を身ごもったのだという。 「結婚は家同士の繋がり。二人が結ばれるなら私は身を引きましょう。どうぞお幸せに」  婚約破棄されたアリシアは潔く身を引くことにした。  婚約破棄という烙印が押された以上、もう結婚は出来ない。  ならば一人で生きていくだけ。  アリシアは王都の外れにある小さな家を買い、そこで暮らし始める。 「あぁ、最高……ここなら一人で自由に暮らせるわ!」  初めての一人暮らしを満喫するアリシア。  趣味だった刺繍で生計が立てられるようになった頃……。 「アリシア、頼むから戻って来てくれ! 俺と結婚してくれ……!」  何故か元婚約者がやってきて頭を下げたのだ。  しかし丁重にお断りした翌日、 「お姉様、お願いだから戻ってきてください! あいつの相手はお姉様じゃなきゃ無理です……!」  妹までもがやってくる始末。  しかしアリシアは微笑んで首を横に振るばかり。 「私はもう結婚する気も家に戻る気もありませんの。どうぞお幸せに」  家族や婚約者は知らないことだったが、実はアリシアは幸せな生活を送っていたのだった。

今、目の前で娘が婚約破棄されていますが、夫が盛大にブチ切れているようです

シアノ
恋愛
「アンナレーナ・エリアルト公爵令嬢、僕は君との婚約を破棄する!」  卒業パーティーで王太子ソルタンからそう告げられたのは──わたくしの娘!?  娘のアンナレーナはとてもいい子で、婚約破棄されるような非などないはずだ。  しかし、ソルタンの意味ありげな視線が、何故かわたくしに向けられていて……。  婚約破棄されている令嬢のお母様視点。  サクッと読める短編です。細かいことは気にしない人向け。  過激なざまぁ描写はありません。因果応報レベルです。

虐げられた令嬢は、耐える必要がなくなりました

天宮有
恋愛
伯爵令嬢の私アニカは、妹と違い婚約者がいなかった。 妹レモノは侯爵令息との婚約が決まり、私を見下すようになる。 その後……私はレモノの嘘によって、家族から虐げられていた。 家族の命令で外に出ることとなり、私は公爵令息のジェイドと偶然出会う。 ジェイドは私を心配して、守るから耐える必要はないと言ってくれる。 耐える必要がなくなった私は、家族に反撃します。

もうあなた様の事は選びませんので

新野乃花(大舟)
恋愛
ロベルト男爵はエリクシアに対して思いを告げ、二人は婚約関係となった。しかし、ロベルトはその後幼馴染であるルアラの事ばかりを気にかけるようになり、エリクシアの事を放っておいてしまう。その後ルアラにたぶらかされる形でロベルトはエリクシアに婚約破棄を告げ、そのまま追放してしまう。…しかしそれから間もなくして、ロベルトはエリクシアに対して一通の手紙を送る。そこには、頼むから自分と復縁してほしい旨の言葉が記載されており…。

義妹のせいで、婚約した相手に会う前にすっかり嫌われて婚約が白紙になったのになぜか私のことを探し回っていたようです

珠宮さくら
恋愛
サヴァスティンカ・メテリアは、ルーニア国の伯爵家に生まれた。母を亡くし、父は何を思ったのか再婚した。その再婚相手の連れ子は、義母と一緒で酷かった。いや、義母よりうんと酷かったかも知れない。 そんな義母と義妹によって、せっかく伯爵家に婿入りしてくれることになった子息に会う前にサヴァスティンカは嫌われることになり、婚約も白紙になってしまうのだが、義妹はその子息の兄と婚約することになったようで、義母と一緒になって大喜びしていた 。

処理中です...