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後日談④

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心地よい風が草木を揺らし
暖かな日差しの中、一人の少年が野原を走る

「待ちなさい、ウィリアム」

「おかぁさん!こっちこっち!」

無邪気に走る息子、ウィリアムを追いかける私は一息つく
追いつく気がしない…子供の無尽蔵に溢れる体力には敵わない
私も父様とこうしてかけっこした時はよく疲れ果てた父様を見たものだ

「おかぁさん、疲れちゃった?」

心配そうにこちらに駆け寄るウィリアムの頭を撫でる
愛しい我が子

「おかぁさんちょっと疲れちゃった、休憩していい?ウィリアム」

「うん!あっちの日陰まで行こう!」

日陰の中、心地よい風が肌を撫でる
少し時間が経った頃、遠くに人影が見えた
距離があっても私には分かった

「ウィリアム!お父様よ」

「お父様!!」

ウィリアムはすぐさま駆け出した
無理もない、一か月程会っていないのだ
オスカー様は他国に出向く事も多く、多忙であるけど家族の時間は必ず取ってくれている

「こい!ウィリアム!!」

「お父様!!」

ウィリアムが飛び上がりながらオスカー様に抱きつく

「おっと!一か月の間にまた大きくなったな!」

「うん!いつかお父様より大きくなるんだ!」

「ははは、楽しみだ…ルナ、ただいま」

私もオスカー様に抱きつき唇を重ねる

「おかえりなさい、あなた」

「君とウィリアムに早く会いたかった」

オスカー様もウィリアムを抱き上げながら私を抱きしめてくれる

「実は嬉しい報告がありますの」

「何かあるのかい?」

「ええ、実は貴方のお子がもう一人お腹の中に」

「!」

オスカー様はゆっくりとウィリアムを下ろすと私のお腹を優しく撫でる

「ウィリアムの時と同じだ、こんなに嬉しい事はないよ」

「ええ、私もです」

「お父様、お母様…どうしたのです?」

「ウィリアム、お前に弟か妹ができるのだ、仲良くするのだぞ」

「本当に!?僕、絶対に守ってみせる!」

「いい子ね、ウィリアム」

三人は笑顔で再び抱き合った
この幸せをかみ締めながら








ーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーー


その様子をマリアンヌは見つめていた
騎士となったマリアンヌだがルナ王妃が外に出れば必ず護衛として付いていた


騎士団の練度も彼女が指導者となってからかつてない成長を遂げている
指導は厳しいがマリアンヌ自身の魅力もあり付いてくる者は多い



そんな彼女はルナ王妃の幸せを心の底から喜んでいた

だが、異変に気づいた

「出てきなさい」

剣に手をかけてそう呟く
それはあっさりと正体を表した、木の陰に隠れていた黒ずくめの者

その手には短剣が握られていた
マリアンヌは即座に敵対者と認識して動いていた
間合いに詰め、剣を抜き、神速のような速さで剣戟を浴びせる

驚いた事に、目の前の黒ずくめの者はその剣を全て受けきり、反撃に出たのだ

「くっ!!」

速い剣の動きに一瞬反応が遅れ、ほほに一線の傷を受ける
血が少し垂れるが関係ない

マリアンヌは傷をものともせず体当たりを喰らわせる
彼女の全力の一撃はいくら防御しても受け流すことは敵わない

黒ずくめの者は突き飛ばされ、ゴロゴロと転がりながら体勢を立て直そうとした瞬間
既に目の前に剣を振りぬくマリアンヌがいた、剣が黒ずくめの者の首を跳ね飛ばす寸前

「待ってくれ…」

その言葉にマリアンヌは動きを止めた
命乞いされたとしても剣を止める気はなかった、だがその声に信じられないと感じたのだ



「な、なぜ…」

マリアンヌの言葉に黒ずくめの者は顔を隠していたフードに手をかける

「すまない、今の俺の実力でどこまであなたと戦えるか試したくてな…やはり敵わないな」

そこにはかつてルナ様を苦しめた男
欲望にまみれ、発狂していた


アルベルト王子がいたのだった






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