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第二十八話 迷える子羊(野宮 清子)
しおりを挟む学は朝から警察署の中でバタバタと動いていた。
今誘拐事件が立て続けに起こっており、警察はこれを連続誘拐事件として捜査を進めていた。
未だ誘拐された女性たちは一人も見つかっておらず、手がかりもなく警察署管内はぴりぴりとした空気に包まれていた。
その中を、桜子は優雅に歩いて現れ、学は頭を押さえながら桜子の前に座った。
「すみません。今は立て込んでいて。」
学が粗茶ですがと言いながらお茶を出すが、桜子はそれに眉間にしわを寄せると良に視線を向けた。
良は家から持ってきたであろう紅茶セットをすかさず準備すると、桜子の前に良い香りのする紅茶を入れた。
桜子はそれをゆっくりと口に運び、ほっと息を吐くと言った。
「誘拐された一人、野宮清子さんの居場所はわかりますけれど。どうなさる?」
その言葉に、学は顔をがばっとあげると目を見開いた。
はっきり言って、情報は欲しいが、桜子の言葉を聞くには勇気がいる。
「それっていつもの、幽霊ってことですか?」
声を潜めて学が尋ねると、桜子はとても不快そうに首を横に振った。
「違うわ。これが、送られてきたのよ。」
桜子が学に差し出したのは一通の封筒であった。
学はそれを手に取ると中を取り出した。
「USB?」
「ええ。」
中に入っているのはUSBのみであり、学はそれを手に持つと尋ねた。
「中を見ても?」
「かまいませんわ。」
学はパソコンの前へと移動するとUSBをパソコンに差し込み、中身の動画を開いて愕然とした。
そこには、野宮清子が椅子に縛り付けられた状態で撮影されている動画が映っていた。
「これは。」
桜子は苛立った様子で言った。
「この場所の特定は出来ています。」
「行きましょう!」
すぐさま学は他の刑事らと連携を取りながら準備を進めると、桜子と共に動画を撮影されたと思われる廃墟の病院へと足を向けた。
そこはもうかなり劣化しており、中は散々に荒らされていた。
そして、捜索の結果、誘拐された女性三名が発見される。
だがしかし。
「野宮清子さんだけ、姿がありません。」
誘拐された女性達はいずれも衰弱しているものの命に別状はないようで救急車によって運ばれていった。
桜子は、病院の椅子を見つめながら言った。
「貴方は、どこに行ったの?」
学は桜子が椅子に向かって話しかけているのを見て息をのんだ。
いるのだ。
桜子の瞳は確実に彼女を捕えている。
「ねえ、貴方はどこにいるの?」
救急車の音が鳴り響く中、学はその様子をじっと見つめた。
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