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第二十六話 迷える子羊(本多小夜子)」
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桜子が散歩といって歩き皆を引き連れて最初に向かった場所は中庭であった。
「ここで、昔皆さんで小夜子お祖母様の誕生日パーティーを開いたのでしょう?とても楽しかったとお話を聞きました。」
すると皆が頷き、そしてその時のエピソード等を話始めた。
その姿を見て桜子は微笑むと言った。
「皆さんが集まってくれたことや、楽しそうな姿が嬉しかったと言っておられました。さぁ、次に参りましょう。」
桜子が辿っていったのは、小夜子の家族との思い出の場所ばかりであった。
皆最初こそ表情が固かったものの、次第に表情が和らぎ、そして懐かしげに小夜子との思い出を語っていく。
あの時面白かっただの、誰と誰が喧嘩して泣いただの他愛ない事ばかりだったが、振り返ってみればそれらが輝くような懐かしい思い出となっている。
そして、桜子が最後にやって来たのは、先程の厨房であった。
甘いクッキーの匂いが広がり、皆がその匂いを胸一杯に吸い込んだ。
「小夜子お祖母様が一番好きなもの、皆様はご存じのはずです。」
学は一人一人にクッキーを手渡していった。出来立てのクッキーはほかほかとしていて温かい。
「皆様お召し上がりください。それが、小夜子お祖母様からの最後の贈り物です。」
迷いながらも皆がクッキーを口に入れる。
すると、皆の目が丸くなり、そして、小夜子の姿を思い出す。
『さぁ、クッキーが焼けたわよ!』
『皆の笑顔が大好きよ。』
『ほら、温かいクッキーを食べたら、心も温かくなったでしょ?』
『あらあら喧嘩したの?なら、クッキー食べて仲直りをしなさいな。』
懐かしい姿が目に浮かび、それと同時にその時の事が思い出される。
どんな時も、クッキーを食べれば頑張れた。
笑顔になれた。
仲直りも出来た。
他愛ない日常の中で、クッキーは特別だった。
「お祖母ちゃん、、、。」
「お祖母ちゃん。」
皆が目頭を押さえて小夜子の事を呼ぶ姿を見ていた桜子は静かに言った。
「これから皆様がどんな道を歩まれるのかは分かりません。ですが、出来れば今日の日の事を覚えていてあげてくださいませ。それが小夜子様の願いでもあると思います。では、失礼いたしますわ。」
本来ならば、学を誰かが引き留めただろう。だが、その場にいた皆が、なんとなくだが、もう二度と学に同じ味のクッキーは作れないだろうと感じていた。
これは、桜子の言った通りきっと、小夜子からの最後の伝言であり、贈り物なのだろう。
桜子は学と共に屋敷に帰ると紅茶を飲んだ。
「桜子お嬢様?最後まで見届けなくて良かったんですか?」
学の言葉に桜子は言った。
「ええ。小夜子様の家族ですもの。きっと大丈夫ですわ、」
「そうですか。」
「それにしても、本当に美味しい。最後にこれをもう一度食べられるなんて、本当に夢のようですわ。」
クッキーをお上品に頬張りながら、桜子は今日も優雅にお茶を飲んだ。
「ここで、昔皆さんで小夜子お祖母様の誕生日パーティーを開いたのでしょう?とても楽しかったとお話を聞きました。」
すると皆が頷き、そしてその時のエピソード等を話始めた。
その姿を見て桜子は微笑むと言った。
「皆さんが集まってくれたことや、楽しそうな姿が嬉しかったと言っておられました。さぁ、次に参りましょう。」
桜子が辿っていったのは、小夜子の家族との思い出の場所ばかりであった。
皆最初こそ表情が固かったものの、次第に表情が和らぎ、そして懐かしげに小夜子との思い出を語っていく。
あの時面白かっただの、誰と誰が喧嘩して泣いただの他愛ない事ばかりだったが、振り返ってみればそれらが輝くような懐かしい思い出となっている。
そして、桜子が最後にやって来たのは、先程の厨房であった。
甘いクッキーの匂いが広がり、皆がその匂いを胸一杯に吸い込んだ。
「小夜子お祖母様が一番好きなもの、皆様はご存じのはずです。」
学は一人一人にクッキーを手渡していった。出来立てのクッキーはほかほかとしていて温かい。
「皆様お召し上がりください。それが、小夜子お祖母様からの最後の贈り物です。」
迷いながらも皆がクッキーを口に入れる。
すると、皆の目が丸くなり、そして、小夜子の姿を思い出す。
『さぁ、クッキーが焼けたわよ!』
『皆の笑顔が大好きよ。』
『ほら、温かいクッキーを食べたら、心も温かくなったでしょ?』
『あらあら喧嘩したの?なら、クッキー食べて仲直りをしなさいな。』
懐かしい姿が目に浮かび、それと同時にその時の事が思い出される。
どんな時も、クッキーを食べれば頑張れた。
笑顔になれた。
仲直りも出来た。
他愛ない日常の中で、クッキーは特別だった。
「お祖母ちゃん、、、。」
「お祖母ちゃん。」
皆が目頭を押さえて小夜子の事を呼ぶ姿を見ていた桜子は静かに言った。
「これから皆様がどんな道を歩まれるのかは分かりません。ですが、出来れば今日の日の事を覚えていてあげてくださいませ。それが小夜子様の願いでもあると思います。では、失礼いたしますわ。」
本来ならば、学を誰かが引き留めただろう。だが、その場にいた皆が、なんとなくだが、もう二度と学に同じ味のクッキーは作れないだろうと感じていた。
これは、桜子の言った通りきっと、小夜子からの最後の伝言であり、贈り物なのだろう。
桜子は学と共に屋敷に帰ると紅茶を飲んだ。
「桜子お嬢様?最後まで見届けなくて良かったんですか?」
学の言葉に桜子は言った。
「ええ。小夜子様の家族ですもの。きっと大丈夫ですわ、」
「そうですか。」
「それにしても、本当に美味しい。最後にこれをもう一度食べられるなんて、本当に夢のようですわ。」
クッキーをお上品に頬張りながら、桜子は今日も優雅にお茶を飲んだ。
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