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第二十四話 迷える子羊(本多小夜子)

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 桜子は優雅にお茶を飲みながら、楽しそうに話を聞いていた。

 目の前にあるのは空席と湯気の立つ紅茶。それに美味しいクッキー。

 サクッとした食感に、ふんわりと広がる甘さ。

「美味しいですわ。わたくし、このクッキー大好きですの。この味はお祖母様にしかだせませんわ。」

『ふふ。そう言ってもらえると嬉しいわ。』

 白髪を綺麗にまとめ、ふんわりとした花がらのワンピースに白いエブロンは彼女のトレードマーク。

「分かりましたわ。お祖母様の頼みとあれば、わたくし、全力で頑張りますの。」

 そう桜子は言うと学を呼び出した。

 最近の学はバイクに乗るようになったらしく、以前よりも桜子の家につくのが早くなった。

 バイクの音がして学が来たのを良は察するも学の分の紅茶も準備していく。

「お嬢様~。今日は何ですかぁ?」

 庭に入ってくる小道もすでに知り、学は顔パスで西園寺家の庭に入ってこれるようになっていた。

「今日はクッキングをしに行きますわよ。」

「は?」

 桜子の突拍子もない言葉にも、学はだいぶ慣れ、良に顔を向けると、その手には学の分のエプロンが準備されていた。

「えーっと。はい。」

 最近の学はそれを素直に受け取ると、桜子の様子や言葉を聞きながら情報を自分でまとめていけるようになって来た。

 何故ならば、桜子は圧倒的に説明の言葉が足りないからである。

「さ、行きますわよ。良。」

「お車の準備は出来ております。」

 桜子は学とともに車に乗った。

「美味しいクッキーを食べれば皆が幸せになれるはずですわ。」

 今日はいつになく可愛らしい事を言っているなぁと内心思っていると、桜子から甘い香りがしてきた。

「クッキーを焼いたんですか?」

 桜子は自慢げに頷いた。

「ええ。ですが、ただのクッキーではありませんわ。」

「というと?」 

「あの有名なパティシエであるマザー小夜子様の秘伝のクッキーです。」

「え?あの、有名な本多菓子店のですか??しかも秘伝のクッキーって、あの、一枚数百円するやつですか??手作りの限定枚数の?!」

「く、、詳しいわね。」

 学の食いつきように若干引きながらそう言うと、学は目をキラキラさせながら頷いた。

「甘いもの好きなら一度は食べてみたいものですから!え?あの、、、自分も食べたいです。」

 桜子は頷いた。

「後ほど食べさせてあげますわ。」

 その言葉に学は前のめりになりながら桜子に言った。

「本当にですか?!」

「ええ。まぁ、作るのは貴方ですが。」

「え?」

 桜子は今日も優雅に微笑みを浮かべた。


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