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第二十話 恐怖

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 真っ暗だ。

 教室が突然闇に包まれて、蛍光灯の明かりがやけに異質めいて見えた。

 何が起きているのか分からず、教室がシンと静まり返った。

 なんだろう。

 その時、ザー、ザーと、スピーカーから音が聞こえ始める。

『あーあーああああああ』

 声が、響き、皆が顔をしかめ担任も眉間にシワを寄せた。

「イタズラか?ちょっと放送室を見てくるから、お前らは大人しく待ってろよ。」

 担任が扉を開けようとするが、開かずに、何度もガタガタと扉を鳴らす。

 不審に思った後ろの席のやつが、後ろの扉も開けようとするが、開かない。

 小さなパニックが生まれ始める。

「え?何?」

「イタズラ?」

「おい、窓は?」

「おかしいぞ。外に変なカーテンみたいなのが。」

 次の瞬間、窓ガラスが揺れたかと思うと、いくつかの外側の窓ガラスが砕け散り、悲鳴が上がった。

 異様な事態に、やっと皆が焦り始めて空気が変わっていく。

 その時であった。

 クラスにあった備え付けのテレビがつく。

 そこには、仮面をつけた人が立っている。

『皆様、こんにちは。』

 皆が食い入るようにテレビを見つめる。

『今日は、いじめについてホームルームをいたしましょう。』

 皆が目を見開いてから俺を見た。

『さぁ、お座りください。今すぐ座らなければこうなりますよ。はい。』

 飾られていた花瓶が突然砕け散り、皆が慌てて席に座った。

 何がなんだか分からないうちに、恐怖に支配されている。

『では、簡単に、挙手制にしましょう。』

 息を飲むのが分かった。

 皆の視線が交差する。

『正直に答えなければ、いけませんよ。』

 正直に答える?

 だが、正直に答えた後の事を思うと本当に正直に答えていいのかと皆が迷う。

『では、このクラスにいじめがあると思う方は手を上げて。』

 ちらほらと、恐る恐るといった様子で手が上がる。

『おや?正直に答えていたい方がいますね。正直に答えないとこうなりますよ?』

 次の瞬間、蛍光灯がはじけ飛び、バラバラとその破片が落ちてくる。

「きゃぁ!」

「や、やめて!」

「おい、正直に答えろよ!」

 すると、クラスにいる皆の手が上がった。

 担任の手も上がっており、俺は思わず溜め息をついてしまった。

 ほら、やっぱりお前だってわかってたんじゃねぇか。

『では、いじめは悪いと思う方は手を上げて。』

 ほとんどの手が上がると、いじめの主犯格の少年が言った。

「いじめられる方に原因があるんじゃねぇの?あいつみたいにさ!」

 俺の方を見てそう言ったのが分かり、そうなのだろうかと胸が痛くなる。

『ほう。では、いじめる方に原因があるのだから、いじめても良いと思う方は手を上げて。』

 主犯格の少年四人が手を上げる。

 周りを見て、手がそれ以上上がらない事に苛立ち、怒鳴り声を上げた。

「今更良い子ぶってんじゃねぇーよ!お前らだって共犯だろうが!」

『はい。そうですね。おかしいですよね。いじめは悪い事だと知りながらも、行う。ですがね、四人以外は本当は分かっているんですよ。いじめられる原因があったとしても、それをしてもいいという理由にはならないという事がね。』

「はぁ?意味わかんねぇけど?」

『簡単でしょう?例えるなら、あいつは嫌なやつだから殺してもいい、とはならないでしょう?それと一緒です。』

「だから、意味わかんねぇ!」

『バカですねぇ。知ってますか?いじめは、暴行ですよ。学校の中だろうと外だろうと、暴行は罪に問われる。』

「は?」

『貴方が行ったいじめは罪に問われますよ。まぁ今回のケースがどうなるかは、弁護士と話を聞かないと分かりませんが、例えば、』

「は?な、、なにを言って、、。」

『名誉毀損罪、侮辱罪、脅迫罪、強要罪、恐喝罪、窃盗罪、強盗罪、暴行罪、傷害罪などなど、まだありますが、罪に問われます。未成年ではありますが、それでも罪は罪。いじめって、軽く考えていませんか?』

「そ、、そんなの、証拠はないし。」

 テレビの画面が切り替えられ、先程の暴行シーンが映りだされる。

『醜いですねぇ。ほら、証拠がありましたね。』

「や、、やめ、、それなら、こいつらだって!こいつらだって皆一緒になっていじめてたじゃねぇか!」

「巻き込むなよ!」

「お前が始めたんだろ!」

「私は何もしてないわ…」

「ほ、僕だって、、次に自分がいじめられるって思ったから、、。」

 罪のなすりつけ合い。

 俺はその姿を見ながら、人間とはなんと醜いのだろうかと心の中が冷めていった。

 醜い。

『では、問います。一度いじめた相手に謝り、今後いじめをしないと言う方は手を上げて。』

 かなりの数の手が上がる。だが、主犯格の四人は手を挙げずに俺の所へとくると、髪の毛を掴み、怒鳴り声を上げた。

「お前の仕業か!ふざけんな!」

「殺すぞこら。」

「まじで、お前死ねよ!」

「こんな事でいじめなんて終わるわけがねぇだろうが!」

 髪の毛が、痛くて、呻くように言った。

「なら、、、殺せよ。」

 もう、嫌だ。

 なら殺せよ。殺してみろよ!ふざけんな。お前ら皆何様なんだよ。

 ふざけんな。

 胸が苦しくて、涙を必死に堪えた。

 両親は離婚の事で頭がいっばいで俺のことなんて見てない。

 友達もいない。

 なんの為に生きてんのかも分からねぇ。

 ふざけんな。ふざけんな。ふざけんな!

 殺すって言うなら、殺せよ!

「止めて!慶太!慶太!」

 廊下側の扉が強く叩かれて、聞き慣れた声に思わず目を丸くする。

「慶太!くそ。この扉壊しますよ!」

 久しぶりに聴こえた声に目を丸くする。

 廊下側の扉が壊されて、泣きながら母親が自分の所へと駆け寄ってくるのが見えた。

 父親も、扉に体当りした肩が痛むのか、肩を抑えながらこちらへとやってくる。

「慶太!慶太!」

 母親が俺の体を抱き締め、父親が、俺の髪を掴んでいたやつの手を掴み、乱暴に突き放した。

 何が起こったのか分からず呆然としていると、部屋が急に明るくなった。

 外に垂れ下がっていた暗幕が消え去り、青空が見える。

 母親は泣きながら、担任の方を睨みつけた。父親は、クラスを一瞥すると、母親を支えつつ、俺を伴って教室から出る。

 一体、何が起きているのか、誰にもこの時分かっていなかった。









 






 
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