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第十七話 迷える子羊(田上 史)

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 僕と慶太は小学校一年生の頃からの親友だった。

 家が隣同士で、毎日ほぼ一緒。

 朝起きて、お互いに寝坊してないか窓を開けて確かめて、笑って、そして一緒に走って学校へ行く。

 いつまで冬は半袖出耐えられるか勝負したり、給食ではおかわりをかけてよくじゃんけんをした。牛乳の早のみ競争もしたし、昼休みは恐怖すら感じる鬼ごっこを真剣にしたものだ。

 いつも一緒だったし、これからもずっと一緒だと思っていた。

 けど、当たり前のような当たり前の朝、僕は死んだ。

 強盗殺人っていうやつだった。

 両親も一緒に。

 だから、僕は両親と一緒に光の向こうへ行こうとしていた。

 本当は慶太と一緒に中学生になって、部活もしてみたかったけど、死んでしまったから仕方がないと諦めた。

 けど、その時、不意に慶太が気になって僕は光の先へ行くのをやめた。

 慶太は大丈夫かな?

 それから僕はずっと慶太と一緒にいる。

 たから、今、僕は辛くてたまらない。

 なんで、慶太がお前らにそんな事をされないといけないんだよ。

 やめろよ。

 やめてくれよ。

 慶太に憑いている僕はずっとその光景を怒りを顕にして叫んでいた。

 やめろ!

 やめろよ!

 お前ら何なんだよ!

 やめろ!

 慶太に触んな!

 でも、僕の声は誰にも届かない。

 僕が叫んでも誰にも聞こえない。

 自分は、、、無力だ。

 誰か、慶太を助けて。

 誰か。

 お願いです。

 もし神様がいるなら慶太を助けてください。

 良いやつなんです。

 こんな酷い事を毎日受けるような、悪い事なんてしていないんです。

 なんで?

 なんで慶太がこんな目に合わないといけないんだよ。

 やめてくれ。

 お前ら皆、何やってんのか分かってるのかよ!

 誰にも届かなくても僕は叫び続けた。

 でも、誰にも届かない。

 そう思っていた。

 でもある日、不思議な男の人に出会った。

「キミ、顔色が悪いけど大丈夫?」 

 公園のベンチに座っていた慶太に話しかけたのは、若い男の人。

 その人は太陽みたいに明るい人で、なんだか一緒にいると気分が良くなった。

 そして、僕は気付いた。

 この人、憑くことが出来る。

 慶太は大丈夫だと男の人に答え、その人から離れようとした。

 僕は、憑くことが出来るなら話も出来るのではないかと、その人に憑いていった。

 可能性があるなら、なんでもしたい。

 そうじゃなきゃ、慶太が殺されてしまう。




「貴方、私はその方はお茶には呼んでないのだけれど?」

 優雅にお茶を飲んでいた桜子は、学の後ろを見てそう呟いた。



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