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6 約束
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エドウィンは、別室に移ってすぐにコーデリアを抱き上げると椅子に座らせた。
重たい自分の巨体を軽々と持ち上げられたことにコーデリアは衝撃を受けていると、跪き、泣きそうな表情でコーデリアを見上げるエドウィンと視線が重なった。
「コーデリア様…申し訳ありません。怪我は、していませんか?」
「大丈夫よ。受け身の練習一緒にしたでしょう?もう、エドウィン様は心配性ですね。」
そう笑ってみせると、エドウィンは少し安心したようにほっと息をついた。
初めて出会った頃は少年だったエドウィンも、今ではもう立派な青年である。
月日は流れても、あの日の約束は今でも鮮明に思い出すことが出来る。
『俺は、この国の王に貴方様になって欲しいのです。』
『何を言っているの?私には兄も姉もいるわ。』
『王女様方は輿入れ先はもう隣国に決まっています。残っているのは殿下だけです。』
その言葉に酷く動揺した。
彼に出会うまで自分の行く末など深く考えもしなかった。
『殿下では…この国は耐えきれません。』
近年隣国との状況の悪化に加え、民衆の王家への信頼の低迷が問題化しているのはコーデリアも知っていた。けれどもそれは自分にはどうすることも出来ない。
そう、コーデリアはずっと思っていた。
だがしかし、隣国との状況を緩和し、民衆の支持もコーデリアであれば取り戻すことが可能であるとエドウィンはすでに父である宰相と共にその考えに行きついていた。
自分が婚約者になれば可能性はさらに引き上げられる。
エドウィンはコーデリアに言った。
『どうか、王に。』
目の前で跪かれたコーデリアはしばらくの間考えたのちに、ゆっくりと口を開いた。
『私にそのような力はありません。』
『いいえ。私は貴方ほど惹かれる女性には出会った事が無い。貴方様ならば、きっと賢王へとなれましょう。』
真っ直ぐに自分を見つめる瞳にコーデリアは顔を歪めた。
生まれて十三年で、王家の問題には気が付いていた。その上で、自分にできる事はしようと確かに行動もしてきた。
だが、王になるなどという大それた考えを抱いたことはない。
兄がいるから。
それに、甘えている自分がいた。
けれど。
コーデリアは瞳を閉じると考える。
現在の国の状況、王子の様子、民衆の動き。
それらを踏まえた時に蘇るのは自分の国の人々が一生懸命に働き、活路を見出そうと試行錯誤し努力する姿である。
兄に本当に任せてもいいのか。
コーデリアはゆっくりと瞳を開くと言った。
『では、こうしましょう。貴方も共に道を歩んで下さるならば、私も誠心誠意努力いたします。ですが、最後の采配は国王陛下に。自分自身では兄より優れているなどと傲慢な考えはできませんので。』
その言葉にエドウィンは瞳を輝かせて頷いた。
『約束します。貴方と共に、歩むと。』
『棘の道でもいいのですか?』
『本望です。』
これまでエドウィンと共に歩んできた。
だが婚約破棄騒動に至るとは考えてもなかった。
エドウィンが示した道は二つだった。
一つはエドウィンとの婚約破棄騒動。
二つ目はその場での王子と王妃の罪の告発。
本来なら場二つ目の選択肢の方が容易であった。だがしかし、それを行った後のコーデリアに有力貴族らが付いて来るとは考えにくかった。
多くの者の前で罪を罰することは、いずれ自分の番が来るのではないかという疑心暗鬼を生みかねない。
それでは良き王にはなれないだろう。
だからこそ、コーデリアは一つ目の選択を選んだ。
今回、進行役であった王子ダニエルが本来ならば招待客のリストなどを精査し、招かなければならなかった。だがダニエルはそれを怠り、全てを側近であるエドウィンに丸投げしたのである。
エドウィンはそれを利用し、王子が王太子となるにふさわしいかどうかを見定める機会としてほしいと有力貴族らには内々に声をかけたのである。
ダニエルは表面はとても良い。だからこそこんな愚行を指示してきた今回を、エドウィンはどうしてもチャンスに変えたかった。
何もしなければダニエルが王太子となることは確実。だが、ダニエルは王に相応しくはない。
コーデリアこそ、王にふさわしい。
だからこそ、エドウィンは今回のチャンスを、たとえ自分との婚約が難しくなっても実行に移す決意をしたのだ。
手ごたえは上々である。
コーデリアはエドウィンをちらりと見て目を細めた。
いくら王子の命令だからとはいえ、婚約破棄騒動を起こした張本人であるエドウィンの立場は芳しくないだろう。
このままだともし自分が王として立っても、婚約者の立場からエドウィンは外されてしまうかもしれない。
「エドウィン様。約束はちゃんと最後まで果たして下さいね。」
だからこそ釘をさすようにコーデリアはそう言った。
婚約者としての信頼を取り戻し、そして自分の伴侶として一生を終えられるようにこれから行動していかなければならない。
エドウィンはその言葉に嬉しそうに笑みを浮かべた。
「もちろんです。そちらも抜かりなく。」
「そうですか。ならいいのです。」
さぁ、まずは明日の行動がカギになって来るであろう。
兄はどういう行動に出るのだろうかと、コーデリアは考えにふけるのであった。
重たい自分の巨体を軽々と持ち上げられたことにコーデリアは衝撃を受けていると、跪き、泣きそうな表情でコーデリアを見上げるエドウィンと視線が重なった。
「コーデリア様…申し訳ありません。怪我は、していませんか?」
「大丈夫よ。受け身の練習一緒にしたでしょう?もう、エドウィン様は心配性ですね。」
そう笑ってみせると、エドウィンは少し安心したようにほっと息をついた。
初めて出会った頃は少年だったエドウィンも、今ではもう立派な青年である。
月日は流れても、あの日の約束は今でも鮮明に思い出すことが出来る。
『俺は、この国の王に貴方様になって欲しいのです。』
『何を言っているの?私には兄も姉もいるわ。』
『王女様方は輿入れ先はもう隣国に決まっています。残っているのは殿下だけです。』
その言葉に酷く動揺した。
彼に出会うまで自分の行く末など深く考えもしなかった。
『殿下では…この国は耐えきれません。』
近年隣国との状況の悪化に加え、民衆の王家への信頼の低迷が問題化しているのはコーデリアも知っていた。けれどもそれは自分にはどうすることも出来ない。
そう、コーデリアはずっと思っていた。
だがしかし、隣国との状況を緩和し、民衆の支持もコーデリアであれば取り戻すことが可能であるとエドウィンはすでに父である宰相と共にその考えに行きついていた。
自分が婚約者になれば可能性はさらに引き上げられる。
エドウィンはコーデリアに言った。
『どうか、王に。』
目の前で跪かれたコーデリアはしばらくの間考えたのちに、ゆっくりと口を開いた。
『私にそのような力はありません。』
『いいえ。私は貴方ほど惹かれる女性には出会った事が無い。貴方様ならば、きっと賢王へとなれましょう。』
真っ直ぐに自分を見つめる瞳にコーデリアは顔を歪めた。
生まれて十三年で、王家の問題には気が付いていた。その上で、自分にできる事はしようと確かに行動もしてきた。
だが、王になるなどという大それた考えを抱いたことはない。
兄がいるから。
それに、甘えている自分がいた。
けれど。
コーデリアは瞳を閉じると考える。
現在の国の状況、王子の様子、民衆の動き。
それらを踏まえた時に蘇るのは自分の国の人々が一生懸命に働き、活路を見出そうと試行錯誤し努力する姿である。
兄に本当に任せてもいいのか。
コーデリアはゆっくりと瞳を開くと言った。
『では、こうしましょう。貴方も共に道を歩んで下さるならば、私も誠心誠意努力いたします。ですが、最後の采配は国王陛下に。自分自身では兄より優れているなどと傲慢な考えはできませんので。』
その言葉にエドウィンは瞳を輝かせて頷いた。
『約束します。貴方と共に、歩むと。』
『棘の道でもいいのですか?』
『本望です。』
これまでエドウィンと共に歩んできた。
だが婚約破棄騒動に至るとは考えてもなかった。
エドウィンが示した道は二つだった。
一つはエドウィンとの婚約破棄騒動。
二つ目はその場での王子と王妃の罪の告発。
本来なら場二つ目の選択肢の方が容易であった。だがしかし、それを行った後のコーデリアに有力貴族らが付いて来るとは考えにくかった。
多くの者の前で罪を罰することは、いずれ自分の番が来るのではないかという疑心暗鬼を生みかねない。
それでは良き王にはなれないだろう。
だからこそ、コーデリアは一つ目の選択を選んだ。
今回、進行役であった王子ダニエルが本来ならば招待客のリストなどを精査し、招かなければならなかった。だがダニエルはそれを怠り、全てを側近であるエドウィンに丸投げしたのである。
エドウィンはそれを利用し、王子が王太子となるにふさわしいかどうかを見定める機会としてほしいと有力貴族らには内々に声をかけたのである。
ダニエルは表面はとても良い。だからこそこんな愚行を指示してきた今回を、エドウィンはどうしてもチャンスに変えたかった。
何もしなければダニエルが王太子となることは確実。だが、ダニエルは王に相応しくはない。
コーデリアこそ、王にふさわしい。
だからこそ、エドウィンは今回のチャンスを、たとえ自分との婚約が難しくなっても実行に移す決意をしたのだ。
手ごたえは上々である。
コーデリアはエドウィンをちらりと見て目を細めた。
いくら王子の命令だからとはいえ、婚約破棄騒動を起こした張本人であるエドウィンの立場は芳しくないだろう。
このままだともし自分が王として立っても、婚約者の立場からエドウィンは外されてしまうかもしれない。
「エドウィン様。約束はちゃんと最後まで果たして下さいね。」
だからこそ釘をさすようにコーデリアはそう言った。
婚約者としての信頼を取り戻し、そして自分の伴侶として一生を終えられるようにこれから行動していかなければならない。
エドウィンはその言葉に嬉しそうに笑みを浮かべた。
「もちろんです。そちらも抜かりなく。」
「そうですか。ならいいのです。」
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