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3 舞踏会
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煌びやかな会場に集まるのは、それはそれは美しく着飾った貴族の皆々。
最近の流行りであるふわりと広がる可愛らしいドレスは令嬢らをまるで美しい花のように輝かせ、歩くたびにふわりと揺れるその姿は見る人の目を引き付けた。
大きく開いた胸元には小さいながらも見事な装飾の施された宝石を飾る令嬢が多数みられ、そうした流行の最先端を行く女性達は羨望の眼差しを受ける。
また会場に並ぶ料理はどれもこれも色とりどりでいて食欲のそそる香りが漂っている。
最近舞踏会の料理が一段とバリエーションが豊かであり、また見た事の無いような料理が出てくることから、踊る事そっちのけで食べる方に集中する者も出てくるほどである。
そんな会場の中に、明らかに場違い。そう評されるであろう令嬢が王族の据わる席の末席へと腰掛けている。
王族であるからドレスは一流の物である。ただ、その色合いは地味であり、煌びやかとういよりも落ち着いた印象を受ける。また、その外見もパンパンに膨らんだ風船のようであり、王族の中ではひときわ目立って見える。
お菓子姫である。
この国には第一王女、第二王女といたがすでに隣国へと輿入れしており、王族の王女はお菓子姫である第三王女しかいない。
同じ金色でも、すっとした出で立ちの王子とお菓子姫ではあまりに見た目に差があり、王族の席を見上げれば皆が一度は言葉を飲む。
「見てみろ。お菓子姫だ。」
「ふっ、また太ったんじゃないか?」
「あれでは婚約者のエドウィン殿が可愛そうだな。」
王子の側近らがそう聞こえないように声を漏らす。
王座に座る国王は、何かを見定めるような視線を会場に向けていた。
今回の舞踏会の進行役は第一王子であり、会場に集まった令嬢らが歓声を上げそうなほど美しい微笑を浮かべて挨拶を述べる。
「紳士・淑女の皆様。今宵はお集まりいただきありがとうございます。さぁ一夜の夢のひと時を共に過ごしましょう。」
王子の合図と共にオーケストラが演奏を始め、王子は一歩前に進み出ると、婚約者である令嬢と共に優雅に踊り始める。
それに続いて、お菓子姫ことコーデリアも婚約者エドウィンと踊らなければならない。
王族としての役目であるから仕方がないが、それは良くも悪くも目を引く。
王子の側近らはコーデリアのどすどすと踊る姿を見て苦笑を浮かべると、ダンスの輪に加わりながら自分の婚約者に向かって耳元でコーデリアの悪態をつく。
「みすぼらしいなぁ。」
「あれが王族とはな。」
聞こえれば不敬だが、聞こえなければいいとでも思っているのであろう。
「コーデリア様。覚悟はよろしいですか?」
踊りながら、耳元でエドウィンにささやかれ、コーデリアは一瞬身を固くした。
いよいよその時がやってこようとしている。
覚悟はしたはずなのに、それでもいざとなると心がざわついてしまう。
だが、それを表面には出さずにコーデリアは笑みをエドウィンに向けた。
「ええ。もちろんですわ。」
エドウィンは悲しげに目を細めると、今にもコーデリアを抱きしめそうなほど熱のこもった瞳でコーデリアを見つめる。
「お許しください。」
エドウィンは覚悟を決めたように息を吐くと、曲中の中、突然コーデリアの手を振り払い、ダンスを中断した。
太ったコーデリアは振り払われた勢いでその場にドスン!っと大きな音を立てて倒れ、近くにいた数名が驚いたように飛びのいた。
会場にざわめきが広がり、それを察知したオーケストラは楽器の演奏を止める。
波が引くように、ダンスホールにいた令息令嬢らは身を引き、その中央に、エドウィンが倒れたコーデリアを助け起こしもせずに見下ろす姿に視線が集まる。
第一王子、そして王妃はその様子を見て目が笑う。
さぁ面白い余興が始まったと、口元に笑みを浮かべないまでも楽しそうなその表情は明らかに異質であり、それを冷淡な瞳で国王は見つめていた。
「ダニエル・レオ・ロジリア第一王子殿下。この場をお借りしましてお伝えしたい事がございます。どうかご許可願えますでしょうか。」
エドウィンの冷たい、演技がかった声が会場に響く。
コーデリアは冷たい床に倒れたまま、うつむき、その声を聴く。
最初の勝負の時が、今、近づいている。
そして、第一王子は口を開いた。
「第一王子として許可しよう。エドウィン殿。」
コーデリアはその言葉に見えないように笑みを浮かべる。第一関門は突破した。
第一王子が、この場に、王族として許可を出したのだ。
エドウィンは倒れるコーデリアに、今にも駆け寄りたい衝動を押さえる。
国王が一瞬顔を顰めるのを、コーデリアは盗み見た。
さぁ、いよいよ始まるのだ。
最近の流行りであるふわりと広がる可愛らしいドレスは令嬢らをまるで美しい花のように輝かせ、歩くたびにふわりと揺れるその姿は見る人の目を引き付けた。
大きく開いた胸元には小さいながらも見事な装飾の施された宝石を飾る令嬢が多数みられ、そうした流行の最先端を行く女性達は羨望の眼差しを受ける。
また会場に並ぶ料理はどれもこれも色とりどりでいて食欲のそそる香りが漂っている。
最近舞踏会の料理が一段とバリエーションが豊かであり、また見た事の無いような料理が出てくることから、踊る事そっちのけで食べる方に集中する者も出てくるほどである。
そんな会場の中に、明らかに場違い。そう評されるであろう令嬢が王族の据わる席の末席へと腰掛けている。
王族であるからドレスは一流の物である。ただ、その色合いは地味であり、煌びやかとういよりも落ち着いた印象を受ける。また、その外見もパンパンに膨らんだ風船のようであり、王族の中ではひときわ目立って見える。
お菓子姫である。
この国には第一王女、第二王女といたがすでに隣国へと輿入れしており、王族の王女はお菓子姫である第三王女しかいない。
同じ金色でも、すっとした出で立ちの王子とお菓子姫ではあまりに見た目に差があり、王族の席を見上げれば皆が一度は言葉を飲む。
「見てみろ。お菓子姫だ。」
「ふっ、また太ったんじゃないか?」
「あれでは婚約者のエドウィン殿が可愛そうだな。」
王子の側近らがそう聞こえないように声を漏らす。
王座に座る国王は、何かを見定めるような視線を会場に向けていた。
今回の舞踏会の進行役は第一王子であり、会場に集まった令嬢らが歓声を上げそうなほど美しい微笑を浮かべて挨拶を述べる。
「紳士・淑女の皆様。今宵はお集まりいただきありがとうございます。さぁ一夜の夢のひと時を共に過ごしましょう。」
王子の合図と共にオーケストラが演奏を始め、王子は一歩前に進み出ると、婚約者である令嬢と共に優雅に踊り始める。
それに続いて、お菓子姫ことコーデリアも婚約者エドウィンと踊らなければならない。
王族としての役目であるから仕方がないが、それは良くも悪くも目を引く。
王子の側近らはコーデリアのどすどすと踊る姿を見て苦笑を浮かべると、ダンスの輪に加わりながら自分の婚約者に向かって耳元でコーデリアの悪態をつく。
「みすぼらしいなぁ。」
「あれが王族とはな。」
聞こえれば不敬だが、聞こえなければいいとでも思っているのであろう。
「コーデリア様。覚悟はよろしいですか?」
踊りながら、耳元でエドウィンにささやかれ、コーデリアは一瞬身を固くした。
いよいよその時がやってこようとしている。
覚悟はしたはずなのに、それでもいざとなると心がざわついてしまう。
だが、それを表面には出さずにコーデリアは笑みをエドウィンに向けた。
「ええ。もちろんですわ。」
エドウィンは悲しげに目を細めると、今にもコーデリアを抱きしめそうなほど熱のこもった瞳でコーデリアを見つめる。
「お許しください。」
エドウィンは覚悟を決めたように息を吐くと、曲中の中、突然コーデリアの手を振り払い、ダンスを中断した。
太ったコーデリアは振り払われた勢いでその場にドスン!っと大きな音を立てて倒れ、近くにいた数名が驚いたように飛びのいた。
会場にざわめきが広がり、それを察知したオーケストラは楽器の演奏を止める。
波が引くように、ダンスホールにいた令息令嬢らは身を引き、その中央に、エドウィンが倒れたコーデリアを助け起こしもせずに見下ろす姿に視線が集まる。
第一王子、そして王妃はその様子を見て目が笑う。
さぁ面白い余興が始まったと、口元に笑みを浮かべないまでも楽しそうなその表情は明らかに異質であり、それを冷淡な瞳で国王は見つめていた。
「ダニエル・レオ・ロジリア第一王子殿下。この場をお借りしましてお伝えしたい事がございます。どうかご許可願えますでしょうか。」
エドウィンの冷たい、演技がかった声が会場に響く。
コーデリアは冷たい床に倒れたまま、うつむき、その声を聴く。
最初の勝負の時が、今、近づいている。
そして、第一王子は口を開いた。
「第一王子として許可しよう。エドウィン殿。」
コーデリアはその言葉に見えないように笑みを浮かべる。第一関門は突破した。
第一王子が、この場に、王族として許可を出したのだ。
エドウィンは倒れるコーデリアに、今にも駆け寄りたい衝動を押さえる。
国王が一瞬顔を顰めるのを、コーデリアは盗み見た。
さぁ、いよいよ始まるのだ。
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