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2 婚約破棄前日
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第三王女であるお菓子姫コーデリアは、婚約者であるエドウィンの真剣なまなざしを正面から受けながら思案するようにクッキーを一枚食べた。
目の前に座るエドウィンは体の線は細いが、ある程度は体を鍛えており腕や首筋など年々男らしくなるなとコーデリアは思わず見惚れてしまう。
銅色の髪の毛を斜めに流し、後ろは短く切りそろえている。切れ長の賢そうな瞳も、薄い唇もどれもが自分の好みであり、困ってしまう。
エドウィンと自分では月とすっぽん。猫に小判。それが分かっているからこそ、視線をそらして口を動かす。
これでエドウィンと挨拶をしてから食べたクッキーは合計十枚になる。
中々の滑り出しであると自分で思いながら、さくさくとクッキーを食べる。
すると、エドウィンの真剣なまなざしがふっとやわらぎ、苦笑を浮かべると私の頭を優しく撫でた。
「コーデリア様は本当に可愛らしいですね。」
そう言うのはエドウィンくらいなものである。
エドウィンの父親はこの国の宰相として活躍するロシフェ公爵家の当主である。つまり、エドウィンもいずれは父の跡を継ぐこととなる。
そんなエドウィンとの婚約は、私が十三歳の時に決まった。
当初は数多くいた私の婚約者候補達は、私の姿を婚約者を決める為にひらかれたお茶会にて見た瞬間にその数をどんどんと減らしていった。
私としては結婚をせずに王宮の片隅で老衰できればそれでいいと考えていた。
そんな中出会ったのがエドウィンであった。
その時の衝撃と、あの日の約束を私は今も鮮明に覚えている。
それはきっとエドウィンもだろう。
「コーデリア様。あの日の約束を覚えていますか?」
ほら、やはり覚えていた。
真剣な眼差しに、何かがあるであろうことは悟っていたがそれを聞くのが怖くて何も言えずにいた。
だが、ずっとだんまりをしているわけにもいかない。
あの日、私は彼と約束をしたのだ。
そして、もうすぐその約束を果たす時がくるのだろうと私は悟った。
「もちろん。覚えていますわ。」
エドウィンはその言葉を聞いて頷くと、紅茶を一口飲み、そして静かな口調で話し始めた。
「約束を果たすにはぴったりな事態が起きそうです。だからこそコーデリア様に決断していただかなければなりません。」
やはりかと思いながら、小さく深呼吸をすると、クッキーを食べる手を止めて、エドウィンを見る。
「何かしら。」
エドウィンはニコリと笑みを浮かべると言った。
「どちらを選んでも棘の道です。僕はコーデリア様とならばその道を歩む決心をしています。けれど、結局は王女である貴方の方が辛い立場です。ですから、貴方に決めてほしい。」
何を決めろと私の婚約者様は言っているのだろうか。
私は笑みを浮かべると、ぽっちゃりとした自分の頬に手を当ててにこりと微笑んだ。
「どんな道があるのかしら?聞くのが楽しみだわ。」
ふふふっと笑い声を漏らしたものの、その後に聞いた選択肢は予想の斜め上の物であり私は思わず笑ってしまったのであった。
目の前に座るエドウィンは体の線は細いが、ある程度は体を鍛えており腕や首筋など年々男らしくなるなとコーデリアは思わず見惚れてしまう。
銅色の髪の毛を斜めに流し、後ろは短く切りそろえている。切れ長の賢そうな瞳も、薄い唇もどれもが自分の好みであり、困ってしまう。
エドウィンと自分では月とすっぽん。猫に小判。それが分かっているからこそ、視線をそらして口を動かす。
これでエドウィンと挨拶をしてから食べたクッキーは合計十枚になる。
中々の滑り出しであると自分で思いながら、さくさくとクッキーを食べる。
すると、エドウィンの真剣なまなざしがふっとやわらぎ、苦笑を浮かべると私の頭を優しく撫でた。
「コーデリア様は本当に可愛らしいですね。」
そう言うのはエドウィンくらいなものである。
エドウィンの父親はこの国の宰相として活躍するロシフェ公爵家の当主である。つまり、エドウィンもいずれは父の跡を継ぐこととなる。
そんなエドウィンとの婚約は、私が十三歳の時に決まった。
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「コーデリア様。あの日の約束を覚えていますか?」
ほら、やはり覚えていた。
真剣な眼差しに、何かがあるであろうことは悟っていたがそれを聞くのが怖くて何も言えずにいた。
だが、ずっとだんまりをしているわけにもいかない。
あの日、私は彼と約束をしたのだ。
そして、もうすぐその約束を果たす時がくるのだろうと私は悟った。
「もちろん。覚えていますわ。」
エドウィンはその言葉を聞いて頷くと、紅茶を一口飲み、そして静かな口調で話し始めた。
「約束を果たすにはぴったりな事態が起きそうです。だからこそコーデリア様に決断していただかなければなりません。」
やはりかと思いながら、小さく深呼吸をすると、クッキーを食べる手を止めて、エドウィンを見る。
「何かしら。」
エドウィンはニコリと笑みを浮かべると言った。
「どちらを選んでも棘の道です。僕はコーデリア様とならばその道を歩む決心をしています。けれど、結局は王女である貴方の方が辛い立場です。ですから、貴方に決めてほしい。」
何を決めろと私の婚約者様は言っているのだろうか。
私は笑みを浮かべると、ぽっちゃりとした自分の頬に手を当ててにこりと微笑んだ。
「どんな道があるのかしら?聞くのが楽しみだわ。」
ふふふっと笑い声を漏らしたものの、その後に聞いた選択肢は予想の斜め上の物であり私は思わず笑ってしまったのであった。
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