【完結】婚約破棄…さぁ、これからが本番です。

かのん

文字の大きさ
上 下
2 / 14

2 婚約破棄前日

しおりを挟む
 第三王女であるお菓子姫コーデリアは、婚約者であるエドウィンの真剣なまなざしを正面から受けながら思案するようにクッキーを一枚食べた。

 目の前に座るエドウィンは体の線は細いが、ある程度は体を鍛えており腕や首筋など年々男らしくなるなとコーデリアは思わず見惚れてしまう。

 銅色の髪の毛を斜めに流し、後ろは短く切りそろえている。切れ長の賢そうな瞳も、薄い唇もどれもが自分の好みであり、困ってしまう。

 エドウィンと自分では月とすっぽん。猫に小判。それが分かっているからこそ、視線をそらして口を動かす。

 これでエドウィンと挨拶をしてから食べたクッキーは合計十枚になる。

 中々の滑り出しであると自分で思いながら、さくさくとクッキーを食べる。

 すると、エドウィンの真剣なまなざしがふっとやわらぎ、苦笑を浮かべると私の頭を優しく撫でた。

「コーデリア様は本当に可愛らしいですね。」

 そう言うのはエドウィンくらいなものである。

 エドウィンの父親はこの国の宰相として活躍するロシフェ公爵家の当主である。つまり、エドウィンもいずれは父の跡を継ぐこととなる。

 そんなエドウィンとの婚約は、私が十三歳の時に決まった。

 当初は数多くいた私の婚約者候補達は、私の姿を婚約者を決める為にひらかれたお茶会にて見た瞬間にその数をどんどんと減らしていった。

 私としては結婚をせずに王宮の片隅で老衰できればそれでいいと考えていた。

 そんな中出会ったのがエドウィンであった。

 その時の衝撃と、あの日の約束を私は今も鮮明に覚えている。

 それはきっとエドウィンもだろう。

「コーデリア様。あの日の約束を覚えていますか?」

 ほら、やはり覚えていた。

 真剣な眼差しに、何かがあるであろうことは悟っていたがそれを聞くのが怖くて何も言えずにいた。

 だが、ずっとだんまりをしているわけにもいかない。

 あの日、私は彼と約束をしたのだ。

 そして、もうすぐその約束を果たす時がくるのだろうと私は悟った。

「もちろん。覚えていますわ。」

 エドウィンはその言葉を聞いて頷くと、紅茶を一口飲み、そして静かな口調で話し始めた。

「約束を果たすにはぴったりな事態が起きそうです。だからこそコーデリア様に決断していただかなければなりません。」

 やはりかと思いながら、小さく深呼吸をすると、クッキーを食べる手を止めて、エドウィンを見る。

「何かしら。」

 エドウィンはニコリと笑みを浮かべると言った。

「どちらを選んでも棘の道です。僕はコーデリア様とならばその道を歩む決心をしています。けれど、結局は王女である貴方の方が辛い立場です。ですから、貴方に決めてほしい。」

 何を決めろと私の婚約者様は言っているのだろうか。

 私は笑みを浮かべると、ぽっちゃりとした自分の頬に手を当ててにこりと微笑んだ。

「どんな道があるのかしら?聞くのが楽しみだわ。」

 ふふふっと笑い声を漏らしたものの、その後に聞いた選択肢は予想の斜め上の物であり私は思わず笑ってしまったのであった。
しおりを挟む
感想 31

あなたにおすすめの小説

お姉さまが家を出て行き、婚約者を譲られました

さこの
恋愛
姉は優しく美しい。姉の名前はアリシア私の名前はフェリシア 姉の婚約者は第三王子 お茶会をすると一緒に来てと言われる アリシアは何かとフェリシアと第三王子を二人にしたがる ある日姉が父に言った。 アリシアでもフェリシアでも婚約者がクリスタル伯爵家の娘ならどちらでも良いですよね? バカな事を言うなと怒る父、次の日に姉が家を、出た

【完結】ずっと、ずっとあなたを愛していました 〜後悔も、懺悔も今更いりません〜

高瀬船
恋愛
リスティアナ・メイブルムには二歳年上の婚約者が居る。 婚約者は、国の王太子で穏やかで優しく、婚約は王命ではあったが仲睦まじく関係を築けていた。 それなのに、突然ある日婚約者である王太子からは土下座をされ、婚約を解消して欲しいと願われる。 何故、そんな事に。 優しく微笑むその笑顔を向ける先は確かに自分に向けられていたのに。 婚約者として確かに大切にされていたのに何故こうなってしまったのか。 リスティアナの思いとは裏腹に、ある時期からリスティアナに悪い噂が立ち始める。 悪い噂が立つ事など何もしていないのにも関わらず、リスティアナは次第に学園で、夜会で、孤立していく。

夫が寵姫に夢中ですので、私は離宮で気ままに暮らします

希猫 ゆうみ
恋愛
王妃フランチェスカは見切りをつけた。 国王である夫ゴドウィンは踊り子上がりの寵姫マルベルに夢中で、先に男児を産ませて寵姫の子を王太子にするとまで嘯いている。 隣国王女であったフランチェスカの莫大な持参金と、結婚による同盟が国を支えてるというのに、恩知らずも甚だしい。 「勝手にやってください。私は離宮で気ままに暮らしますので」

【完結】「私は善意に殺された」

まほりろ
恋愛
筆頭公爵家の娘である私が、母親は身分が低い王太子殿下の後ろ盾になるため、彼の婚約者になるのは自然な流れだった。 誰もが私が王太子妃になると信じて疑わなかった。 私も殿下と婚約してから一度も、彼との結婚を疑ったことはない。 だが殿下が病に倒れ、その治療のため異世界から聖女が召喚され二人が愛し合ったことで……全ての運命が狂い出す。 どなたにも悪意はなかった……私が不運な星の下に生まれた……ただそれだけ。 ※無断転載を禁止します。 ※朗読動画の無断配信も禁止します。 ※他サイトにも投稿中。 ※表紙素材はあぐりりんこ様よりお借りしております。 「Copyright(C)2022-九頭竜坂まほろん」 ※小説家になろうにて2022年11月19日昼、日間異世界恋愛ランキング38位、総合59位まで上がった作品です!

【完結】悪役令嬢だったみたいなので婚約から回避してみた

21時完結
恋愛
春風に彩られた王国で、名門貴族ロゼリア家の娘ナタリアは、ある日見た悪夢によって人生が一変する。夢の中、彼女は「悪役令嬢」として婚約を破棄され、王国から追放される未来を目撃する。それを避けるため、彼女は最愛の王太子アレクサンダーから距離を置き、自らを守ろうとするが、彼の深い愛と執着が彼女の運命を変えていく。

悪役断罪?そもそも何かしましたか?

SHIN
恋愛
明日から王城に最終王妃教育のために登城する、懇談会パーティーに参加中の私の目の前では多人数の男性に囲まれてちやほやされている少女がいた。 男性はたしか婚約者がいたり妻がいたりするのだけど、良いのかしら。 あら、あそこに居ますのは第二王子では、ないですか。 えっ、婚約破棄?別に構いませんが、怒られますよ。 勘違い王子と企み少女に巻き込まれたある少女の話し。

妹に婚約者を奪われたので妹の服を全部売りさばくことに決めました

常野夏子
恋愛
婚約者フレデリックを妹ジェシカに奪われたクラリッサ。 裏切りに打ちひしがれるも、やがて復讐を決意する。 ジェシカが莫大な資金を投じて集めた高級服の数々――それを全て売りさばき、彼女の誇りを粉々に砕くのだ。

婚約破棄されなかった者たち

ましゅぺちーの
恋愛
とある学園にて、高位貴族の令息五人を虜にした一人の男爵令嬢がいた。 令息たちは全員が男爵令嬢に本気だったが、結局彼女が選んだのはその中で最も地位の高い第一王子だった。 第一王子は許嫁であった公爵令嬢との婚約を破棄し、男爵令嬢と結婚。 公爵令嬢は嫌がらせの罪を追及され修道院送りとなった。 一方、選ばれなかった四人は当然それぞれの婚約者と結婚することとなった。 その中の一人、侯爵令嬢のシェリルは早々に夫であるアーノルドから「愛することは無い」と宣言されてしまい……。 ヒロインがハッピーエンドを迎えたその後の話。

処理中です...