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1 お菓子姫
しおりを挟む私の思い出の中の母は、いつも悲しげに涙を流している。
『ごめんなさい。私の愛おしいコーデリア。私の娘に生まれてしまったばかりに…貴方には辛い運命を歩ませてしまう。』
思い出の中で母は泣く姿も、まるで一枚の絵のように美しい。
金色の美しい豊かな髪の毛に、淡い澄んだ泉のような瞳。その白い肌はまるでシルクのようになめらかで、唇は紅をささなくとも桜色に色づいていた。
踊り子であった母は、王宮に見世物として登城した際に父である国王に見初められ、平民ながらに特例ではあったが側妃へと召し抱えられた。
母に拒否権はなかったであろうが、自由に生きてきた母には、王宮は鳥籠のようなもの。
自由に飛ぶ羽をもがれた母は、私が十歳を迎える前に死に自由を求め、亡くなった。
『お母様・・ごめんなさい。もう私、食べられない。』
生きていた頃の母は、自分は一口も食べないくせに、毎日私にたくさんのお菓子を食べさせた。
『頑張って食べなさい。貴方の身を守る為です。お願い。ごめんね。ごめんなさい…お願いだから…。』
その頃には母の精神はかなり病んでいたと思う。それでも私の事を守るために正妃からの嫌味や嫌がらせからの盾となってくれた。
おそらく、自分の死期を悟っていた母は恐れたのだ。
私が母にそっくりだったからこそ、同じように美しく成長してしまえば正妃からの攻撃は今の比ではなくなるであろうと。
そして娘の辛い時期に傍にいてやれない事を悟っていた母は、私を守るために泣きながら言った。
『醜くなりなさい。…たとえ罵られようと、たとえ馬鹿にされようと…。美しくなれば道具にされる。美しくなれば危険な目に合う。お願い。貴方に…幸せになってほしいの。』
母の最期の願いだった。
だから私はお菓子を食べた。
食べて、吐いても食べて。
食べて食べて食べて食べて。
母が死んでからはさらに必死になって食べ物を口に詰め込んだ。
少しでも醜く。
少しでも愚かに見えるように振る舞う。
醜い体と醜い容姿を手に入れ、母が死んでからは虫けらのような視線を送られながらも、王宮の片隅でひっそりと生き残ることが出来た。
貴族達は私の事を揶揄してこう呼ぶ。
第三王女のお菓子姫と。
甘くて可愛らしいお菓子ではない。
娘を美しく育てようと、子に語りかける時にこういうのだ。
『お菓子姫のようになりたくないだろう?』と。
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