上 下
10 / 19

十話 ナタリア

しおりを挟む
「お姉様?」

 数日ぶりに聞く、妹の声。

 いつも、『お姉様』と呼ばれる度に、今度は一体何を奪われるのだろうかと幾度となく思わされた声。

 振り返りたくないと、思っても仕方ない。けれど振り返らないわけにはいかないだろう。

 ルチアーナは、ゆっくりと振り返る。

 そこには驚いたような顔で、ロアンと腕を組みこちらを見つめているナタリアがいた。

 ピンク色のフリルのふんだんに使われたドレスを纏うその姿は花の妖精のようである。

「ナタリア・・。」

 ナタリアは、ルチアーナを見て、そして、運ばれていく数々の品物を見て、最後にジークを見て、視線を泳がせる。

 嫌な予感がした。

 だが、ルチアーナが何かを言う前にジークが前に進み出て口を開いた。

「これはこれは、ルチアーナ嬢の妹君ではないか。初めまして。君の姉の夫となるジーク・レバノンだ。あぁ、横にいるのは婚約者のロアン殿かな。」

 ロアンは、ジークの噂を知っているのだろう。少し緊張した面持ちで頷いた。

「はい。お初にお目にかかります。ロアン・カポーネと申します。」

 ナタリアはその様子にチラリと視線をルチアーナに向けると、むすっとしたように唇を尖らせた。

「お姉様ったら酷いわ!こんなに素敵なお相手がいたのに、ロアン様をずっと婚約者にしていたのね。お母様がお姉様を尻軽って言った理由がよくわかったわ!」

 突然の発言に、ルチアーナは驚き、そして顔を真っ赤に染め上げた。

 こんな街中で下品な言葉に大きな声で罵られるなど予想外である。

 しかもだ。あろうことかナタリアはロアンから腕を離すと、ジークの方へと歩みより、その腕に自分の腕を絡めて胸を押し付けると言った。

「お姉様と結婚するなら、ジーク様は私のお兄様になるのね?なら、たくさん甘えようかしら?」

 その様子を見て、ルチアーナは気づいた。

 誘惑とは、あのようにするのだ。

 成る程と思う自分と、ナタリアに胸を押し付けられているジークを見て腹立たしく思う自分がいて、ルチアーナはこの感情は何だろうかと眉間にシワを寄せた。

「ナタリア嬢。申し訳ないが触れないでくれ。ルチアーナ嬢以外に触れられたくはないのだ。」

「は?」

 ジークはさっと腕を引き抜くとナタリアから距離をとり、ルチアーナの腰に手を回してぐっと引き寄せた。

「あぁ、あと、ルチアーナ嬢の籍は俺の親類の侯爵家へと移してから婚姻を正式に結ぶ予定なので君は妹ではなくなる。なので、今回は許すが、あまり無礼な真似は止めてくれ。」

 冷やかな視線をジークはナタリアとそしてロアンへと向けた。

 ロアンは顔を青ざめさせ、ナタリアは頬を膨らませて顔を赤くした。

「では、失礼。ルチアーナ嬢。行こうか。」

「え?あ、はい。」

 ナタリアの誘惑にのらず、自分をエスコートするジークの姿に、ルチアーナの心臓がトクン鳴った。

 この感情は一体なんだろうか。

 ルチアーナは頬が熱くなるのを感じた。

しおりを挟む

あなたにおすすめの小説

断罪シーンを自分の夢だと思った悪役令嬢はヒロインに成り代わるべく画策する。

メカ喜楽直人
恋愛
さっきまでやってた18禁乙女ゲームの断罪シーンを夢に見てるっぽい? 「アルテシア・シンクレア公爵令嬢、私はお前との婚約を破棄する。このまま修道院に向かい、これまで自分がやってきた行いを深く考え、その罪を贖う一生を終えるがいい!」 冷たい床に顔を押し付けられた屈辱と、両肩を押さえつけられた痛み。 そして、ちらりと顔を上げれば金髪碧眼のザ王子様なキンキラ衣装を身に着けたイケメンが、聞き覚えのある名前を呼んで、婚約破棄を告げているところだった。 自分が夢の中で悪役令嬢になっていることに気が付いた私は、逆ハーに成功したらしい愛され系ヒロインに対抗して自分がヒロインポジを奪い取るべく行動を開始した。

王太子エンドを迎えたはずのヒロインが今更私の婚約者を攻略しようとしているけどさせません

黒木メイ
恋愛
日本人だった頃の記憶があるクロエ。 でも、この世界が乙女ゲームに似た世界だとは知らなかった。 知ったのはヒロインらしき人物が落とした『攻略ノート』のおかげ。 学園も卒業して、ヒロインは王太子エンドを無事に迎えたはずなんだけど……何故か今になってヒロインが私の婚約者に近づいてきた。 いったい、何を考えているの?! 仕方ない。現実を見せてあげましょう。 と、いうわけでクロエは婚約者であるダニエルに告げた。 「しばらくの間、実家に帰らせていただきます」 突然告げられたクロエ至上主義なダニエルは顔面蒼白。 普段使わない頭を使ってクロエに戻ってきてもらう為に奮闘する。 ※わりと見切り発車です。すみません。 ※小説家になろう様にも掲載。(7/21異世界転生恋愛日間1位)

氷のメイドが辞職を伝えたらご主人様が何度も一緒にお出かけするようになりました

まさかの
恋愛
「結婚しようかと思います」 あまり表情に出ない氷のメイドとして噂されるサラサの一言が家族団欒としていた空気をぶち壊した。 ただそれは田舎に戻って結婚相手を探すというだけのことだった。 それに安心した伯爵の奥様が伯爵家の一人息子のオックスが成人するまでの一年間は残ってほしいという頼みを受け、いつものようにオックスのお世話をするサラサ。 するとどうしてかオックスは真面目に勉強を始め、社会勉強と評してサラサと一緒に何度もお出かけをするようになった。 好みの宝石を聞かれたり、ドレスを着せられたり、さらには何度も自分の好きな料理を食べさせてもらったりしながらも、あくまでも社会勉強と言い続けるオックス。 二人の甘酸っぱい日々と夫婦になるまでの物語。

好きな人と友人が付き合い始め、しかも嫌われたのですが

月(ユエ)/久瀬まりか
恋愛
ナターシャは以前から恋の相談をしていた友人が、自分の想い人ディーンと秘かに付き合うようになっていてショックを受ける。しかし諦めて二人の恋を応援しようと決める。だがディーンから「二度と僕達に話しかけないでくれ」とまで言われ、嫌われていたことにまたまたショック。どうしてこんなに嫌われてしまったのか?卒業パーティーのパートナーも決まっていないし、どうしたらいいの?

あなたに嘘を一つ、つきました

小蝶
恋愛
 ユカリナは夫ディランと政略結婚して5年がたつ。まだまだ戦乱の世にあるこの国の騎士である夫は、今日も戦地で命をかけて戦っているはずだった。彼が戦地に赴いて3年。まだ戦争は終わっていないが、勝利と言う戦況が見えてきたと噂される頃、夫は帰って来た。隣に可愛らしい女性をつれて。そして私には何も告げぬまま、3日後には結婚式を挙げた。第2夫人となったシェリーを寵愛する夫。だから、私は愛するあなたに嘘を一つ、つきました…  最後の方にしか主人公目線がない迷作となりました。読みづらかったらご指摘ください。今さらどうにもなりませんが、努力します(`・ω・́)ゞ

身代わりで鬼姑と鬼小姑の元に嫁ぎましたが幸せなので二度と帰りません!

ユウ
恋愛
嫁苛めが酷いと言われる名家に姉の身代わりで嫁がされたグレーテル。 器量も悪く、容量も悪く愛嬌と元気だけが取り柄で家族からも疎まれ出来損ないのレッテルを貼られていた。 嫁いだ後は縁を切ると言われてしまい、名家であるが厳し事で有名であるシャトワール伯爵家に嫁ぐ事に。 噂では跡継ぎの長男の婚約者を苛め倒して精神が病むまで追い込んだとか。 姉は気に入らなければ奴隷のようにこき使うと酷い噂だったのだが。 「よく来てくれたわねグレーテルさん!」 「待っていましたよ」 噂とは正反対で、優しい二人だった。 家族からも無視され名前を呼ばれることもなかったグレーテルは二人に歓迎され、幸福を噛みしめる。 一方、姉のアルミナはグレーテルの元婚約者と結婚するも姑関係が上手く行かず問題を起こしてしまう。 実家は破産寸前で、お金にも困り果てる。 幸せになるはずの姉は不幸になり、皮肉にも家を追い出された妹は幸福になって行く。 逆恨みをした元家族はグレーテルを家に戻そうとするも…。

辺境伯令嬢の私に、君のためなら死ねると言った魔法騎士様は婚約破棄をしたいそうです

茜カナコ
恋愛
辺境伯令嬢の私に、君のためなら死ねると言った魔法騎士様は婚約破棄をしたいそうです シェリーは新しい恋をみつけたが……

白い結婚三年目。つまり離縁できるまで、あと七日ですわ旦那様。

あさぎかな@電子書籍二作目発売中
恋愛
異世界に転生したフランカは公爵夫人として暮らしてきたが、前世から叶えたい夢があった。パティシエールになる。その夢を叶えようと夫である王国財務総括大臣ドミニクに相談するも答えはノー。夫婦らしい交流も、信頼もない中、三年の月日が近づき──フランカは賭に出る。白い結婚三年目で離縁できる条件を満たしていると迫り、夢を叶えられないのなら離縁すると宣言。そこから公爵家一同でフランカに考え直すように動き、ドミニクと話し合いの機会を得るのだがこの夫、山のように隠し事はあった。  無言で睨む夫だが、心の中は──。 【詰んだああああああああああ! もうチェックメイトじゃないか!? 情状酌量の余地はないと!? ああ、どうにかして侍女の準備を阻まなければ! いやそれでは根本的な解決にならない! だいたいなぜ後妻? そんな者はいないのに……。ど、どどどどどうしよう。いなくなるって聞いただけで悲しい。死にたい……うう】 4万文字ぐらいの中編になります。 ※小説なろう、エブリスタに記載してます

処理中です...