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十話 ナタリア
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「お姉様?」
数日ぶりに聞く、妹の声。
いつも、『お姉様』と呼ばれる度に、今度は一体何を奪われるのだろうかと幾度となく思わされた声。
振り返りたくないと、思っても仕方ない。けれど振り返らないわけにはいかないだろう。
ルチアーナは、ゆっくりと振り返る。
そこには驚いたような顔で、ロアンと腕を組みこちらを見つめているナタリアがいた。
ピンク色のフリルのふんだんに使われたドレスを纏うその姿は花の妖精のようである。
「ナタリア・・。」
ナタリアは、ルチアーナを見て、そして、運ばれていく数々の品物を見て、最後にジークを見て、視線を泳がせる。
嫌な予感がした。
だが、ルチアーナが何かを言う前にジークが前に進み出て口を開いた。
「これはこれは、ルチアーナ嬢の妹君ではないか。初めまして。君の姉の夫となるジーク・レバノンだ。あぁ、横にいるのは婚約者のロアン殿かな。」
ロアンは、ジークの噂を知っているのだろう。少し緊張した面持ちで頷いた。
「はい。お初にお目にかかります。ロアン・カポーネと申します。」
ナタリアはその様子にチラリと視線をルチアーナに向けると、むすっとしたように唇を尖らせた。
「お姉様ったら酷いわ!こんなに素敵なお相手がいたのに、ロアン様をずっと婚約者にしていたのね。お母様がお姉様を尻軽って言った理由がよくわかったわ!」
突然の発言に、ルチアーナは驚き、そして顔を真っ赤に染め上げた。
こんな街中で下品な言葉に大きな声で罵られるなど予想外である。
しかもだ。あろうことかナタリアはロアンから腕を離すと、ジークの方へと歩みより、その腕に自分の腕を絡めて胸を押し付けると言った。
「お姉様と結婚するなら、ジーク様は私のお兄様になるのね?なら、たくさん甘えようかしら?」
その様子を見て、ルチアーナは気づいた。
誘惑とは、あのようにするのだ。
成る程と思う自分と、ナタリアに胸を押し付けられているジークを見て腹立たしく思う自分がいて、ルチアーナはこの感情は何だろうかと眉間にシワを寄せた。
「ナタリア嬢。申し訳ないが触れないでくれ。ルチアーナ嬢以外に触れられたくはないのだ。」
「は?」
ジークはさっと腕を引き抜くとナタリアから距離をとり、ルチアーナの腰に手を回してぐっと引き寄せた。
「あぁ、あと、ルチアーナ嬢の籍は俺の親類の侯爵家へと移してから婚姻を正式に結ぶ予定なので君は妹ではなくなる。なので、今回は許すが、あまり無礼な真似は止めてくれ。」
冷やかな視線をジークはナタリアとそしてロアンへと向けた。
ロアンは顔を青ざめさせ、ナタリアは頬を膨らませて顔を赤くした。
「では、失礼。ルチアーナ嬢。行こうか。」
「え?あ、はい。」
ナタリアの誘惑にのらず、自分をエスコートするジークの姿に、ルチアーナの心臓がトクン鳴った。
この感情は一体なんだろうか。
ルチアーナは頬が熱くなるのを感じた。
数日ぶりに聞く、妹の声。
いつも、『お姉様』と呼ばれる度に、今度は一体何を奪われるのだろうかと幾度となく思わされた声。
振り返りたくないと、思っても仕方ない。けれど振り返らないわけにはいかないだろう。
ルチアーナは、ゆっくりと振り返る。
そこには驚いたような顔で、ロアンと腕を組みこちらを見つめているナタリアがいた。
ピンク色のフリルのふんだんに使われたドレスを纏うその姿は花の妖精のようである。
「ナタリア・・。」
ナタリアは、ルチアーナを見て、そして、運ばれていく数々の品物を見て、最後にジークを見て、視線を泳がせる。
嫌な予感がした。
だが、ルチアーナが何かを言う前にジークが前に進み出て口を開いた。
「これはこれは、ルチアーナ嬢の妹君ではないか。初めまして。君の姉の夫となるジーク・レバノンだ。あぁ、横にいるのは婚約者のロアン殿かな。」
ロアンは、ジークの噂を知っているのだろう。少し緊張した面持ちで頷いた。
「はい。お初にお目にかかります。ロアン・カポーネと申します。」
ナタリアはその様子にチラリと視線をルチアーナに向けると、むすっとしたように唇を尖らせた。
「お姉様ったら酷いわ!こんなに素敵なお相手がいたのに、ロアン様をずっと婚約者にしていたのね。お母様がお姉様を尻軽って言った理由がよくわかったわ!」
突然の発言に、ルチアーナは驚き、そして顔を真っ赤に染め上げた。
こんな街中で下品な言葉に大きな声で罵られるなど予想外である。
しかもだ。あろうことかナタリアはロアンから腕を離すと、ジークの方へと歩みより、その腕に自分の腕を絡めて胸を押し付けると言った。
「お姉様と結婚するなら、ジーク様は私のお兄様になるのね?なら、たくさん甘えようかしら?」
その様子を見て、ルチアーナは気づいた。
誘惑とは、あのようにするのだ。
成る程と思う自分と、ナタリアに胸を押し付けられているジークを見て腹立たしく思う自分がいて、ルチアーナはこの感情は何だろうかと眉間にシワを寄せた。
「ナタリア嬢。申し訳ないが触れないでくれ。ルチアーナ嬢以外に触れられたくはないのだ。」
「は?」
ジークはさっと腕を引き抜くとナタリアから距離をとり、ルチアーナの腰に手を回してぐっと引き寄せた。
「あぁ、あと、ルチアーナ嬢の籍は俺の親類の侯爵家へと移してから婚姻を正式に結ぶ予定なので君は妹ではなくなる。なので、今回は許すが、あまり無礼な真似は止めてくれ。」
冷やかな視線をジークはナタリアとそしてロアンへと向けた。
ロアンは顔を青ざめさせ、ナタリアは頬を膨らませて顔を赤くした。
「では、失礼。ルチアーナ嬢。行こうか。」
「え?あ、はい。」
ナタリアの誘惑にのらず、自分をエスコートするジークの姿に、ルチアーナの心臓がトクン鳴った。
この感情は一体なんだろうか。
ルチアーナは頬が熱くなるのを感じた。
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