上 下
2 / 24

二話 訪れた魔法使い

しおりを挟む
 シャルロッテ・ルーベリウスは、四台公爵家の一つルーベリウス公爵家の十歳の令嬢である。

 黒い瞳と黒い髪から、ルーベリウス家の黒薔薇姫として幼い頃からもてはやされていた。

 そんなシャルロッテは、大変勉学に優れており、魔力量も十分あることから、専属の師となる魔法使いが選ばれ、シャルロッテの元へと訪れていた。

 その魔法使いの名前をリラト・スフェンという。

 シャルロッテは目の前で優雅に紅茶を飲む、自分と同じ年頃に見える、リラトに向かって口を開いた。

「まぁ。リラト様。ずいぶんと小さくなられましたね」

 思わずそう呟いたシャルロッテに、リラトは眉間にしわを寄せると腕を組みなおしてから言った。

「言っておくけれど僕は君に合わせて、この姿にしているだけだからね? どこの国でもそうだけれど、魔法使いとは年齢不詳なのが基本なんだ」

 その言葉にシャルロッテはくすくすと笑い声をあげながら、大きく背伸びをすると立ち上がり、ぴょんぴょんとその場で飛び跳ねた。

「ふふっ! 体が軽いわ!」

「まぁね、六年前に戻ったわけだし、僕たちは子どもの姿だしね」

「そうよねぇ。あー。本当はのんびり過ごしたいところだけれど、そうもいかないわよね」

 シャルロッテはそういうと、席に座り直し、紅茶を一口また飲むと、ため息を大きくついた。

 リラトも同意するようにうなずくと、指を宙に向かってくるくると回し、空中に文字を浮かび上がらせる。

 そこには、シャルロッテ達が住まう王国、エラ王国の王子や騎士の名前が浮かび上がる。

「エラ王国の地下には大量の魔力が埋まっている。もし国が滅びたり、戦争になったりして、その魔力が地中から分散されると世界の均衡が崩れるからね。だから、エラ王国は平和でいてもらわないと困るんだよ。けれど君が断頭台で首が落とされた時にはすでに、バカ王子がやらかして隣国との関係は悪化してたし、最悪だった」

 空中でエラ王国の絵がくるくると飛びまわる。

 それをシャルロッテは指で小突きながら大きくため息をついた。

「それなのに、国に魔法使いが介入してはならないっていう、その法則やめたらいいのに」

 シャルロッテの言葉に、リラトは肩をすくめた。

「僕だってそのほうが楽だよ。ほら、ちょいちょいちょいって、こう王族を洗脳してさ操るほうが。でもそれやっちゃうと、魔法使いは魔力を失うんだよ。だから運命を一番変える力を持つ、王家以外の人間が選ばれるんだ」

「ならせめて、一度目の人生の時に、もう少し手助けをしてくれたらよかったじゃない。あなたが私にこの国を救えるのは君しかいないって言ったの、私が断頭台に立つ一週間前よ?」

「それも魔法使い法で決まっているんだよ。一度目の人生の流れは必ず見守らないといけないって。だから、本当にさ、僕だって君が断頭台に立つのを見たかったわけじゃないよ?……だから何度も一緒に逃げようって言ったじゃないか。君は冗談だと思っていたようだけど?」

「そんなこと言って……処刑って、いくらあなたが痛くないって言ったって、石ころとかも当たらないようにするとか言ったって怖いものは怖いのよ?」

 その言葉にシャルロッテが自身の首をなでながらいうものだから、つられてリラトも自身の首をなでながら言葉を返す。

「本当に、本当にそれに関しては申し訳ない。けれど、あの結果を招いたのは君自身だろう?」

「だって公爵令嬢の首を落とそうだなんて、誰も思わないじゃない!?」

「君の婚約者と兄と騎士とかもろもろは思ってたけど……」

「頭おかしいのよ! 」

 シャルロッテはそう叫び、一度目の人生のことを思い出した。

 
しおりを挟む
感想 42

あなたにおすすめの小説

悪役令嬢より取り巻き令嬢の方が問題あると思います

恋愛
両親と死別し、孤児院暮らしの平民だったシャーリーはクリフォード男爵家の養女として引き取られた。丁度その頃市井では男爵家など貴族に引き取られた少女が王子や公爵令息など、高貴な身分の男性と恋に落ちて幸せになる小説が流行っていた。シャーリーは自分もそうなるのではないかとつい夢見てしまう。しかし、夜会でコンプトン侯爵令嬢ベアトリスと出会う。シャーリーはベアトリスにマナーや所作など色々と注意されてしまう。シャーリーは彼女を小説に出て来る悪役令嬢みたいだと思った。しかし、それが違うということにシャーリーはすぐに気付く。ベアトリスはシャーリーが嘲笑の的にならないようマナーや所作を教えてくれていたのだ。 (あれ? ベアトリス様って実はもしかして良い人?) シャーリーはそう思い、ベアトリスと交流を深めることにしてみた。 しかしそんな中、シャーリーはあるベアトリスの取り巻きであるチェスター伯爵令嬢カレンからネチネチと嫌味を言われるようになる。カレンは平民だったシャーリーを気に入らないらしい。更に、他の令嬢への嫌がらせの罪をベアトリスに着せて彼女を社交界から追放しようともしていた。彼女はベアトリスも気に入らないらしい。それに気付いたシャーリーは怒り狂う。 「私に色々良くしてくださったベアトリス様に冤罪をかけようとするなんて許せない!」 シャーリーは仲良くなったテヴァルー子爵令息ヴィンセント、ベアトリスの婚約者であるモールバラ公爵令息アイザック、ベアトリスの弟であるキースと共に、ベアトリスを救う計画を立て始めた。 小説家になろう、カクヨムにも投稿しています。 ジャンルは恋愛メインではありませんが、アルファポリスでは当てはまるジャンルが恋愛しかありませんでした。

婚約破棄の、その後は

冬野月子
恋愛
ここが前世で遊んだ乙女ゲームの世界だと思い出したのは、婚約破棄された時だった。 身体も心も傷ついたルーチェは国を出て行くが… 全九話。 「小説家になろう」にも掲載しています。

第三王子の「運命の相手」は追放された王太子の元婚約者に瓜二つでした

冬野月子
恋愛
「運命の相手を見つけたので婚約解消したい」 突然突拍子もないことを言い出した第三王子。その言葉に動揺する家族。 何故なら十年前に兄である王太子がそう言って元婚約者を捨て、子爵令嬢と結婚したから。 そして第三王子の『運命の相手』を見て彼らは絶句する。 ――彼女は追放され、死んだ元婚約者にそっくりだったのだ。 ※小説家になろう、カクヨムでも連載しています。

【完結済】監視される悪役令嬢、自滅するヒロイン

curosu
恋愛
【書きたい場面だけシリーズ】 タイトル通り

【 完結 】「婚約破棄」されましたので、恥ずかしいから帰っても良いですか?

しずもり
恋愛
ミレーヌはガルド国のシルフィード公爵令嬢で、この国の第一王子アルフリートの婚約者だ。いや、もう元婚約者なのかも知れない。 王立学園の卒業パーティーが始まる寸前で『婚約破棄』を宣言されてしまったからだ。アルフリートの隣にはピンクの髪の美少女を寄り添わせて、宣言されたその言葉にミレーヌが悲しむ事は無かった。それよりも彼女の心を占めていた感情はー。 恥ずかしい。恥ずかしい。恥ずかしい!! ミレーヌは恥ずかしかった。今すぐにでも気を失いたかった。 この国で、学園で、知っていなければならない、知っている筈のアレを、第一王子たちはいつ気付くのか。 孤軍奮闘のミレーヌと愉快な王子とお馬鹿さんたちのちょっと変わった断罪劇です。 なんちゃって異世界のお話です。 時代考証など皆無の緩い設定で、殆どを現代風の口調、言葉で書いています。 HOT2位 &人気ランキング 3位になりました。(2/24) 数ある作品の中で興味を持って下さりありがとうございました。 *国の名前をオレーヌからガルドに変更しました。

転生した悪役令嬢はシナリオ通りに王子に婚約破棄されることを望む

双葉葵
恋愛
悪役令嬢メリッサ・ローランドは、卒業式のパーティで断罪され追放されることを望んでいる。 幼い頃から見てきた王子が此方を見てくれないということは“運命”であり決して変えられない“シナリオ”通りである。 定刻を過ぎても予定通り迎えに来ない王子に一人でパーティに参加して、訪れる断罪の時を待っていたけれど。険しい顔をして現れた婚約者の様子が何やら変で困惑する。【こんなの“シナリオ”になかったわ】 【隣にいるはずの“ローズ”(ヒロイン)はどこなの?】 *以前、『小説家になろう』であげていたものの再掲になります。

記憶を失くした代わりに攻略対象の婚約者だったことを思い出しました

冬野月子
恋愛
ある日目覚めると記憶をなくしていた伯爵令嬢のアレクシア。 家族の事も思い出せず、けれどアレクシアではない別の人物らしき記憶がうっすらと残っている。 過保護な弟と仲が悪かったはずの婚約者に大事にされながら、やがて戻った学園である少女と出会い、ここが前世で遊んでいた「乙女ゲーム」の世界だと思い出し、自分は攻略対象の婚約者でありながらゲームにはほとんど出てこないモブだと知る。 関係のないはずのゲームとの関わり、そして自身への疑問。 記憶と共に隠された真実とは——— ※小説家になろうでも投稿しています。

【完結】で、私がその方に嫌がらせをする理由をお聞かせいただいても?

Debby
恋愛
キャナリィ・ウィスタリア侯爵令嬢とクラレット・メイズ伯爵令嬢は困惑していた。 最近何故か良く目にする平民の生徒──エボニーがいる。 とても可愛らしい女子生徒であるが視界の隅をウロウロしていたりジッと見られたりするため嫌でも目に入る。立場的に視線を集めることも多いため、わざわざ声をかけることでも無いと放置していた。 クラレットから自分に任せて欲しいと言われたことも理由のひとつだ。 しかし一度だけ声をかけたことを皮切りに身に覚えの無い噂が学園内を駆け巡る。 次期フロスティ公爵夫人として日頃から所作にも気を付けているキャナリィはそのような噂を信じられてしまうなんてと反省するが、それはキャナリィが婚約者であるフロスティ公爵令息のジェードと仲の良いエボニーに嫉妬しての所業だと言われ── 「私がその方に嫌がらせをする理由をお聞かせいただいても?」 そう問うたキャナリィは 「それはこちらの台詞だ。どうしてエボニーを執拗に苛めるのだ」 逆にジェードに問い返されたのだった。 ★★★ 覗いて頂きありがとうございます 全11話、10時、19時更新で完結まで投稿済みです ★★★ 2025/1/19 沢山の方に読んでいただけて嬉しかったので、今続きを書こうかと考えています(*^^*)

処理中です...