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第十八話
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頭の中でまるで地震が起こっているようであった。
全てが揺れているように感じ、目の奥のほうから痛みが走る。
頭をふって、どうにか意識をハッキリさせようとすると、目の前にグレンがいることに気がついた。
「ぐ・・・・・グレン?」
「起きたか?大丈夫か?」
「うん・・・ここは?」
「俺達の隠れ家だ。」
瞬きを数回繰り返し、そしてトイはその場所を目の当たりにした。
雲よりも澄んだ白さをもった岩たちは、太陽の光を反射し、谷底なのにも関わらずその地に美しい緑の大地を築いていた。そんな緑の大地には、見たことのないような奇妙な花々が咲き誇り、水仙の花のような香りが辺りには広がっていた。
「綺麗・・・」
思わずそう呟いた時であった。首筋にひやりとした冷たさを感じ、トイは後ろを振り向き、顔をゆっくりと上げた。
生暖かな風が吹き、トイの髪が揺れた。
恐ろしく鋭い爪はトイの掌ほどあるだろうか。そんな爪がトイの首筋に当てられていた。
黒き翼の竜は実在した。けれどトイは実際に本物を見ても、不思議とそれを実感にもつことが出来なかった。まるで、今でもあの絵本の続きを見ているようだ。
「そなたがアーロの息子か。」
トイは呆然と竜を見ながら答えた。
「そうです。」
「アーロの息子よ。私を知っているか?」
「いいえ。お目にかかるのは初めてかと思いますが・・・父の知り合いですか?」
大きな口が開き、ギィギィと言う声と共に息がトイの顔にかかった。それが竜の笑い方であることに気づくまでには多少時間がかかってしまう。
「知り合いではない。ただ、私には分かる。お前は祖に良く似ているな。」
「仮面をつけていて、顔なんて分からないと思いますが?」
「話し方や匂いがそっくりだ。あいつも食えぬ男だった。」
「え?」
トイは思わず驚きを顔に出してしまっていた。
黒く、巨大な竜は言った。
「男、というのが信じられんか?」
「・・・・・そんな話をする為に僕達をここにつれてきたわけじゃないでしょう。」
「達?達とは誰を示す?」
「しらばっくれてもダメだよ。フェイナのことだ。」
「娘の方か。」
トイは眉間に皺を寄せた。
竜の様子がおかしいことに気づき、トイは自分の横に立っていたグレンに言った。
「何があったの?」
グレンはトイから視線をそらすように目の前にいる竜のほうを見上げた。
竜は鼻を鳴らすとグレンに言った。
「お前、こいつのことが気に入ったようだね。」
「まあね。」
「否定しないとは、珍しい。」
トイは躊躇することなく、首筋に当てられていた竜の爪を手でつかみ、詰め寄るようにしていった。
「説明をしろ。一体何があった?」
竜は、目を細めると黒い瞳を何度も瞬かせ、そして言った。
「連れて来る途中で、人間に奪われた。」
「竜が?嘘をつくな。見た目からして強そうなあんた達が人間に負けるわけがない。」
「そう。通常ならば負けるわけがない。我々だってそう思っていた。だが、人間の中には我々竜のことを忘れていなかった者たちもいるようだ。我々の苦手とするものを武器に、娘を奪っていった。」
トイはその言葉を聞き、驚きが隠せなかった。
人間が竜を覚えている?そんなわけがない。今や国のほとんどの人間が竜など空想上の生き物であると認識している。昔話でだって最近では呪われた竜の話の部分は省略される。それなのにも関わらず、覚えている人間がいる?
トイは眉間に皺を寄せ考え込むと、口元に手を当てたまま動かなくなった。
そんなトイをグレンは見つめている。
トイは竜に言った。
「フェイナの事は分かった。・・・それで、僕をここに連れてきた理由は?」
竜の爪から手を放し、先ほどよりも落ちついたトイに竜は首をかしげた。
「何が分かった?」
「それは貴方には関係のないことだ。」
竜はそれを聞き、そしてトイを見つめると鼻を鳴らした。その瞬間、突風が吹き荒れトイは顔を腕で庇い、その鎌鼬のような風から身を守った。
全てが揺れているように感じ、目の奥のほうから痛みが走る。
頭をふって、どうにか意識をハッキリさせようとすると、目の前にグレンがいることに気がついた。
「ぐ・・・・・グレン?」
「起きたか?大丈夫か?」
「うん・・・ここは?」
「俺達の隠れ家だ。」
瞬きを数回繰り返し、そしてトイはその場所を目の当たりにした。
雲よりも澄んだ白さをもった岩たちは、太陽の光を反射し、谷底なのにも関わらずその地に美しい緑の大地を築いていた。そんな緑の大地には、見たことのないような奇妙な花々が咲き誇り、水仙の花のような香りが辺りには広がっていた。
「綺麗・・・」
思わずそう呟いた時であった。首筋にひやりとした冷たさを感じ、トイは後ろを振り向き、顔をゆっくりと上げた。
生暖かな風が吹き、トイの髪が揺れた。
恐ろしく鋭い爪はトイの掌ほどあるだろうか。そんな爪がトイの首筋に当てられていた。
黒き翼の竜は実在した。けれどトイは実際に本物を見ても、不思議とそれを実感にもつことが出来なかった。まるで、今でもあの絵本の続きを見ているようだ。
「そなたがアーロの息子か。」
トイは呆然と竜を見ながら答えた。
「そうです。」
「アーロの息子よ。私を知っているか?」
「いいえ。お目にかかるのは初めてかと思いますが・・・父の知り合いですか?」
大きな口が開き、ギィギィと言う声と共に息がトイの顔にかかった。それが竜の笑い方であることに気づくまでには多少時間がかかってしまう。
「知り合いではない。ただ、私には分かる。お前は祖に良く似ているな。」
「仮面をつけていて、顔なんて分からないと思いますが?」
「話し方や匂いがそっくりだ。あいつも食えぬ男だった。」
「え?」
トイは思わず驚きを顔に出してしまっていた。
黒く、巨大な竜は言った。
「男、というのが信じられんか?」
「・・・・・そんな話をする為に僕達をここにつれてきたわけじゃないでしょう。」
「達?達とは誰を示す?」
「しらばっくれてもダメだよ。フェイナのことだ。」
「娘の方か。」
トイは眉間に皺を寄せた。
竜の様子がおかしいことに気づき、トイは自分の横に立っていたグレンに言った。
「何があったの?」
グレンはトイから視線をそらすように目の前にいる竜のほうを見上げた。
竜は鼻を鳴らすとグレンに言った。
「お前、こいつのことが気に入ったようだね。」
「まあね。」
「否定しないとは、珍しい。」
トイは躊躇することなく、首筋に当てられていた竜の爪を手でつかみ、詰め寄るようにしていった。
「説明をしろ。一体何があった?」
竜は、目を細めると黒い瞳を何度も瞬かせ、そして言った。
「連れて来る途中で、人間に奪われた。」
「竜が?嘘をつくな。見た目からして強そうなあんた達が人間に負けるわけがない。」
「そう。通常ならば負けるわけがない。我々だってそう思っていた。だが、人間の中には我々竜のことを忘れていなかった者たちもいるようだ。我々の苦手とするものを武器に、娘を奪っていった。」
トイはその言葉を聞き、驚きが隠せなかった。
人間が竜を覚えている?そんなわけがない。今や国のほとんどの人間が竜など空想上の生き物であると認識している。昔話でだって最近では呪われた竜の話の部分は省略される。それなのにも関わらず、覚えている人間がいる?
トイは眉間に皺を寄せ考え込むと、口元に手を当てたまま動かなくなった。
そんなトイをグレンは見つめている。
トイは竜に言った。
「フェイナの事は分かった。・・・それで、僕をここに連れてきた理由は?」
竜の爪から手を放し、先ほどよりも落ちついたトイに竜は首をかしげた。
「何が分かった?」
「それは貴方には関係のないことだ。」
竜はそれを聞き、そしてトイを見つめると鼻を鳴らした。その瞬間、突風が吹き荒れトイは顔を腕で庇い、その鎌鼬のような風から身を守った。
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