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新九話
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フェイナは装置を上手く使い、地下迷宮を一人で通り抜けると町に出た。そこはガラクタの町であった。そこでジートに出会い、そしてトイに出会い、今がある。
フェイナは、焚き木の炎がゆらめくのを見つめながらトイにその装置を見せた。
トイはすぐにそれに興味を示した。
「これすごいね。よく考えられている。へぇ・・地力を生かしているのかな。」
フェイナにはトイがなにを言っているのかわからなかったが、トイが嬉しそうなのが何故かとても嬉しかった。
三週間ほど一緒にトイと旅をするなかで分かった事があった。それは、トイが決して優しくはないということであった。
フェイナが泣き言を言えば、すぐさまに置いていかれた。
文句を言えば、辛辣な言葉が返ってきた。
傲慢に振舞えば、それ相応の傲慢な言葉で返された。
だが、ただ素直に言葉を交わせば、ただ素直な言葉が返ってきた。
優しくはない。
けれど、フェイナは居心地の良さを感じていた。
自分を飾らなくとも、トイは受け入れてくれる。それをフェイナは感じており、今までの自分の生活が普通ではなかったのだろうということにも気がつき始めていた。
「けどさ、その兄弟・・キミのこと明らかに狙っていたんだよね?」
「ええ。多分誘拐犯ね。」
平然と言ってのけられた言葉に、トイは少し驚いていた。
「もしかして、そんなの日常茶飯事?」
「そんなわけないでしょ。わたくしには常に五人のボディーガードがついているのよ。まあでも十日に一回くらいは怪しい人物が捕まるわね。」
十分に日常茶飯事といえる。
そんな日常でよく平然としていられるものだと思ったが、きっとそうではないのだろう。平気なわけではない。ただ、慣れただけだ。
「キミの母上、つまり現国王は心配しているんじゃないかな・・・」
思わずそういうと、フェイナは首を横に振った。
「するわけないでしょう。あの母上が。・・・あの人、私がどんなに辛い状況であっても一人で切り抜けなさいと言ってのける冷酷非道な人間よ。」
「そうなの?」
「ええ。まあ、実際・・辛い状況になるのには私が原因のことが多いけれど・・」
「え?」
「国の情勢の勉強をしなかったら、次の日には分厚い参考書が十冊届いたわ。それをその日中にやり遂げなかったらさらに倍が届くの。・・・地獄よ。」
それだけで冷酷非道といわれる母親が可愛そうだとトイは思わず思った。
「やらない自分が悪いんだろ。」
「だって毎日勉強があるのよ!ろくに城から出ることさえ敵わないのよ!」
確かにそれはつらいかもしれない。けれど、城から出たならば危険もあるだろう。なにせ時期女王である。そんな人物が町を平然と歩いていいわけがない。
「私だって・・貴方みたいに自由に旅がしてみたいってずっとおもったの。」
トイは眉間に皺を寄せると、小さく溜息を落とした。
「旅するのだってお金がいるんだよ。お金がないと食べ物も買えないんだ。水だって所によっては買わなきゃならないんだよ。」
それに、フェイナは俯いた。
たしかに、フェイナは考えなしだった。
お金を一銭も持たず、食べ物だって自力で集める事が出来ない。トイがいなければずっと飲まず喰わずであったかもしれない。それはフェイナ自身分かっていた。
母に一度旅に出たいといった事があった。母は言った。
“千グール。あなたに稼ぐ事が出来る?それくらいないと一日の食事もとれないのよ。”
稼げたら旅に出てもいいかと尋ねると、いいと言われ、フェイナは努力した。けれど一銭も集まらなかった。
何をしても、だめだった。
フェイナがへこんでいるのを見て、トイは言った。
「そんなに落ち込まないでよ。別に責めているわけじゃないんだよ。けどやっぱり、人間自分に出来ることをまずはするしかないと僕は思うんだよ。キミの母上がキミに勉強しろと言うのはキミがいずれこの国を担っていく者だからだろう。女王としてそれは当たり前のことさ。」
フェイナは頷いた。
それくらい分かっている。
どんなに頑張っても、自分はフェイナであり、時期女王なのである。それは変えられない。
「ほら、魚焼けたよ。」
トイは木の枝に刺し、焼いていた魚をフェイナに手渡した。
火の側で熱かったのか、トイは服の袖を捲くっていた。そして、そんなトイの腕に無数の小さな痣のようなものがあることにフェイナは気がついたのだ。
「トイ、それはどうしたの?」
腕の痣を指差され、トイは袖を下ろすと肩をすくめて言った。
「吸血鬼に血を腕から抜かれたんだ。」
「は?」
「冗談だよ。ただの注射の痕さ。気にする物じゃないよ。」
「・・そう。・・・・・・魚、おいしそう。ありがとう。」
最初、フェイナはこれを人の食べる物ではないと思った。けれど、日をおうごとに暮らす人々を目の当たりにするたびに分かり始めた。
これも生きていた物であり、自分はその命を奪い、生きているのだと。そしてそうして生きる事が人の在るべき姿のだと。
今では魚を平然と食べる事が出来る。
「おいしいね。」
トイがそういった。フェイナも笑顔で頷き返す。
とても美味しかった。
暖かでホカホカしていて、トイと食べるからか、とても美味しかった。
どんな豪華な晩餐よりも、フェイナは今では焼き魚が好きであった。
そんな、魚にかぶりつくフェイナの姿を見つめながらトイは不意に思う。
ジートはフェイナの食事の準備に苦労したのだろうと。
そう思わずにはいられなかった。
フェイナは、焚き木の炎がゆらめくのを見つめながらトイにその装置を見せた。
トイはすぐにそれに興味を示した。
「これすごいね。よく考えられている。へぇ・・地力を生かしているのかな。」
フェイナにはトイがなにを言っているのかわからなかったが、トイが嬉しそうなのが何故かとても嬉しかった。
三週間ほど一緒にトイと旅をするなかで分かった事があった。それは、トイが決して優しくはないということであった。
フェイナが泣き言を言えば、すぐさまに置いていかれた。
文句を言えば、辛辣な言葉が返ってきた。
傲慢に振舞えば、それ相応の傲慢な言葉で返された。
だが、ただ素直に言葉を交わせば、ただ素直な言葉が返ってきた。
優しくはない。
けれど、フェイナは居心地の良さを感じていた。
自分を飾らなくとも、トイは受け入れてくれる。それをフェイナは感じており、今までの自分の生活が普通ではなかったのだろうということにも気がつき始めていた。
「けどさ、その兄弟・・キミのこと明らかに狙っていたんだよね?」
「ええ。多分誘拐犯ね。」
平然と言ってのけられた言葉に、トイは少し驚いていた。
「もしかして、そんなの日常茶飯事?」
「そんなわけないでしょ。わたくしには常に五人のボディーガードがついているのよ。まあでも十日に一回くらいは怪しい人物が捕まるわね。」
十分に日常茶飯事といえる。
そんな日常でよく平然としていられるものだと思ったが、きっとそうではないのだろう。平気なわけではない。ただ、慣れただけだ。
「キミの母上、つまり現国王は心配しているんじゃないかな・・・」
思わずそういうと、フェイナは首を横に振った。
「するわけないでしょう。あの母上が。・・・あの人、私がどんなに辛い状況であっても一人で切り抜けなさいと言ってのける冷酷非道な人間よ。」
「そうなの?」
「ええ。まあ、実際・・辛い状況になるのには私が原因のことが多いけれど・・」
「え?」
「国の情勢の勉強をしなかったら、次の日には分厚い参考書が十冊届いたわ。それをその日中にやり遂げなかったらさらに倍が届くの。・・・地獄よ。」
それだけで冷酷非道といわれる母親が可愛そうだとトイは思わず思った。
「やらない自分が悪いんだろ。」
「だって毎日勉強があるのよ!ろくに城から出ることさえ敵わないのよ!」
確かにそれはつらいかもしれない。けれど、城から出たならば危険もあるだろう。なにせ時期女王である。そんな人物が町を平然と歩いていいわけがない。
「私だって・・貴方みたいに自由に旅がしてみたいってずっとおもったの。」
トイは眉間に皺を寄せると、小さく溜息を落とした。
「旅するのだってお金がいるんだよ。お金がないと食べ物も買えないんだ。水だって所によっては買わなきゃならないんだよ。」
それに、フェイナは俯いた。
たしかに、フェイナは考えなしだった。
お金を一銭も持たず、食べ物だって自力で集める事が出来ない。トイがいなければずっと飲まず喰わずであったかもしれない。それはフェイナ自身分かっていた。
母に一度旅に出たいといった事があった。母は言った。
“千グール。あなたに稼ぐ事が出来る?それくらいないと一日の食事もとれないのよ。”
稼げたら旅に出てもいいかと尋ねると、いいと言われ、フェイナは努力した。けれど一銭も集まらなかった。
何をしても、だめだった。
フェイナがへこんでいるのを見て、トイは言った。
「そんなに落ち込まないでよ。別に責めているわけじゃないんだよ。けどやっぱり、人間自分に出来ることをまずはするしかないと僕は思うんだよ。キミの母上がキミに勉強しろと言うのはキミがいずれこの国を担っていく者だからだろう。女王としてそれは当たり前のことさ。」
フェイナは頷いた。
それくらい分かっている。
どんなに頑張っても、自分はフェイナであり、時期女王なのである。それは変えられない。
「ほら、魚焼けたよ。」
トイは木の枝に刺し、焼いていた魚をフェイナに手渡した。
火の側で熱かったのか、トイは服の袖を捲くっていた。そして、そんなトイの腕に無数の小さな痣のようなものがあることにフェイナは気がついたのだ。
「トイ、それはどうしたの?」
腕の痣を指差され、トイは袖を下ろすと肩をすくめて言った。
「吸血鬼に血を腕から抜かれたんだ。」
「は?」
「冗談だよ。ただの注射の痕さ。気にする物じゃないよ。」
「・・そう。・・・・・・魚、おいしそう。ありがとう。」
最初、フェイナはこれを人の食べる物ではないと思った。けれど、日をおうごとに暮らす人々を目の当たりにするたびに分かり始めた。
これも生きていた物であり、自分はその命を奪い、生きているのだと。そしてそうして生きる事が人の在るべき姿のだと。
今では魚を平然と食べる事が出来る。
「おいしいね。」
トイがそういった。フェイナも笑顔で頷き返す。
とても美味しかった。
暖かでホカホカしていて、トイと食べるからか、とても美味しかった。
どんな豪華な晩餐よりも、フェイナは今では焼き魚が好きであった。
そんな、魚にかぶりつくフェイナの姿を見つめながらトイは不意に思う。
ジートはフェイナの食事の準備に苦労したのだろうと。
そう思わずにはいられなかった。
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