魔法使いアルル

かのん

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第二百四十二話

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 アロンは静かに息をつくと、今後について目を閉じて考える。

 おそらくは各国の要人らが何者かの手に落ちている。

 優先順位としてはそちらを救う方が先である。

 しかし。

 ちらりとアルルとレオを見れば、二人が音楽の民の今回の件にかなり心を痛めているのが分かる。

 アロンも他国の事とはいえ、たしかにどうにか出来るものならば手を貸したい。

 だがしかし、今すぐにどうにか出来るか。

 頭の中で天平が揺れ動く。

 そして、アロンは大きく息をつくとアルルとレオに視線を向け、そして口を開いた。

「音楽の民については保留として、先に捕らえられていると考えられる要人を助けにいくぞ。」

 その言葉に、アルルとレオは唇をきつく結ぶ。

 アルルとレオもバカではない。

 だからこそ、優先順位は分かる。

 けれども。

 先程の音楽の民のことを思い出し、アルルは悲しそうに目を伏せると、小さな声で言った。

「助けたら、それが終わったら、すぐにここに戻ってこれるよね?」

 アロンはうなずいた。

「あぁ。必ずここへ戻ってくると誓おう。」

 その言葉にアルルはうなずき返し、レオもうなずいた。

「一度屋敷に帰り、状況を把握する。それと同時に、音楽の民については、誤解を解けるようにサリーに状況を伝え、頼み、和解の道を探そう。後はそうじゃなぁ、まずは、この場から屋敷へと帰れるかどうかじゃなぁ。」

 アロンはそう言うと頭をぽりぽりと掻いて辺りを見回した。

 一見変哲もない岩の広がる台地なのだが、魔法の空間のねじれが異様にあり、正攻法で行っても屋敷にすんなりと帰れるとは思えない。

「おそらく、あのゴール地点に仕掛けられていたのは、敵の罠じゃろうが・・・これはおそらく自然の魔法の空間のねじれじゃろうなぁ。」

 レオは眼に魔法を掛けると、魔法のねじれの渦をじっと見つめながら空を指差した。

「アロン先生、あそこのねじれ部分の端のほうはどうです?結構他よりも薄いように思えます。」

「どれどれ。・・・あぁ。そうじゃな。」

 よく魔法の流れを見ているとアロンは感心しながら、その部分を自身も眼に魔法を掛けて見つめた。

「まぁ、三人で力を合わせればどうにかなるじゃろう。」

 にっと笑ってアロンはそう言うと、魔法の杖を取り出した。

「さぁ、杖を重ね合わせ、力を合わせようかの!」

 アロンの言葉に、アルルもレオもにっこりと笑うと、杖を取り出して同じように構えた。

「お父さんとレオと私、三人の力があればきっと大丈夫だね。」

 可愛らしく微笑むアルルに、アロンは笑みを返すと頷いた。

「さぁ! いくぞ!」

 三人は杖を重ね合わせて魔法を流しあう。

『屋敷へ移動せよ!』

 声が響いた瞬間に、三人の魔法が空高くへと昇った。


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