魔法使いアルル

かのん

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第二百三十八話

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 頭に痛みが走り、アルルは目を開いて首を傾げた。

 何があったのか一瞬思い出せなかったが、記憶が一つ一つとはまり、思い出す。

「そうか。音楽の民に追われて、それで・・魔法がおかしくなって・・・」

 アルルは辺りを見回すと、そこにはただ岩だらけの場所であり、その先を見つめると大きな壁が遠くにあるのが見えた。

 レオとアロンの姿はなく、アルルは小さく呼吸を整えると立ち上がった。

 洋服についていた誇りを払い、立ち上がって大きく背伸びをした。

「お父さんとレオを探そう。」

 きっと遠くにはいないとそう信じて、アルルは岩場を歩き始めたのだが、不意に視線を感じて辺りを見回す。

 けれど、そこには岩しかない。

「・・・・誰か、いるの?」

 アルルは魔法の杖を構えると、ゆっくりと岩場を見つめ、そして魔法を唱えた。

「姿を隠している者よ、その姿を現せ!」

 すると魔法にひっぱられるように、岩場の影や、穴の中からたくさんの音楽の民がぞろぞろと現れたのである。

 アルルは身を固くして目を丸くした。

 まかさ捕まるのかと思ったが、その音楽の民は皆がこちらにおびえるように蹲り、顔を隠すように震えている。

 何故だろうとアルルは怖がらせないようにゆっくりと声をかけた。

「あの、貴方達は、音楽の民だよね?」

 すると、震えるアルルに一番近い音楽の民は顔を上げると、プルプルと首を横に振った。

「違う。私達は・・・見捨てられた民。」

 しゃがれた声のその子は、瞳を潤ませると言った。

「ここは、音楽の民に成れなかった者達の・・・・見捨てられた民の住まう場所。あの・・・貴方は何者なの?」

 その言葉の意味が分からず、アルルは首を傾げながらも返事を返した。

「ええっと、私はアルル。え? あの、音楽の民に成れないって・・・どういう事?」

 見捨てられた民らは顔を上げると、アルルをじっと見つめてこそこそと話し始める。

 目の前にいた子はその声にうなずくと言った。

「音楽の才能がないの。それに一番好きな物が音楽じゃないの。」

「え?」

 その言葉に同意するように数名の民がうなずいたのが見えた。

「音楽は自由。音楽は楽しい。けれど・・・私は音楽よりも絵を描くことが好き。」

「俺は勉強するのが楽しかった。」

「私は物を作るのが好き。」

 きらきらと瞳は輝くが次の瞬間には色を失う。

「でも、それは音楽の民には許されない事。そして、異端な私達は、ここに捨てられたの。」

 アルルは言われている事の意味が分からず、しばらくの間、何も言えなかった。

 ただ、一つだけ分かる事があった。

「自分の好きな事を見つけられたのは・・・素敵なことだね。」

 その言葉に、皆が目を丸くする。

 アルルはゆっくりと自分なりの言葉で言った。

「私ね。音楽も好きだし、絵をかくのも好き。勉強はちょっと苦手だけどいろんなことがわかるのは面白い。あと、お菓子も好きだし体を動かすのも好き。だけど・・・どれが一番っていうのは、良く分からないの。だから、一番好きな物が見つかっているのは、素敵なことだね。」

「素敵な・・・こと。」

「そう・・・だな。」

「うん。そうねぇ。」

 ざわざわと明るい声が広がって言った時であった。

「アルル!」

 レオとアロンが慌てた様子で駆け寄ってくるのがアルルには見えた。






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