魔法使いアルル

かのん

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第二百三十四話

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 アロンは王城に構える執務室にて大きくため息を吐くと、部屋の中に集まっている人々に目を向けて言った。

「音楽の民の仕業じゃろうなぁ。」

 その言葉に皆の口から大きなため息がこぼれる。

 そこに集まっている人々は、見た目は大きく違う。

 獣の耳と尻尾をもった獣人もいれば、頭からすっぽりと布をかぶっている怪しげな人もいる。多種多様な種族の人々が何故集まっているかといえば、突然、いろんな国から国の重要人物の子どもたちが消えたからである。

 その時の目撃情報や、その場に残されたオルゴールなどから判断されて音楽の民ではと皆が疑い、アロンの元へと助力を求めに集まったのである。

「こっちの国は、大臣の子どもが行方不明だ。」

「うちの国では、国王の子です。」

「はぁ。我が国では宰相の子どもだぞ。」

 皆大きくため息をつき、頭を抱えるが音楽の民に直接乗り込むことは出来ない。

 何故ならば。

「どうしたものかのぉ。音楽の民の元へは子どもしかいけないからのぉ。」

 そうなのだ。音楽の民の住まう土地は別名子どもの国とも呼ばれる。

 何故か子どもしか中には入れず、音楽の民を目にすることも出来ない。

 それ故に、音楽の民に詳しい者も少なく、皆がアロンに助けを求めに来たのである。

「数日から数か月すれば戻ってくると思うがなぁ。」

 何故そこまで期間が開くのかといえば、音楽の民の住まう土地は時間の流れが一定ではないのである。早くなったり遅くなったり。それ故に、子どもがどのくらいで帰って来るのかも未定である。

「それでは困るのです!うちの王子は一週間後に戴冠式があるのですぞ!」

「宰相の子は、婚約発表式があるそうです。」

「大臣の子は二週間後には交換留学へと行く予定だそうです。」

 お偉いさんの子どもたちというものは、忙しいのだなぁとアロンは大きくため息をつくとしばらくの間考え込んだ。

 はっきり言えば、こうも偉い人間の子ばかりが消えているのには不可思議である。

 そこに何らかの因果が働いていないとも限らない。

「仕方ない。わしがこの件は預かろう。よいか?」

 アロンの言葉に皆が安心したように頷き、そしてしばらくの後にそれぞれの国へと帰って行った。

 皆を見送ったアロンは屋敷へと魔法で帰り、大きくわざとらしくため息をつくと、サリーの入れてくれたお茶を飲んでほうっと息を吐いた。

「何かのぉ。何か、悪い事が起こらんといいがのぉ。」

「まぁ、お二人もいますし、大抵の事は大丈夫だと思いますが。」

「そうじゃの。そうだとは思うが・・・はぁ。また厄介な仕事じゃ。」

「大変ですね?」

 にっこりと笑いながらサリーはそう言うと、励ますようにアロンの前に作りたてのにんじんケーキを置いた。

 それにアロンは瞳を輝かせると一口食べてやる気を出した。

「よしよし。サリーのおかげでやる気が出たわい! じゃあ、わしも童心に帰っていくかのぉ。」

「はい。お気をつけて。」

 アロンはケーキをぺろりと食べ終えると、自分自身に魔法を掛けていく。

「時よ遡り、我が姿を変えよ!」

 しゅるしゅるしゅるとアロンは小さくなると、幼い頃の姿へと変わる。

「まぁ。お懐かしい姿ですね。」

 嬉しそうにサリーに頭を撫でられたアロンは、にやりと笑うと言った。

「おぉ。そう言うならばケーキを子ども分。あと一切れくれてもいいぞ?」

「ごはんが入らなくなるからダメです。」

「けちじゃのぉ。分かったわい! では、サリー。しばし屋敷の事を頼むぞ。」

「はい。いってらっしゃいませ。」

「行ってくる。」

 アロンは杖を振り、アルルとレオを音楽の民の元へと飛ばしオルゴールを開くと、その道をこじ開けて箒にまたがりその中を一気に抜けた。

 世界の景色が回るようにな光景が駆け巡ると、次の瞬間にはファンファーレの音が聞こえた。

『音楽の民の国のスペシャル企画イベントの始まりでーす!』

 楽しそうな声と子どもたちの歓声が聞こえる。

 アロンはにっこりと笑った。

「こりゃ、楽しそうじゃわい!」
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